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[榊著、MMO日記-後日談2-]


「パパのお洋服を買いたいのよねー」

そう言うから、まずはメンズの並ぶ場所に連れて行った。
途中、俺愛用のショップに寄り、荷物持ちの代金にとシャツを買ってもらいました。

「あ、パパのパンツ買っとかなきゃ」

これは、俺御用達の店に行った。
端から見れば、息子の下着を買いにきた母親の図であり、マザコンだと思われてることだろう。
3枚ほど買ってもらいましたけどね。

「つかさー、こんなもん、地元で買ったほうが楽だろ」

「馬鹿ねー、息子と選んだって付加価値で、パパ大喜びよ」

「そんなもんすか」

「そんなものよ、親なんて」

それなりに量のある紙袋を右腕に、左腕にはお袋をぶら提げて、散策すること数時間。
車で駅まで行くつもりが、なぜか徒歩と電車で駅まで向かい、新幹線の時間まで喫茶店で時間を潰すことになった。

「布教活動はほどほどに、相手をよく見てやってください」

「あら、ちゃんと見てるわよ」

「どこがよ」

「これからも、私は好きに行動します。尻拭い、してくれるんでしょ」

「あのなっ」

「私は、あんたの母親なんですからね、全部尻拭いしなさいよ。それが子供の義務よ」

「なんつー、勝手なことを」

「子供が親の面倒見るのは、当然でしょ」

「あのな、いい加減にしないと、俺も、」

「うるさいっ」

「……母さん?」

「あんたは、黙って私の面倒を見てればいいの。ずっと、ずーーっとよ、あんたよりも長生きするんだからっ、一生、走り回るのがあんたの役目なのよ。他に気をとられてる暇なんか、あんたにはないんだからっ」

「……狂ってる暇も?」

テーブルにあった水を、ぶっかけられた。
店員が、慌てておしぼりを持ってくる。

これじゃまるで、別れ話中の男女のようだ。
お袋が若く見える分、余計にそう思われちまう。

あ、でも、顔が似てるもんな、どっから見ても血縁関係にしか見えないってことは、姉弟喧嘩あたりで落ち着いてくれるかもな。

「時間ね、じゃ、帰るわ」

「ん」

荷物を持ち、レジで清算を済ませる。
ここは、俺の奢りにしておこう。

「中まで送る」

「結構よ」

「荷物多いよ」

「たかがそれくらい持てるわよ。年寄り扱いしないで」

「すんません」

荷物を受け取ると、お袋はとっとと背を向けた。
切符を取り出し、改札に通す後姿を見送る。

「小っせぇなぁ……」

確か、155くらいだっけ。ヒールのお陰で160ちょいはあるけど、俺と比べりゃかなり小さい。

昔は、大きかった。
そりゃそうだ、子供からすれば、親ってのはとてつもなくでかく見えるもんなんだ。
だが今となっては、俺はとうにお袋の背を追い抜き、力だって全然違う。

中二のあのとき、自分というもののすべてが決まったときから、俺はどこか自惚れていたのかもしれない。
誰をも黙らせることのできる力と立場を手に入れたのだと、守りたいひとたちをいくらでも守ってやれるのだと。

だけど、守られているのは……守ろうとしてくれているのは……。

ホームへと向かう背中が、自然と視界から消える。

「振り返りもしやがらねーの」

さて、俺も帰りますか。
今日は、本気で疲れました。



「あ…そ、それでは、これで」

学園から寮に続く道、待ち構えていた俺に気付いたアキラが、慌てて携帯を懐にしまった。

「早かったのですね。お泊りだと思っていたのですが」

「なーんで、泊まるのよ」

「久しぶりにお母様と会われたので、てっきり、そうかと…」

「半日でもしんどいのに、一日中とかマジ勘弁だわ」

「そうですか」

「どっからどこまでが、想定内だったのかな?」

「なんのことですか?」

とぼけているのかマジなのか、さっぱり読めない表情でアキラが見上げてくる。

「ま、いっか」

「いいなら、いいですけど」

特に何を話すでもなくアキラとふたり寮まで戻り、お袋に買ってもらった服を仕舞って、ようやくソファで人心地ついた。

「はぁぁぁ、疲れたー」

「さすがのアーちゃんも、茜さんには振り回されてばかりですね」

制服から着替えたアキラが、クスクスと笑いながらコーヒーを置いてくれた。

「あんたにも、充分振り回されてますけどね」

「おや心外。僕はいつでも大人しいいいコですよ」

「あんただけじゃないよなー、アキもアッキーも、最近じゃアッくんまでもが、面倒ごとは俺に振ってくるもんな」

「アーちゃんは、苦労性の星の下に生まれたのですよ。のんびりする暇など、今後もないと思われます」

「なんじゃそりゃ」

「特に茜さんは、これからも騒動を引き起こすでしょうしね。アーちゃん、その都度、きちんと収めてくださいよ」

「一生走り回れ、だってさ」

「茜さんのために、ですか?」

「そ」

「でしたら、生涯走り回るしかないですね」

「死ぬまで面倒かけられろってか」

「そうですよ。茜さんだけじゃありません、いろんな人に振り回され、走り回ることになるんです。それが苦労性の宿命ですよ」

「過労死すっぞ」

「それはそれで、いた仕方ないかと」

「苦労のしすぎで、禿げたらどうしてくれんの」

「あなたに近い血筋の方に、禿げはおりません」

「あっそ、そりゃよかった」

気が付けば、俺の周囲は、詰まらぬ面倒を起こすやつらで占められている。
俺が抱え込んだものもあれば、勝手に丸投げしてくるやつらもいて、確かに自分のことだけで精一杯なんて生き方は無理そうだ。

「もうちっと、BLから離れてくれたらいいんだけどねぇ」

「茜さんからBLを取ったら、単なる美魔女になるだけですよ。それでもよろしいのですか?」

「願ったり叶ったりっす」

「また、心にも無いことを」

「いや、あるから」

「またまた」

「あるっつーのにっ」

「はいはい」

腐女子な母と美魔女の母なら、間違いなく美魔女を取る。
そのほうが、世の中平和な気がするんですけどね、いや、マジで。
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