ひねもすのたりのたり
[ひねもすのたりのたり3]
アキは悩んでいた。
学園を卒業してかなり経つ。
大人の男へと成長したアキには、目出度く可愛らしい恋人ができたのだ。
"彼"と暮らすようになってからかなり経つ、しかしチューから先に進まないのは何故なのだろうか?
そう、アキの恋人は男。
かつてアキが勉学に勤しんだ男子校に、彼も在籍していた。
出会いは学園。
そのときの二人はまだまだ幼くて、お互いの気持ちに気付いたのは卒業してから相当経ってからだった。
卒業後再会し、以前にも増して親しくなり、その結果、一緒の部屋で暮らすまでの仲に進展したのだ。
アキとしては、可愛い恋人とはイチャコラしたいし、最後まで成し遂げたあとは、男としてきっちりと責任をとるつもりだ。
つまり、"妻"を大切にし、浮気なんてせず良い"夫"に徹する。
それなのに、先に進まないとは……。
ひとりで悩んでも仕方ないと、同性とのお付き合いではかなり先輩にあたるアキラに相談を持ちかけた。
アキラはアキの悩みを聞いたあと、真剣な表情で教えてくれた。
「アキのセックスアピールが、足りないのかもしれませんね」
「あう!?」
なんと、完璧だと思っていた自分にも、足りないものがあったのか。
「んー、アピールをするには、やはりコスプレでしょうか…メイドは飽きましたし、裸エプロン? うーん、ここはネグリジェあたりが無難でしょうかねぇ……」
アキラはなにやらブツブツと呟いているが、自分の至らなさに愕然とするアキの耳には、ほとんど届いてはいなかった。
しかしアキはちゃんと理解した。
アピールするには、絶対に道具が必要だということを。
「う、あ、かうのよ、アキ、いくの」
「おや、買いに行かれますか? では、アーちゃんに付き添ってもらえばよろしいかと」
「あう、あい、なのよ!」
仕事中のはずなのに、アキラの召喚術(電話)により、30分もしないうちに現れたアーちゃんは、話を聞いているうちにどんどんと不機嫌になっていった。
「こんなことで呼び出すとか、バカでしょ」
アキラの部屋を出た途端、アキにむかって文句を言うとはなんたること。
本人には言わないところが、この男の卑怯な部分だ。
しかし、アキは寛大な心でそれを許す。
だって、大人だから。
「あう、いいのよ、アーちゃん、するのよ」
「はいはい、喜んで付き合いますよ。で、どこで何買うの? やっぱランジェリーショップ? ちょっと気張って大人のおもちゃもいいかもね」
「あ、あ、アキ、かうの、のよ」
アーちゃんの言ってることはいまいち分からないが、アピールするならば絶対に必要なアイテムをアキはちゃんと知っている。
知ってはいるが、それを売っているお店が分からない。
だから、どういう物がいいか、希望だけをアーちゃんに伝えた。
「ぶはっ、やべ、つぼる」
「あう? アーちゃん、するの?」
体をくの字におりまげて、プルプル身を震わすアーちゃんに、一抹の不安が過ぎる。
アキはおかしなことを言っただろうか。
「あ、いやいや、なんもない。アキ、お前マジ天才。それ使えば、完璧なアピール間違いなしだ」
「あう、なのよ、アキ、ごいのよ」
「俺がいいもん選んでやっから、大船に乗ったつもりでいろ」
「あい、なのよ」
アーちゃんのお陰で、すぐに希望の品を購入することができた。
ちょっと高かったが、なぜだかアーちゃんが払ってくれたので助かった。
店に向かう間も選んでる間も、ずっとケラケラウヒャヒャと笑うアーちゃんが気に懸かったが、アキがここまで積極的なのが珍しく、それが面白くて仕方なかったのだろう。
アキだって、ここまで頑張る自分が不思議でしょうがない。
でも、愛する人のためならば、やはり自分から努力しようと自然に考えている。
ああ、これが相手を思いやる心なのか。
アキからアピールすることで、奥ゆかしい彼もきっと安心するはずだ。
それが、"夫"となるアキの務めに違いない。
お風呂は入った。
夕食は、彼が帰ってきたら作ってくれる。
アーちゃんに買ってもらった物を手に、あとは彼が帰ってくるのを待つだけ。
よし、準備は完璧だ。
ガチャ。
ドアの開けられる音がした。
一緒に住んでいるのだから、当然彼はこの部屋に帰ってくる。
「あう」
緊張してきた。
しかし、アピールに失敗するわけにはいかない。
アキの待つリビングへと近づいてくる微かな足音に耳を傾けながら、アキはそれを手に持ちひたすら待った。
「ただい…ま…?」
リビングの戸を開けてすぐの場所に、正座するアキの姿を見つけたことで、彼はかなり戸惑っているようだ。
だがその戸惑いも、すぐに払拭されるだろう。
さぁ、アキのアピールに酔うがいい。
金メッキの施されたそれへと、アキはゆっくりと唇を近づけた。
「……?」
さぁ"聴け"!
これがアキの"サックス"アピールだ――!!
