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[榊著、MMO日記-後日談1-]
本日の授業はサボり。
朝一番の新幹線で到着したお袋と共に、鷺視本家に向かう車中では、
「ちょっと、朝から腐るの止めてくれる?」
「朝に腐らなくて、いつ腐るのよ」
止むことのない携帯でのサイト巡りに、呆れるとともに溜息が零れた。
「よくもまあ、まともな結婚ができたもんだ」
お袋と親父は、一応は恋愛結婚のはずだ。
確か、お袋が通ってた大学で、親父が助手をしてたんだよな。
女子大生のお袋か……オエッ。
「リアルはリアル。主腐なんて、それこそ腐るほどいるでしょ」
「さいですか」
常に腐精神を忘れない母親は、久々に会った息子そっちのけで、鷺視本家の奥、比良坂に到着するまでの時間、男×男の恋愛を堪能していた。
比良坂に着いたら、すぐに榊と柊をとっ捕まえて、BLと同人誌、そしてアキラの安全性についてを、2時間ほどかけて説明した。
お袋が置いてったという問題の同人誌は、地味で平凡な受けが美形たちに執着されるという王道の学園物ではあったが、いかんせん、総受強姦ヤンデレ他他他だったことで、榊をおかしくさせてしまった。
現代の男子校とはこうなのか、と創作物をリアルと置き換えてしまうとは、オタクと非オタクの差がよくわかる結果だ。
こういう大人が、アホな法案とか作っちゃうんだろうな……つーかさー、その年代って「仁義なき○い」とか「極○の妻たち」観てたやつらでしょ。
何人がそっちの道に走ったかって話だよな……とと、そういうのは、今はいっか。
そもそもBLは、女性が中心になって創られた物であり、そのせいか、男の性についてあまりにも非常識に描かれてる部分が多い。
女性中心ということは読者もほぼ女性であり、すなわち、仮想世界の影響を受けて男が男を××する可能性があるから危険、という大前提が崩れるわけで、ある意味とても安全で不健全な世界なわけだ。
俺が懇々と諭したお陰で、榊は自分がいかに動転し、平静を失っていたかを猛烈に反省することになった。
反省はするが、東峰の例もあることだし、やはり心配は心配だと言いながらもこれにて落着となり、なんだかんだで忙しい身の榊は、その後別件で出掛けてしまった。
せっかくなのだからと、比良坂でゆっくりするよう勧められた俺とお袋は、残された柊相手にBL談義に花を咲かせることになった。
「精液の量が、尋常じゃねーでしょ」
「確かに…尻の位置も、少し……」
「でしょでしょー、そこ絶対にケツじゃねーし、つか、一回で汁まみれって、どんだけって話じゃね」
「るっさい、汁と穴と棒は乙女のロマンなの!」
「お、乙女の、で、ございます…か…」
「こんなんでも市場規模はでっかいからねー。数百億ってんだから、世も末だわ」
「ははぁ、凄い物にござりまするなぁ…」
榊にしろ柊にしろ、どんなもんでも頭っから否定するタイプじゃない。
好き嫌いは別にして、いかなるものにも禁忌はない、なんて寛容な思考の持ち主たちだ。
知らないよりかは知っておく方がいい、というその大らかな好奇心でもって、BL漫画の描写にも嫌悪感を示さないのは、いっそ天晴れというかなんというか……。
「そういえば、柊さんはおいくつでしたかしら?」
不意にお袋が尋ねれば、柊が姿勢を正しすぐさま答えた。
「もうすぐ、32にござります」
「まぁ、お若いんですのね」
「はい、まだまだ若輩にござります。同じ頃、榊はすでに筆頭に就いておりました。実に情けない限りです」
「上が立て続けに亡くなったって聞いたけど」
「それもございましたが、やはり、力量というものを痛感いたします」
「柊さんは、事務職とか似合いそうですよね、できれば眼鏡も欲しいところですけど」
比良坂の、どこか慣れ親しんだ空気の中、柊という同胞を前にして、俺の警戒心はかなり弛んでいたらしい。
お袋が何を考えて年齢なんてのを訊いたのか、今になってようやく気が付いたからだ。
「事務、ですか…お恥ずかしながら、就労の経験はございませんが」
「とてもお似合いかと。美形営業(年下創業者一族)×平凡事務(年上庶民)……はぁはぁ、マジぷめー」
「母上、心の声がダダ漏れっす」
柊は、はっきりいって普通だ。
どことなく榊に似てはいるものの、榊の持つような威圧感というか貫禄というか、そういうものが表立って出ているタイプじゃない。
もちろん将来的には榊の後を継ぐわけだし、内面は相当に強いものを持ってるんだろうが、パッと見は物腰柔らかな平凡な男性。
ついでに言うと、身長は俺よりも低めで、体つきはがっしりとしてるわけでもなく、だからといって細身でもない。
そういうところ全部が、お袋の琴線に触れてしまったらしい。
ずばり、お袋の大好物であるところの、平凡受けのカテゴリーに入れられたわけだ。
「ご結婚は?」
「若輩の身ゆえ、いまだ…」
お袋の眼が怪しく光ってみえたのは、錯覚ではないだろう。
現に、柊の方も、多少警戒しはじめている。
「まぁ、なんて素敵。下手な女に引っかかるよりは、」
それ以上言わせるか!
