ひねもすのたりのたり
[ひねもすのたりのたり1-1]
暇さえあればアーちゃんの部屋に集まるキラキラ会会員たち。
これといってなにか活動してるわけではなく、敢えていうなら、皆が皆好き勝手に行動するのが、この会の活動内容だ。
今日も今日とて閑人どもは、完全な溜まり場と化したアーちゃんの部屋にて、各自自由にすごしている。
アッキーは読書に夢中で、アーちゃんはPC相手にブツブツ文句を言い、アキは撮り溜めしておいた深夜アニメに……のはずが、今日はアイマスクもなくしっかりと起きているアキラと、宿題をほぼ終わらせたアッくんの傍らで、なにやら興味津々な様子でジッとしていた。
「ロシアンキャンディー?」
「はい、この間アーちゃんと街に出かけた折、買ってまいりました」
「う、あ?」
飴をくれるというから期待して待っていたというのに、アキラの言葉にアキは若干嫌な予感がしてしまう。
そんなアキの不安など気にした様子もなく、アキラはいそいそと小さな袋を取り出した。
見た目は極普通のキャンディーの袋といった感じだ。
「この袋の中には飴が5個入っておりますが、内1個は激辛キャンディーなのです」
キャンディーの入った袋を手渡しながら、アキラはニコニコとご機嫌な様子だ。
いったい何がそれほど楽しいのか、アキにはさっぱり理解できない。
見れば、アッくんのほうは、さもおかしそうにププッと笑顔になっている。
「これ、アキラたちも食べたの?」
「はい、さきほどアーちゃんと二人で食しましたが、初回にして見事にアーちゃんが引き当てました」
「だから今日は、不機嫌なんだね」
PCに独り言を呟くことは多々あるが、今日のアーちゃんは眉間に深い皺を刻みながら、なんとも口汚い言葉ばかりを吐いている。
「タヒね」「ヌッコロす」「爆発しろ」等々、とにかく耳障りなことこの上ない。
しかし、その原因が激辛キャンディーを食べたことにあるならば、アキは深く同情はするものの、たしなめる気にはならなかった。
「ふふ、アーちゃんはくじ運が無いのです。アッくんもぜひ挑戦なさってください」
「あはは、ありがとう」
事も無げにそんなことを言うアッくんは、この危険極まりない飴を食す気満々なようだ。
だが、アキはできれば、いや、絶対に遠慮したい。
甘いキャンディーは大好きだが、5個の内1個は確実に激辛となれば、話は別だ。
5分の1とはいえ、いつかは必ずハズレを引くということではないか!
「アキも、ぜひどなたかとお試しになってくださいね」
にっこりと聖母のように微笑みながら、空恐ろしい食べ物をアキに勧める残酷極まりないアキラ。
しかし、ここではたと気付かされた。
そうか、これはアキが食べてびっくりどっきりする代物ではないのだ、この恐ろしい凶器は、他者に向けて使用することに意味があるのだと。
となれば話は変わる。
自分が味わうならともかくも、他人が激辛キャンディーに悶絶する姿は、単純におもしろいではないか。
「あい、ありがと、なのよ」
さて、誰に使うかと、今から胸がワクワクしてきた。
普段無表情で無愛想な同居人に使用するのもいいかもしれない。
もしくは、いつもアキを小馬鹿にする相手に、二度目の屈辱を味わわせるのもいい。
数はたったの5個しかなく、通常の甘い飴の内1個だけでも自分がなめたい、となると使えるのはたったの4個。
時間はたっぷりとあるのだから、ここはじっくりと考えるのが手だと、アキは小さな袋をギュッと握り締めた。
「今度、裕輔さんと挑戦してみるよ」
普段はこの上なく温厚で、誰に対しても優しさに溢れている少年をも、そのような残虐な行為に走らせるとは、なんとも恐ろしい飴だとアキはひとり胸の内でごちた。
暇さえあればアーちゃんの部屋に集まるキラキラ会会員たち。
これといってなにか活動してるわけではなく、敢えていうなら、皆が皆好き勝手に行動するのが、この会の活動内容だ。
今日も今日とて閑人どもは、完全な溜まり場と化したアーちゃんの部屋にて、各自自由にすごしている。
アッキーは読書に夢中で、アーちゃんはPC相手にブツブツ文句を言い、アキは撮り溜めしておいた深夜アニメに……のはずが、今日はアイマスクもなくしっかりと起きているアキラと、宿題をほぼ終わらせたアッくんの傍らで、なにやら興味津々な様子でジッとしていた。
「ロシアンキャンディー?」
「はい、この間アーちゃんと街に出かけた折、買ってまいりました」
「う、あ?」
飴をくれるというから期待して待っていたというのに、アキラの言葉にアキは若干嫌な予感がしてしまう。
そんなアキの不安など気にした様子もなく、アキラはいそいそと小さな袋を取り出した。
見た目は極普通のキャンディーの袋といった感じだ。
「この袋の中には飴が5個入っておりますが、内1個は激辛キャンディーなのです」
キャンディーの入った袋を手渡しながら、アキラはニコニコとご機嫌な様子だ。
いったい何がそれほど楽しいのか、アキにはさっぱり理解できない。
見れば、アッくんのほうは、さもおかしそうにププッと笑顔になっている。
「これ、アキラたちも食べたの?」
「はい、さきほどアーちゃんと二人で食しましたが、初回にして見事にアーちゃんが引き当てました」
「だから今日は、不機嫌なんだね」
PCに独り言を呟くことは多々あるが、今日のアーちゃんは眉間に深い皺を刻みながら、なんとも口汚い言葉ばかりを吐いている。
「タヒね」「ヌッコロす」「爆発しろ」等々、とにかく耳障りなことこの上ない。
しかし、その原因が激辛キャンディーを食べたことにあるならば、アキは深く同情はするものの、たしなめる気にはならなかった。
「ふふ、アーちゃんはくじ運が無いのです。アッくんもぜひ挑戦なさってください」
「あはは、ありがとう」
事も無げにそんなことを言うアッくんは、この危険極まりない飴を食す気満々なようだ。
だが、アキはできれば、いや、絶対に遠慮したい。
甘いキャンディーは大好きだが、5個の内1個は確実に激辛となれば、話は別だ。
5分の1とはいえ、いつかは必ずハズレを引くということではないか!
「アキも、ぜひどなたかとお試しになってくださいね」
にっこりと聖母のように微笑みながら、空恐ろしい食べ物をアキに勧める残酷極まりないアキラ。
しかし、ここではたと気付かされた。
そうか、これはアキが食べてびっくりどっきりする代物ではないのだ、この恐ろしい凶器は、他者に向けて使用することに意味があるのだと。
となれば話は変わる。
自分が味わうならともかくも、他人が激辛キャンディーに悶絶する姿は、単純におもしろいではないか。
「あい、ありがと、なのよ」
さて、誰に使うかと、今から胸がワクワクしてきた。
普段無表情で無愛想な同居人に使用するのもいいかもしれない。
もしくは、いつもアキを小馬鹿にする相手に、二度目の屈辱を味わわせるのもいい。
数はたったの5個しかなく、通常の甘い飴の内1個だけでも自分がなめたい、となると使えるのはたったの4個。
時間はたっぷりとあるのだから、ここはじっくりと考えるのが手だと、アキは小さな袋をギュッと握り締めた。
「今度、裕輔さんと挑戦してみるよ」
普段はこの上なく温厚で、誰に対しても優しさに溢れている少年をも、そのような残虐な行為に走らせるとは、なんとも恐ろしい飴だとアキはひとり胸の内でごちた。