平凡君の日々彼此
[平凡君の日々彼此-無理矢理質問編2-]
「あ、あああああっ」
その日、アキの悲痛な叫びが、室内にこだました。
「ど、どうなさりました?」
「ど、どうしたの?」
僕とアキラがすぐにアキの元へと走り寄る。
「あ、あうあ、ああああ」
しかし、アキは真っ青な顔で涙を流すばかりだ。
「はっ、も、もしや」
「な、なに? アキラ、心当たりがあるの?」
「あああああ、あう、あうああああ」
そのときの僕は気付かなかったが、アキが両手に握り締めていたものが、この騒ぎの原因だった。
「アーちゃん!」
いきなりアキラが、強い調子で呼びかけた。
「え、は、はい?」
口をもごもご動かしながら、我関せずでPCを触っていたアーちゃんが、慌ててその場で姿勢を正した。
「あなたのせいですよっ」
「は、はぁぁ!? な、なんのことよ?」
アーちゃんはとぼけてるわけではなく、本気でわからないようだった。
僕も、なんのことだかさっぱりとわからない。
どうしてここで、アーちゃんが出てくるんだろう?
「お口の中を、お見せなさいっ」
「へ、は? 口?」
言われて、素直に口を開けた。
アーちゃんは口に何かを含んでいたらしく、ピンクの塊りが舌の上に見え隠れしている。
飴、だよね?
アキラはアーちゃんの顔を正面から見据え、そして、
「ななななんと、それはまさしくサクマドロップスイチゴ味! やはり、あなたが犯人だったのですね」
「あ、あああああ、アーちゃん、わるいのよー、なのよーーー」
「え、ええええ!? 待て待て待て、なんのことかさっぱり」
「ええい、お黙りなさい! アキの缶から盗み取った大切なドロップ、今すぐお返しなさい」
アキが両手に握っていたのは、昔懐かしい緑色のドロップ缶だった。
確か、おじいちゃん先生から貰った物のはずだ。
僕も何個か貰ったし、皆もアキから少しずつ貰っていた記憶がある。
でも、それって結構前だったような。
「え、ドロップ? な、なんだよ、そこにあったから」
アーちゃんが指したのは、テーブルの端っこ。
たぶん、そこに缶を置いてたんだろうね。
で、アーちゃんはその缶から一個取り出して、舐めていた、と。
なんという簡単な図式なのだろう。
だけど、そんなことが、アキに悲痛な叫びをさせる原因となったのだ。
「あなたが口に入れているのは、最後のイチゴなのですよ。後に残るはハッカばかり……」
手にしていた缶を、アキが上下に振った。
カラカラと、少し寂しい音が漏れ聴こえる。
缶の中には、まだ数個のドロップが残っていると分かる音色は、だけど、まさかそれらすべてがハッカだとは思うまい。
「あ、えっと、俺が、悪いの?」
「ええ、あなたが悪いのです」
「あうあーー、アーちゃん、わるいの、わるいのよーーー」
困ったようにアーちゃんが僕を見た。
この場合、誰が悪いとも言えない気もするが、僕の取る行動はひとつだ。
黙って、首を縦に振る。
「……んだよ、俺の味方はゼロかよ。ったく、ほらほら返しますよー」
アーちゃんがベッと舌を出すと、すかさずアキが食らいつき、舌の上のドロップを奪い取った。
これって、いわゆる、キスなんだと思うけど、誰もそれを不審がったりはしない。
だってね、彼らの間では、よくあることなんだもの。
口に入れた物を欲しがるアキに、仕方なくこうして譲り渡すといのは本当によくある光景なんだ。
