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ひねもすのたりのたり

[ひねもすのたりのたり-明石編-]


孤独なんて、カッコいいもんでもなんでもねー。
それが望んでの結果だっつーんなら、別だがな。

自分がいかに馬鹿丸出しだったかを悟ってからこっち、自然と会話する人間が増えてきた。
特に意識したわけじゃねーのに、たまたまクラスのやつが読んでたバイク雑誌を俺も講読してたってことから、そうなっていった。
そっか、友人ってのは、こうやって作っていくもんなんだな。

「おい明石、臨時号買ったか?」

「なんでーそりゃ?」

軟弱な坊ちゃんばかりが揃っているとはいえ、この年頃の男どもはやはりバイク好きなやつが多い。
そういう部分は、どこにでもいる普通の学生だ。
今俺に話しかけてきたのも、そんな普通の学生のひとり、俺と同じくこよなくバイクを愛する……友人だ。

「今月は臨時号出てるんだぜ。ちなみに、SS大図鑑付き」

やばい、そんなことまったく知らなかった。

「そ、そういうことは早く言いやがれ!」

ひええと悲鳴を上げながら咄嗟に頭を庇う男に、サンキューな、と小さく礼を言ってから、俺はすぐに売店まで走った。

ここの売店はさすがの品揃えだが、如何せん雑誌の類にはまったく力を入れていない。
以前はもう少しあったらしいが、ほぼ見向きもされなかったということで、その数は年々減っていったんだ。
例外で、ビジネス雑誌は相当量を確保されているがな。
くそっ、バイク雑誌の何が不満だってんだ!

スピードを緩めることなく駆け込んで、雑誌が陳列されている棚の一番隅、とてつもなく不憫な位置に置かれていたものを手に取る。
色鮮やかなSSバイクが表紙を飾るそれは、どう見ても最後の一冊だったらしい。
やばいやばい、あやうく買い逃すところだったぜ。

後はレジで金を払うだけだ。
なんとなく得した気分でレジに向かおうと振り向けば、ようく見知った人物がまったくの無表情で後ろに立っていた。

「……よお」

一応、挨拶なんてのをしてみた。
右手に買物カゴを持つ男は、やはり無表情のままで、無反応。
これはいつものことだからな、焦ったりはしねぇ。

「お、肉じゃねーか」

買物カゴにはキャベツ1玉と人参じゃがいもその他色々と一緒に、たっぷりの和牛がしっかりと入れられていた。
今夜はカレーか?

俺の視線を振り切るように、無表情の男は無言のままにレジに向かった。
これは、あれだ……こいつも、コレを買おうとしてたってことだな。



「う、あ、みるのよ、なのよ」

「ああ、見てる見てる」

雑誌を。
ちなみに、どこで見てるかっつーとだな、

「うおう、おおう、いいのよ、いいの」

当然、伊藤の部屋だ。
雑誌を買い逃した伊藤に、一緒に見るかと提案したところこうなった。
テレビアニメごときに興奮しまくり、俺の背中をバチンバチン叩くチビと一緒に、カレーが出来上がるのをボンヤリと待ってるってわけだ。

付録で付いてきた大図鑑ってのを伊藤に渡し、俺は床にうつ伏せながら本誌を読んでるんだが、その腰あたりにはなぜかチビが堂々と腰掛けてやがる。
振り落としたいとこだが、これでテレビに近づくのを防げるなら、ある意味楽っちゃー楽だ。
しかも腰を圧迫されて、たまに背中を叩きやがるから、何気に気持ちいいときた。

それにしてもこいつ、重くなったよな。
チビな形に相応しく、それほど体重は感じなかったのに、この頃めっきり重くなってきやがった。

身長はともかく、体重ばっかり増えてんだろうな。
このままいけば仔豚、いやチビブタだ、チビブタ。

「あう、あう、いいの、みるのよ、アキ、みるの」

「ぐえっ、……チビッ!!」

たまに興奮しすぎたチビが、体を浮かした後に勢い良く腰を落としてくることがある。
それは、マジで勘弁願いてぇ!
今はまだいいが、いずれチビブタと化したチビの体重に、俺が耐え切れなくなるかもしれねぇだろ!

このままなら、いつの日かダイエット決行だ。

「う、いいのよ、アキ、ないの、のよ」

「いーや、どう考えてもてめぇが悪いんだろが! つーか、降りろ!」

「あう、いやなのよ」

「だったら、せめて大人しく観てやがれ!」

「あい、なのよ」

どうせ返事だけだと分かっているくせに、無理にどかさねーあたり、俺も相当に甘いな……。



「なんで甘口なんだよ!」

「文句があるなら食うな」

「あげるのよ、あい、あげるの、のよ」

「人参をいれんじゃねぇっ!!」
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