平凡君の日々彼此
[平凡君の日々彼此8]
始まりはお菓子会社の策略であったとしても、定着すればそれはもう立派な一つの文化だよね。
とはいえ、ここまで発展してしまうと、もともとの目的を忘れてしまいがちだ。
本命チョコに始まって、義理チョコ、友チョコ、逆チョコ、自己チョコ、はてはお世話になったからという曖昧なものまであるそうな。
はっきりいって、把握しきれません。
だけど、これはこれでそこそこ楽しい習慣ではあるし、貰うほうが甘党だった場合は、かなり喜ばれるイベントだと思う。
「うあい、あい、いいの、なの、しろいの、のよー」
うちの甘党代表も、とても喜んでますしね。
とはいえ、バレンタインデーは昨日のことで、当日はアキのめくるめくチョコレート強化日間が強行されたけど、とりあえずは無事に終了した。
「毎年毎年、本当に義理堅い方ですね」
「義理? 下心でしょ」
だけど、バレンタインデーにと茜さんがわざわざ荷物を送ってくれたことで、アキの興奮はまたもや最高潮まで達しているようです。
荷物の中身は僕たち全員分のチョコと、裕輔さん、会長、藤村先輩、そして御船先輩や副田先輩の分までもが同梱されていた。
すごく義理堅い人だと思います。
「今年もゴディ○ですね」
「小金持ってるしね」
いちいち憎まれ口を叩くアーちゃんは、実は照れてるとか? ううん、そういうタイプじゃないよね。
チョコレートのサイズはまちまちで、包装には一つ一つ名前が書いてあった。
ほとんどはオーソドックスなサイズの物で、アキラとアキの物だけが、やたら大きい。
「ほんっと、俺って愛されてるよねー」
「茜さんなりの愛情表現ですね。本当にお茶目な方です」
アキラはフォローのつもりではなく、本心から言ってるものと推察します。
僕もそう思う気持ちが、7割……6割くらい占めてるかな。
アーちゃん用のチョコは、どのチョコと比べても確実に小さいものだった。
中身がトリュフチョコだと仮定して、たぶん4個くらいってとこだろう。
だけど、愛情を疑ってはいけない。実はアーちゃんのものだけ、ものすごく高価なのかもしれないしね。
「ま、手作りなんて怪しいもんじゃないだけ、マシか」
アーちゃんはまったく興味なさそうに、チョコレートをテーブルに乗せた。
ちなみに、アキはとっくに食べ始めてます。
僕は後で食べるつもりで、冷蔵庫にいれさせてもらった。
アッキーは食べる気があるのかないのか、受け取る気配すら見せず、アキラも渡そうとはせず冷蔵庫に仕舞ってしまった。
ついでに、自分の分も。
アキラの癖なのかなんなのか、そう空腹でもないときは、好きなものほど後のお楽しみにするところがあるんだよね。
もちろん先輩方に配る分も、今は冷蔵庫の中に保管されている。
荷物には調味料やお漬物なんかも入っていて、それらを片付け終わったアキラがソファへと腰掛けた。
その隣にはアッキーが座り、開いたままにしていた本を読み始める。
片付けに参加しなかったアーちゃんはPCの前にいて、同じく不参加だったアキはテレビの前でチョコレート日間の続き中。
僕はみんなの分のコーヒーを、テーブルへと並べていた。
「そういえば、チョコレートはいただけましたか?」
こういうとき、アキラが誰に対し話しかけているのか、みんなはだいたい分かっている。
だからアッキーもアキもまったく相手にしないし、僕ものんびりとコーヒーを啜るだけだ。
「……は?」
「チョコレートですよ。チョコレート。茜さん以外からのチョコレートのお話です。もちろん本命のことですが、この際義理でも可です」
「この際とか意味わかんねーんだけど」
「んま、それで誤魔化したおつもりですか」
「もらってません。以上終り」
「ななななんと、今年もゼロですか!? 呆れ果てました、本気で呆れ果てましたよ!」
「勝手に呆れててください」
アキラとアーちゃんの無駄に剣呑な会話はいつものこととはいえ、これまた内容が少々問題ありな気がする。
だって……。
「むぅぅ、では、あげたのですね」
「はぁ? 俺があげる!? ばっかじゃね、キモイわ」
「去年と同じことを言わないでください」
「だったら、毎年毎年お馬鹿なこと言うなっての」
