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単発もの

[期待セズニハイラレナイ-晃-]


ただ眠って過ごしていた。
正確には少し違う、か。
暖かくて心地好く、暗くて狭いその空間で、ただ曖昧に漂っていただけのこと。

ある日、現状を把握しようと薄らと瞳を開けてみた。
すぐに液体に曝されたが、特に不快感など込み上げない。
ただ光が無いことが残念だった。

ある日、大量のナニかが入り込んできた。
こわい、コワい、イヤ。
叫んだのに、その大量のナニかは止まることなく、ワタシという存在を犯しはじめた。

たくさんのナニか。
それは記録なのだと"思い出す"。

でも、恐い。
もういらない、小さな私には入りきらない。
だから、もう送らないで。

そう訴えても、やはり止まらない。
恐怖でうろたえる私を、記憶の中の人たちが哀しげに見詰めていた。

思い出せと、彼らは言う。
自分を守る方法を、しっかりと思い出せと。

なんて無茶を言うのだろうと憤慨した。

私は、まだ世にも出ていない胎児ではないか。
そんな私が、いったい何を思い出せばいいのか。
私に如何ほどの記憶があると思っているのか。

十を過ぎているならともかくも、どうしてイマ、このような物を背負わされるのか。
私の器はまだ未熟。
貴様らのすべてなど、私の中に収め切れるものか!

腹立たしくて、口惜しくて、だから私の中から追い出してやった。
勝手に出てこないよう、しっかりと閂もかけておく。

ようやく静かになった胎内で、まだ見ぬ母と、既に亡い父の姿にほうっと吐息を漏らした。
とても愛らしいお姿に、お二人の血を受け継ぐ私もさぞや……そう期待せずにはいられない。
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