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アーちゃん■MMO日記

[ アーちゃん■MMO日記12]


高等部に上がれば特別寮の一人部屋。
そんなことは三年前から分かっていたけど、いざそうなると複雑な気分だ。

一人部屋にはすぎるほどの広さがあるリビングで荷をほどきながら、なんとなしに溜息が出た。

「アーちゃん、不安なのは分かりますが、もう子供ではないのです。そろそろ一人寝に慣れないといけませんよ」

ふざけた事を言うのほほんに、手が止まる。

一人寝が出来ないのって俺じゃないよね! あんただよね!!

「とはいえ僕も一人寝は初めてのことなので、とてもドキドキしています」

もたもたと箱のガムテを解きながら、軽く頬を上気させるアキラに、訂正するのがバカらしくなった。

「……あっそ」

その一言だけで勘弁してやり、服をクローゼットに仕舞うべく寝室に向かう。

言っときますけど、ここってアキラの部屋だからね。
俺は自分の部屋の片付けを後回しにして、トロくさいアキラさんを親切にも手伝ってあげてるわけなのよ。



一人寝なんて本当にできるのかかなり不安ではあったけど、入寮してから三日経ってもアキラさんが俺の部屋を訪ねてくることはなかった。
といっても食事はアッキーたちも含め俺の部屋で済まし、風呂も俺の部屋のを使いはする。
するけど、夜にはちゃんと自分の部屋へと戻っていく毎日だ。

東峰はいたく喜び、アキラさんは大人になったと自慢げ。
一方俺はというと、ようやく一人の時間が与えられたことに、かなり満足させていただいている。

高校生にもなればいろいろとあるわけだし、いつまでも男と添い寝っつーのも、おかしな話だもんね。
そのいろいろは中坊ん頃からこっそりといたしてはいたけど、風呂んときとか、しかし、たまにはベッドの中で楽な姿勢でも試みたいし、エロビ見ながらってのも楽しそう。
んなわけで、誰に遠慮もなく思い立ったらすぐ可能って環境は、俺的にも実に楽だと感じるわけなのだ。

あ、俺の名誉のために言っておくけど、セックスの相手には困ってないからね。
明日は入学式だから、寮を脱け出して激しい運動なんてしてる場合じゃないんだよ。

というわけで、風呂上りで暖まった体にパジャマの上だけを軽く羽織り、ボタンも留めずにリビングへと移動。
下はズボンなんて穿かずにパンツだけのだらしない格好ではあるけど、誰が見てるわけでもなしこれからすることを考えたらこれで充分だ。
広すぎるのが難点な部屋の電灯を暗めにして、こっそりと購入していたAVをセットしたら、そのまま40インチの大画面の真前に陣取る。
ティッシュも用意したし、完璧w

巨乳はあんまり好きじゃねーけど、AV女優にしてはイマイチパッとしない貌は気に入った。
そのおかげか、息子も元気に起きだしたから、あはんうふんとちょっとワザとらしい嬌声が続く中、画面から目を離すことなく、右手をパンツの中に突っ込む。

あ、俺の一人エッチに過度な期待なんかしないでよ。
普通に、ごく普通にしかしないから。

普通ってのはアレだ。
右手で擦る、そんだけ。
んで、最後はナニが出て終了ってやつだから。

だけどさ、その途中でも濡れるってのはなんとかならないかね。
いわゆる、カウパー? せっかく穿き替えたパンツが、それで濡れるのは勘弁だ。
ま、下着は膝くらいまで下ろしちゃいましたけどね。
どうせ誰もいないんだから、尻が丸見えでもオッケーオッケー。

画面の中の男優が、いよいよもって激しく腰を動かしたから、俺も負けじと右手を素早く動かした。
あ、やべ、いやいや別にやばくはないけど、そろそろイッちゃう。
どこに? なんて阿呆な質問はすんなよ。

「ん……っ…」

左手でティッシュの箱を手繰り寄せ、あとはフィニッシュに向かってラストスパー、

ピンポーン――

そう、ピンポ……え、えええええええっ!?