「お馬鹿? お馬鹿ですって!? それは僕のことですか!?」
「あんた以外誰がいるっつーのよ」
「むむ……」
アーちゃんこそ呆れた素振りで、PCを凝視している。
アキラの言いたいことはだいたい把握したけど、なんともくだらない話題です。
だけど、だけど、アーちゃんが嘘をつき続ける限り、来年もまた同じような会話が繰り返されることになるんだ。
アキラにとってこういう会話は、単なる暇つぶしの一環程度らしく、さして気にした風もなくキッチンに篭りに行った。
茜さんからの荷物にカカオ70%の板チョコが入っていたから、どうしてもカレーを作りたいと言いながら。
アキラがいなくなったのを幸いと、僕はアーちゃんの傍へと移動した。
「ねぇ、アーちゃん」
「イエローカード」
「なに、それ?」
「アッくん、余計なことは考えなくていいのよ」
「ど、どういう意味だよ。僕は、ただ」
「それが、余計なことなの」
アーちゃんの素っ気ない態度が、ちょっとだけ悔しい。
そもそもどうしてアキラに内緒にするんだろう。
いくらアキラを好きだからって、アーちゃんのこういうところは頑なすぎるんじゃないだろうか。
14日と15日の二日間、アキラは毎年学校をお休みしている。
もちろん、例の会長様もだけど、そのせいでアキラはアーちゃんのことなど何も知らないままだ。
14日当日の靴箱のことも、放課後に呼び出しを受けたことも、それらをすべて無視してたってことも、なにもかも。
アーちゃんの靴箱に入っていたチョコは、パッと見2.3個って感じだった。
「靴と食い物を一緒にするとか、マジひくわー」
アーちゃんはケラケラと笑いながら、すべてを風紀室の落とし物コーナーにいれていた。
授業が終わったら町に出かけ、帰ってきたのはおそらく夜。
何しに行ったかなんて、僕でもなんとなく想像がつく。
いつの間にか、ぐっと唇を噛み締めていた。
何がそんなに悔しいのかわからないけど。
「あのねー」
僕の様子に、アーちゃんがふうっと溜息をついた。
「ああいう祭りのときって、数打ちゃあたるじゃないけど、適当に目に付いたやつらにってノリが、大半なわけよ」
「なんの話…?」
「だから、チョコ渡したりってのは、単なる雰囲気でやってるだけなの。マジなわけないでしょ、男同士なんだから」
あまりにも学園中が色めきたっていたせいで、肝心なことを忘れていた。
よくよく思い出してみれば、僕のクラスでも同じようなことがあった。
校庭に呼び出されたり、机の中にチョコが入っていたり。
そう目立つタイプではないけど、まあまあそこそこという感じの人たちばかりだった。
堂々とチョコを配っている人たちもいたし、こうやって考えてみると、確かに軽い気持ちで楽しんでいる雰囲気があったと思う。
そうだよね、男同士だし、結構ノリだけでそういうことしたりするんだろうね。
「んな遊びに付き合うほど暇じゃないし、そんなことであののほほんを楽しませるのも面倒なわけよ。知ってるでしょ、のほほんのノリは」
「あ、……ああ、うん、ごめんっ」
本気で恥ずかしくなった。
そうだ、そうだよ。アキラのノリはようく知ってるはずなのに、うっかりしてた。
アーちゃんが男性からチョコを貰ったと知れば、しかも告白までされたとなれば、それが冗談の範疇とはいえ、アキラの妄言は手に負えないレベルにまで達するに違いないのに。
きっと、とんでもないロマンスを創り上げるに決まってる。
アッキーもアキも、そんなことはとっくの昔に承知している。しかも最近のアッキーは、その身に降りかかってもいるのだ。
こういう話題でアキラを警戒するのは、当然のことだった。
アキ好みの甘口カレーは、アーちゃんにはかなり不評ではあるけども、コクの点では申し分ない味だった。
明日になれば、もっと美味しくなってると思う。残ってれば、だけど。
「はぁ、一般レベルでは上に入れそうなご容貌だというのに、どうしてあなたはもてないのでしょうか?」
「ほっとけ。あと、一般とかいちいち付けなくていいから」
「このままでは、一生童貞確実です」
あまりのことに、口の中の物が飛び散ったのは、僕とアーちゃんの二人だけ。
どうしてアッキーとアキは、平然としてられるんだろう?
