このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

単発もの

[学園小話1-3]


俺は中等部からの持ち上がり組だ。
そういう意味では、高橋との付き合いは長いと言える。
実際交流を持ったのは中学一年の頃だが、親密になったのは中学二年のとき。
それまでの俺は、どうということはないその他大勢でしかなかっただろう。

中等部の入学式が終わってすぐ、俺は新聞部に入部した。
報道に興味があったわけじゃない。
そもそもうちの新聞部は、自ら生徒会の下請けを名乗るほどに落ちぶれていた。
入部してからそのことを知り、ショックのあまり机を蹴飛ばし暴れたけどね。
部長にはプライドはないのかとか、真実を伝えるのが新聞部の役目だとか、さも少年漫画の主人公のようなことを声高に叫んだのは、今となってはただの黒歴史でしかない。

恥ずかしくて堪らない過去だが、白状しちゃうと、あのときの俺は生徒会の不正を暴くつもりでいた。
権力の中枢が、清廉潔白でないのは世の慣わしだ。
疚しいことをやらかしてるだろうし、脛に傷なんかわんさとあるはず。
それらを白日の下に晒す俺、かっけーとか考えてたんだよ。
そのための言葉選びも忘れなかった。
社会正義だとか倫理観だとか、弱者が強者が平等がーとか、etc.etc.
人々が好む麗句を並べ立て、俺に都合よい日常を作り上げようとしてたんだ。

まず目を付けたのは、予算。
金持ち学校の生徒会が、予算を悪用するのは慣習だよね。
優秀な会計様が完璧な決算書を作り上げるが、探せばいくらでもボロが出ると思ってた。
結果だけ言えば、頓挫したんだけどね。

あの人たちってさ、巧みなんだよ。
なにがって?
人心を操る手段ってのかな。
つまるところ、莫大な予算の大半をあの人たちで消費してるんだけど、下々にもたっぷり恵んでくださってたというわけだ。
還元とか循環とか、そういうことにえらく神経尖らせてんだよね。
そりゃあね、十分な恩恵があれば、不満も不信も根付かないよな。
暴くとか晒すとかの活動力ってのはね、ズバリその不満不信にあるんだよ。

誰も不満を抱かない世界で、俺が彼らへの不満を煽れば、それは世界に敵対するのと同義だ。
それが正義、それが平等、なんて戯言は通じない。
誰もが潤うシステムを破壊しようする俺は、悪党なんだからな。
正義は、役員にありってことだ。
巧いよな、ホント。
これを何十年と保ってんだから、マジで気持ち悪い集団だ。

ここは、国だ。
君主制を掲げる、小さな国家。
行過ぎた締め付けは、国民の不満となる。富の独占は、不信を招く。
そして、行過ぎた平等救済は、国家の弱体化に繋がるんだ。
毎年替わる王と施政者。だが、このシステムは変わらない。
過去には、失敗した王もいたことだろう。
危うく潰しかけた王も、いたかもしれない。
それでも、どうにかこうにか崩壊することなく続いていやがる。

『正義なんてね、時と場所と人で、都合よく変わるもんなんだよ。お前だって使い分けてるだろ』

そう言ったのは、高橋だった。
あれは、そう、中一のときだ。
俺は残念ハーフ人見と同室で、人見が友人として連れてきたのが高橋昭だった。

初対面での印象は、チビ。
つっても、身長は同じくらいだったが、顔の大きさが俺や人見の半分くらいしかなくて、なんとなく小さいというイメージを持った。
容姿は、可愛いなと思った。
年上のお姉さんに受けそうだなとか、人見じゃなくても言いそうな顔立ちだった。
話してみると明るくて感じがよくて、嫌味もジョークの一環として流せる範囲、しかも多趣味だったことから、総じて付き合いやすかった。

その頃の俺は、報道の名の下に役員の不正を暴くのに必死だった。
よく分からない議事録を読んだり、決算書や予算案をつぶさに確認したり、こそこそ調べたりと、いつかは大スクープをなんて夢見てた。
どうしてそんなことをするのか、と不思議そうに尋ねたのは高橋で、俺こそ不思議な面持ちで正義だなんだの常套句を叫んだのだ。
今思い出しても、恥ずかしい。
結局は自分の浅はかさに気付いたわけだが、じゃあ大人しくなったかというとそうではなく、方針転換をしただけだった。

そもそも俺に、信念なんかない。
あったのは、思春期特有の苛立ちと逃避、そして自己主張だ。
発散できるなら、なんでもよかった。
それこそ、バイク盗んで窓ガラスでも割ってればよかったのに、俺の対象は役員へと絞られていた。
特に、東峰会長に。
入学式で初めて見たときから、考えていた。
いつの日か、その高みから落としてやりたい。
そんなことに執着してたんだ。

東峰雅人が、とある生徒に執心してると気付いたのは、不正だなんだと騒ぐのを止めた頃。中一も終わりくらいだったかな。
俺は異様に鼻が利く。
そして、持ち前の勘の良さにも自信があった。
相手を知るのにそう時間はかからなかったが、相手が佐藤だと知ったときには、自分の成果でありながらも疑ったくらいだが。
だってさ、あの佐藤だぞ。
高橋の親友で学年首席で数少ない特待生ってことしか特徴のない、地味で冴えない佐藤だぞ。
性格なんか、お察し……の佐藤晃なんだぞ。
東峰会長がなんかの病に冒されてるんじゃないかって、本気で心配したよ。

まぁ、なんだ、結局俺は、佐藤と会長のことは公表しなかったんだけどな。
中一の終わりに知り、中ニになってもダンマリを決め込んだ。
理由はいろいろあったが、決定的な証拠がないのが大きかった。あと、佐藤晃が友人ってのも。

会長と佐藤なら、どちらが槍玉に昇るだろう?
そんなの決まってる、佐藤だ。
王に執着される平凡な庶民など、愚民どものかっこうの的ではないか。
どうせ写真一枚撮れてないし、このまま黙っとくほうがいいと思ってたってわけだ。

だがある日のこと、俺はとんでもない場面に出くわした。
突然佐藤が実家に帰り、続いて高橋までもが帰省したと聞かされてから、暫くたった日のことだ。
普段使用されない寮の裏門に大きな外車が停まり、中から高橋、東峰会長、そして佐藤の三人が降りてくるのを、授業をサボっていた俺が目撃してしまったんだ。
無意識に携帯のカメラを起動し、撮っていた。
仲睦まじく手を繋ぎ寮に入る、会長と佐藤の姿を。

そのとき脳内では、二つの思考がせめぎあっていた。
このまま見てみぬフリをするか、もしくは、これをネタに東峰雅人を脅すか。
天秤は、脅すほうへと傾いた。
9/10ページ
スキ