アーちゃん■MMO日記
[アーちゃん■MMO日記15-6]
何度か開け閉めされる戸の気配にも目覚めることなく、ぐっすりと眠り込んだ。
妙に鮮明な夢を見たことで、どこぞのばーさんを思い出したが、すぐにそれは消し飛んだ。
(夢の話はこちら→『アーちゃん■毒』)
いくら弱っていようとも、渡理の妖怪如きにどうにかされるほど落ちぶれてはいない。
あの女にいいようにされたのは、初めて侵入されたとき、まだ何もわかっていなかったときだけだ。
それからは一度も自由にはさせていないし、今後もないと言い切れる。
てなわけで、俺にとっては懐かしくも良い夢を見終えたあと、気分よく目覚めるってのが正しいと思うわけなんだけど……。
呼吸速度は変えず、まんじりともせずに、瞼を深く閉じたまま眠ったフリを続ける。
目を開けなくとも感じる気配は、この部屋に俺以外の人間が居ると知らせていて、それ故に、アッキー様ではないと断言できた。
たぶん、時刻は昼頃。
2時間ほど爆睡したおかげか、体のだるさはかなり楽になっていた。
頭は多少重くて、口の中はまだまだ熱っぽいが、それでも空腹ってやつを感じる程度には回復している。
時間的にも昼飯には丁度いいわけなんだが……あのね…目を開けたくないのよねー!
神様! アキラが余計なことをしませんように、ってお願いしましたよね!
しましたしました! 昨日しました!!
なのにこの仕打ちですか!!
アキほどの幸運をくれとは言わねーけど、人並みくらいは与えてもいいんじゃないかな!
そんなに俺のことが嫌いですか!?
クソクソクソッ!!
そもそもアキラの思考が強者すぎるんだ!
あの、斜め上から斜めに下がり、捩れながら上昇して大気圏に突入し、とうとう宇宙の端にまで到達したかのような思考回路が、俺のなけなしの幸運すらも台無しにしてるに違いない!
絶対にそうだ! そうに決まってる!!
そもそもなんであんなのが存在するんだ!?
どうやったらそういう風に育つの!?
つーか、あんなのに溺愛超越して執着してるやつがいるとか、世の中おかしいよね!
おかしいおかしい、絶対に狂ってる! 俺も含めてな!!
あまりの現実に、何度も逃避しかける思考をどうにか現世へと引き戻し、なんとか心の安寧を……って、無理だわい!
頭の中は大混乱、しかし眠ったフリだけは冷静に続けながら、そっと薄目を開けてみた。
大当たりだよ、こんちくしょーーー!!
薄目で見た世界では、巨人がしげしげと本棚やデスク周りを眺めていた。
時折中腰になったり膝を折ったりと、とにかく好奇心丸出しの姿に、トホホな気分だ。
珍しい物なんかねーよ、とツッコンでやるのは簡単。しかし、そのためには起きなければならない。
そして起きたなら、こいつの相手もそこそこしてやらないといけない嵌めになるのだ。
駄菓子歌詞だ、いつまでも寝てるわけにはいかないのが現実で、いい加減飯も食いたいが、トイレにも行きたい。
何より、汗をかいた後のパジャマは最悪で、再度お着替えをしたいところなのよね。
本音を言うと風呂に入りたいが、その後で体を冷やさない自信がないから、それは諦める。
「珍しいもんなんか、ねーぞ」
いろんなことを諦めて、身を起こしながら巨人に声をかけた。
まさに苦渋の選択だ。
巨人は一瞬だけビクリと肩を震わせて、本棚から俺へと顔だけを移動させる。
一見すれば無表情。だけど前髪に隠れがちな瞳は微かに狼狽の色を示していて、こういうときくらい驚いたって顔しろよ、と言いたくなった。
「もっと驚いた面しろって」
結局言っちゃうんだけどね。
「ド、ドーブロ、あ、お、おはよ…」
「いや、昼だし」
「うん、でも、おはよ…」
「おはようございます」は、朝のご挨拶でもあり、出勤時のご挨拶でもある。
朝だろうと夜だろうと、出勤したなら「おはようございます」は、日本のマナーだ。
起床時のご挨拶もやはり「おはようございます」
昼に起きたからって、目覚めて最初の挨拶としては、普通だな。
