このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

アーちゃん■MMO日記

[アーちゃん■MMO日記8-4]


今まで一度も訪ねたことのない部屋に、いきなり押しかけるのも気が引ける。
しかも、それほど親しいわけでもなんでもないんだからな。
駄菓子菓子! ここで諦めるわけには行かないのだ。
なんせ、ガチャは月曜10時からのメンテで販売終了、今日は土曜だからタイムリミットまで今日を入れて3日しかないんだからな。

一旦特別棟に入り、そのまま一階の渡り廊下を進んでいく。
え? どこに向かってるかって? そんなの決まってるでしょ、役員用の棟以外どこに行くっての。

暫く行けば、見えてきました、おおげさなパネル。
目的の部屋番号を入力して、と。

『はいはーい』

うわ、軽っ!

「えっとー、アキラ、アッキー、アキ、アッくんの大親友の高橋君でーす」

『は?』

は? じゃねーっつの、さっさと開けろ!

「だからー、アキラ、アッキー、アキ、アッくんの大親友の高橋君ですよー。イケメン会計様、開けてくんない?」

『え、なんで?』

なんで? じゃねーよ!

「いいか、よく聞け。今4人は最大の危機に直面してるんだ。それを解決できるのはおめーしかいねーの。だから、開・け・ろ」

『き、危機!? マジで!?』

「マジマジ、だからとっとと開けろっての」

ほんの少しトーンを落とせば会計の奴は勝手に焦りだし、すぐに扉を開いてくれた。
よしよし、第一段階完了だ。

「危機って何!? 伊藤に何があったの!?」

「わわわ」

うわっ、うぜぇっ!
会計のアホめ、部屋に到着した瞬間、すんごい勢いで俺に迫ってきやがった。

「ちょちょ、落ち着けって」

「晃は!? チビちゃんは!? ナベちゃんは!?」

ったく、アッくんのこと平凡なんて言ってたやつが、今じゃこれだもんね。
人って変われば変わるものなのね、の見本だ。

とりあえずは、真っ青な顔で俺に詰め寄る会計を引き剥がし、だだっ広いリビングにお邪魔する。

「ちょっと、高橋! 危機ってなによ、早く言えっての!」

なんだよ、茶も出ないのかよ、ここは。
学生寮に必要かどうか甚だ疑問の立派なソファに座ってみても、一向に水すら出てこないとは、サービス精神のない奴だなー。

「高橋! あ、チビちゃんにメールすればいいのか」

おっと、それはまずいぞ。

「おい会計、××屋って店知ってる?」

「は、え? ××屋? どっかで聞いたような……あぁ、和菓子の老舗か」

「そそ、それそれ!」

「じいちゃんが贔屓にしてるけど、それがなに?」

「うっそ! まじで!? さすが地元、俺の判断に間違いはなかった」

「へ?」

「いいか、あいつらを救うためには、お前の力が必要なんだ。だから今から俺が言うとおりのことをしろ」

「お、おう」

普段とは違う俺の雰囲気に、会計は些か緊張気味だ。
ごくりと唾を飲み込んで、俺の言葉を待っている。

「まず、そのじいちゃんとこに連絡して、××屋の○○プリン2個セットをすぐに手配させろ」

「は?」

「それを、秘書でもなんでもいいから、誰かに持たせて、すぐに新幹線に乗せるんだ。いいか、ここで大事なのは、決して宅配にしないってことだ。キチンとクーラーボックスに入れて、のぞみに乗せろ」

「ちょちょちょ、待て待て」

「必要なのはとにかくスピードだ。期限は明日の昼まで、分かった?」

「ちょっと待てっつの! さっぱり意味がわかんねーんだけど」

「なんで分かんないのよ? おめー頭良いんだろーが」

「あのなー、伊藤たちの危機とプリンに、なんの関係があるわけ?」

「関係なんてめっちゃあるっつの! いいか、そのプリンが手に入らなかったら、まずはアキラが栄養失調で倒れるんだ」

「えっ、嘘、マジで!?」

「うんうん、マジマジ。で、アキの血管がブチギレて、おそらくぶっ倒れる」

「なんで、チビちゃんが!?」

「んで、そんな二人を見たアッくんが、心労のあまり睡眠不足に陥り、これまたぶっ倒れるわけだ」

「げっ!」

「だから、おめーは必ずプリンを手に入れないとなんないわけ。それこそ藤村の名前ガンガン使ってでもね。分かったー?」

「わ、かった……あ、でも伊藤は?」

「へ、アッキー?」

「伊藤には何も起こらないってこと?」

しまった、何も考えてなかったぞ。
アッキーが心労で倒れる? ナイナイ。
栄養失調? ムリムリ。

「ア、アッキーは……」

「うんうん、伊藤は?」

「アッキーは……さらに無表情になって、もっと無口になるんだ!」

「げっ、駄目。それ絶対駄目!」

「でしょー。だからね、××屋の○○プリン絶対ゲットするよう、じいちゃんに頼んでね」

「よっしゃ了解した! 俺に任せろ!」

「おっ、頼りになるねー。さすが我が学園の会計様だ」

「それ、明日の昼までにチビちゃんとこ持ってけばいいの?」

「あ、駄目。メルアド教えるから、まずは俺に連絡してちょーだい。それと、このことは絶対に誰にも言わないように」

「なんでよー。俺が用意して持ってけば、チビちゃんたち喜んでくれるっしょ」

馬鹿野郎! てめーを利用したことがアキラたちにばれたら、何言われる分かったもんじゃねーぞ!

「あ、と、これは言いたくなかったんだけどー」

考えろ考えろ、こいつに秘密を守らせる方法を考えるんだ、俺!

「実はさー、アッキーのためなのよねー」

「え、伊藤のため?」

「そそ、まぁ色々あって、アッキーがアキのプリン駄目にしちゃったからさー、なんとかしたいって泣き付いてきたのよねー」

「嘘!? マジで!?」

「うん、マジマジ。でもさー、あのアッキーが俺に泣きついた、なんてことが他にばれたら、あいつ切腹しそうでしょー」

バ会計は、なにやら深く考え込んでいる様子。
頼むから、正気に戻ったりするなよー。

「うん、絶対しそう……」

よっしゃ、キターーーー!www

「だからー、人知れず片付けたいのよね。アッキーは俺の大切な友人だからさ」

「そっかー、お前いいとこあるじゃん」

「でしょー。だから、到着したら絶対俺んとこに連絡するよーに。ほんで、このことは絶対に秘密な」

「うんうん、了解ー。んじゃ、じいちゃんとこ連絡するわ」

「うんうん、お願いねー。あ、絶対に手に入れてくれよ、明日の昼までに」

ちゃんと念を押しとかないとな。

「任せろっての、うちは超お得意様よー。茶会のたびに大量に注文してるしねー」

「そかそか、後は任せた!」

既に携帯を取り出したバ会計をよそに、俺は早々に退室することにした。
結局水すら出なかったが、まぁ目的は達成したことだし、それはそれでいいだろう。

「あれ、でも、なんで晃が栄養失調になんの?」

「じゃー、(バ)会計様! アッキーのためによろしくねー」

「お、おう、任せろ!」

ミッションコンプリート!!
11/33ページ
スキ