アーちゃん■MMO日記
[アーちゃん■MMO日記13]
昼下がりの二人――
まだ高校生だってのに、東峰は意外と忙しかったりする。
それは、現時点に於いて東峰家当主として君臨する父親からの、軽い嫌がらせのせいだ。
この父親、アキラとの関係を認めることを条件に、数々の約束事を東峰と交わしていた。
決してアキラのことが嫌なわけではない、反対しているわけでもない。
むしろ、のほほんとした息子の嫁(?)を、正体を知ってるにも関わらず気に入ってたりする。
ただ、アキラを手に入れるためにと、家だけでなく家族すらもあっさりと捨て、自らをも簡単に捨て去った過去を持つ息子への、可愛い意趣返しというわけだ。
「いつ帰ってくるって?」
「明日の夕方になるそうです」
土曜の昼下がり、珍しくも東峰の部屋ではなく、自室…もとい俺の部屋ですごしていたアキラは、ボンヤリと携帯を眺めていた。
今朝早くに寮を発った東峰は、今頃は高価なスーツに身を固め、どこぞのホテルで愛想笑いを振り撒いてることだろう。
父親の代理として出席する集まりは、気を抜けばいつ取って食われるかわかんねー世界だ。
帰ってきたら、疲労困憊してることだろうよwww
「寂しいんなら、電話でもしたらー?」
「お仕事中の雅人に、そんなことはできません」
「あっそ」
お仕事中の東峰さんは、30分に一度はメールをしてくるんですけどね。
「それに、特に寂しいとも思いません」
「あら」
東峰が聞けば発狂すること間違いなしの言葉を口にして、アキラがこちらへと近づいてくる。
例のごとく、俺はゲームの真最中だったが、一旦手を止めて、近くにあったクッションを自分の隣りに置いた。
当たり前のような顔でクッションに腰を下ろし、アキラが呟く。
「だって、アーちゃんと一緒ですからね」
だから寂しくないんだってさ。
真夜中の二人――
新たなMMOのベータテストに応募したのは、締め切り日直前のことだった。
注目度の高いゲームで応募者が殺到していたが、運良くテスターになることができました。
葛西は無理だったけどね。
てなわけで、テスターとして土曜の朝から始めたゲームは、アクション要素が強めで、かなり好ましい作り。
PTも組み易いし、ID(インスタントダンジョン)の作りもいい、これは嵌りそうだ。
せっかくのクローズドベータ、じっくり楽しむのは当然の成り行きで、気が付けば日はどっぷりと沈みこみ、真夜中となっていた。
もちろん食事はしましたよ、風呂にもちゃんと入りました。
ただ、それ以外の時間をゲームに費やしていただけだ。
アキラから不満の声は出なかったし、何より興味津々に横から覗き込んでいたんだから、問題ないでしょ。
明日は日曜だし、まだまだやっちゃうよー。
なんて、謎の意気込みで続けていたら、不意に寝室の扉が開いた。
とっくに寝ていたはずのアキラが、起き出してきたらしい。
週末のほとんどを泥のように眠りこけてるアキラさんも、東峰のいない今夜は体力が有り余って寝付けないのかね?
