白儿の下っ端かく語りき
[白儿の下っ端かく語りき4]
もともと僕は、学校というものにあまり興味を抱いておりませんでした。
それでなぜ高校入学を希望したかというと、小学校にお通いになる章様が、実に楽しそうにしていたことが最大の理由でしょうか。
それに加え、例の学園の中等部に在籍していた土兒鏡呉が、休暇のたびに御山に来ては学内での出来事を語ってくれていたのも切欠といえます。
で、どうせならその学校に通ってみようかなと。
とはいえ、基本的な学力はあっても、外部入試を勝ち抜けるほどの頭脳はございません。
ということで、一芸入試を試してみたしだいです。
それで落ちればそれまでだと、そのくらいの意気込みでした。
何を見せたかというと、ちょっと卑怯ですが、瓦10枚割りを披露いたしました。
床まで割ってしまわないようにと、かなり慎重に割りまして、その結果、無事高校一年生になることができたのです。
実年齢はもっと上でしたがね……。
さて、春になり、晴れて高校生活を謳歌するにいたった僕ですが、同じ学年に土兒鏡呉がおりまして、この男、どんな手を使ったのか、人慣れない僕のためにとわざわざ同室をかってでてくれたのでございます。
正直言って、これにはかなり助けられました。
なんといっても、普通の人間との集団生活など初めてのことなのですから。
しかもこの学園、勉学にいたってはかなりハイレベルで、土兒鏡呉がいなければ留年という憂目にあっていたかもしれません。
なんの問題なく三年が過ぎましたが、僕自身、本当にヒトに慣れていないもので、周囲の方たちにはかなりの迷惑をかけたと思います。
だというのに、皆さん実に親切でお優しく、こんな僕にもよく声をかけてくださりました。
思えば、大勢のヒトに囲まれるのはしょっちゅうで、助言めいた言葉もたくさんいただきました。
残念なことに、皆さん一斉におしゃべりになるので、ほとんど聞き取れなかったのですが、その姿はたくさんの子犬が吼えているようでなんとも愛らしく感じたものです。
そしてその後は、皆さんとの組み手。
入試が入試でしたから、僕がそういったものを身に着けていると、皆さんご存知だったのでしょう。
ですが、日を追うごとになくなり、気がついたら誰も組み手をしてくれなくなりました。実に寂しいことです。
そうそう、あの学園、僕が通っていた頃は、安全基準に少々問題があったのですよ。
歩いていたら、時折花瓶が降ってきたり、水が降ってきたりしましたからね。
そういえば、病弱な方も多いようでした。
突然僕の背後にいた方が倒れるなどしょっちゅうで、僕が咄嗟に避けてしまうものだから、危うく階段から転げ落ちるところを何度もお救いしたしだいです。
やはりお坊ちゃまは体が弱いのですね。
そういえば、セキュリティにも難がありましたね。
靴や机、それに教科書なんかが消えることが多うございました。
金持ち学校なんですから、もう少し考えてほしいものですね。
ですがこういったことも順次改善されたようで、半年もしないうちに起こらなくなりました。
きっと生徒会が、がんばってくれたのでしょうね。
生徒会といえば、二年に進級した際に土兒鏡呉は会計に選出されまして、この時点で彼との同居は終了となりました。
既に学園には慣れておりましたし、それほど問題はなかったと思うのですが、勉学のほうはなかなかどうしてといった感じでした。
結局、土兒鏡呉の勧めもあり、彼の部屋に通い詰めることになりましたがね。
年下だというのに、とても頼りがいのある男です。
