★キラキラ 仕舞章番外★
[東峰■東西候補]
比良坂にて、面をつける。
未だ正式な東ではない、そういう意味だ。
だから、隠す。
素顔を知られないように。
裏のモノたちに認められないうちは、表の姿を悟られぬよう、面で隠す。
「敦盛・・・か・・・」
そういえば、この『敦盛』の面は、正式には『十六』というんだったな。
16歳で亡くなった敦盛に因んでつけられた、面の名称。
「俺はまだ13・・・」
現在表の東西の、東を担っているのは、俺の父だ。
以前は祖父が担っていた役割。
このままいけば、次は俺になるのだろう。
自分でも確信している。
俺は、あの闇に何も感じない、動じない、ということを。
初めての集いは、小学生のときだった。
それと分からないほどに震える父、その横で何も動じることなく在った、俺。
父のことは尊敬している。
あの闇を真向から受け入れて、ほんの僅かの怯えしか見せない父を、敬う気持ちが益々生じた。
当然だろ。
目前で行われる惨劇に、怯えない、恐怖を感じない、そんな状態を普通保てるか?
もちろん、そんな行為に喜びを見出す、サイコパスは論外だ。
ただ無感動に、何も感じない、そんなお人形も、当然論外。
感じない動じない、そんな己自身を、また動じずに、確固たる己として認識できる者。
それが表の東西に相応しい人間。
堕ちて、狂い、そして何も感じなくなるというのは簡単なのだ。
だが、そこに行き着くことのない人間、それが東西であり、父だ。
そんな東西と裏のモノから、次期東となるべく、見定められているのが、今の俺。
そして、今日が、4度目の集いになる。
まだ、面を外すことを許されてはいない。
それは、認められていない、という証。
薄暗い闇の中、相対するのは、西。
今の西は、俺の幼馴染である葛西裕輔の父親だ。
そして小父さんの隣りには、俺と同じ面をつけた男、彼が次期西候補だろう。
俺が初めて面をつけたときから、奈落にて向き合っている。
初対面は俺が小学生のとき。
同じ背格好をしていたから、おそらくは同年代なのだろう。
一瞬葛西裕輔の顔を思い浮かべたが、それはすぐに消し飛んだ。
あの、真面目で融通の利かない男が、この闇に耐えられるわけがないのだ。
恐れはしないだろう。
しかし、全てを受け入れ、秘匿する、そんな己に是と言える奴ではないのだ。
そんな、潔癖で真正直な男。
幼い頃からなにかと競ってきたが、どうやらそれももう無理らしい。
ここにいない、それは葛西家当主の座に就くことはない、ということなのだから。
今日の裁定が終わったあと、また比良坂へと戻ってきた。
面を外し、上衣の襟を少し緩める。
少し大きめのサイズの上衣と袴は、俺の体型を隠すためのものだ。
ただそこに在り、捉えただけで、全てを記録してしまう、そんな総代から隠すため。
面と同じく、まだ東ではないモノの表の姿を隠す、そのためだけの、配慮。
「雅人」
西と共に、別室へと篭っていた父が、戻ってきた。
「はい」
「今から西が、後継を連れてこちらへ参る。面はつけなくてもいい」
幾分驚いた。
面をつけずに、西側の人間と対面する、それすなわち、
「西の御方に、認めていただけましたか」
父が一つ頷いた。
後継を連れて来るということは、父も西のモノを認めたということか。
「楽しみですね」
「そうだな」
普段は厳しい父も、さすがに口元を綻ばせている。
俺の幼馴染を蹴落とし、その当主の座につくモノの姿を拝見できるとは、なんという僥倖。
本当に、楽しみなことだ。
「葛西っ!?」
「東峰っ!?」
ほぼ同時に叫んでしまった。
奈落ではいざ知らず、比良坂にいる今、きっちりと切り替えができている。
つまり、動じもするし、驚きもするのだ。
それは、向こうも同様。
2人見詰めあい、呆然としてしまった。
「「お前だけは絶対ないと、」」
また同時。
チラッと親父たちを見ると、2人愉快げに茶を飲んでいる。
東西である2人は、後継の俺たちのことを、前もって伝え合っていたようだ。
くそっ、なんだかやられた感が募る。
「さて、ここは若いモノだけで」
「そうですな」
東である父の言を受け、西である小父さんが応えた。
これは、見合いかっ!
