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平凡君の日々彼此

[平凡君の日々彼此-無理矢理質問編3-]


僕のためにと、アキラがそれはもう懇切丁寧に、面白おかしく説明してくれた。

それは、アーちゃんが小学校4年生のときのことだったらしい。この時点で、驚きだよ。
もうすぐ卒業式だというある日のこと、当時6年生だった女子に呼び出され、告白というものをされたそうだ。
なんて早熟なのだろう……あ、でも、最近はそういうものなのかな? 特に女の子はそっち方面はとても早熟だというし、少なくとも僕も、僕の周囲もそういうのとは無縁だったけどね。

「卒業が間近に迫ると、玉砕覚悟で想いをぶつける女子が多かったそうですよ。ふふ、実におませさんですね」

「ででで、アーちゃんはなんて答えたの?」

ちょっとドキドキする内容に、早く続きをとアキラを急かす。

「そういうことは、本人に聞くもんじゃねーの?」

アーちゃんはその女子のことを、事も無げに振ったらしい。
とはいえ、本人は振ったつもりではなく、(恋愛事に)興味ないと答えたのを、そう受け取られたらしい。
やっぱりこの年代の女子と男子では、温度差は激しいよね。

「ですが、女性とは逞しいものですね。その先輩、せめてもの思い出にとキスをねだったそうですよ」

「え、えええ、6年生だよね!? ませてるなぁ。あ、まさか、それでお金出したら、とか言ったの? さいてー」

「あんだとー。なんとも思ってない相手に、なんでタダでしてやんないといけないのよっ、しかも初よ、初、俺の初チューよ!」

「だ、だったら、断ればよかったんだよ、そんなの相手にも失礼だよ」

「まぁまぁ、落ち着いて。真実かどうかはともかく、そう言えば相手が諦めるだろうと考えたのだそうですよ」

「そんなの、絶対嘘だよ」

「あんだとーーー」

「う、うわ、止めて、あははは、止めっ、」

アーちゃんの容赦ない擽り攻撃に、僕の味方は誰ひとりとして現れなかった。
アキなんか真っ先に僕を見捨てて、攻撃に参加してくる始末だ。
息も絶え絶えとなった頃、ようやくふたりから解放された僕は、その場でぐったりと身を伏せた。

「結局その女子は3000円にまで値切り、アーちゃんの初キスを奪ったそうです。いやはや、女性というのは本当に強い生き物だと実感できるエピソードですね」

アーちゃんが苦虫を噛み潰したような顔をしていて、なんとなく気分が晴れる気がした。
でも、どっちにしろ、

「アーちゃん、さいてーだよ」

「んだとーー」

「わ、わわ、助けてアッキー」

「あ、卑怯者」

大急ぎでアッキーの背中に隠れたら、アーちゃんがそこから動かずに悔しそうにしていた。
よし、勝ったぞ。

「あ、でも、どうしてそんなこと、アキラが知ってるの?」

「茜さんから聞きました」

「へー、やっぱりアーちゃんでも、お母さんに報告したりするんだね」

「この方、学校で起こったことや友人のことを、一ネタ500円"から"で売りつけておりましたからね。このネタは800円で売ったそうですよ。いやはや、身を削っておりますね」

「うわぁ、さいてーだよ」

「うっせ、小遣い制じゃなかったんだから、しゃーないでしょっ」

やっぱり茜さんは、間違いなくアーちゃんと親子だ。

「あ、まままさか、今も!?」

「もう、売るようなネタがないのよねー」

「ままままさか……」

「はは、アッくんと葛西のネタなんて、こっちの言い値で買いやがった」

「ささささいてー、やっぱりアーちゃんはさいてーだよっ」

「自分で稼ぐってのは、そういうことなの。ひと様の事情なんて、知るかっ」

んもうっ、本当にアーちゃんは、そういうところが滅茶苦茶なんだから。
もっとたくさん文句を言いたかったけど、どうせ何を言っても無駄だと諦め、とりあえずアンケート用紙に記入すべくペンを取った。