「たかだか十数年の人生で、一生を予測しないでいただけます!?」
「何をおっしゃってるのですか! 高校生というのは、最も輝いている時代なのですよ。青春なのですよ。そんな時期に彼氏はもちろん彼女までいないだなんて、既に終わっております!」
「彼氏はともかく、彼女に関しては今後いくらでもチャンスがありますー!」
「いーえ、このまま行けば童貞決定です。脱処女はできるかも、ですが」
「ざけんなっ」
「はっ、いいことを思いつきました」
「言わなくていいからね」
「このまま30まで童貞を守り、魔法使いさんになりましょう」
「お断りだ、つか、言うなって言ったよね」
「魔法が使えたら便利でしょうね。あ、毎日新鮮な伊勢エビを出してくださいね。こう、チチンプイプイーと」
「んなもん、望めばいつだって食えるだろーが」
「ああ、鯛もいいですね。鮪も大好きです。松坂牛も捨てがたい…むむ……」
「食い物限定かよ」
「あう! プイプイなの、しろいの、なのよ」
「ええ、そうです。アーちゃんの魔法があれば、毎日がケーキバイキングですよ」
「うう、アーちゃん、なるの、のよ、プイプイー」
こうして、アーちゃんの関わらないところで、アーちゃんの将来が決定した。
だけど、どう考えてもその将来は、実現されないままに終わってしまうことだろう。
だって……ど、う、うう…なんて、アーちゃんはとっくに失っているのだから。
「はっ、脱処女していても、なれるものでしょうか?」
「知るかっ」
「プイプイよ、プイプイ」
アーちゃんに対する悔しさなどの正体を、アッくん自身まったく理解しておりません
だからこそ、簡単に丸め込まれてしまいます
よく分からないまま、これからもイライラしたり哀しくなったりすることでしょう
※実はアーちゃんに惚れている……という可能性はまったくございません、念のため
始まりはお菓子会社の策略であったとしても、定着すればそれはもう立派な一つの文化だよね。
とはいえ、ここまで発展してしまうと、もともとの目的を忘れてしまいがちだ。
本命チョコに始まって、義理チョコ、友チョコ、逆チョコ、自己チョコ、はてはお世話になったからという曖昧なものまであるそうな。
はっきりいって、把握しきれません。
だけど、これはこれでそこそこ楽しい習慣ではあるし、貰うほうが甘党だった場合は、かなり喜ばれるイベントだと思う。
「うあい、あい、いいの、なの、しろいの、のよー」
うちの甘党代表も、とても喜んでますしね。
とはいえ、バレンタインデーは昨日のことで、当日はアキのめくるめくチョコレート強化日間が強行されたけど、とりあえずは無事に終了した。
「毎年毎年、本当に義理堅い方ですね」
「義理? 下心でしょ」
だけど、バレンタインデーにと茜さんがわざわざ荷物を送ってくれたことで、アキの興奮はまたもや最高潮まで達しているようです。
荷物の中身は僕たち全員分のチョコと、裕輔さん、会長、藤村先輩、そして御船先輩や副田先輩の分までもが同梱されていた。
すごく義理堅い人だと思います。
「今年もゴディ○ですね」
「小金持ってるしね」
いちいち憎まれ口を叩くアーちゃんは、実は照れてるとか? ううん、そういうタイプじゃないよね。
チョコレートのサイズはまちまちで、包装には一つ一つ名前が書いてあった。
ほとんどはオーソドックスなサイズの物で、アキラとアキの物だけが、やたら大きい。
「ほんっと、俺って愛されてるよねー」
「茜さんなりの愛情表現ですね。本当にお茶目な方です」
アキラはフォローのつもりではなく、本心から言ってるものと推察します。
僕もそう思う気持ちが、7割……6割くらい占めてるかな。
アーちゃん用のチョコは、どのチョコと比べても確実に小さいものだった。
中身がトリュフチョコだと仮定して、たぶん4個くらいってとこだろう。
だけど、愛情を疑ってはいけない。実はアーちゃんのものだけ、ものすごく高価なのかもしれないしね。
「ま、手作りなんて怪しいもんじゃないだけ、マシか」