「はいはい、おはようさん」
汗で張り付く胸元を摘み上げながら適当に返せば、途端に巨人、あ、静の頬が緩まった。
何がそんなに嬉しいのやら。
「で、あんま聞きたくないけど、なんでお前が居んの?」
と、一応の質問。
答えなんて、想像つくけどね。
「あ、えっと……佐藤に、あの…」
やっぱりかと掌で顔を覆った。
いくらなんでもここまで予想通りだと、本気で泣きたくなってくる。
「アーちゃんが風邪をひいたのですが、生憎と皆出払っておりまして、申し訳ありませんが、傍に付いていてもらえませんか、とか言われた?」
「えっと、そのままの、メール、来た」
「捻りなさすぎなんだよっ」
「ご、ごめん」
「いや、お前に怒ってねーし」
それでもションボリと項垂れるようにして、静がベッドの横までやってくる。
でかい図体のせいで、寝室が異様に狭く感じるな。
「えっと、ごめん」
「は? 何が?」
「いっぱい、見た。昭、起きる…まで、いろいろ、いっぱい」
なんのこっちゃと思ったけど、それが本棚やらを物色してたことだと気付いた瞬間おかしくなった。
そういえば高等部に入ってからは、静を部屋に呼んだことはない。
中等部のときはアキラが勝手に呼んだことが何度かあって、その都度東峰がヤキモキしてたけどね。
「見られてマズイ物なんかねーし、気にすんな」
床に膝を付けて座り込んだ静の頭を、グシャグシャとかき混ぜてやった。
限りなく銀に近い色合いに仄かに主張する黄金が麗しい、なんて定評される巻毛は猫の毛のように柔らかい。
いや、この場合は、犬のようと形容するのが正しいのか?
「あ、アイス、ある」
「アイス?」
「うん、持ってきた、12個」
「マジか」
「うん、マジ」
お見舞いの品を持ってくるあたり、実は結構常識人な静に俺の機嫌は一気に良くなった。
我ながら現金だと思いながら、偉いぞーとばかりにクセの強い髪を再度撫で繰り回せば、静の眦が気持ちよさげに細められる。
これはこれで、アリかもな。
何度か開け閉めされる戸の気配にも目覚めることなく、ぐっすりと眠り込んだ。
妙に鮮明な夢を見たことで、どこぞのばーさんを思い出したが、すぐにそれは消し飛んだ。
(夢の話はこちら→『アーちゃん■毒』)
いくら弱っていようとも、渡理の妖怪如きにどうにかされるほど落ちぶれてはいない。
あの女にいいようにされたのは、初めて侵入されたとき、まだ何もわかっていなかったときだけだ。
それからは一度も自由にはさせていないし、今後もないと言い切れる。
てなわけで、俺にとっては懐かしくも良い夢を見終えたあと、気分よく目覚めるってのが正しいと思うわけなんだけど……。
呼吸速度は変えず、まんじりともせずに、瞼を深く閉じたまま眠ったフリを続ける。
目を開けなくとも感じる気配は、この部屋に俺以外の人間が居ると知らせていて、それ故に、アッキー様ではないと断言できた。
たぶん、時刻は昼頃。
2時間ほど爆睡したおかげか、体のだるさはかなり楽になっていた。
頭は多少重くて、口の中はまだまだ熱っぽいが、それでも空腹ってやつを感じる程度には回復している。
時間的にも昼飯には丁度いいわけなんだが……あのね…目を開けたくないのよねー!
神様! アキラが余計なことをしませんように、ってお願いしましたよね!
しましたしました! 昨日しました!!
なのにこの仕打ちですか!!
アキほどの幸運をくれとは言わねーけど、人並みくらいは与えてもいいんじゃないかな!
そんなに俺のことが嫌いですか!?
クソクソクソッ!!
そもそもアキラの思考が強者すぎるんだ!
あの、斜め上から斜めに下がり、捩れながら上昇して大気圏に突入し、とうとう宇宙の端にまで到達したかのような思考回路が、俺のなけなしの幸運すらも台無しにしてるに違いない!
絶対にそうだ! そうに決まってる!!
そもそもなんであんなのが存在するんだ!?
どうやったらそういう風に育つの!?