調子付くお袋を制止し、柊が引き止めるのも聞かず比良坂を辞去したあとは、空腹だと騒ぐお袋のためにと某有名店に昼食を食いに行った。
なんでも、こっちに出てきた際には必ず顔を出してるとかで、シェフはじめ皆がテーブルに挨拶に来るもんだから、いったいどれほど利用してるのかと不安になってくる。
「パパがね、プロポーズしてくれたお店なのよー」
「ふーん、どうでもいい情報、どうも」
テーブルの下で、ハイヒールに襲撃された。
酒の苦手なお袋はともかく、堂々ワインを頼むこともできないことから、ふたりしてジンジャエールを頼んだ。
エールを注ぎながら、姉弟にしか見えないなどと見え見えの社交辞令を口にするソムリエに、お袋は子供のように喜んでいる。
さて、アミューズ・ブーシュに始まって、前菜、スープ、魚に肉と続くコースは、超久々にまともなマナーを必要とするもんで、さすがの俺も今更ながらにドレスコードが気になった。
なんせ、ノータイ、適当なシャツとパンツだもんな。特に何も言われてないから、オッケーてことかな。
酒がないことから、相当に早いペースで肉料理まで終了すれば、20種ほどのフロマージュを乗せたワゴンがテーブルに到着した。
フロマージュってのは、チーズのこと。好きなチーズを皿に乗っけてもらうってわけだ。
じっくりと熟成されたミモレットに、高貴な青カビなんて言われているフルム・ダンベール、クリーミーなエポワスに、山羊のミルクで作られたヴァランセを選び、干しブドウやら松の実イチジクなどと一緒に口に放り込んでゆく。
「この後、お買い物に付き合ってね」
「やだ」
またもや、ハイヒールに襲われる。
「あんたさ、こっちに来た理由、分かってんの?」
「あら、なんだったかしら?」
「……」
「冗談よ、冗談。ちゃんと分かってるわよ」
「お袋の尻拭いくらいいくらでもすっけど、アキラにとばっちりがいくのだけは勘弁してくれ」
「……偉そうに、あんたの尻、どんだけ拭ってやったと思ってんの」
「なんのことよ」
「拭いてる最中にチン○勃起させて、顔まで飛ばす勢いで」
「ば、馬鹿馬鹿、人聞き悪いこと言うんじゃねーよ」
それは、オムツを換えてたっていう、普通ならば懐かしくも微笑ましいお話のはずですよね!
「しかも大事にとっておいた皮、勝手に剥いたでしょ」
あまりのことに、フォークを皿の上に落としてしまった。
ちなみに、お袋と俺のテーブルは、店の奥まった位置にあり、半個室といった雰囲気の場所だ。
そのお陰で、それほど会話に気をつける必要はない、ないけど、つーかさ、小学校に入ったあたりから、お袋と風呂に入ることも、下半身を披露したこともたぶんないはずなんだよ。
特に中坊以降は、絶対にそんなことはしてないと断言できる。
剥く云々は、適当に言ってるにしても、息子のムスコ事情に口出すとか、親父ならともかく女親のすることじゃなくね!?
