アーちゃん■MMO日記
[アーちゃん■MMO日記11]
どうしよう、やばい、マジでマジで、
「昭、昼食…」
「やばい! マジで、ガルブツィーが食いてー!!」
「っ……」
はっ、イカンイカン、急に立ち上がったもんだから、静が固まってやがる。
でっかい目ん玉をさらにでっかくして硬直してるってことは、驚いたってことだよな。
つか、もっと劇的な反応をしろ!
せっかくの日曜だってのに、ノコノコとこいつの部屋にやって来たのは、単に暇だったから。
暇だから、こいつの部屋でゲームをすることにしたんだ。
なんか文句あっか?
起きたのは昼直前だったしで、よくよく考えたらまだなんも食ってないんだよな。
くそっ、腹減った!
「ガルブツィー、……ロシア、料理…」
「それがどうした! とにかく俺は、ガルブツィーが食いてーの!!」
ガルブツィーってのは、静が言ったようにロシア料理のひとつ。
いうなれば、ロールキャベツのことだ。
中には挽き肉と米が入っていて、煮込む前にちょっと焼いてやるのがコツ。
あ、やばい、余計腹が減ってきた。
「くそっ、さすがに学食のメニューにねーよな」
すぐに別PCでメニューを漁るも、やはりその手の料理はない。
かなり豊富に揃ってはいても、ガルブツィーはないのね……。
「あ、作る?」
「……へ!? お、おま、作れんのかよ!?」
結構長い付き合いだけど、料理ができるなんて初めて知ったぞ。
静は俺の剣幕に少々たじろぎながら、困ったように眉を下げた。
「おいっ、マジ作れんの!?」
さらに困った顔に拍車がかかったかと思うと、おもむろに首を振った。
はなから分かっておりました。
だいたい、こいつの家にはお手伝いさんがたくさんいるんだ。
そんな環境で、料理なんて覚えるはずねーよな。
黙ってても出てくるんだから、いちいち作り方なんて気にしないのが普通だよな。
「……」
「うぜっ、向こう行けっ」
カウンターの向こう側から、大きく覗き込むでっかい犬に、一言。
俺は今、なぜかフライパンの前に立っている。
いつもよりも遙かに広くゆったりとしたキッチン内で、だ。
深く考え込むのはやめとこう。
サラダ油をあっためてから、手早くキャベツの塊りを並べていく。
ささっと焼いて、この後はトマトジュースでお手軽に仕上げるのだ。
ああ、待ち遠しい。
できあがったときの味のしみこんだ様を想像すると、腹の虫が悲しそうに鳴きだした。
食いたい、早く食いたい、くそっ、作ってる時間が惜しい。
そもそも、なんで俺が作ってるんだ!?
どうしても食べたくて、我慢なんてする気にもならなくて、あれからすぐに自分の部屋に駆け戻った。
必要な材料をアキラお手製エコバッグに詰め込んで、またすぐに静の部屋に取って返した。
さすがにガルブツィーだけじゃ腹一杯にはならないから、ついでにコトレータも用意。
コトレータってのは、あー、つまりカツレツみたいなもんだ。
肉×肉は避けて、鮭のコトレータにしてみた。
鮭のミンチって意外に美味しいのよ。
玉ねぎの甘味とも相性よくて、表面はカリッ中はふんわり、最高っす。
段々と良い匂いがしはじめると、大人しくカウンター前に腰掛けていた静の鼻がヒクヒクと動き出した。
「いい、匂い…」
「当たり前だっつの」
誰が作ってると思ってるんだ。
そもそもこの俺様が作ってやるなんて、どれほどに感謝してもし足りないことなんだぞ!
出来上がったものを次々に手渡すと、静が大人しくカウンターへと並べ始める。
にこにこと、いつも以上に輝く笑顔を振り撒くもんだから、こりゃ写真撮ったら高く売れそうだ、なんて頭の隅っこで考えちまった。
今んところは東峰もいるしそれほど金に困ってないから、勘弁してやることにする。
「はぁ、やっと食えるー」
待ち遠しかったこの瞬間。
静の隣りの椅子を引き、勢いよく腰を落とせば、後は食うだけの簡単なお仕事だ。
「あ、ピロシキは無理だから、食パンで我慢しろよ」
「うん、……ありがとう…」
普段は表情の硬い静も、こうやって柔らかな笑みを見せることが多々ある。
それは休日でしかも飯が食えるからであって、俺がいるからとかそんな甘い理由じゃないと願いたい。
まるで尻尾を大きく振る大型犬のように、全身で喜びを表しながら静がカトラリーを手にした。
「あ、スメタナないけど、勘弁な」
「うん」
昼はだいぶ過ぎてしまったが、俺の空腹感は絶好調だ。
ようやく出来上がった品々に、カトラリーを手にいざ。
美味い最高、自画自賛。
横目で静を覗き見れば、偶然にも目が合ってしまった。
にこりと微笑む静に、ムッとした表情を返す。
「言っとくけど、俺が食いたかったんであって、お前のためじゃねーからな」
「うん、分かってる」
だったら、そのキラキラお目々は止めなさい。
「食ったらゲームすっから、静かにしてろよ」
「うん、しとく」
いまだキラキラと輝かせる瞳から、スッと視線を逸らした。
眩しいっつの!