「どしたん?」
「ぬぬぅぅぅ、目が、覚めました…」
ほとんど閉じたままの瞼を擦りながら、アキラはフラフラとした足取りでキッチンの方向に向かう。
かなり寝ぼけてる感じだ。
「お腹が、空きました」
「マジかよ。いつも以上に食ってたでしょ」
「でも、空いたのです」
そのままキッチンに入ってくのほほんを見送る。
すぐにゴソゴソと辺りを探る音がして、続けて冷蔵庫の開閉音がした。
夜中に起き出して何かしら食うってのは、意外と頻繁に起こることだから、特に気にせずに好きにさせる。
そのうち皿持って、こっちに来るしね。
案の定、暫くしたら皿とカップを手に戻ってきた。
これまたいつものように俺の隣りに座って、PCの傍に皿を置く。
そこには、間食としてはおすすめの一品、サンドイッチが乗っていた。
とはいえ、うちにサンドイッチ用のパンはない。
つまり、普通のトースト(6枚切り)で作られたそれは、かなりの分厚さがあるってことだ。
間には、レタス、ハム、チーズ、ゆで卵が挟まっている模様。
明日の朝食用のものを、使ってくれたみたいです。
相当量を挟み込み、上から圧縮されたであろうサンドイッチには、茶色い耳の部分が無かった。
これは毎度のことだ。
お育ちのせいかなんなのか、アキラはパンの耳があまり好きではない。
サンドイッチを作れば、耳の部分は必ず切り取ってしまうんだ。
基本、真ん中の白くて柔らかい部分しか食べようとはせず、だが切り取った耳は同じ皿の端っこに乗せている。
「ん」
それを指先で摘み上げ、軽く促がす声と共に俺の口元へと持ってきた。
仕方なく、黙って口を開ける。
なんの味もしないパンの耳を噛み締めれば、アキラがサンドイッチへと齧り付く。
ふたりしてもぐもぐと口を動かし、ゴクリと飲み込んだ。
アキラがまたもや耳を持ち、俺の口元に運ぶ。
そして、同じ作業の繰り返し……。
最後はカップに入っていた牛乳を半分飲んで、アキラは満足気に息を吐いた。
残り半分の牛乳は、必然的に俺が引き受ける。
「ふぅ、これで我慢します」
「うん、そうして」
そこそこ満たされたせいか、アキラはすぐに欠伸を漏らした。
そのままベッドに行けば楽なんだと分かってはいるが、食後15分間は体を横にさせたりはしない。
逆流したら困るからね。
本人も分かっているから、その場でジッとしていた。
しかし、睡魔の虜となりつつある体は、徐々に安定感を失くしていく。
見ていられなくて、その肩を抱き寄せた。
「ろうじょ、ゲーミュなしゃって、くらしゃい」
回らぬ舌で、こちらを気に掛ける様がおかしくて、軽く笑いながら時計を見れば、ちょうど15分ほど経っていた。
ゲームを終了させ、ついでにPCの電源も落とす。
半分意識のない相手を、どっこいしょの掛け声で抱え上げれば、落とされないようにと無意識ながらも首に腕を回してきた。
より安全な体勢がとれたことに満足しながら、ゆっくりと寝室を目指す。
昼下がりの二人――
まだ高校生だってのに、東峰は意外と忙しかったりする。
それは、現時点に於いて東峰家当主として君臨する父親からの、軽い嫌がらせのせいだ。
この父親、アキラとの関係を認めることを条件に、数々の約束事を東峰と交わしていた。
決してアキラのことが嫌なわけではない、反対しているわけでもない。
むしろ、のほほんとした息子の嫁(?)を、正体を知ってるにも関わらず気に入ってたりする。
ただ、アキラを手に入れるためにと、家だけでなく家族すらもあっさりと捨て、自らをも簡単に捨て去った過去を持つ息子への、可愛い意趣返しというわけだ。
「いつ帰ってくるって?」
「明日の夕方になるそうです」
土曜の昼下がり、珍しくも東峰の部屋ではなく、自室…もとい俺の部屋ですごしていたアキラは、ボンヤリと携帯を眺めていた。
今朝早くに寮を発った東峰は、今頃は高価なスーツに身を固め、どこぞのホテルで愛想笑いを振り撒いてることだろう。
父親の代理として出席する集まりは、気を抜けばいつ取って食われるかわかんねー世界だ。
帰ってきたら、疲労困憊してることだろうよwww
「寂しいんなら、電話でもしたらー?」
「お仕事中の雅人に、そんなことはできません」
「あっそ」
お仕事中の東峰さんは、30分に一度はメールをしてくるんですけどね。
「それに、特に寂しいとも思いません」
「あら」
東峰が聞けば発狂すること間違いなしの言葉を口にして、アキラがこちらへと近づいてくる。
例のごとく、俺はゲームの真最中だったが、一旦手を止めて、近くにあったクッションを自分の隣りに置いた。
当たり前のような顔でクッションに腰を下ろし、アキラが呟く。
「だって、アーちゃんと一緒ですからね」
だから寂しくないんだってさ。
真夜中の二人――
新たなMMOのベータテストに応募したのは、締め切り日直前のことだった。
注目度の高いゲームで応募者が殺到していたが、運良くテスターになることができました。
葛西は無理だったけどね。
てなわけで、テスターとして土曜の朝から始めたゲームは、アクション要素が強めで、かなり好ましい作り。
PTも組み易いし、ID(インスタントダンジョン)の作りもいい、これは嵌りそうだ。
せっかくのクローズドベータ、じっくり楽しむのは当然の成り行きで、気が付けば日はどっぷりと沈みこみ、真夜中となっていた。
もちろん食事はしましたよ、風呂にもちゃんと入りました。
ただ、それ以外の時間をゲームに費やしていただけだ。
アキラから不満の声は出なかったし、何より興味津々に横から覗き込んでいたんだから、問題ないでしょ。
明日は日曜だし、まだまだやっちゃうよー。
なんて、謎の意気込みで続けていたら、不意に寝室の扉が開いた。
とっくに寝ていたはずのアキラが、起き出してきたらしい。
週末のほとんどを泥のように眠りこけてるアキラさんも、東峰のいない今夜は体力が有り余って寝付けないのかね?
