平凡君の日々彼此
[平凡君の日々彼此3] ◆ 6/19(水)―午前―言うんじゃねぇ■藤村と関連したお話
いつものようにアーちゃんの部屋を訪れ、アッキーとともに夕飯の準備をしていた。
最近はハンバーグに凝ってるらしきアッキーからの提案で、たっぷりのキャベツを混ぜた豆腐ハンバーグが今夜のメニューと決まりました。
もちろん、サラダも別に作るよ。
いつもと何も変わらない日常は僕にとっては至福の時で、なのに今日は少しばかり様子が違った。
「いつもまでもネチネチと、しつこいのよねー」
「ななななんと! あなたにそのようなことを言われる筋合はございませんよ! ご自分のなさったことに、罪の意識はないのですか!?」
「はぁ? そんなもんあるわけないっしょ。なーんもしてねーってのに」
「きぃぃぃっ、盗人猛々しいとはこのことです!」
僕がお邪魔した当初から、アキラとアーちゃんはこんなやり取りばかり繰り広げています。
不思議な主従関係にある彼らは、普段はとても仲が良く、普通の友人関係なんて超越した絆で結ばれている。
それなのに、こんな言い合いをしているなんて、いったい何があったんだろう。
かれこれ30分以上も見続けていたら、さすがに理由を知りたくなるよね。
だけど当人たちに聞くのは憚られる状況だ。
アキはふたりのことなど見えないかのように自分の世界に入っているし、こうなったらアッキーに聞くしかないね。
「ねぇ、アッキー、あの二人何があったの?」
「さぁ?」
なのに、アッキーも事情を知らないようです。
「アッキーも知らないんだ…」
「どうせつまらんことだ。ほっとけ」
「でも…」
「いつも通りなら、高橋が折れて終いだ」
「アーちゃんが!?」
誰を怒らせようとも適当な謝罪しかしなくて、酷いときには笑って済ませるアーちゃんが折れるなんて想像もつかない。
アキを怒らせたときだって、結局まともな謝罪をしなかったんだもの。
いくらアキラを大切に想っていても、お正月の一件でも分かるように、つまらない意地を張るというのがアーちゃんなんだ。
「ひぐっ、僕はちゃんと訊きましたっ、あなたもお食べになりますか? と、そのときあなたはなんと答えましたか!?」
「後で食べるー」
「違います! いらねー、そう言ったのです!」
「記憶違いなんじゃねーの?」
「なななんと! この僕が記憶違い!? ありえません、ぜったいにありえません! ちゃんと謝罪してください!」
「はいはい、ご馳走さまでしたー」
「違います! 僕は謝れと言っているのですっ!」
いつもと変わらぬ体勢でPCを相手にするアーちゃんと、クッションを抱き締めながら床に座り込むアキラ。
余程口惜しいのかクッションを握る指はフルフルと震え、唇を噛み締めながら少し涙ぐんだ目でアーちゃんを睨んでいる。
真面目に取り合う気のないアーちゃんに、アキラはかなり怒っているみたいです。
「謝罪も何も、後で食べるって言ったでしょー」
「言ってませんっ」
「だいたいね、食べずに置いとくあんたも悪いのよ」
「なっ、あ、あれは今夜の楽しみにっ、」
「ちゃんと残しておいてくれたのねー、だったら食ってやらないとーって、思っちゃったのよねー」
アッキーに腕をつつかれた。
どうしたのかと窺うとキッチンのゴミ箱を指差すアッキーがいて、釣られて覗きこんでみれば、そこにハーゲン○ッ○のカップ二個を発見した。
本当に、つまらない理由だった……。
「……そうですか、なるほど。あくまで僕の記憶違いと言うのですね」
「およ?」
急に立ち上がったアキラは、いまだ怒り覚めやらぬ表情のまま寝室に消えた。
きっと、拗ねたんだ。
残されたアーちゃんはどこか気まずそうにしながらも、それでもその場を動くことはしない。
素直に謝ればいいのに。
なんだか居た堪れない空気の中、僕とアッキーは夕食を作り続け、アキは素知らぬふりでTVを見続けていた。
もちろんアーちゃんもPC前に座ったままで、ただやはり気になるのか、何度も寝室に視線を向けている。