アーちゃんはまったく興味なさそうに、チョコレートをテーブルに乗せた。
ちなみに、アキはとっくに食べ始めてます。
僕は後で食べるつもりで、冷蔵庫にいれさせてもらった。
アッキーは食べる気があるのかないのか、受け取る気配すら見せず、アキラも渡そうとはせず冷蔵庫に仕舞ってしまった。
ついでに、自分の分も。
アキラの癖なのかなんなのか、そう空腹でもないときは、好きなものほど後のお楽しみにするところがあるんだよね。
もちろん先輩方に配る分も、今は冷蔵庫の中に保管されている。
荷物には調味料やお漬物なんかも入っていて、それらを片付け終わったアキラがソファへと腰掛けた。
その隣にはアッキーが座り、開いたままにしていた本を読み始める。
片付けに参加しなかったアーちゃんはPCの前にいて、同じく不参加だったアキはテレビの前でチョコレート日間の続き中。
僕はみんなの分のコーヒーを、テーブルへと並べていた。
「そういえば、チョコレートはいただけましたか?」
こういうとき、アキラが誰に対し話しかけているのか、みんなはだいたい分かっている。
だからアッキーもアキもまったく相手にしないし、僕ものんびりとコーヒーを啜るだけだ。
「……は?」
「チョコレートですよ。チョコレート。茜さん以外からのチョコレートのお話です。もちろん本命のことですが、この際義理でも可です」
「この際とか意味わかんねーんだけど」
「んま、それで誤魔化したおつもりですか」
「もらってません。以上終り」
「ななななんと、今年もゼロですか!? 呆れ果てました、本気で呆れ果てましたよ!」
「勝手に呆れててください」
アキラとアーちゃんの無駄に剣呑な会話はいつものこととはいえ、これまた内容が少々問題ありな気がする。
だって……。
「むぅぅ、では、あげたのですね」
「はぁ? 俺があげる!? ばっかじゃね、キモイわ」
「去年と同じことを言わないでください」
「だったら、毎年毎年お馬鹿なこと言うなっての」
「お馬鹿? お馬鹿ですって!? それは僕のことですか!?」
「あんた以外誰がいるっつーのよ」
「むむ……」
アーちゃんこそ呆れた素振りで、PCを凝視している。
アキラの言いたいことはだいたい把握したけど、なんともくだらない話題です。
だけど、だけど、アーちゃんが嘘をつき続ける限り、来年もまた同じような会話が繰り返されることになるんだ。
アキラにとってこういう会話は、単なる暇つぶしの一環程度らしく、さして気にした風もなくキッチンに篭りに行った。
茜さんからの荷物にカカオ70%の板チョコが入っていたから、どうしてもカレーを作りたいと言いながら。
アキラがいなくなったのを幸いと、僕はアーちゃんの傍へと移動した。
「ねぇ、アーちゃん」
「イエローカード」
「なに、それ?」
「アッくん、余計なことは考えなくていいのよ」
「ど、どういう意味だよ。僕は、ただ」
「それが、余計なことなの」
アーちゃんの素っ気ない態度が、ちょっとだけ悔しい。
そもそもどうしてアキラに内緒にするんだろう。
いくらアキラを好きだからって、アーちゃんのこういうところは頑なすぎるんじゃないだろうか。
14日と15日の二日間、アキラは毎年学校をお休みしている。
もちろん、例の会長様もだけど、そのせいでアキラはアーちゃんのことなど何も知らないままだ。
14日当日の靴箱のことも、放課後に呼び出しを受けたことも、それらをすべて無視してたってことも、なにもかも。
アーちゃんの靴箱に入っていたチョコは、パッと見2.3個って感じだった。
「靴と食い物を一緒にするとか、マジひくわー」
アーちゃんはケラケラと笑いながら、すべてを風紀室の落とし物コーナーにいれていた。
授業が終わったら町に出かけ、帰ってきたのはおそらく夜。
何しに行ったかなんて、僕でもなんとなく想像がつく。
いつの間にか、ぐっと唇を噛み締めていた。
何がそんなに悔しいのかわからないけど。
「あのねー」
僕の様子に、アーちゃんがふうっと溜息をついた。