さて、そんなこんなでうまくいっていた高校生活ですが、僕にはおおいなる野望がありました。
兄さんたちがよく言っていた、青春というものを体験したいという野望にございます。
ですが、なにをもってして青春なのか、こればかりは兄さんたちにもよくわかっていないようでした。
一応それっぽい感じということで、クラブをと考えてはみましたが、運動部は少々問題がございますし、文化部はどうにも身に合いません。
ここだけの話、文字だらけの本は、僕にとっては睡眠導入剤と同意なのでございます。
では友人をたくさん作って、と考えましたが、放課後に囲まれることはあっても、なぜだか食事時は一人が多く、また休日は土兒鏡呉と過ごして終りというパターンばかりで、友人に該当する人物がおりませんでした。
なんとも不思議なことですね。もしかしたら、これが七不思議というやつでしょうか。
では、他に何があるのかと考えあぐねていたところ、とある映画を見ていたとき、ふと閃いたのでございます。
ごくごく普通に暮らしてこられた皆様方ならば、既にお分かりかと存じます。
ええ、そうです、恋愛です。
恋愛に現を抜かす。なんとも青春らしいと思いませんか。
しかしながら、ここでまた頓挫いたしました。
学園は、男性同士のお付き合いには寛容で、女性との接触を制限されている僕には、実に都合のよい環境だったのです。
だというのに、どうやら僕は器量がよくない部類に入るようでして、大勢のチワワのような方々に慕われてはいても、恋愛にまで発展することはございませんでした。
組み手やらで遊んでくれていた少々無骨な方たちですら、やはり僕なぞは眼中にないようで、これはもう諦めるしかないと思っていた矢先、なんと土兒鏡呉が名乗りを挙げてくれたのです。
これには相当に驚かされました。
役員という身分柄、容姿のほうは実に際立ち、頭脳明晰スポーツ万能という、学園ではもてて当たり前という男が、僕なんかのためにその身を捧げてくれたのですからね。
章様のときにも思いましたが、本当に見事なまでの献身ぶりにございます。
好きだなんだと、わざわざそれっぽい枕詞まで用意して、告白という僕の憧れていたシチュエーションそのままを再現してくれた彼には、本当に頭が下がります。
とはいえ、彼には彼の想い人もいるでしょうし、あまり仰々しい真似はできません。
そもそも僕なんかに、そこまで付き合わせてはいけませんしね。
彼の部屋を訪ねたおりに、どうということはない会話をする。
休日前にはお泊りなぞして、なんとなくそれっぽい雰囲気を楽しむ。その程度でしたね。
はて、こうやって振り返ってみますと、同居していたときとあまり変わり映えがないような?
ああでも、接吻などはしておりましたね。
さすがに土兒鏡呉への罪悪感がございましたので、一応は遠慮していたのですが、気がついたらなぜか何度も交わしておりました。
彼の親切心からの好意を、自分の楽しみのために利用するだなんて、いくら申し出があったとはいえ、僕は酷い男ですね。今でも反省しております。
こんな具合に充実した三年間を過ごし、そこそこの大学を受験し合格、大学に通うと決まってから部屋を探そうとしていたとき、これまた驚いたことに土兒鏡呉から同居を提案されました。
僕としても、一人暮らしには不安がございましたので、これ幸いとその誘いに乗ってしまったのです。
とても楽しい同居生活ではありましたが、その期間は僅か一年。
結局、僕は大学を中退し、御山に帰りました。
え、なぜかって?