ぶほっ、ぷひっ、ぷっす~~~~~っ…………
※サックス=素人がいきなり吹いても、そうそう音は出ないそうです。
アキは悩んでいた。
学園を卒業してかなり経つ。
大人の男へと成長したアキには、目出度く可愛らしい恋人ができたのだ。
"彼"と暮らすようになってからかなり経つ、しかしチューから先に進まないのは何故なのだろうか?
そう、アキの恋人は男。
かつてアキが勉学に勤しんだ男子校に、彼も在籍していた。
出会いは学園。
そのときの二人はまだまだ幼くて、お互いの気持ちに気付いたのは卒業してから相当経ってからだった。
卒業後再会し、以前にも増して親しくなり、その結果、一緒の部屋で暮らすまでの仲に進展したのだ。
アキとしては、可愛い恋人とはイチャコラしたいし、最後まで成し遂げたあとは、男としてきっちりと責任をとるつもりだ。
つまり、"妻"を大切にし、浮気なんてせず良い"夫"に徹する。
それなのに、先に進まないとは……。
ひとりで悩んでも仕方ないと、同性とのお付き合いではかなり先輩にあたるアキラに相談を持ちかけた。
アキラはアキの悩みを聞いたあと、真剣な表情で教えてくれた。
「アキのセックスアピールが、足りないのかもしれませんね」
「あう!?」
なんと、完璧だと思っていた自分にも、足りないものがあったのか。
「んー、アピールをするには、やはりコスプレでしょうか…メイドは飽きましたし、裸エプロン? うーん、ここはネグリジェあたりが無難でしょうかねぇ……」
アキラはなにやらブツブツと呟いているが、自分の至らなさに愕然とするアキの耳には、ほとんど届いてはいなかった。
しかしアキはちゃんと理解した。
アピールするには、絶対に道具が必要だということを。
「う、あ、かうのよ、アキ、いくの」
「おや、買いに行かれますか? では、アーちゃんに付き添ってもらえばよろしいかと」
「あう、あい、なのよ!」
仕事中のはずなのに、アキラの召喚術(電話)により、30分もしないうちに現れたアーちゃんは、話を聞いているうちにどんどんと不機嫌になっていった。
「こんなことで呼び出すとか、バカでしょ」
アキラの部屋を出た途端、アキにむかって文句を言うとはなんたること。
本人には言わないところが、この男の卑怯な部分だ。
しかし、アキは寛大な心でそれを許す。
だって、大人だから。
「あう、いいのよ、アーちゃん、するのよ」
「はいはい、喜んで付き合いますよ。で、どこで何買うの? やっぱランジェリーショップ? ちょっと気張って大人のおもちゃもいいかもね」
「あ、あ、アキ、かうの、のよ」
アーちゃんの言ってることはいまいち分からないが、アピールするならば絶対に必要なアイテムをアキはちゃんと知っている。
知ってはいるが、それを売っているお店が分からない。
だから、どういう物がいいか、希望だけをアーちゃんに伝えた。
「ぶはっ、やべ、つぼる」
「あう? アーちゃん、するの?」
体をくの字におりまげて、プルプル身を震わすアーちゃんに、一抹の不安が過ぎる。
アキはおかしなことを言っただろうか。
「あ、いやいや、なんもない。アキ、お前マジ天才。それ使えば、完璧なアピール間違いなしだ」
「あう、なのよ、アキ、ごいのよ」
「俺がいいもん選んでやっから、大船に乗ったつもりでいろ」
「あい、なのよ」
アーちゃんのお陰で、すぐに希望の品を購入することができた。
ちょっと高かったが、なぜだかアーちゃんが払ってくれたので助かった。
店に向かう間も選んでる間も、ずっとケラケラウヒャヒャと笑うアーちゃんが気に懸かったが、アキがここまで積極的なのが珍しく、それが面白くて仕方なかったのだろう。
アキだって、ここまで頑張る自分が不思議でしょうがない。
でも、愛する人のためならば、やはり自分から努力しようと自然に考えている。
ああ、これが相手を思いやる心なのか。
アキからアピールすることで、奥ゆかしい彼もきっと安心するはずだ。
それが、"夫"となるアキの務めに違いない。
お風呂は入った。
夕食は、彼が帰ってきたら作ってくれる。
アーちゃんに買ってもらった物を手に、あとは彼が帰ってくるのを待つだけ。
よし、準備は完璧だ。
ガチャ。
ドアの開けられる音がした。
一緒に住んでいるのだから、当然彼はこの部屋に帰ってくる。
「あう」
緊張してきた。
しかし、アピールに失敗するわけにはいかない。
アキの待つリビングへと近づいてくる微かな足音に耳を傾けながら、アキはそれを手に持ちひたすら待った。
「ただい…ま…?」
リビングの戸を開けてすぐの場所に、正座するアキの姿を見つけたことで、彼はかなり戸惑っているようだ。
だがその戸惑いも、すぐに払拭されるだろう。
さぁ、アキのアピールに酔うがいい。
金メッキの施されたそれへと、アキはゆっくりと唇を近づけた。
「……?」
さぁ"聴け"!
これがアキの"サックス"アピールだ――!!
ぶほっ、ぷひっ、ぷっす~~~~~っ…………
※サックス=素人がいきなり吹いても、そうそう音は出ないそうです。