「ふーん、高校一年生ねー」

「やはり、葛西先輩が最初の方なのですか?」

「そ、そうだよ……悪い!?」

こんなところで書いたら、当然見られちゃうよね。
自分の迂闊さに憤りながらも、どうせ知られてるし、という気持ちもあるため、慌てて隠すことはしない。

「悪くはございませんよ。僕も、雅人が初めてのお相手ですし」

「そ、そうなんだ。さ、次次……えーと、嫌いな食べ物?」

これまたオーソドックスな質問だ。
僕にはこれといって嫌いな物なんてないけど……そういえば、アキは好きな物をあげた方が早いくらい、嫌いな物ばかりだけど、皆はどうなんだろう?
作ったものはどれも美味しいと完食してくれるけど、一応嫌いな物は知っておいたほうがいいんじゃないだろうか、今更だけど。

「ねぇ、皆は嫌いな食べ物ってあるの? あ、アキはいいよ、だいたい分かるから」

「あ、あうーー」

「これといってねーけど、敢えてあげるんならあれだな、タコ。あのうにょうにょ感と吸盤がきもい」

「ああ、なんとなく分かる。そういう理由で嫌いな人って結構いるよね。アキラは?」

「僕? 僕は、なんでも食べますよ。特に嫌いなものなどございません」

「その胃袋にかかりゃ、なんでもいけるわな」

「むむっ、どういう意味ですかっ」

アキラの答えは、やっぱりという感じだ。

「アッキーは?」

アッキーも、嫌いなものなんてなさそうだよね。
というか、アッキーなら食べ物の好き嫌いなど許さん、とか言いそうだもの。

「マヨネーズ……だよなー」

「そうですね、マヨネーズ……ですね」

「あう、まよまよ、のよ……なの、のよ」

当の本人は無言だというのに、関係のない3人が申し合わせたようにひとつの物を上げてくれた。
にしても、微妙な間が空いてるのはなぜだろう?

「マヨネーズ? あれ、アッキーってマヨネーズが嫌いなの? でも…」

そう言われると、サラダにはいつもドレッシングだし、フライ物にも粉物にも使用してはいなかった。
とはいえ、まったく使わないわけではなく、ポテトサラダやサンドイッチには使用してたけど。

「あのまま食べるのが、気に入らんだけだ」

「あ、そうなんだ」

そういう人って結構いるよね。

「それって、理由とかあるの? やっぱり濃さ?」

風味は嫌いじゃないけども、素材の味を打ち消すほどのあの濃さを、苦手だと感じる人って多いと思うんだ。

「昔、うちに居候してたやつが、なんでもかんでもマヨネーズをかけるやつだったんだ」

「ああ、マヨラーだっけ?」

一時、そういうのが流行ったことがあったよね。

「焼き魚までは許せた。が、刺身に白飯、挙句の果てにお萩にまで使用したときには、本気で消してやろうかと思った」

「え…」

消す云々は聞かなかったことにしても、刺身白飯、しかもお萩なんて、あまりにも酷いその状況に、さすがの僕も許しがたいものを感じてしまった。

「あいつ、顔はいいんだけど、いろいろ残念なところがあるもんなぁ」

「あの残念さ、やはりアーちゃんと同族なのだと痛感いたしますよねぇ」

「なの、なのよー」

「どういう意味よっ」

どうやら皆は、その居候さんを知ってるらしい。
つまりは、同胞ってことなんだろうけども、どちらにしろ、

「いるよね、少し残念な舌を持ってる人って」

うんうん、と全員が首を揃えて頷いた。
昔ってことは、アッキーもまだ子供だったから、余計に嫌な印象が根付いて、マヨネーズが苦手になっちゃったってことなんだろうね。

「ほかには、ないの?」

「……ない」

今度はアッキー自身が答えてくれたけど、やっぱり妙な間が空いてると感じるのは、気のせいだろうか。
ま、いっか。
さて、僕の回答を書いておこうかな。

「おや、アッくんも嫌いな物はないのですね」

「うん、特に何も思いつかないや」

さて、意外に時間がかかっちゃったし、そろそろ夕食の準備に取りかかろっと。
今日のところは、ひとまず終了だ。
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