「一応、外聞ってのを、気にしていただけますか…」
「アキラ君やアキちゃんみたいな、可愛いおチ○チ○が理想だったのに」
「ひとの話、聞いてる?」
いつ見たんだとツッコミたくなったが、アキラもアキも俺の実家(?)で、見られていたと思い出した。
アキラの着替えは継埜の女たちがしていたが、そこにお袋も同席していたし、アキなんか、風呂上りに裸で走り回ってたもんな。
アッキーは、決してお袋を近づけさせなかったけど、今思えば大正解だ。
「あ、でも、受けだからこその可愛さよね、そう考えたらあんたのは……」
「俺はホモじゃねーからな。受けも攻めもねーよ」
「ほんと、詰まらない男に育ったわね」
「あのね、それが普通だって、覚えといたほうがいいよ」
「もう忘れました」
どうにかこうにかデセール(デザート)まで辿り着いた頃には、俺はかなり憔悴しきっていた。
こういう女性と結婚し、尚且つ穏やかな家庭生活を維持している親父を、マジで尊敬する。
「お買い物は絶対に行くわよ。そこそこイケメン(やっぱ攻め?)に育った息子とデートしても、バチはあたらないでしょ」
「そこそことカッコ内は、余計」
「雅人君や裕輔君に会う前なら、手放しで褒めてあげるんだけど、さすがにねぇ」
「うっせ」
結局お袋に押し切られ、ショッピングってことになった。
繁華街近くまでは車で向かい、あとはふたりでブラつくことにした。
お袋とふたりで歩くなんて、いつ以来だろ。
「さすがに賑やかになっちゃったわね」
昔は、親父とよくデートしてたというが、当時よりも増えたビルやらなんやらで、街並みはかなり変化してるらしい。
お袋は、少しだけ寂しさを滲ませながらも、再開発によって一番の賑わいを見せる大規模ショッピングモールに行くと言い張った。
「女の買い物には付き合うなって、親父の遺言なんすけど」
「あら、そんなもの真面目に守る男じゃないでしょ、あんたは」
「せめて腕組むのだけは、勘弁してください」
「あらあら、照れちゃって」
「照れてません、キッ、」
キモイんです、と言う寸前、腕を抓られた。しかも、おもいっきり。
「あんたの小さい頃の写真、アッくんに流すわよ」
小さい頃の、写真……?
「あっ、あんたのしたことは、セクハラでパワハラだからなっ」
家には、俺の裸体写真が多数残っている。(もちろん、普通の写真もいっぱいあるけど)
俺が拒否る力を手に入れるまで、嫌がらせのように撮り続けられたもんだ。
「子供の記録を撮るってのはね、親の特権なのよ」
まったく罪の意識のない台詞に、怒る気力も湧いてこない。
「育ったら可愛げも何もなくなっちゃうんだから、それくらいしとかないと、特に男の子はっ」
「いてっ」
バンッと俺の尻を叩き、
「さ、キリキリ行くわよっ」
腕を引くお袋に、仕方なしに従った。
本日の授業はサボり。
朝一番の新幹線で到着したお袋と共に、鷺視本家に向かう車中では、
「ちょっと、朝から腐るの止めてくれる?」
「朝に腐らなくて、いつ腐るのよ」
止むことのない携帯でのサイト巡りに、呆れるとともに溜息が零れた。
「よくもまあ、まともな結婚ができたもんだ」
お袋と親父は、一応は恋愛結婚のはずだ。
確か、お袋が通ってた大学で、親父が助手をしてたんだよな。
女子大生のお袋か……オエッ。
「リアルはリアル。主腐なんて、それこそ腐るほどいるでしょ」
「さいですか」
常に腐精神を忘れない母親は、久々に会った息子そっちのけで、鷺視本家の奥、比良坂に到着するまでの時間、男×男の恋愛を堪能していた。
比良坂に着いたら、すぐに榊と柊をとっ捕まえて、BLと同人誌、そしてアキラの安全性についてを、2時間ほどかけて説明した。
お袋が置いてったという問題の同人誌は、地味で平凡な受けが美形たちに執着されるという王道の学園物ではあったが、いかんせん、総受強姦ヤンデレ他他他だったことで、榊をおかしくさせてしまった。
現代の男子校とはこうなのか、と創作物をリアルと置き換えてしまうとは、オタクと非オタクの差がよくわかる結果だ。
こういう大人が、アホな法案とか作っちゃうんだろうな……つーかさー、その年代って「仁義なき○い」とか「極○の妻たち」観てたやつらでしょ。
何人がそっちの道に走ったかって話だよな……とと、そういうのは、今はいっか。
そもそもBLは、女性が中心になって創られた物であり、そのせいか、男の性についてあまりにも非常識に描かれてる部分が多い。
女性中心ということは読者もほぼ女性であり、すなわち、仮想世界の影響を受けて男が男を××する可能性があるから危険、という大前提が崩れるわけで、ある意味とても安全で不健全な世界なわけだ。
俺が懇々と諭したお陰で、榊は自分がいかに動転し、平静を失っていたかを猛烈に反省することになった。
反省はするが、東峰の例もあることだし、やはり心配は心配だと言いながらもこれにて落着となり、なんだかんだで忙しい身の榊は、その後別件で出掛けてしまった。