決まっております。土兒鏡呉を解放するためです。
新たな気持ちで同居をはじめたはずが、高校時代の恋愛ごっこの名残から、僕はかなり土兒鏡呉に甘えていたのです。
彼からすれば、僕は貴重なオニであり、章様の身内。つまり、献身的に仕えなければならない相手だと、そう思い込んでいたのではないでしょうか。
本来ならば、土兒鏡呉と僕は、対等なのです。総代の命により、幼い彼がやってきた。
ただそれだけのことだったはずが、いつまでも白儿に殉じ、僕にまで尽くそうとする彼が、いっそ哀れに思えてしまいました。
彼の本当の恋人にも、実に申し訳ないことをしていた。
だからこそ、彼を自由にすべく、すべてを放り出したのでございます。
普段の僕はボンヤリしてると言われますが、このときの行動は素早かったと自負しております。
退学届を出し荷物を纏め、土兒鏡呉にこれまでの礼と謝罪をいたしました。
彼はやはり腹に据えかねていたのでしょう。
解放されたと分かった途端、苦々しい顔をしながら、なにやら叫んでいたのです。
物覚えがあまりよくはないので、はっきりとは覚えておりませんが、たぶんこれまでのことに対する不平不満、そういったことを言っていたのではないでしょうか。
僕のこれまでの仕打ちからすれば、怒るのはごく当然のことなので、黙って頭を下げ家を出ました。
御山に帰っても、土兒鏡呉と会う機会はたくさんございました。
気まずいことですが、彼にとっては第二の故郷でもありますからね。
ですが、毎回不機嫌な様子だったもので、いつしか彼が来たときは、僕は姿を隠すようになりました。
わかってるんです。逃げるのは卑怯だと。
改めて、誠意ある謝罪をするのが、正しいことだとわかってはいるんです。
ですが、情けなくも逃げ回る理由が、他にもあるのです。
彼は、男の僕ですら惚れ惚れするほどの色男であり、先に述べたように実に素晴らしい性格の持ち主です。
周囲の誰もが、彼を慕ってやまない。
そして、大学生ともなれば、様々な付き合いがあるもの。
概ねコンパと表現されるその場に、土兒鏡呉が呼ばれないわけがございません。
このコンパなるものに、僕が御山に帰ったあたりから、誘われるままに出席しているとのことでした。
そのときのことを、皮肉めいた表情で語る彼を見るにつけ、胸が痛むのでございます。
そうです。分不相応にも、僕は土兒鏡呉のことを、好ましく感じているのです。
はぁぁぁ、情けない。実に情けない限りですねぇぇぇぇぇ。
現在、彼は教職に就いたものの、いまだ独り身。
ですが、たくさんの恋人がいるのは、間違いないことでしょう。
大学時代も、相当に遊んでいたようですしね。
いまだ一人に決められないようですが、きっとその大勢の中には、彼が惹かれてやまない相手もいるはずです。
あれほどの男に愛される相手が羨ましいだなんて、そんなことまで考えてしまう自分がつくづく情けないやら、恥ずかしいやら……。
もともと僕は、学校というものにあまり興味を抱いておりませんでした。
それでなぜ高校入学を希望したかというと、小学校にお通いになる章様が、実に楽しそうにしていたことが最大の理由でしょうか。
それに加え、例の学園の中等部に在籍していた土兒鏡呉が、休暇のたびに御山に来ては学内での出来事を語ってくれていたのも切欠といえます。
で、どうせならその学校に通ってみようかなと。
とはいえ、基本的な学力はあっても、外部入試を勝ち抜けるほどの頭脳はございません。
ということで、一芸入試を試してみたしだいです。
それで落ちればそれまでだと、そのくらいの意気込みでした。
何を見せたかというと、ちょっと卑怯ですが、瓦10枚割りを披露いたしました。
床まで割ってしまわないようにと、かなり慎重に割りまして、その結果、無事高校一年生になることができたのです。
実年齢はもっと上でしたがね……。
さて、春になり、晴れて高校生活を謳歌するにいたった僕ですが、同じ学年に土兒鏡呉がおりまして、この男、どんな手を使ったのか、人慣れない僕のためにとわざわざ同室をかってでてくれたのでございます。
正直言って、これにはかなり助けられました。
なんといっても、普通の人間との集団生活など初めてのことなのですから。
しかもこの学園、勉学にいたってはかなりハイレベルで、土兒鏡呉がいなければ留年という憂目にあっていたかもしれません。
なんの問題なく三年が過ぎましたが、僕自身、本当にヒトに慣れていないもので、周囲の方たちにはかなりの迷惑をかけたと思います。
