ひねもすのたりのたり
[ひねもすのたりのたり2-完]
「アキ、お帰り」
「あう、いまいま、なのよ」
あれからアキはスーパーへと疾走し、そして行きにはなかったビニール袋を大事に抱え、大急ぎで寮まで戻ってきた。
そこから駆け足で向かったのは、アッくんのお部屋だ。
「あ、あ、いちご、なのよ、のよ」
「大丈夫、ちゃんとアキの苺用に空けてあるよ」
興奮気味にキッチンに向かい、買ってきた苺を台に乗せた。
「わぁ、真っ赤だ。すごく大きいし、とても甘そうだね」
「う、なの、なのよ」
アキが選びに選んだ一品は、見るからに大粒で、そして完熟だと一目で分かるほどに赤い。
だけどあまおうは、アタリハズレがでかいのだ。
ああ神様、どうかアキの期待通りの味でありますように。
アッくんがケーキを用意している間に、アキは苺を洗う。
「これが、アキラ用のケーキだよ」
「う、うおう、いいの、ごいのよ」
アッくんが、早朝から作ったケーキ。
人数が多いからと、大きなケーキを3個も焼いてくれた。
その内2個には小粒の苺が乗っていて、どっからどう見ても完成品だ。
これを食べると想像しただけで、アキのお口の中は唾でいっぱいになる。
しかし、まだだ。
まだ、終わっていない。
一際大きな丸いケーキ。
生クリームがたっぷり塗られ、縁も白くデコレーションされたそのケーキ。
この1個は、丸々すべてがアキラの物。
大食漢のアキラへの、アッくんからの心の篭った贈り物。
でも、まだ完成じゃない。
雪が降った直後のように、なんの跡もついていない様は、まだこのケーキが未完成なのだと教えてくれている。
アキの洗った苺のヘタを、アッくんが丁寧に切り取ってくれた。
まだなんの色もついてはいない、アキラのケーキ。
ただ白いだけのそれは、やはり物足りなさを感じる。
「はい、アキが乗せて」
キラキラと赤く輝く宝石が、今、アッくんからアキへと託された。
「あい、なのよ」
慎重に、慎重に、その白い肌を荒らしたりしないように。
自然と呼吸を止め、震えそうになる指先に力を込めて、だけどひたすら優しく丁寧に、そして注意深く、アキは苺を乗せていく。
最後の一粒を乗せたとき、アキは大きく息を吐き出した。
これで、完成だ!
白いケーキに赤い苺は、とてもよく似合っていた。
想像以上に美しく、そしてとてつもなく美味しそうだ。
ケーキを見た途端、アキラは子供のようにはしゃぎ回った。
飛び跳ねて万歳して、そして、アーちゃんとアッキーにお説教をされた。
11月13日。
今日は、大好きなあなたが、この世に生を享けた大切な日。
初めて祝うバースデイ。
「アキ、こんなに甘い苺は、初めて口にしました」
そう言って、ホール全部をペロリと平らげた人。
アキは、持てる心全部で伝える。
「おめでと、なの、のよ!」
そして、
「ありがと、なのよ!」
生まれてきてくれてありがとう、生んでくれてありがとう、いっぱいの感謝を込めて、来年も再来年も、アキは何度でも、何度でもお祝いする。
「う…」
今年も、アキが一番乗りではなかった。
とはいえ、アキは一番を狙ってるわけではない。
むしろ彼のためにも、時間をずらすほうがいいと思っている。
敷石の上にポツンと置かれた花束が、彼の気持ちに未だ変化のないことを告げていた。
毎年この日、ひっそりと捧げられる、藤色の花。
"永遠に変わらない心"
そんな意味合いがあるのだそうだ。
変わらないもの……それは、忠誠、それとも……。
アキには判らない。
ただ、彼の永遠は、信じられる。
「う、ん」
花束を目の前に、その場に座り込む。
つるりとした敷石が、気持ち良い。
少し息を吐きながら、アキもそれを取り出した。
『アキ、こんなに甘い苺は、初めて口にしました』
そう言ってくれたから、だからアキは毎年これを贈る。
何年経っても、彼は甘いと称えてくれた。
当然だ。
たったひとりを想い選んだ苺、ハズレなんてあるはずがない。
何といってもアキは強運の持ち主、キラキラ会のマスコットなのだから。
「あむ、うむ」
やはり今年の苺も、甘くてみずみずしいことこのうえない。
パックから直接苺を口にして、アキは自分の引きの良さにうふふと笑った。
何かが零れ落ちそうになる。
だから、空を見上げた。
「あむ、あむ、しろいのよ、いいのよ」
今年も好天に恵まれた。
それでもこの季節は、やはり肌寒い。
ひんやり冷えた山の空気に曝されながら、その空の青さに目を細める。
どこまでも澄んだ天の果て、今年の苺も届いているだろうか。
半分減った苺のパックを、空に向かって掲げる。
少し足りないかもしれないが、笑って許してくれるだろう。
「おめでと、なの、ありがと、なのよ」
あなたが生まれた大切な日だから、だからアキは、来年も甘い甘い苺を贈る――
今回のアキのがんばりはどうでしたでしょうか?