つーか、あんなのに溺愛超越して執着してるやつがいるとか、世の中おかしいよね!
おかしいおかしい、絶対に狂ってる! 俺も含めてな!!
あまりの現実に、何度も逃避しかける思考をどうにか現世へと引き戻し、なんとか心の安寧を……って、無理だわい!
頭の中は大混乱、しかし眠ったフリだけは冷静に続けながら、そっと薄目を開けてみた。
大当たりだよ、こんちくしょーーー!!
薄目で見た世界では、巨人がしげしげと本棚やデスク周りを眺めていた。
時折中腰になったり膝を折ったりと、とにかく好奇心丸出しの姿に、トホホな気分だ。
珍しい物なんかねーよ、とツッコンでやるのは簡単。しかし、そのためには起きなければならない。
そして起きたなら、こいつの相手もそこそこしてやらないといけない嵌めになるのだ。
駄菓子歌詞だ、いつまでも寝てるわけにはいかないのが現実で、いい加減飯も食いたいが、トイレにも行きたい。
何より、汗をかいた後のパジャマは最悪で、再度お着替えをしたいところなのよね。
本音を言うと風呂に入りたいが、その後で体を冷やさない自信がないから、それは諦める。
「珍しいもんなんか、ねーぞ」
いろんなことを諦めて、身を起こしながら巨人に声をかけた。
まさに苦渋の選択だ。
巨人は一瞬だけビクリと肩を震わせて、本棚から俺へと顔だけを移動させる。
一見すれば無表情。だけど前髪に隠れがちな瞳は微かに狼狽の色を示していて、こういうときくらい驚いたって顔しろよ、と言いたくなった。
「もっと驚いた面しろって」
結局言っちゃうんだけどね。
「ド、ドーブロ、あ、お、おはよ…」
「いや、昼だし」
「うん、でも、おはよ…」
「おはようございます」は、朝のご挨拶でもあり、出勤時のご挨拶でもある。
朝だろうと夜だろうと、出勤したなら「おはようございます」は、日本のマナーだ。
起床時のご挨拶もやはり「おはようございます」
昼に起きたからって、目覚めて最初の挨拶としては、普通だな。
「はいはい、おはようさん」
汗で張り付く胸元を摘み上げながら適当に返せば、途端に巨人、あ、静の頬が緩まった。
何がそんなに嬉しいのやら。
「で、あんま聞きたくないけど、なんでお前が居んの?」
と、一応の質問。
答えなんて、想像つくけどね。
「あ、えっと……佐藤に、あの…」
やっぱりかと掌で顔を覆った。
いくらなんでもここまで予想通りだと、本気で泣きたくなってくる。
「アーちゃんが風邪をひいたのですが、生憎と皆出払っておりまして、申し訳ありませんが、傍に付いていてもらえませんか、とか言われた?」
「えっと、そのままの、メール、来た」
「捻りなさすぎなんだよっ」
「ご、ごめん」
「いや、お前に怒ってねーし」
それでもションボリと項垂れるようにして、静がベッドの横までやってくる。
でかい図体のせいで、寝室が異様に狭く感じるな。
「えっと、ごめん」
「は? 何が?」
「いっぱい、見た。昭、起きる…まで、いろいろ、いっぱい」
なんのこっちゃと思ったけど、それが本棚やらを物色してたことだと気付いた瞬間おかしくなった。
そういえば高等部に入ってからは、静を部屋に呼んだことはない。
中等部のときはアキラが勝手に呼んだことが何度かあって、その都度東峰がヤキモキしてたけどね。
「見られてマズイ物なんかねーし、気にすんな」
床に膝を付けて座り込んだ静の頭を、グシャグシャとかき混ぜてやった。
限りなく銀に近い色合いに仄かに主張する黄金が麗しい、なんて定評される巻毛は猫の毛のように柔らかい。
いや、この場合は、犬のようと形容するのが正しいのか?
「あ、アイス、ある」
「アイス?」
「うん、持ってきた、12個」
「マジか」
「うん、マジ」
お見舞いの品を持ってくるあたり、実は結構常識人な静に俺の機嫌は一気に良くなった。
我ながら現金だと思いながら、偉いぞーとばかりにクセの強い髪を再度撫で繰り回せば、静の眦が気持ちよさげに細められる。
これはこれで、アリかもな。