「あ、あの、アーちゃ……」
ここは仲を取り持つべきかと、アーちゃんに声をかけようとしたとき、その音が寝室から漏れ聞こえてきた。
ガガガ、ダダダ、そんな感じの微かな音。
すべてがTVに掻き消えるほどじゃないけど、決して大きくはない音は、もう何度も耳にしてきたものだ。
さすがは会長が買い与えた有名メーカーのミシン、かなりの清音だと実感できる。
アキラには一風変わった趣味がある。
それは、手芸。
着なくなった自分の着物で部屋着や小物を作ったり、アキのハロウィン衣装を作ったりしていて、意外にその腕は確かだ。
作っているときは楽しいと言っていたから、気分直しに何か作ってるってことかな。
だったら、これで怒りが収まってくれればいいんだけど……。
僕と同じことを考えたのか、アーちゃんが少し肩の力を抜いたのが分かった。
やっぱり、かなり気にしてたんだ。
そんなこんなで時間も経ち、食卓に豆腐ハンバーグが並んだ頃、とうとうその扉が開かれた。
「やーっと、出てきた」
やや呆れた感を滲ませて、そう呟いたのはアーちゃん。
その言葉は聞こえなかったらしきアキラは、当初とは異なりなんとも晴れ晴れとした表情をしていた。
「見て下さい。とても良い物ができたと思いませんか」
そう言って差し出してきた物は、ずっと寝室に篭り作り上げた作品なんだろう。
やっぱり好きなことをしていると、怒りも冷めやすいみたいで安心した。
「う、あう、いいのよ、なの」
出来上がった物を目にし、すぐさまアキが格好好いと飛びついた。
「それって、もしかしてエコバック?」
「はい、ビニール袋よりもこちらの方がたくさん持てると思ったのですが、どうですか?」
「すごく丈夫そうだね」
広い口に持ち手が二本ついたバックは、肩からも下げられるようになっていて、とても良い出来だった。
しかも布地からして頑丈そうで、これなら米も楽々運べそうだ。
「ねぇ、ちょっと持ってみていい?」
「はい、どうぞ」
エコバックには丈夫なキャンバスかナイロン製が多いけど、アキラの作った物はそのどれとも違っていた。
「デニム地っていうのも頑丈そうで、いいね」
所々擦れて色落ちした生地は、元はジーンズだったと思われる。
試しにパンッと広げてみれば、その硬さが充分に窺えた。
「残りの部分で、アキのポーチも作ってみました。お財布代わりにどうぞ」
そう言ってアキラは、アキの首に小さなポーチをかけた。
「おおう! ありがと、なのよ」
エコバックとお揃いの生地で作られたポーチには、なくさないようにという配慮からか長い持ち手がついている。
アキラの力作にアッキーも僕も感心し、気が付けば中を確認したり手に持ったりとその使用感を皆で楽しでいた。
「は、はぁぁぁっぁぁぁっぁぁぁあああっ!?」
ようやくご機嫌の直ったアキラを囲むように、4人和気藹々としていたところに轟く絶叫。
「もうっ、煩いですよ」
「お、おま、おま、そ、そそそそそ」
なぜか顔面蒼白のアーちゃんが、アキラの力作を指差しながら口をパクパクと動かしていた。
「申し訳ないのですが、人間の言葉を喋っていただけませんか?」
アキラはそんなアーちゃんを心配するでもなく冷たく眺め、そうしてニンマリと口角を吊り上げてみせた。
こ、この種類の笑みは、どこかで見たことがあるような……。
「ひょっとして、この生地の出所が気になるんですか?」
冷たい眼差しはそのままで、ついでとばかりに声色にまで底冷えする空気を宿したアキラが、愉快そうにアーちゃんに問いかけた。
問われたアーちゃんは、ただうんうんと頷くだけ。
「わざわざ教えなくとも、とうに気付いておられるのでは? もちろん一度も穿くことなく仕舞いこんでいた、あなたのジーンズですよ」
これって、アーちゃんのジーンズだったんだ。
しげしげと生地を眺めてみれば、確かに穿くことなく仕舞いこんでもおかしくないほどの草臥れ感が漂っている。
アーちゃんは物持ちがいいほうじゃないのに、捨てずに取って置くなんて珍しいこともあるもんだね。