ほんの少し未来設定を出してみましたが、ネタバレいやーって方には、申し訳ありませんでした<(_ _)>
よければ感想など、お待ちしております(〃'∇'〃)ゝ
「アキ、お帰り」
「あう、いまいま、なのよ」
あれからアキはスーパーへと疾走し、そして行きにはなかったビニール袋を大事に抱え、大急ぎで寮まで戻ってきた。
そこから駆け足で向かったのは、アッくんのお部屋だ。
「あ、あ、いちご、なのよ、のよ」
「大丈夫、ちゃんとアキの苺用に空けてあるよ」
興奮気味にキッチンに向かい、買ってきた苺を台に乗せた。
「わぁ、真っ赤だ。すごく大きいし、とても甘そうだね」
「う、なの、なのよ」
アキが選びに選んだ一品は、見るからに大粒で、そして完熟だと一目で分かるほどに赤い。
だけどあまおうは、アタリハズレがでかいのだ。
ああ神様、どうかアキの期待通りの味でありますように。
アッくんがケーキを用意している間に、アキは苺を洗う。
「これが、アキラ用のケーキだよ」
「う、うおう、いいの、ごいのよ」
アッくんが、早朝から作ったケーキ。
人数が多いからと、大きなケーキを3個も焼いてくれた。
その内2個には小粒の苺が乗っていて、どっからどう見ても完成品だ。
これを食べると想像しただけで、アキのお口の中は唾でいっぱいになる。
しかし、まだだ。
まだ、終わっていない。
一際大きな丸いケーキ。
生クリームがたっぷり塗られ、縁も白くデコレーションされたそのケーキ。
この1個は、丸々すべてがアキラの物。
大食漢のアキラへの、アッくんからの心の篭った贈り物。
でも、まだ完成じゃない。
雪が降った直後のように、なんの跡もついていない様は、まだこのケーキが未完成なのだと教えてくれている。
アキの洗った苺のヘタを、アッくんが丁寧に切り取ってくれた。
まだなんの色もついてはいない、アキラのケーキ。
ただ白いだけのそれは、やはり物足りなさを感じる。
「はい、アキが乗せて」
キラキラと赤く輝く宝石が、今、アッくんからアキへと託された。
「あい、なのよ」
慎重に、慎重に、その白い肌を荒らしたりしないように。
自然と呼吸を止め、震えそうになる指先に力を込めて、だけどひたすら優しく丁寧に、そして注意深く、アキは苺を乗せていく。
最後の一粒を乗せたとき、アキは大きく息を吐き出した。
これで、完成だ!
白いケーキに赤い苺は、とてもよく似合っていた。
想像以上に美しく、そしてとてつもなく美味しそうだ。
ケーキを見た途端、アキラは子供のようにはしゃぎ回った。
飛び跳ねて万歳して、そして、アーちゃんとアッキーにお説教をされた。
11月13日。
今日は、大好きなあなたが、この世に生を享けた大切な日。
初めて祝うバースデイ。
「アキ、こんなに甘い苺は、初めて口にしました」
そう言って、ホール全部をペロリと平らげた人。
アキは、持てる心全部で伝える。
「おめでと、なの、のよ!」
そして、
「ありがと、なのよ!」
生まれてきてくれてありがとう、生んでくれてありがとう、いっぱいの感謝を込めて、来年も再来年も、アキは何度でも、何度でもお祝いする。
「う…」
今年も、アキが一番乗りではなかった。
とはいえ、アキは一番を狙ってるわけではない。
むしろ彼のためにも、時間をずらすほうがいいと思っている。
敷石の上にポツンと置かれた花束が、彼の気持ちに未だ変化のないことを告げていた。
毎年この日、ひっそりと捧げられる、藤色の花。
"永遠に変わらない心"
そんな意味合いがあるのだそうだ。
変わらないもの……それは、忠誠、それとも……。
アキには判らない。
ただ、彼の永遠は、信じられる。
「う、ん」
花束を目の前に、その場に座り込む。
つるりとした敷石が、気持ち良い。
少し息を吐きながら、アキもそれを取り出した。
『アキ、こんなに甘い苺は、初めて口にしました』
そう言ってくれたから、だからアキは毎年これを贈る。
何年経っても、彼は甘いと称えてくれた。
当然だ。
たったひとりを想い選んだ苺、ハズレなんてあるはずがない。
何といってもアキは強運の持ち主、キラキラ会のマスコットなのだから。
「あむ、うむ」
やはり今年の苺も、甘くてみずみずしいことこのうえない。
パックから直接苺を口にして、アキは自分の引きの良さにうふふと笑った。
何かが零れ落ちそうになる。
だから、空を見上げた。
「あむ、あむ、しろいのよ、いいのよ」
今年も好天に恵まれた。
それでもこの季節は、やはり肌寒い。
ひんやり冷えた山の空気に曝されながら、その空の青さに目を細める。
どこまでも澄んだ天の果て、今年の苺も届いているだろうか。
半分減った苺のパックを、空に向かって掲げる。
少し足りないかもしれないが、笑って許してくれるだろう。
「おめでと、なの、ありがと、なのよ」
あなたが生まれた大切な日だから、だからアキは、来年も甘い甘い苺を贈る――
今回のアキのがんばりはどうでしたでしょうか?
ほんの少し未来設定を出してみましたが、ネタバレいやーって方には、申し訳ありませんでした<(_ _)>
よければ感想など、お待ちしております(〃'∇'〃)ゝ