「洗い物はお前がしろよ」
「う、…うん、する」
最後はなんとも怪しい返事で、締めくくられた。
静が洗い物をするのは、決して初めてじゃない。
過去何度も指導してやったんだから、いい加減ひとりでも大丈夫だろう。
多少の不安を交えながらもようやく人心地ついた俺は、電源が入りっぱなしのPCの前に座り込んだ。
いつもの如く、ソファは後ろにおいやって、床に直接だ。
「ふう、やっと続きができる」
最近増えたMAPを探索してるところでの、妙な発作。
そのせいで、クエストが途中だったのよね。
新たなMAPは雪国をイメージしていて、一面がほぼ銀世界というなかなかに美麗な景色だ。
吹雪なんかの演出もあって、ちょいと重いのが難点だがプレイに支障はない。
かなり聞きなれてきたBGMを聞くともなしに聞きながら、マウス右手にいざ。
MAPごとに曲は変わるが、この曲もなかなかいいねー。
単純な旋律を繰り返すだけだが、そのリズムは体に馴染みやすく、とてもノリがいい。
「フーンフフ、フーンフフ、フーンフフ……」
つか、ちょいアレンジ入ってるけど、どっかで聴いたような……。
「フーンフフ、フーンフフ、フーンフフ……」
なんかこう、ダンスのイメージだよな。
つっても、往年の、往年……?
「こ、これか! これが原因か!!」
再び猛然と立ち上がり叫ぶ俺を、手を拭き拭き現れた静が、呆然と眺めていた。
貴様か! 貴様のせいだったのか!
俺があれほどに、北の大国の料理が食いたくなった原因は、貴様のせいだったのか!
そもそもは学校で使われるフォークダンスの曲として広く世間に知れ渡った、貴様!
その後、恐ろしく単調なくせに嵌る人続出で大量の寝不足による遅刻者を生み、某大国秘密警察の陰謀だったんじゃないかとまで言われた、あのゲームのBGMとしても有名になった、貴様!
「この曲のせいで、俺は!」
「コロブチカ…?」
そう、コロブチカ――!!
俺が答えをはじき出す前に、あっさりとそれを言葉にした静を、目一杯睨みつけてしまった。
どうしよう、やばい、マジでマジで、
「昭、昼食…」
「やばい! マジで、ガルブツィーが食いてー!!」
「っ……」
はっ、イカンイカン、急に立ち上がったもんだから、静が固まってやがる。
でっかい目ん玉をさらにでっかくして硬直してるってことは、驚いたってことだよな。
つか、もっと劇的な反応をしろ!
せっかくの日曜だってのに、ノコノコとこいつの部屋にやって来たのは、単に暇だったから。
暇だから、こいつの部屋でゲームをすることにしたんだ。
なんか文句あっか?
起きたのは昼直前だったしで、よくよく考えたらまだなんも食ってないんだよな。
くそっ、腹減った!
「ガルブツィー、……ロシア、料理…」
「それがどうした! とにかく俺は、ガルブツィーが食いてーの!!」
ガルブツィーってのは、静が言ったようにロシア料理のひとつ。
いうなれば、ロールキャベツのことだ。
中には挽き肉と米が入っていて、煮込む前にちょっと焼いてやるのがコツ。
あ、やばい、余計腹が減ってきた。
「くそっ、さすがに学食のメニューにねーよな」
すぐに別PCでメニューを漁るも、やはりその手の料理はない。
かなり豊富に揃ってはいても、ガルブツィーはないのね……。
「あ、作る?」
「……へ!? お、おま、作れんのかよ!?」
結構長い付き合いだけど、料理ができるなんて初めて知ったぞ。
静は俺の剣幕に少々たじろぎながら、困ったように眉を下げた。
「おいっ、マジ作れんの!?」
さらに困った顔に拍車がかかったかと思うと、おもむろに首を振った。
はなから分かっておりました。
だいたい、こいつの家にはお手伝いさんがたくさんいるんだ。
そんな環境で、料理なんて覚えるはずねーよな。
黙ってても出てくるんだから、いちいち作り方なんて気にしないのが普通だよな。
「……」
「うぜっ、向こう行けっ」
カウンターの向こう側から、大きく覗き込むでっかい犬に、一言。
俺は今、なぜかフライパンの前に立っている。
いつもよりも遙かに広くゆったりとしたキッチン内で、だ。
深く考え込むのはやめとこう。
サラダ油をあっためてから、手早くキャベツの塊りを並べていく。
ささっと焼いて、この後はトマトジュースでお手軽に仕上げるのだ。
ああ、待ち遠しい。
できあがったときの味のしみこんだ様を想像すると、腹の虫が悲しそうに鳴きだした。
食いたい、早く食いたい、くそっ、作ってる時間が惜しい。
そもそも、なんで俺が作ってるんだ!?