最初に見たときは、それはもう驚きはしたけど、「子供って、こういうことしてくるじゃん」なんて言われたとき、どことなく納得した。
とても兄弟の多い家なんかで、そうやって幼い兄弟におやつを取られる友人もいたことだしね。
つまりは、彼らにとってアキは兄弟というか、赤ちゃんのような感覚で、そこにはどんな思惑もなければ、いやらしさの欠片もない。
純粋に食べ物を分け与える親のような気持ちで行っていることにすぎなくて、それがキスなのだと言われると、いや、まったく違うとしか言いようがないことなんだ。
というわけで、そんなアキがキスの経験を語るなんて、ちょっと間違ってるよね。
どう考えても、特別な意識を持ってキスをしたことなんて、ないだろうし。
「アキには、キスのお話などまだまだ早いですね」
アキラが、デコピンされた所を優しく撫でる。
アキは少々不満そうにしながらも、大人しくそれを認めたようだ。
そういえば、アキラはとっくにキスなんて経験してるんだよね。
なんせ、会長の恋人なんだから。
「こっちを見るなっ」
「え、み、見て、ないよ……」
無意識に、アッキーへと視線を向けていたらしい。
「そいつにそういう話は禁物よー」
「そうですよ。だいたい、アッキーのような偏屈な方のお話なぞ、おもしろくもなんともございませんよ」
「あ、いや、アンケートだから、おもしろいとかは関係ないし…」
「キスといえば、やはりアーちゃんですよね」
「さっぱり意味が分かりませんけど」
「おや、あなたにとっては、キスなどとても軽いことではないですか」
「はぁぁ!? 誰情報よ、それ」
「ふふ、ちゃーんと聞き及んでおりますよ、あなたのファーストキスのことは」
とても楽しそうなアキラに対し、アーちゃんはみるみる表情を曇らせた。
こんなアーちゃんは、滅多とみれないかもしれない。
いったい、どんなファーストキスだったのだろう?
「この方は、5000円で売ったのですよ」
「3000円です」
ぼそりと訂正するアーちゃん、いや、そんなことよりも、
「売……えええええ!?」
「値切られての3000円でしょう。元は5000円だなんて、本当に驚きです。それほどの価値があるとも思えないんですがねぇ」
「ええ、俺もそう思います」
「ちょ、ちょっとちょっと、どういうことだよ!?」
「あ、あああああっ」
その日、アキの悲痛な叫びが、室内にこだました。
「ど、どうなさりました?」
「ど、どうしたの?」
僕とアキラがすぐにアキの元へと走り寄る。
「あ、あうあ、ああああ」
しかし、アキは真っ青な顔で涙を流すばかりだ。
「はっ、も、もしや」
「な、なに? アキラ、心当たりがあるの?」
「あああああ、あう、あうああああ」
そのときの僕は気付かなかったが、アキが両手に握り締めていたものが、この騒ぎの原因だった。
「アーちゃん!」
いきなりアキラが、強い調子で呼びかけた。
「え、は、はい?」
口をもごもご動かしながら、我関せずでPCを触っていたアーちゃんが、慌ててその場で姿勢を正した。
「あなたのせいですよっ」
「は、はぁぁ!? な、なんのことよ?」
アーちゃんはとぼけてるわけではなく、本気でわからないようだった。
僕も、なんのことだかさっぱりとわからない。
どうしてここで、アーちゃんが出てくるんだろう?
「お口の中を、お見せなさいっ」
「へ、は? 口?」
言われて、素直に口を開けた。
アーちゃんは口に何かを含んでいたらしく、ピンクの塊りが舌の上に見え隠れしている。
飴、だよね?
