平凡君の日々彼此
[平凡君の日々彼此2]
「この間は、僕の説明の仕方がまずかったと、反省いたしました」
出だしからやけに神妙な様子のアキラに、首を捻った。
場所はアーちゃんの部屋。
アーちゃんはいつも通りにPCに夢中で、僕は宿題を片付けている最中です。
「アーちゃんにも雅人にも、注意されましたので、ここは素直に自分の非を認めたいと思います」
「あ、えっと、なんの、こと……?」
ひょっとして、微妙にお詫びされてるのかな?
その割りには、渋々って感じだけど……。
「この間のことですよ」
「えっと、この間って…?」
「ですから、この間アッくんに説明した肛門性交のことです」
「こっ、ここ、えええええっ、ちょっ、なに、突然、なに!?」
驚くほど真面目な顔つきで、こ……、とか、なんで平気で言えるの!?
見れば、アーちゃんの背中が小刻みに震えていた。
PCに向かっているその表情は、僕からはまったく確認できないけど、絶対に笑ってる。
いや、笑いを堪えてるんだ。
「言葉で説明などと、僕が浅はかだったと反省いたしました。本当に申し訳ありませんでした」
「あ、えっと、そんなことは……」
あぁ、どうしよう、また何かとんでもないことを言い出すんじゃないだろうか。
「あれから考えてみたのですが、一番良いのはやはり目からの情報だと思うのです」
「あ、あのね、アキラ、」
「動画というのが一番良いとは思ったのですが、いきなり現実を直視すると引く可能性がある、とアーちゃんに言われましたので、まずは絵から入るのが無難かと」
「えっと、ちょっと、アキラ、」
「アッくんは読書好きですので、小説もおすすめしたいところですが、アーちゃんの助言によりますと、初心者は図解入りのほうが親しみを持てると言う事なので、まずは漫画からいきましょう」
とても優しい口調で、もしかして親切心たっぷりで教えてくれてるのかもしれないけど、なんだかあまり嬉しくない提案のような気がする。
しかも、ところどころに"アーちゃん"という響きが混じっていて、余計に不安がつのります。
「あ、あのね、聞いて、」
「大変喜ばしいことに、アッくんがお知りになりたい男性同士の性交渉が描かれた作品は、数限りなく存在いたします。ですが、多すぎると選択に困るのも現実で、ここはアーちゃんからの提案を受けて、同人誌をご用意することにいたしました」
「ど、同人誌って、"ホトトギス"とか"アララギ"みたいな、グループで出す雑誌だよね」
俳句とかのイメージがあるんだけど、漫画もあるってことなのかな?
「よくご存知ですね。さすがはアッくんです。幸運なことに、茜さんが同人作家をなさっておりまして、アーちゃんの元には彼女の創り上げた作品が、毎度のごとく送られてくるのです。そして、ついさきほど、新刊ができたということで、こちらに到着した作品がございます」
まったく理解はできないけど、茜さんの部分だけは聞き取れました。
アーちゃんの育ての母で、性格がとっても似通っている、あの気さくな女性だよね。
そっか、趣味で本を出してるのか……なんだか、すごいな。
「できたてホヤホヤで、まだ中身は拝見しておりませんが、過去の作品から鑑みて、おそらく王道的な学園18禁物だと思われます」
なんだかよく分からない単語が出たけど、数字も出てきたような。
アキラはいまだ状況を把握しきれない僕を置き去りに、颯爽と茶色い封筒を差し出してくれた。
受け取ろうとする僕の手が、小刻みに震えているのが、とても不思議だった。
手の平に乗せられたA4サイズの封筒は、驚く程に厚さがなくて、僕の知ってる漫画とは、かなりサイズが違うみたいだ。
「中には薄くて高い本が二冊入っております。一冊は茜さんの作品で、もう一冊は同じサークルの方の作品だそうです。今度のコミケには、久しぶりに二人で参加できると、大変よろこんでおられました。あ、いらない情報でしたね」
一仕事終えたかのように清清しい微笑みを浮かべ、解読不能の単語を並べ立てるアキラに、どう返事をしていいかが分かりません。
ずっと下を向いているアーちゃんの背中が、いまもって震えているのは気にはなったけど、せっかくのアキラの親切心だもの、ここはちゃんとお礼を言うべきだよね。
「え、えっと、ありがとう、アキラ…」
「はい、他にもたくさんありますので、それが終われば次の物もご用意いたしますね。どうぞ、今後の参考になさってください」
あれ、なんの参考にするんだっけ?
あ……そ、そうだった、男性同士の、ごにょごにょ……のためだったんだ。
つまり、この封筒の中には、そういう類のものが入ってるわけで……。
封筒を握る手の平が、じっとりと湿ってきたのは、きっと気のせいなんかじゃないだろう。
読まずに返すというのは、ありなんだろうか。
ふと、そんな考えが脳裏に浮かんだ。
だけど、アキラの笑顔を見ているうちに、そんなことを考える自分が恥ずかしくなってきた。
彼は、僕のためにと、真剣に、そして親身になって考えてくれてるんだ。
その気持ちを平気で踏みにじろうとするなんて……。
彼の真心の詰まった封筒を、胸にしっかと抱き締めて、
「部屋に戻ったら、ちゃんと読むね」
アキラが嬉しそうに破顔してくれたのが、唯一の救いです。
「あ、アーちゃん、携帯が鳴ってますよ」
「んー? こんな時間に誰よー。……はいはい……荷物ならちゃんと着いたって。……ああ、うん、ほー、……げっ、嘘! マジっすか……あ、うんうん、はいはい。了解ー」
「茜さんですか」
「うん、……なんかさー、今回の……」
「どうかなさいましたか?」
「いやー、今回の同人誌……鬼畜監禁陵辱物だったらしい……」
「……」
「この間は、僕の説明の仕方がまずかったと、反省いたしました」
出だしからやけに神妙な様子のアキラに、首を捻った。
場所はアーちゃんの部屋。
アーちゃんはいつも通りにPCに夢中で、僕は宿題を片付けている最中です。
「アーちゃんにも雅人にも、注意されましたので、ここは素直に自分の非を認めたいと思います」
「あ、えっと、なんの、こと……?」
ひょっとして、微妙にお詫びされてるのかな?