ピンポーン――ピンポーン――

続けざまに鳴ってますよぉぉぉぉ!?

ドンドン、ドンドン

えええええ、なんか叩かれてるぅぅぅぅ!?

「はっ!? えっ!? ちょ、」

固く張り詰めたナニから、大慌てで右手をもぎ離した。
イケずじまいで泣き濡れる息子に謝罪しながら、おざなりにティッシュで拭い、焦りながらパンツを引き上げ、こけそうになりながら廊下を駆け抜ける。
そして、いまだドンドンと震える扉を大急ぎで開けた。

「アーちゃん、寝ていたのですか?」

「は? 寝て?」

まったくもって想像通りの御仁が、パジャマ姿で枕片手に立っていた。

「なんですか、そのだらしのない格好は? いくら暖かくなってきたといっても、何も穿かずに寝るなんて体によくありませんよ。もう、ボタンくらいちゃんと留めなさい」

なにやら早口で捲くし立てられたが、羽織っていただけの上着にアキラが手を伸ばしてきたことで、自分の姿にようやく気が付いた。

「あ、あはは、そうね」

何しに来たなんて聞くのもバカらしくて、そのまま照れ隠しに頭を掻く。
アキラは呆れたように俺を眺めたあと、不器用ながらもパジャマのボタンを留めていくが、3つ目で飽きたらしく俺を置き去りに部屋の奥へと歩を進めた。

あ、テレビ消したっけ!?

「ちょっと待ちなさ、」

「アーちゃん!」

先にリビングに到着したアキラが、おもいっきり眦を吊り上げて振り返ってきた。

ああああ、やっぱ消してなかったか!

リビングに入れば直ぐに目につくテレビには、女優の顔と男優のアレがモロに映し出されていた。
ほー、ラストは顔射か。

「アーちゃん!」

「は、ははははい!?」

正直、エロビを見られたことは、あまり気にしてはいない。
こいつは大量の記憶があるせいか、そういう方面には驚くほどの理解力がある。たまに斜め上に行くけどね。
それに、今じゃエロビ以上のことを東峰とヤッテんだから、見つかったからって焦る必要も無いんだ。

「そんなに欲求不満なら、書記とよりを戻せばよろしいではないですか」

「はいぃぃぃぃ!?」

「雅人が言ってましたよ。書記の落ち込みが酷すぎて、以前よりももっと無口になってしまったと」

そういえば、高等部でも生徒会の役員に選ばれて、書記になったんだっけ。

「彼はアーちゃんのことをまだ忘れていないんです」

「あのね、何回も言ってるでしょ。俺と静はそんなじゃねーのっ、単なるお友達」

「お友達ならどうして別れたのですか? それも突然、一方的になんて、どう考えても恋愛の縺れとしか思えませんけど」

「あのなー、違うって何回言わすの?」

リビングの灯りを元に戻して、放り出していたパジャマのズボンを穿きながら、息子を拭ったティッシュをゴミ箱に投げ捨て、ついでにテレビも消してエロビも仕舞う。
一連の動作を終わらせてからキッチンで手を洗い、冷蔵庫から茶を取り出した。
不満顔を隠しもせずにソファに座るアキラの前に茶を置けば、そのままグビグビと飲み干した。

「で、結局あんたは何しにきたわけ?」

静のことを一切語らない俺が悪いのは分かるが、今回も何も説明する気なんてない。
アキラもその気配を嗅ぎ取ってか、かなり唇を尖らせた。

「秘密にするなんて、ズルイです」

「秘密なんてないっつーのに。本当に単なるお友達で、その関係がメンドくなったの」

「それは別の関係になりたいということでは?」

「だーかーらー、ちゃうっての!」

このやり取りも何回したことか。

「むぅぅ、アーちゃんは嘘吐きです」

「嘘? 嘘なんて吐くわけないでしょー。特に、あんたには」

「……むぅぅぅぅ」

嘘吐き、ね。
仰る通りだ。
自分の命なんかより大切で大切で、できればどっかに閉じ込めて置きたいくらい大事な相手に、絶対に口にできない秘密を持っているくせに。

それって、赦されることなのか?
俺に秘密なんて、あっていいものなのか?