だというのに、皆さん実に親切でお優しく、こんな僕にもよく声をかけてくださりました。
思えば、大勢のヒトに囲まれるのはしょっちゅうで、助言めいた言葉もたくさんいただきました。
残念なことに、皆さん一斉におしゃべりになるので、ほとんど聞き取れなかったのですが、その姿はたくさんの子犬が吼えているようでなんとも愛らしく感じたものです。
そしてその後は、皆さんとの組み手。
入試が入試でしたから、僕がそういったものを身に着けていると、皆さんご存知だったのでしょう。
ですが、日を追うごとになくなり、気がついたら誰も組み手をしてくれなくなりました。実に寂しいことです。
そうそう、あの学園、僕が通っていた頃は、安全基準に少々問題があったのですよ。
歩いていたら、時折花瓶が降ってきたり、水が降ってきたりしましたからね。
そういえば、病弱な方も多いようでした。
突然僕の背後にいた方が倒れるなどしょっちゅうで、僕が咄嗟に避けてしまうものだから、危うく階段から転げ落ちるところを何度もお救いしたしだいです。
やはりお坊ちゃまは体が弱いのですね。
そういえば、セキュリティにも難がありましたね。
靴や机、それに教科書なんかが消えることが多うございました。
金持ち学校なんですから、もう少し考えてほしいものですね。
ですがこういったことも順次改善されたようで、半年もしないうちに起こらなくなりました。
きっと生徒会が、がんばってくれたのでしょうね。
生徒会といえば、二年に進級した際に土兒鏡呉は会計に選出されまして、この時点で彼との同居は終了となりました。
既に学園には慣れておりましたし、それほど問題はなかったと思うのですが、勉学のほうはなかなかどうしてといった感じでした。
結局、土兒鏡呉の勧めもあり、彼の部屋に通い詰めることになりましたがね。
年下だというのに、とても頼りがいのある男です。
さて、そんなこんなでうまくいっていた高校生活ですが、僕にはおおいなる野望がありました。
兄さんたちがよく言っていた、青春というものを体験したいという野望にございます。
ですが、なにをもってして青春なのか、こればかりは兄さんたちにもよくわかっていないようでした。
一応それっぽい感じということで、クラブをと考えてはみましたが、運動部は少々問題がございますし、文化部はどうにも身に合いません。
ここだけの話、文字だらけの本は、僕にとっては睡眠導入剤と同意なのでございます。
では友人をたくさん作って、と考えましたが、放課後に囲まれることはあっても、なぜだか食事時は一人が多く、また休日は土兒鏡呉と過ごして終りというパターンばかりで、友人に該当する人物がおりませんでした。
なんとも不思議なことですね。もしかしたら、これが七不思議というやつでしょうか。
では、他に何があるのかと考えあぐねていたところ、とある映画を見ていたとき、ふと閃いたのでございます。
ごくごく普通に暮らしてこられた皆様方ならば、既にお分かりかと存じます。
ええ、そうです、恋愛です。
恋愛に現を抜かす。なんとも青春らしいと思いませんか。
しかしながら、ここでまた頓挫いたしました。
学園は、男性同士のお付き合いには寛容で、女性との接触を制限されている僕には、実に都合のよい環境だったのです。
だというのに、どうやら僕は器量がよくない部類に入るようでして、大勢のチワワのような方々に慕われてはいても、恋愛にまで発展することはございませんでした。
組み手やらで遊んでくれていた少々無骨な方たちですら、やはり僕なぞは眼中にないようで、これはもう諦めるしかないと思っていた矢先、なんと土兒鏡呉が名乗りを挙げてくれたのです。
これには相当に驚かされました。
役員という身分柄、容姿のほうは実に際立ち、頭脳明晰スポーツ万能という、学園ではもてて当たり前という男が、僕なんかのためにその身を捧げてくれたのですからね。
章様のときにも思いましたが、本当に見事なまでの献身ぶりにございます。
好きだなんだと、わざわざそれっぽい枕詞まで用意して、告白という僕の憧れていたシチュエーションそのままを再現してくれた彼には、本当に頭が下がります。
とはいえ、彼には彼の想い人もいるでしょうし、あまり仰々しい真似はできません。
そもそも僕なんかに、そこまで付き合わせてはいけませんしね。
彼の部屋を訪ねたおりに、どうということはない会話をする。
休日前にはお泊りなぞして、なんとなくそれっぽい雰囲気を楽しむ。その程度でしたね。
はて、こうやって振り返ってみますと、同居していたときとあまり変わり映えがないような?