どうしても食べたくて、我慢なんてする気にもならなくて、あれからすぐに自分の部屋に駆け戻った。
必要な材料をアキラお手製エコバッグに詰め込んで、またすぐに静の部屋に取って返した。
さすがにガルブツィーだけじゃ腹一杯にはならないから、ついでにコトレータも用意。
コトレータってのは、あー、つまりカツレツみたいなもんだ。
肉×肉は避けて、鮭のコトレータにしてみた。
鮭のミンチって意外に美味しいのよ。
玉ねぎの甘味とも相性よくて、表面はカリッ中はふんわり、最高っす。
段々と良い匂いがしはじめると、大人しくカウンター前に腰掛けていた静の鼻がヒクヒクと動き出した。
「いい、匂い…」
「当たり前だっつの」
誰が作ってると思ってるんだ。
そもそもこの俺様が作ってやるなんて、どれほどに感謝してもし足りないことなんだぞ!
出来上がったものを次々に手渡すと、静が大人しくカウンターへと並べ始める。
にこにこと、いつも以上に輝く笑顔を振り撒くもんだから、こりゃ写真撮ったら高く売れそうだ、なんて頭の隅っこで考えちまった。
今んところは東峰もいるしそれほど金に困ってないから、勘弁してやることにする。
「はぁ、やっと食えるー」
待ち遠しかったこの瞬間。
静の隣りの椅子を引き、勢いよく腰を落とせば、後は食うだけの簡単なお仕事だ。
「あ、ピロシキは無理だから、食パンで我慢しろよ」
「うん、……ありがとう…」
普段は表情の硬い静も、こうやって柔らかな笑みを見せることが多々ある。
それは休日でしかも飯が食えるからであって、俺がいるからとかそんな甘い理由じゃないと願いたい。
まるで尻尾を大きく振る大型犬のように、全身で喜びを表しながら静がカトラリーを手にした。
「あ、スメタナないけど、勘弁な」
「うん」
昼はだいぶ過ぎてしまったが、俺の空腹感は絶好調だ。
ようやく出来上がった品々に、カトラリーを手にいざ。
美味い最高、自画自賛。
横目で静を覗き見れば、偶然にも目が合ってしまった。
にこりと微笑む静に、ムッとした表情を返す。
「言っとくけど、俺が食いたかったんであって、お前のためじゃねーからな」
「うん、分かってる」
だったら、そのキラキラお目々は止めなさい。
「食ったらゲームすっから、静かにしてろよ」
「うん、しとく」
いまだキラキラと輝かせる瞳から、スッと視線を逸らした。
眩しいっつの!
「洗い物はお前がしろよ」
「う、…うん、する」
最後はなんとも怪しい返事で、締めくくられた。
静が洗い物をするのは、決して初めてじゃない。
過去何度も指導してやったんだから、いい加減ひとりでも大丈夫だろう。
多少の不安を交えながらもようやく人心地ついた俺は、電源が入りっぱなしのPCの前に座り込んだ。
いつもの如く、ソファは後ろにおいやって、床に直接だ。
「ふう、やっと続きができる」
最近増えたMAPを探索してるところでの、妙な発作。
そのせいで、クエストが途中だったのよね。
新たなMAPは雪国をイメージしていて、一面がほぼ銀世界というなかなかに美麗な景色だ。
吹雪なんかの演出もあって、ちょいと重いのが難点だがプレイに支障はない。
かなり聞きなれてきたBGMを聞くともなしに聞きながら、マウス右手にいざ。
MAPごとに曲は変わるが、この曲もなかなかいいねー。
単純な旋律を繰り返すだけだが、そのリズムは体に馴染みやすく、とてもノリがいい。
「フーンフフ、フーンフフ、フーンフフ……」
つか、ちょいアレンジ入ってるけど、どっかで聴いたような……。
「フーンフフ、フーンフフ、フーンフフ……」
なんかこう、ダンスのイメージだよな。
つっても、往年の、往年……?
「こ、これか! これが原因か!!」
再び猛然と立ち上がり叫ぶ俺を、手を拭き拭き現れた静が、呆然と眺めていた。
貴様か! 貴様のせいだったのか!
俺があれほどに、北の大国の料理が食いたくなった原因は、貴様のせいだったのか!
そもそもは学校で使われるフォークダンスの曲として広く世間に知れ渡った、貴様!
その後、恐ろしく単調なくせに嵌る人続出で大量の寝不足による遅刻者を生み、某大国秘密警察の陰謀だったんじゃないかとまで言われた、あのゲームのBGMとしても有名になった、貴様!
「この曲のせいで、俺は!」
「コロブチカ…?」
そう、コロブチカ――!!
俺が答えをはじき出す前に、あっさりとそれを言葉にした静を、目一杯睨みつけてしまった。