「なっ、な、な、な」
「なんつーことを、とでも仰りたいのですか?」
なおもまともな言葉を発せないアーちゃんは、アキラの言葉に頷くだけ。
「なるほど、そのジーンズを使用しエコバックを作った理由をお知りになりたいのですね。よろしいお答えしましょう。先ほども言ったように、あなたが穿いている姿を一度も見たことがないからです。そしてジーンズのサイズは48、あなたがどれほどオデブさんになろうとも、さすがにこのサイズはいかがなものかと。よって、ジーンズとしての役目を全うできないお品と判断いたしました。捨てるよりも、活用するほうが良いですよね?」
最後の言葉はアーちゃんを除いた僕たち3人に向けられた。
迷うことなく、3人一斉に首を縦に振る。
アキラの言う48っていうのは、たぶんインチのことだ。
つまり、ウェストが約121cmくらいあるってこと。
さすがにそのサイズはあまりにもアメリカンすぎて、アーちゃんには当て嵌まらない。
きっと、サイズを間違えて購入したんだろうな、だから今まで穿いたことがなかったんだ。
「アーちゃん、試着すればよかったのに」
「ですよね、アッくんの仰る通りです。さて、さすがにお腹が空きましたので、そろそろ食事と参りましょう」
「うん、そうだね」
「だな」
「なの、のよ」
それぞれが自分の場所に座る中、いったい何がそれほどにショックなのか、アーちゃんだけが動かずに力なく項垂れていた。
「アーちゃん、アイスのことならもう気にしておりませんから、どうぞこちらでお食事なさってください」
さっきまでの冷酷さはなんだったのかと聞きたくなるほどの笑顔を浮かべ、アキラが優しく声を掛けた。
趣味に没頭したからか、アキラの怒りは無事収まったみたいです。
今日もキラキラ会の面々と平和な時をすごすことができて、本当に良かった。
※ハーゲン○ッ○のアイスは、アキラが前日に買ってきたものです。
5個あるうちの3個を前日に食べ、残りは翌日のお風呂上りに食べるつもりでいました。
いつものようにアーちゃんの部屋を訪れ、アッキーとともに夕飯の準備をしていた。
最近はハンバーグに凝ってるらしきアッキーからの提案で、たっぷりのキャベツを混ぜた豆腐ハンバーグが今夜のメニューと決まりました。
もちろん、サラダも別に作るよ。
いつもと何も変わらない日常は僕にとっては至福の時で、なのに今日は少しばかり様子が違った。
「いつもまでもネチネチと、しつこいのよねー」
「ななななんと! あなたにそのようなことを言われる筋合はございませんよ! ご自分のなさったことに、罪の意識はないのですか!?」
「はぁ? そんなもんあるわけないっしょ。なーんもしてねーってのに」
「きぃぃぃっ、盗人猛々しいとはこのことです!」
僕がお邪魔した当初から、アキラとアーちゃんはこんなやり取りばかり繰り広げています。
不思議な主従関係にある彼らは、普段はとても仲が良く、普通の友人関係なんて超越した絆で結ばれている。
それなのに、こんな言い合いをしているなんて、いったい何があったんだろう。
かれこれ30分以上も見続けていたら、さすがに理由を知りたくなるよね。
だけど当人たちに聞くのは憚られる状況だ。
アキはふたりのことなど見えないかのように自分の世界に入っているし、こうなったらアッキーに聞くしかないね。
「ねぇ、アッキー、あの二人何があったの?」
「さぁ?」
なのに、アッキーも事情を知らないようです。
「アッキーも知らないんだ…」
「どうせつまらんことだ。ほっとけ」
「でも…」
「いつも通りなら、高橋が折れて終いだ」
「アーちゃんが!?」
誰を怒らせようとも適当な謝罪しかしなくて、酷いときには笑って済ませるアーちゃんが折れるなんて想像もつかない。
アキを怒らせたときだって、結局まともな謝罪をしなかったんだもの。
いくらアキラを大切に想っていても、お正月の一件でも分かるように、つまらない意地を張るというのがアーちゃんなんだ。
