アーちゃん■MMO日記
[アーちゃん■MMO日記15-3]
目覚めたとき、目の前にはでっかい土鍋が。
正確には、ソファテーブルに、例の土鍋が置かれていたのだが。
「ちょうど良かったです。お粥、食べられますか?」
「あ?」
土鍋の蓋を重そうに開けたアキラが、中身を器に移していた。
少しばかりの湯気が見えたが、匂いはまったくしてこない。
これは、鼻もイカレたか。
「梅干、お漬物、昆布、どれがよろしいですか?」
いよいよもって熱を発しはじめた体に溶けそうな脳でも、アキラの言わんとしていることは理解できた。
「梅…」
粥の入った器に梅干を乗せて、アキラが俺の前に跪く。
右手には、匙。
俺はといえば、いまだ枕に頭を預けている状態で、ボンヤリとアキラを見上げていた。
「熱いですからね」
左手に持った器から、少量のとろりとした白粥をすくいとり、慣れない動作でふうふうと息を吹きかけるアキラ。
そこまで唇を尖らせる必要は、なくね?
つか、呼気がほとんどかかってなくね?
「はい、どうぞ」
適温まで冷めたか怪しい物体が、俺の口元に突きつけられた。
「……自分で、食うから」
「あ、違いますよ」
「なにが…?」
「そこは、すまないね、オレがこんな体でなければ、ですよ」
「……」
「おとっつあん、それは言わない、」
「だーーーーー! 本っ気で、呆れるわーーー! つーか、10代20代にはわかんねーネタすんじゃねー!!」
「大丈夫です、作者もよくわかっておりませんから。ですが、こういったものはお約束、定番ネタとして定着しておりまして、例えば「ここは俺に任せて先に行け」が死亡フラグであると、アニメファンでなくとも知っているように、万人共、」
「うがあああぁぁぁぁ!! まったくもってどうでもいいわ! 今の俺には関係ねー! それともなに、この風邪で俺にフラグが立ったってこと!? ね、そういうことが言いたいの!? つーか、例えが例えになってねーんだよ!」
「……熱で、気が立っておられるのですね」
なんで気の毒そうに見られてるの!?
だいたい、熱のせいか!? 熱のせいなの!? 俺が叫んでるのは、熱があるからなのか!?
どうにかこうにか起き上がり、アキラから器を奪って無理矢理中身を掻き込んだ。
食って体力つけないと、こいつの相手はしてられない!
「たまに食べるお粥も、美味しいものですね」
俺が自力で食べるのを残念そうに見ていたアキラは、望みの場面を再現できないと察すると、早々に土鍋の中の大量の白粥を食べはじめた。
「あれ、あんたのおかずは?」
「何を言っているのですか、ちゃんとあるではないですか」
「ちゃんとって……」
テーブルに乗っかってるのは、梅干と漬物と昆布、そして土鍋だけ。
本気で、味も素っ気も無い夕飯に、付き合うつもりか。
「あんたはちゃんと食わなきゃ駄目っしょ」
「ちゃんと食べてますよ」
「どこがよ」
「モヤシ"だけ"炒めよりも、よほど豪華なおかずです」
「うっ……」
それを言われると辛いものがある。
「それに、たまには手抜きもいいものですよ」
「あ…そ……」
目元周辺が、熱くなった気がした。
おそらく、熱が上がりはじめたのだろう。
ちゃんと食って寝て、早く万全の体調に戻さないとな……。
たった二杯の粥ですら、完食するのに途方もない時間を要した。
アキラの方が先に食べ終え、すたこらとキッチンへ引っ込んだかと思えば、宣言通りの玉子酒を引っ提げ戻ってくる。
「先に、お薬を飲んでくださいね」
「あー……」
市販の風邪薬と水も用意されたが、
「薬は、いらね…」
「むむ」
アキラが不満気に唇を尖らせた。
「飲んだ方が、楽ですよ」
「んなの、わーってるけど」
医療従事者が軽い風邪ごときで薬を飲まないってのは、一部では有名な話だ。
理由は、長引くから。
そもそも風邪の特効薬なんてのは存在しない、これは自然に治るものであり、薬で治るわけじゃないんだ。
逆に、抗生物質や鎮痛剤を飲んだら、自己の免疫を抑えることになり、余計風邪が長引くことになる。
一番の薬は、睡眠ってとこだろうな。体力つけてゆっくり寝て、それで治す。
じゃあ、なんで薬が売ってるのかって?