「ああいう祭りのときって、数打ちゃあたるじゃないけど、適当に目に付いたやつらにってノリが、大半なわけよ」
「なんの話…?」
「だから、チョコ渡したりってのは、単なる雰囲気でやってるだけなの。マジなわけないでしょ、男同士なんだから」
あまりにも学園中が色めきたっていたせいで、肝心なことを忘れていた。
よくよく思い出してみれば、僕のクラスでも同じようなことがあった。
校庭に呼び出されたり、机の中にチョコが入っていたり。
そう目立つタイプではないけど、まあまあそこそこという感じの人たちばかりだった。
堂々とチョコを配っている人たちもいたし、こうやって考えてみると、確かに軽い気持ちで楽しんでいる雰囲気があったと思う。
そうだよね、男同士だし、結構ノリだけでそういうことしたりするんだろうね。
「んな遊びに付き合うほど暇じゃないし、そんなことであののほほんを楽しませるのも面倒なわけよ。知ってるでしょ、のほほんのノリは」
「あ、……ああ、うん、ごめんっ」
本気で恥ずかしくなった。
そうだ、そうだよ。アキラのノリはようく知ってるはずなのに、うっかりしてた。
アーちゃんが男性からチョコを貰ったと知れば、しかも告白までされたとなれば、それが冗談の範疇とはいえ、アキラの妄言は手に負えないレベルにまで達するに違いないのに。
きっと、とんでもないロマンスを創り上げるに決まってる。
アッキーもアキも、そんなことはとっくの昔に承知している。しかも最近のアッキーは、その身に降りかかってもいるのだ。
こういう話題でアキラを警戒するのは、当然のことだった。
アキ好みの甘口カレーは、アーちゃんにはかなり不評ではあるけども、コクの点では申し分ない味だった。
明日になれば、もっと美味しくなってると思う。残ってれば、だけど。
「はぁ、一般レベルでは上に入れそうなご容貌だというのに、どうしてあなたはもてないのでしょうか?」
「ほっとけ。あと、一般とかいちいち付けなくていいから」
「このままでは、一生童貞確実です」
あまりのことに、口の中の物が飛び散ったのは、僕とアーちゃんの二人だけ。
どうしてアッキーとアキは、平然としてられるんだろう?
「たかだか十数年の人生で、一生を予測しないでいただけます!?」
「何をおっしゃってるのですか! 高校生というのは、最も輝いている時代なのですよ。青春なのですよ。そんな時期に彼氏はもちろん彼女までいないだなんて、既に終わっております!」
「彼氏はともかく、彼女に関しては今後いくらでもチャンスがありますー!」
「いーえ、このまま行けば童貞決定です。脱処女はできるかも、ですが」
「ざけんなっ」
「はっ、いいことを思いつきました」
「言わなくていいからね」
「このまま30まで童貞を守り、魔法使いさんになりましょう」
「お断りだ、つか、言うなって言ったよね」
「魔法が使えたら便利でしょうね。あ、毎日新鮮な伊勢エビを出してくださいね。こう、チチンプイプイーと」
「んなもん、望めばいつだって食えるだろーが」
「ああ、鯛もいいですね。鮪も大好きです。松坂牛も捨てがたい…むむ……」
「食い物限定かよ」
「あう! プイプイなの、しろいの、なのよ」
「ええ、そうです。アーちゃんの魔法があれば、毎日がケーキバイキングですよ」
「うう、アーちゃん、なるの、のよ、プイプイー」
こうして、アーちゃんの関わらないところで、アーちゃんの将来が決定した。
だけど、どう考えてもその将来は、実現されないままに終わってしまうことだろう。
だって……ど、う、うう…なんて、アーちゃんはとっくに失っているのだから。
「はっ、脱処女していても、なれるものでしょうか?」
「知るかっ」
「プイプイよ、プイプイ」
アーちゃんに対する悔しさなどの正体を、アッくん自身まったく理解しておりません
だからこそ、簡単に丸め込まれてしまいます
よく分からないまま、これからもイライラしたり哀しくなったりすることでしょう
※実はアーちゃんに惚れている……という可能性はまったくございません、念のため