俺ならば、俺ならば、そんなことは赦さない。
すべてを捧げるべき相手に、秘密を持つなんて罪、俺ならば赦すことなんかできないんだ。
間違いなく、断罪する。

でも、高橋昭なら。

「アーちゃんがどうお考えかは存じませんが、書記はあなたに何も求めませんよ。それはもう痛々しいほどに、なにも……」

表情を緩ませて、アキラが呟く。
それは、静への同情か、はたまた別のモノへの労わりか、それとも……苦言?

そう受け取ってしまうのは、俺の存在自体が主人に対し苦悩を与えていると承知しているから。
何も求めない、すべてに従う。
それがどんな無理難題であっても、すべて叶える。
たったそれだけのこと。
笑えるほどに簡単なことが、俺にはできなかった。

ただ縋り付いて自らの欲求だけを口にした俺は、やはり守人を名乗る資格はないのかもしれない。

静が何も求めないことは分かっている。
ただ俺が、静という存在を認めてやれば、それだけであいつは満足するんだ。
見返りなんて、決して求めやしない。

静が高等部に上がる前、俺が中二のとき、すべてを知ったあの後、静に別れを切り出した。
別れっておかしな表現だな。
これじゃアキラが言うように、恋愛の果てにって感じだ。
だが、それ以外の言葉が思いつかないんだから、仕方ない。
ともかく、縁切りをさせてもらおうと思ったわけだ。
理由なんてのは特になかった、あの時点では。
それまでは静といても注して何も感じなかったが、その時なぜか無性にイライラする自分に気がついただけだ。

そんな俺に、静は必死で言葉を紡いだ。
嫌な所は全部治すだとか、友人でいいだとか――既に何度か告白ってのをされてたからね――とにかく必死なのは伝わった。
それでも気持ちが揺らぐこともなく、部屋を出て行こうとしたとき、あいつは、あの間抜けは、犬でいいなんてほざきやがったんだ。

側にいなくてもいい、何も求めないから俺を見捨てないで、犬だと思ってくれればいい――

でっかい体躯で俺の足に縋りつき、床に額を擦り付けるほどの勢いで、そう、俺に言った。
そのときを思い出すと、今でも吐き気が込みあげる。

ともかくも、その言葉が切欠となり、その瞬間、静を厭う理由にはっきりと思い至った。

静は、俺だ――

あの時の静の姿に、まんま己の姿が重なって、気がつけば怒鳴り散らしながら静を振り解き、自室へと駆け戻っていた。

私に守人などいらぬ――

そう告げた相手の足元に擦り寄って土下座して、慟哭しながら、犬のように扱ってくれればそれでいいと冀(こいねが)う、なんて、なんという罪悪。
その醜さに気付かされ激昂するなんて、静にはほとほと迷惑なことだったろう……。

「……ゃん、アーちゃんっ」

「へ、は、はい!?」

「もう、何をぼんやりなさっているのですか?」

アキラがプクッと頬を膨らませた。
どうやら何度か呼んでいたらしい。

「明日は入学式ですからね、早く寝ましょう、と言っているのですよっ」

「あ、ああ、うん、そうね……で、どこで?」

「どこでって、ここに決まっているではないですか」

さも当然といわんばかりの顔で、枕を手に立ち上がる相手に、なんつーか、言葉が出てこない。

「あ、ひょっとして、迷惑ですか?」

一応の遠慮はあるのか、それとも一人で寝ると宣言した手前か、アキラが不安そうに見詰めてきた。

「んなの、今さらだっつーの」

「ふふ、ですよね。あ、先に寝室に行きますので、どうぞ先ほどの続きをなさってください」

余計な一言をつけながら、そそくさと寝室へと消えてゆく後姿を見送ってから、使ったグラスをキッチンへと運ぶ。
何気に下半身を見てみれば、息子は見事に意気消沈していた。
とてもじゃないが、先ほどの続きなんて無理っぽい。

もうそんな気分にもならねーことだし、久々に添い寝するべくリビングの電気を早々に落とした。
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