せっかくなのだからと、比良坂でゆっくりするよう勧められた俺とお袋は、残された柊相手にBL談義に花を咲かせることになった。
「精液の量が、尋常じゃねーでしょ」
「確かに…尻の位置も、少し……」
「でしょでしょー、そこ絶対にケツじゃねーし、つか、一回で汁まみれって、どんだけって話じゃね」
「るっさい、汁と穴と棒は乙女のロマンなの!」
「お、乙女の、で、ございます…か…」
「こんなんでも市場規模はでっかいからねー。数百億ってんだから、世も末だわ」
「ははぁ、凄い物にござりまするなぁ…」
榊にしろ柊にしろ、どんなもんでも頭っから否定するタイプじゃない。
好き嫌いは別にして、いかなるものにも禁忌はない、なんて寛容な思考の持ち主たちだ。
知らないよりかは知っておく方がいい、というその大らかな好奇心でもって、BL漫画の描写にも嫌悪感を示さないのは、いっそ天晴れというかなんというか……。
「そういえば、柊さんはおいくつでしたかしら?」
不意にお袋が尋ねれば、柊が姿勢を正しすぐさま答えた。
「もうすぐ、32にござります」
「まぁ、お若いんですのね」
「はい、まだまだ若輩にござります。同じ頃、榊はすでに筆頭に就いておりました。実に情けない限りです」
「上が立て続けに亡くなったって聞いたけど」
「それもございましたが、やはり、力量というものを痛感いたします」
「柊さんは、事務職とか似合いそうですよね、できれば眼鏡も欲しいところですけど」
比良坂の、どこか慣れ親しんだ空気の中、柊という同胞を前にして、俺の警戒心はかなり弛んでいたらしい。
お袋が何を考えて年齢なんてのを訊いたのか、今になってようやく気が付いたからだ。
「事務、ですか…お恥ずかしながら、就労の経験はございませんが」
「とてもお似合いかと。美形営業(年下創業者一族)×平凡事務(年上庶民)……はぁはぁ、マジぷめー」
「母上、心の声がダダ漏れっす」
柊は、はっきりいって普通だ。
どことなく榊に似てはいるものの、榊の持つような威圧感というか貫禄というか、そういうものが表立って出ているタイプじゃない。
もちろん将来的には榊の後を継ぐわけだし、内面は相当に強いものを持ってるんだろうが、パッと見は物腰柔らかな平凡な男性。
ついでに言うと、身長は俺よりも低めで、体つきはがっしりとしてるわけでもなく、だからといって細身でもない。
そういうところ全部が、お袋の琴線に触れてしまったらしい。
ずばり、お袋の大好物であるところの、平凡受けのカテゴリーに入れられたわけだ。
「ご結婚は?」
「若輩の身ゆえ、いまだ…」
お袋の眼が怪しく光ってみえたのは、錯覚ではないだろう。
現に、柊の方も、多少警戒しはじめている。
「まぁ、なんて素敵。下手な女に引っかかるよりは、」
それ以上言わせるか!
調子付くお袋を制止し、柊が引き止めるのも聞かず比良坂を辞去したあとは、空腹だと騒ぐお袋のためにと某有名店に昼食を食いに行った。
なんでも、こっちに出てきた際には必ず顔を出してるとかで、シェフはじめ皆がテーブルに挨拶に来るもんだから、いったいどれほど利用してるのかと不安になってくる。
「パパがね、プロポーズしてくれたお店なのよー」
「ふーん、どうでもいい情報、どうも」
テーブルの下で、ハイヒールに襲撃された。
酒の苦手なお袋はともかく、堂々ワインを頼むこともできないことから、ふたりしてジンジャエールを頼んだ。
エールを注ぎながら、姉弟にしか見えないなどと見え見えの社交辞令を口にするソムリエに、お袋は子供のように喜んでいる。
さて、アミューズ・ブーシュに始まって、前菜、スープ、魚に肉と続くコースは、超久々にまともなマナーを必要とするもんで、さすがの俺も今更ながらにドレスコードが気になった。
なんせ、ノータイ、適当なシャツとパンツだもんな。特に何も言われてないから、オッケーてことかな。
酒がないことから、相当に早いペースで肉料理まで終了すれば、20種ほどのフロマージュを乗せたワゴンがテーブルに到着した。
フロマージュってのは、チーズのこと。好きなチーズを皿に乗っけてもらうってわけだ。
じっくりと熟成されたミモレットに、高貴な青カビなんて言われているフルム・ダンベール、クリーミーなエポワスに、山羊のミルクで作られたヴァランセを選び、干しブドウやら松の実イチジクなどと一緒に口に放り込んでゆく。
「この後、お買い物に付き合ってね」
「やだ」
またもや、ハイヒールに襲われる。
「あんたさ、こっちに来た理由、分かってんの?」
「あら、なんだったかしら?」
「……」
「冗談よ、冗談。ちゃんと分かってるわよ」
「お袋の尻拭いくらいいくらでもすっけど、アキラにとばっちりがいくのだけは勘弁してくれ」
「……偉そうに、あんたの尻、どんだけ拭ってやったと思ってんの」
「なんのことよ」
「拭いてる最中にチン○勃起させて、顔まで飛ばす勢いで」
「ば、馬鹿馬鹿、人聞き悪いこと言うんじゃねーよ」
それは、オムツを換えてたっていう、普通ならば懐かしくも微笑ましいお話のはずですよね!