アキラはアーちゃんの顔を正面から見据え、そして、
「ななななんと、それはまさしくサクマドロップスイチゴ味! やはり、あなたが犯人だったのですね」
「あ、あああああ、アーちゃん、わるいのよー、なのよーーー」
「え、ええええ!? 待て待て待て、なんのことかさっぱり」
「ええい、お黙りなさい! アキの缶から盗み取った大切なドロップ、今すぐお返しなさい」
アキが両手に握っていたのは、昔懐かしい緑色のドロップ缶だった。
確か、おじいちゃん先生から貰った物のはずだ。
僕も何個か貰ったし、皆もアキから少しずつ貰っていた記憶がある。
でも、それって結構前だったような。
「え、ドロップ? な、なんだよ、そこにあったから」
アーちゃんが指したのは、テーブルの端っこ。
たぶん、そこに缶を置いてたんだろうね。
で、アーちゃんはその缶から一個取り出して、舐めていた、と。
なんという簡単な図式なのだろう。
だけど、そんなことが、アキに悲痛な叫びをさせる原因となったのだ。
「あなたが口に入れているのは、最後のイチゴなのですよ。後に残るはハッカばかり……」
手にしていた缶を、アキが上下に振った。
カラカラと、少し寂しい音が漏れ聴こえる。
缶の中には、まだ数個のドロップが残っていると分かる音色は、だけど、まさかそれらすべてがハッカだとは思うまい。
「あ、えっと、俺が、悪いの?」
「ええ、あなたが悪いのです」
「あうあーー、アーちゃん、わるいの、わるいのよーーー」
困ったようにアーちゃんが僕を見た。
この場合、誰が悪いとも言えない気もするが、僕の取る行動はひとつだ。
黙って、首を縦に振る。
「……んだよ、俺の味方はゼロかよ。ったく、ほらほら返しますよー」
アーちゃんがベッと舌を出すと、すかさずアキが食らいつき、舌の上のドロップを奪い取った。
これって、いわゆる、キスなんだと思うけど、誰もそれを不審がったりはしない。
だってね、彼らの間では、よくあることなんだもの。
口に入れた物を欲しがるアキに、仕方なくこうして譲り渡すといのは本当によくある光景なんだ。
最初に見たときは、それはもう驚きはしたけど、「子供って、こういうことしてくるじゃん」なんて言われたとき、どことなく納得した。
とても兄弟の多い家なんかで、そうやって幼い兄弟におやつを取られる友人もいたことだしね。
つまりは、彼らにとってアキは兄弟というか、赤ちゃんのような感覚で、そこにはどんな思惑もなければ、いやらしさの欠片もない。
純粋に食べ物を分け与える親のような気持ちで行っていることにすぎなくて、それがキスなのだと言われると、いや、まったく違うとしか言いようがないことなんだ。
というわけで、そんなアキがキスの経験を語るなんて、ちょっと間違ってるよね。
どう考えても、特別な意識を持ってキスをしたことなんて、ないだろうし。
「アキには、キスのお話などまだまだ早いですね」
アキラが、デコピンされた所を優しく撫でる。
アキは少々不満そうにしながらも、大人しくそれを認めたようだ。
そういえば、アキラはとっくにキスなんて経験してるんだよね。
なんせ、会長の恋人なんだから。
「こっちを見るなっ」
「え、み、見て、ないよ……」
無意識に、アッキーへと視線を向けていたらしい。
「そいつにそういう話は禁物よー」
「そうですよ。だいたい、アッキーのような偏屈な方のお話なぞ、おもしろくもなんともございませんよ」
「あ、いや、アンケートだから、おもしろいとかは関係ないし…」
「キスといえば、やはりアーちゃんですよね」
「さっぱり意味が分かりませんけど」
「おや、あなたにとっては、キスなどとても軽いことではないですか」
「はぁぁ!? 誰情報よ、それ」
「ふふ、ちゃーんと聞き及んでおりますよ、あなたのファーストキスのことは」
とても楽しそうなアキラに対し、アーちゃんはみるみる表情を曇らせた。
こんなアーちゃんは、滅多とみれないかもしれない。
いったい、どんなファーストキスだったのだろう?
「この方は、5000円で売ったのですよ」
「3000円です」
ぼそりと訂正するアーちゃん、いや、そんなことよりも、
「売……えええええ!?」
「値切られての3000円でしょう。元は5000円だなんて、本当に驚きです。それほどの価値があるとも思えないんですがねぇ」
「ええ、俺もそう思います」
「ちょ、ちょっとちょっと、どういうことだよ!?」