「どしたん?」
「ぬぬぅぅぅ、目が、覚めました…」
ほとんど閉じたままの瞼を擦りながら、アキラはフラフラとした足取りでキッチンの方向に向かう。
かなり寝ぼけてる感じだ。
「お腹が、空きました」
「マジかよ。いつも以上に食ってたでしょ」
「でも、空いたのです」
そのままキッチンに入ってくのほほんを見送る。
すぐにゴソゴソと辺りを探る音がして、続けて冷蔵庫の開閉音がした。
夜中に起き出して何かしら食うってのは、意外と頻繁に起こることだから、特に気にせずに好きにさせる。
そのうち皿持って、こっちに来るしね。
案の定、暫くしたら皿とカップを手に戻ってきた。
これまたいつものように俺の隣りに座って、PCの傍に皿を置く。
そこには、間食としてはおすすめの一品、サンドイッチが乗っていた。
とはいえ、うちにサンドイッチ用のパンはない。
つまり、普通のトースト(6枚切り)で作られたそれは、かなりの分厚さがあるってことだ。
間には、レタス、ハム、チーズ、ゆで卵が挟まっている模様。
明日の朝食用のものを、使ってくれたみたいです。
相当量を挟み込み、上から圧縮されたであろうサンドイッチには、茶色い耳の部分が無かった。
これは毎度のことだ。
お育ちのせいかなんなのか、アキラはパンの耳があまり好きではない。
サンドイッチを作れば、耳の部分は必ず切り取ってしまうんだ。
基本、真ん中の白くて柔らかい部分しか食べようとはせず、だが切り取った耳は同じ皿の端っこに乗せている。
「ん」
それを指先で摘み上げ、軽く促がす声と共に俺の口元へと持ってきた。
仕方なく、黙って口を開ける。
なんの味もしないパンの耳を噛み締めれば、アキラがサンドイッチへと齧り付く。
ふたりしてもぐもぐと口を動かし、ゴクリと飲み込んだ。
アキラがまたもや耳を持ち、俺の口元に運ぶ。
そして、同じ作業の繰り返し……。
最後はカップに入っていた牛乳を半分飲んで、アキラは満足気に息を吐いた。
残り半分の牛乳は、必然的に俺が引き受ける。
「ふぅ、これで我慢します」
「うん、そうして」
そこそこ満たされたせいか、アキラはすぐに欠伸を漏らした。
そのままベッドに行けば楽なんだと分かってはいるが、食後15分間は体を横にさせたりはしない。
逆流したら困るからね。
本人も分かっているから、その場でジッとしていた。
しかし、睡魔の虜となりつつある体は、徐々に安定感を失くしていく。
見ていられなくて、その肩を抱き寄せた。
「ろうじょ、ゲーミュなしゃって、くらしゃい」
回らぬ舌で、こちらを気に掛ける様がおかしくて、軽く笑いながら時計を見れば、ちょうど15分ほど経っていた。
ゲームを終了させ、ついでにPCの電源も落とす。
半分意識のない相手を、どっこいしょの掛け声で抱え上げれば、落とされないようにと無意識ながらも首に腕を回してきた。
より安全な体勢がとれたことに満足しながら、ゆっくりと寝室を目指す。