んなもん、辛い症状を抑えるために決まってるじゃん。だいたいね、風邪を治すとは書いてないからな。
熱を下げるとか、咳を止めるとか、くしゃみ鼻水を出なくするとか、あとは、薬を飲んだから治るって思い込むプラシーボ効果を狙ってるってこと。
それを知っている医療関係の人間てのは、8度以上の高熱に晒されない限りは、そうそう薬を飲んだりはしないってわけ。
もちろん、飲めば楽になるわけだから、必要性を感じたら飲む方がいい。
俺だって、これが試験前だっつんなら症状抑えて勉学に励むとこだけど、今んとこその必要性がないわけで、つまり、睡眠時間を確保するのが容易な状況にある。
そんなわけで、とんでもない高熱が出てるならともかく、今の状態なら薬に頼る気はないの。
当然アキラも、そういう知識は相当に持っている。
「テスト前ならともかく、今は飲まなくても大丈夫っしょ」
な? と同意を促せば、案の定、不承不承ながらも納得した顔。
「わかりました。弱ったアーちゃんなど滅多と見れませんので、この機会に存分に堪能することといたします。熱に浮かされ、ハアハアするアーちゃん、これも、ひとつの萌えですねぇ、非常に楽しみです。あ、画像には残しませんのでご安心を」
「ん…?」
なんか、聞き捨てならんことを言われた気がするんだけど……、
「玉子酒はどうなさいます?」
「飲む……」
まぁ、いい。
正直言って、もうなんも考えたくないし。
目覚めたとき、目の前にはでっかい土鍋が。
正確には、ソファテーブルに、例の土鍋が置かれていたのだが。
「ちょうど良かったです。お粥、食べられますか?」
「あ?」
土鍋の蓋を重そうに開けたアキラが、中身を器に移していた。
少しばかりの湯気が見えたが、匂いはまったくしてこない。
これは、鼻もイカレたか。
「梅干、お漬物、昆布、どれがよろしいですか?」
いよいよもって熱を発しはじめた体に溶けそうな脳でも、アキラの言わんとしていることは理解できた。
「梅…」
粥の入った器に梅干を乗せて、アキラが俺の前に跪く。
右手には、匙。
俺はといえば、いまだ枕に頭を預けている状態で、ボンヤリとアキラを見上げていた。
「熱いですからね」
左手に持った器から、少量のとろりとした白粥をすくいとり、慣れない動作でふうふうと息を吹きかけるアキラ。
そこまで唇を尖らせる必要は、なくね?
つか、呼気がほとんどかかってなくね?
「はい、どうぞ」
適温まで冷めたか怪しい物体が、俺の口元に突きつけられた。
「……自分で、食うから」
「あ、違いますよ」
「なにが…?」
「そこは、すまないね、オレがこんな体でなければ、ですよ」
「……」
「おとっつあん、それは言わない、」
「だーーーーー! 本っ気で、呆れるわーーー! つーか、10代20代にはわかんねーネタすんじゃねー!!」
「大丈夫です、作者もよくわかっておりませんから。ですが、こういったものはお約束、定番ネタとして定着しておりまして、例えば「ここは俺に任せて先に行け」が死亡フラグであると、アニメファンでなくとも知っているように、万人共、」
「うがあああぁぁぁぁ!! まったくもってどうでもいいわ! 今の俺には関係ねー! それともなに、この風邪で俺にフラグが立ったってこと!? ね、そういうことが言いたいの!? つーか、例えが例えになってねーんだよ!」
「……熱で、気が立っておられるのですね」
なんで気の毒そうに見られてるの!?