その割りには、渋々って感じだけど……。
「この間のことですよ」
「えっと、この間って…?」
「ですから、この間アッくんに説明した肛門性交のことです」
「こっ、ここ、えええええっ、ちょっ、なに、突然、なに!?」
驚くほど真面目な顔つきで、こ……、とか、なんで平気で言えるの!?
見れば、アーちゃんの背中が小刻みに震えていた。
PCに向かっているその表情は、僕からはまったく確認できないけど、絶対に笑ってる。
いや、笑いを堪えてるんだ。
「言葉で説明などと、僕が浅はかだったと反省いたしました。本当に申し訳ありませんでした」
「あ、えっと、そんなことは……」
あぁ、どうしよう、また何かとんでもないことを言い出すんじゃないだろうか。
「あれから考えてみたのですが、一番良いのはやはり目からの情報だと思うのです」
「あ、あのね、アキラ、」
「動画というのが一番良いとは思ったのですが、いきなり現実を直視すると引く可能性がある、とアーちゃんに言われましたので、まずは絵から入るのが無難かと」
「えっと、ちょっと、アキラ、」
「アッくんは読書好きですので、小説もおすすめしたいところですが、アーちゃんの助言によりますと、初心者は図解入りのほうが親しみを持てると言う事なので、まずは漫画からいきましょう」
とても優しい口調で、もしかして親切心たっぷりで教えてくれてるのかもしれないけど、なんだかあまり嬉しくない提案のような気がする。
しかも、ところどころに"アーちゃん"という響きが混じっていて、余計に不安がつのります。
「あ、あのね、聞いて、」
「大変喜ばしいことに、アッくんがお知りになりたい男性同士の性交渉が描かれた作品は、数限りなく存在いたします。ですが、多すぎると選択に困るのも現実で、ここはアーちゃんからの提案を受けて、同人誌をご用意することにいたしました」
「ど、同人誌って、"ホトトギス"とか"アララギ"みたいな、グループで出す雑誌だよね」
俳句とかのイメージがあるんだけど、漫画もあるってことなのかな?
「よくご存知ですね。さすがはアッくんです。幸運なことに、茜さんが同人作家をなさっておりまして、アーちゃんの元には彼女の創り上げた作品が、毎度のごとく送られてくるのです。そして、ついさきほど、新刊ができたということで、こちらに到着した作品がございます」
まったく理解はできないけど、茜さんの部分だけは聞き取れました。
アーちゃんの育ての母で、性格がとっても似通っている、あの気さくな女性だよね。
そっか、趣味で本を出してるのか……なんだか、すごいな。
「できたてホヤホヤで、まだ中身は拝見しておりませんが、過去の作品から鑑みて、おそらく王道的な学園18禁物だと思われます」
なんだかよく分からない単語が出たけど、数字も出てきたような。
アキラはいまだ状況を把握しきれない僕を置き去りに、颯爽と茶色い封筒を差し出してくれた。
受け取ろうとする僕の手が、小刻みに震えているのが、とても不思議だった。
手の平に乗せられたA4サイズの封筒は、驚く程に厚さがなくて、僕の知ってる漫画とは、かなりサイズが違うみたいだ。
「中には薄くて高い本が二冊入っております。一冊は茜さんの作品で、もう一冊は同じサークルの方の作品だそうです。今度のコミケには、久しぶりに二人で参加できると、大変よろこんでおられました。あ、いらない情報でしたね」
一仕事終えたかのように清清しい微笑みを浮かべ、解読不能の単語を並べ立てるアキラに、どう返事をしていいかが分かりません。
ずっと下を向いているアーちゃんの背中が、いまもって震えているのは気にはなったけど、せっかくのアキラの親切心だもの、ここはちゃんとお礼を言うべきだよね。
「え、えっと、ありがとう、アキラ…」
「はい、他にもたくさんありますので、それが終われば次の物もご用意いたしますね。どうぞ、今後の参考になさってください」
あれ、なんの参考にするんだっけ?
あ……そ、そうだった、男性同士の、ごにょごにょ……のためだったんだ。
つまり、この封筒の中には、そういう類のものが入ってるわけで……。
封筒を握る手の平が、じっとりと湿ってきたのは、きっと気のせいなんかじゃないだろう。
読まずに返すというのは、ありなんだろうか。
ふと、そんな考えが脳裏に浮かんだ。
だけど、アキラの笑顔を見ているうちに、そんなことを考える自分が恥ずかしくなってきた。
彼は、僕のためにと、真剣に、そして親身になって考えてくれてるんだ。
その気持ちを平気で踏みにじろうとするなんて……。
彼の真心の詰まった封筒を、胸にしっかと抱き締めて、
「部屋に戻ったら、ちゃんと読むね」
アキラが嬉しそうに破顔してくれたのが、唯一の救いです。
「あ、アーちゃん、携帯が鳴ってますよ」
「んー? こんな時間に誰よー。……はいはい……荷物ならちゃんと着いたって。……ああ、うん、ほー、……げっ、嘘! マジっすか……あ、うんうん、はいはい。了解ー」
「茜さんですか」
「うん、……なんかさー、今回の……」
「どうかなさいましたか?」
「いやー、今回の同人誌……鬼畜監禁陵辱物だったらしい……」
「……」