ああでも、接吻などはしておりましたね。
さすがに土兒鏡呉への罪悪感がございましたので、一応は遠慮していたのですが、気がついたらなぜか何度も交わしておりました。
彼の親切心からの好意を、自分の楽しみのために利用するだなんて、いくら申し出があったとはいえ、僕は酷い男ですね。今でも反省しております。
こんな具合に充実した三年間を過ごし、そこそこの大学を受験し合格、大学に通うと決まってから部屋を探そうとしていたとき、これまた驚いたことに土兒鏡呉から同居を提案されました。
僕としても、一人暮らしには不安がございましたので、これ幸いとその誘いに乗ってしまったのです。
とても楽しい同居生活ではありましたが、その期間は僅か一年。
結局、僕は大学を中退し、御山に帰りました。
え、なぜかって?
決まっております。土兒鏡呉を解放するためです。
新たな気持ちで同居をはじめたはずが、高校時代の恋愛ごっこの名残から、僕はかなり土兒鏡呉に甘えていたのです。
彼からすれば、僕は貴重なオニであり、章様の身内。つまり、献身的に仕えなければならない相手だと、そう思い込んでいたのではないでしょうか。
本来ならば、土兒鏡呉と僕は、対等なのです。総代の命により、幼い彼がやってきた。
ただそれだけのことだったはずが、いつまでも白儿に殉じ、僕にまで尽くそうとする彼が、いっそ哀れに思えてしまいました。
彼の本当の恋人にも、実に申し訳ないことをしていた。
だからこそ、彼を自由にすべく、すべてを放り出したのでございます。
普段の僕はボンヤリしてると言われますが、このときの行動は素早かったと自負しております。
退学届を出し荷物を纏め、土兒鏡呉にこれまでの礼と謝罪をいたしました。
彼はやはり腹に据えかねていたのでしょう。
解放されたと分かった途端、苦々しい顔をしながら、なにやら叫んでいたのです。
物覚えがあまりよくはないので、はっきりとは覚えておりませんが、たぶんこれまでのことに対する不平不満、そういったことを言っていたのではないでしょうか。
僕のこれまでの仕打ちからすれば、怒るのはごく当然のことなので、黙って頭を下げ家を出ました。
御山に帰っても、土兒鏡呉と会う機会はたくさんございました。
気まずいことですが、彼にとっては第二の故郷でもありますからね。
ですが、毎回不機嫌な様子だったもので、いつしか彼が来たときは、僕は姿を隠すようになりました。
わかってるんです。逃げるのは卑怯だと。
改めて、誠意ある謝罪をするのが、正しいことだとわかってはいるんです。
ですが、情けなくも逃げ回る理由が、他にもあるのです。
彼は、男の僕ですら惚れ惚れするほどの色男であり、先に述べたように実に素晴らしい性格の持ち主です。
周囲の誰もが、彼を慕ってやまない。
そして、大学生ともなれば、様々な付き合いがあるもの。
概ねコンパと表現されるその場に、土兒鏡呉が呼ばれないわけがございません。
このコンパなるものに、僕が御山に帰ったあたりから、誘われるままに出席しているとのことでした。
そのときのことを、皮肉めいた表情で語る彼を見るにつけ、胸が痛むのでございます。
そうです。分不相応にも、僕は土兒鏡呉のことを、好ましく感じているのです。
はぁぁぁ、情けない。実に情けない限りですねぇぇぇぇぇ。
現在、彼は教職に就いたものの、いまだ独り身。
ですが、たくさんの恋人がいるのは、間違いないことでしょう。
大学時代も、相当に遊んでいたようですしね。
いまだ一人に決められないようですが、きっとその大勢の中には、彼が惹かれてやまない相手もいるはずです。
あれほどの男に愛される相手が羨ましいだなんて、そんなことまで考えてしまう自分がつくづく情けないやら、恥ずかしいやら……。