だいたい、熱のせいか!? 熱のせいなの!? 俺が叫んでるのは、熱があるからなのか!?
どうにかこうにか起き上がり、アキラから器を奪って無理矢理中身を掻き込んだ。
食って体力つけないと、こいつの相手はしてられない!
「たまに食べるお粥も、美味しいものですね」
俺が自力で食べるのを残念そうに見ていたアキラは、望みの場面を再現できないと察すると、早々に土鍋の中の大量の白粥を食べはじめた。
「あれ、あんたのおかずは?」
「何を言っているのですか、ちゃんとあるではないですか」
「ちゃんとって……」
テーブルに乗っかってるのは、梅干と漬物と昆布、そして土鍋だけ。
本気で、味も素っ気も無い夕飯に、付き合うつもりか。
「あんたはちゃんと食わなきゃ駄目っしょ」
「ちゃんと食べてますよ」
「どこがよ」
「モヤシ"だけ"炒めよりも、よほど豪華なおかずです」
「うっ……」
それを言われると辛いものがある。
「それに、たまには手抜きもいいものですよ」
「あ…そ……」
目元周辺が、熱くなった気がした。
おそらく、熱が上がりはじめたのだろう。
ちゃんと食って寝て、早く万全の体調に戻さないとな……。
たった二杯の粥ですら、完食するのに途方もない時間を要した。
アキラの方が先に食べ終え、すたこらとキッチンへ引っ込んだかと思えば、宣言通りの玉子酒を引っ提げ戻ってくる。
「先に、お薬を飲んでくださいね」
「あー……」
市販の風邪薬と水も用意されたが、
「薬は、いらね…」
「むむ」
アキラが不満気に唇を尖らせた。
「飲んだ方が、楽ですよ」
「んなの、わーってるけど」
医療従事者が軽い風邪ごときで薬を飲まないってのは、一部では有名な話だ。
理由は、長引くから。
そもそも風邪の特効薬なんてのは存在しない、これは自然に治るものであり、薬で治るわけじゃないんだ。
逆に、抗生物質や鎮痛剤を飲んだら、自己の免疫を抑えることになり、余計風邪が長引くことになる。
一番の薬は、睡眠ってとこだろうな。体力つけてゆっくり寝て、それで治す。
じゃあ、なんで薬が売ってるのかって?
んなもん、辛い症状を抑えるために決まってるじゃん。だいたいね、風邪を治すとは書いてないからな。
熱を下げるとか、咳を止めるとか、くしゃみ鼻水を出なくするとか、あとは、薬を飲んだから治るって思い込むプラシーボ効果を狙ってるってこと。
それを知っている医療関係の人間てのは、8度以上の高熱に晒されない限りは、そうそう薬を飲んだりはしないってわけ。
もちろん、飲めば楽になるわけだから、必要性を感じたら飲む方がいい。
俺だって、これが試験前だっつんなら症状抑えて勉学に励むとこだけど、今んとこその必要性がないわけで、つまり、睡眠時間を確保するのが容易な状況にある。
そんなわけで、とんでもない高熱が出てるならともかく、今の状態なら薬に頼る気はないの。
当然アキラも、そういう知識は相当に持っている。
「テスト前ならともかく、今は飲まなくても大丈夫っしょ」
な? と同意を促せば、案の定、不承不承ながらも納得した顔。
「わかりました。弱ったアーちゃんなど滅多と見れませんので、この機会に存分に堪能することといたします。熱に浮かされ、ハアハアするアーちゃん、これも、ひとつの萌えですねぇ、非常に楽しみです。あ、画像には残しませんのでご安心を」
「ん…?」
なんか、聞き捨てならんことを言われた気がするんだけど……、
「玉子酒はどうなさいます?」
「飲む……」
まぁ、いい。
正直言って、もうなんも考えたくないし。