「しかも大事にとっておいた皮、勝手に剥いたでしょ」
あまりのことに、フォークを皿の上に落としてしまった。
ちなみに、お袋と俺のテーブルは、店の奥まった位置にあり、半個室といった雰囲気の場所だ。
そのお陰で、それほど会話に気をつける必要はない、ないけど、つーかさ、小学校に入ったあたりから、お袋と風呂に入ることも、下半身を披露したこともたぶんないはずなんだよ。
特に中坊以降は、絶対にそんなことはしてないと断言できる。
剥く云々は、適当に言ってるにしても、息子のムスコ事情に口出すとか、親父ならともかく女親のすることじゃなくね!?
「一応、外聞ってのを、気にしていただけますか…」
「アキラ君やアキちゃんみたいな、可愛いおチ○チ○が理想だったのに」
「ひとの話、聞いてる?」
いつ見たんだとツッコミたくなったが、アキラもアキも俺の実家(?)で、見られていたと思い出した。
アキラの着替えは継埜の女たちがしていたが、そこにお袋も同席していたし、アキなんか、風呂上りに裸で走り回ってたもんな。
アッキーは、決してお袋を近づけさせなかったけど、今思えば大正解だ。
「あ、でも、受けだからこその可愛さよね、そう考えたらあんたのは……」
「俺はホモじゃねーからな。受けも攻めもねーよ」
「ほんと、詰まらない男に育ったわね」
「あのね、それが普通だって、覚えといたほうがいいよ」
「もう忘れました」
どうにかこうにかデセール(デザート)まで辿り着いた頃には、俺はかなり憔悴しきっていた。
こういう女性と結婚し、尚且つ穏やかな家庭生活を維持している親父を、マジで尊敬する。
「お買い物は絶対に行くわよ。そこそこイケメン(やっぱ攻め?)に育った息子とデートしても、バチはあたらないでしょ」
「そこそことカッコ内は、余計」
「雅人君や裕輔君に会う前なら、手放しで褒めてあげるんだけど、さすがにねぇ」
「うっせ」
結局お袋に押し切られ、ショッピングってことになった。
繁華街近くまでは車で向かい、あとはふたりでブラつくことにした。
お袋とふたりで歩くなんて、いつ以来だろ。
「さすがに賑やかになっちゃったわね」
昔は、親父とよくデートしてたというが、当時よりも増えたビルやらなんやらで、街並みはかなり変化してるらしい。
お袋は、少しだけ寂しさを滲ませながらも、再開発によって一番の賑わいを見せる大規模ショッピングモールに行くと言い張った。
「女の買い物には付き合うなって、親父の遺言なんすけど」
「あら、そんなもの真面目に守る男じゃないでしょ、あんたは」
「せめて腕組むのだけは、勘弁してください」
「あらあら、照れちゃって」
「照れてません、キッ、」
キモイんです、と言う寸前、腕を抓られた。しかも、おもいっきり。
「あんたの小さい頃の写真、アッくんに流すわよ」
小さい頃の、写真……?
「あっ、あんたのしたことは、セクハラでパワハラだからなっ」
家には、俺の裸体写真が多数残っている。(もちろん、普通の写真もいっぱいあるけど)
俺が拒否る力を手に入れるまで、嫌がらせのように撮り続けられたもんだ。
「子供の記録を撮るってのはね、親の特権なのよ」
まったく罪の意識のない台詞に、怒る気力も湧いてこない。
「育ったら可愛げも何もなくなっちゃうんだから、それくらいしとかないと、特に男の子はっ」
「いてっ」
バンッと俺の尻を叩き、
「さ、キリキリ行くわよっ」
腕を引くお袋に、仕方なしに従った。