「ひぐっ、僕はちゃんと訊きましたっ、あなたもお食べになりますか? と、そのときあなたはなんと答えましたか!?」
「後で食べるー」
「違います! いらねー、そう言ったのです!」
「記憶違いなんじゃねーの?」
「なななんと! この僕が記憶違い!? ありえません、ぜったいにありえません! ちゃんと謝罪してください!」
「はいはい、ご馳走さまでしたー」
「違います! 僕は謝れと言っているのですっ!」
いつもと変わらぬ体勢でPCを相手にするアーちゃんと、クッションを抱き締めながら床に座り込むアキラ。
余程口惜しいのかクッションを握る指はフルフルと震え、唇を噛み締めながら少し涙ぐんだ目でアーちゃんを睨んでいる。
真面目に取り合う気のないアーちゃんに、アキラはかなり怒っているみたいです。
「謝罪も何も、後で食べるって言ったでしょー」
「言ってませんっ」
「だいたいね、食べずに置いとくあんたも悪いのよ」
「なっ、あ、あれは今夜の楽しみにっ、」
「ちゃんと残しておいてくれたのねー、だったら食ってやらないとーって、思っちゃったのよねー」
アッキーに腕をつつかれた。
どうしたのかと窺うとキッチンのゴミ箱を指差すアッキーがいて、釣られて覗きこんでみれば、そこにハーゲン○ッ○のカップ二個を発見した。
本当に、つまらない理由だった……。
「……そうですか、なるほど。あくまで僕の記憶違いと言うのですね」
「およ?」
急に立ち上がったアキラは、いまだ怒り覚めやらぬ表情のまま寝室に消えた。
きっと、拗ねたんだ。
残されたアーちゃんはどこか気まずそうにしながらも、それでもその場を動くことはしない。
素直に謝ればいいのに。
なんだか居た堪れない空気の中、僕とアッキーは夕食を作り続け、アキは素知らぬふりでTVを見続けていた。
もちろんアーちゃんもPC前に座ったままで、ただやはり気になるのか、何度も寝室に視線を向けている。
「あ、あの、アーちゃ……」
ここは仲を取り持つべきかと、アーちゃんに声をかけようとしたとき、その音が寝室から漏れ聞こえてきた。
ガガガ、ダダダ、そんな感じの微かな音。
すべてがTVに掻き消えるほどじゃないけど、決して大きくはない音は、もう何度も耳にしてきたものだ。
さすがは会長が買い与えた有名メーカーのミシン、かなりの清音だと実感できる。
アキラには一風変わった趣味がある。
それは、手芸。
着なくなった自分の着物で部屋着や小物を作ったり、アキのハロウィン衣装を作ったりしていて、意外にその腕は確かだ。
作っているときは楽しいと言っていたから、気分直しに何か作ってるってことかな。
だったら、これで怒りが収まってくれればいいんだけど……。
僕と同じことを考えたのか、アーちゃんが少し肩の力を抜いたのが分かった。
やっぱり、かなり気にしてたんだ。
そんなこんなで時間も経ち、食卓に豆腐ハンバーグが並んだ頃、とうとうその扉が開かれた。
「やーっと、出てきた」
やや呆れた感を滲ませて、そう呟いたのはアーちゃん。
その言葉は聞こえなかったらしきアキラは、当初とは異なりなんとも晴れ晴れとした表情をしていた。
「見て下さい。とても良い物ができたと思いませんか」
そう言って差し出してきた物は、ずっと寝室に篭り作り上げた作品なんだろう。
やっぱり好きなことをしていると、怒りも冷めやすいみたいで安心した。
「う、あう、いいのよ、なの」
出来上がった物を目にし、すぐさまアキが格好好いと飛びついた。
「それって、もしかしてエコバック?」
「はい、ビニール袋よりもこちらの方がたくさん持てると思ったのですが、どうですか?」
「すごく丈夫そうだね」
広い口に持ち手が二本ついたバックは、肩からも下げられるようになっていて、とても良い出来だった。
しかも布地からして頑丈そうで、これなら米も楽々運べそうだ。
「ねぇ、ちょっと持ってみていい?」
「はい、どうぞ」
エコバックには丈夫なキャンバスかナイロン製が多いけど、アキラの作った物はそのどれとも違っていた。
「デニム地っていうのも頑丈そうで、いいね」
所々擦れて色落ちした生地は、元はジーンズだったと思われる。
試しにパンッと広げてみれば、その硬さが充分に窺えた。
「残りの部分で、アキのポーチも作ってみました。お財布代わりにどうぞ」
そう言ってアキラは、アキの首に小さなポーチをかけた。
「おおう! ありがと、なのよ」
エコバックとお揃いの生地で作られたポーチには、なくさないようにという配慮からか長い持ち手がついている。
アキラの力作にアッキーも僕も感心し、気が付けば中を確認したり手に持ったりとその使用感を皆で楽しでいた。
「は、はぁぁぁっぁぁぁっぁぁぁあああっ!?」
ようやくご機嫌の直ったアキラを囲むように、4人和気藹々としていたところに轟く絶叫。
「もうっ、煩いですよ」
「お、おま、おま、そ、そそそそそ」
なぜか顔面蒼白のアーちゃんが、アキラの力作を指差しながら口をパクパクと動かしていた。
「申し訳ないのですが、人間の言葉を喋っていただけませんか?」
アキラはそんなアーちゃんを心配するでもなく冷たく眺め、そうしてニンマリと口角を吊り上げてみせた。
こ、この種類の笑みは、どこかで見たことがあるような……。
「ひょっとして、この生地の出所が気になるんですか?」
冷たい眼差しはそのままで、ついでとばかりに声色にまで底冷えする空気を宿したアキラが、愉快そうにアーちゃんに問いかけた。
問われたアーちゃんは、ただうんうんと頷くだけ。
「わざわざ教えなくとも、とうに気付いておられるのでは? もちろん一度も穿くことなく仕舞いこんでいた、あなたのジーンズですよ」
これって、アーちゃんのジーンズだったんだ。
しげしげと生地を眺めてみれば、確かに穿くことなく仕舞いこんでもおかしくないほどの草臥れ感が漂っている。
アーちゃんは物持ちがいいほうじゃないのに、捨てずに取って置くなんて珍しいこともあるもんだね。
「なっ、な、な、な」
「なんつーことを、とでも仰りたいのですか?」
なおもまともな言葉を発せないアーちゃんは、アキラの言葉に頷くだけ。
「なるほど、そのジーンズを使用しエコバックを作った理由をお知りになりたいのですね。よろしいお答えしましょう。先ほども言ったように、あなたが穿いている姿を一度も見たことがないからです。そしてジーンズのサイズは48、あなたがどれほどオデブさんになろうとも、さすがにこのサイズはいかがなものかと。よって、ジーンズとしての役目を全うできないお品と判断いたしました。捨てるよりも、活用するほうが良いですよね?」
最後の言葉はアーちゃんを除いた僕たち3人に向けられた。
迷うことなく、3人一斉に首を縦に振る。
アキラの言う48っていうのは、たぶんインチのことだ。
つまり、ウェストが約121cmくらいあるってこと。
さすがにそのサイズはあまりにもアメリカンすぎて、アーちゃんには当て嵌まらない。
きっと、サイズを間違えて購入したんだろうな、だから今まで穿いたことがなかったんだ。
「アーちゃん、試着すればよかったのに」
「ですよね、アッくんの仰る通りです。さて、さすがにお腹が空きましたので、そろそろ食事と参りましょう」
「うん、そうだね」
「だな」
「なの、のよ」
それぞれが自分の場所に座る中、いったい何がそれほどにショックなのか、アーちゃんだけが動かずに力なく項垂れていた。
「アーちゃん、アイスのことならもう気にしておりませんから、どうぞこちらでお食事なさってください」
さっきまでの冷酷さはなんだったのかと聞きたくなるほどの笑顔を浮かべ、アキラが優しく声を掛けた。
趣味に没頭したからか、アキラの怒りは無事収まったみたいです。
今日もキラキラ会の面々と平和な時をすごすことができて、本当に良かった。
※ハーゲン○ッ○のアイスは、アキラが前日に買ってきたものです。
5個あるうちの3個を前日に食べ、残りは翌日のお風呂上りに食べるつもりでいました。