そして、東西2名が退室した部屋で、俺は葛西と暫し睨み合った。
「なんでお前みたいな馬鹿正直がここにいるんだ?」
「馬鹿正直とはなんだ、失礼だぞ」
馬鹿正直だから、馬鹿正直と言っただけだ。
葛西裕輔は、ほんっとに馬鹿がつくくらい、真直ぐなやつのはず。
「俺は動じない、感じない、それを恥とも思わないし、喜びもしない。だからといって、何も感じていないわけでもない。つまり、お前と同じだ」
そう、それが大事な条件。
堕ちない、動じない、無にもならない。
「は、ははは、結局またお前と競うのかよ」
「競うとはなんだ。共に高め合うと言え」
「たく、この真面目野郎め。そんなんで、汚いことができるのかねぇ?」
融通の利かないこの男が、今後俺たちの背負うものを、本当に理解してるのか不安になる。
「・・・・・・俺は、汚いなんて思ったことはないぞ。それはお前も同じだろ」
真直ぐに俺を射抜き、言い切りやがった。
「・・・ああ、俺はそんなこと思ったことはねぇ。・・・誇りとも思ってねぇがな」
「同感だ」
「はぁぁぁ、ま、あれだな。ここにいる、それだけで俺らの考えなんて一緒だってことだな」
「ああ、そうだな」
どうやら葛西との腐れ縁は、今後も続くようだ。
比良坂では、継埜のモノが世話してくれる。
茶と菓子を頼めば、すぐに持ってきてくれた。
もちろん、その間、面はつけているがな。
「東峰、お前はいつ寮に戻るんだ?」
「新役員どもは実家でなにやら色々あって、暫くは俺一人だからなぁ、早めに戻るか・・・・・・」
「新会長一人で入学式の準備か、せいぜい頑張れ」
「ちっ、お前も手伝えっ」
「無理だ、俺は俺で忙しいんだぞ」
たく、風紀委員長になんかなりやがって。
この春休みが終われば、俺たちは対極をなす存在として学園に君臨することになる。
こうやって、馴れ合っていられるのは、人目のない場所だけになっちまうんだ。
「ところで、葛西」
「なんだ?」
「お前は、あの香の匂いを聞いたことがあるか?」
葛西は、なんのことだか分からないという顔をした。
「ああ、あれか、精神に不安を感じると、薫ってくるという、あの香のことか」
「ああ、それだ。残念ながら、俺は一度も聞いたことがねぇ、お前はどうだ?」
「俺もないんだ。一度聞いてみたいんだがな」
比良坂初め、奈落にも充満している香。
表の人間のために、焚き染めている香は、恐怖と不安で、堕ちようとする者には、強く薫ってくるらしい。
その薫りで、精神を均衡に保ち、正常な判断をする手助けをしてくれるのだ。
しかし、あくまで手助けであり、精神弱く怯えしか抱かぬ輩には効かないと聞いた。
それを聞いたことがないなら、やはり葛西には西としての才があるってことだな。
もちろん俺もだが。
父は少しだけ薫るそうだから、俺と葛西が稀な存在なのだろう。
それから俺たちは、色々なことを話した。
初めてここに来たときの感想や、裏のモノたちの話。
現在の総代は、常に御簾の向こう側に存在し、その姿は影すらも窺えない。
言葉は長老を介し伝えられ、人物像が全く分からない謎の存在。
いや、謎ではないな。
確か、御歳58の老人だ。
そして、鷺視直系。
直系にしては、なんとも長生きしてくれている御方だ。
次代はまだいない。
次を担うべき雪客がいないならば、まだ大丈夫、ということだろう。
雪客は、総代が崩御する前には、必ず生まれるらしいからな。
そうやって、一代も途切れることなく、受け継いできたのだ。
なんとも、不思議な存在だ。
そして、奈落へと伺候することを許されている家、白儿と牟韻。
他にもあるが、その力を失いつつあるせいか、めったに呼ばれることはない。
だが、常に奈落に存在する、あの二家だけは、未だ強くその力を宿している。
現在の白儿家は、当主代理という爺さんが治めている。
牟韻家も同じく当主代理が治めている、こちらは婆さんだがな。
いずれは、本物の当主に会えるかもしれない。
「東峰、一つ取り決めをしないか」
「なんだ、いきなり」
「俺は、できるだけ表の住人を連れて来たくはない、そう思っている」
葛西の真摯な目。
表の住人を、稀にここへと招くことがあると聞くが、確かに表の者には良くない場所だろう。
できるだけ、それを避けたいと考える葛西に、俺も同感だな。
「ああ、そうだな、あまり表の住人を連れて来たくはねぇな」
「なら、俺たちが継いだ後は、極力表の者は連れて来ない。それでいいか?」
「異論はねぇ」
反対する理由もない。
東西であることに、不満も誇りもないが、それは俺たちが稀な存在だからだ。
普通に暮らす表の者に、理解させるなんて無理だからな。
「しっかし、あれだな」
「どれだ?」
「お前みたいな堅物が、西になるとはねぇ・・・いつか、大切な人ができたとしたら、その相手に秘密を持つことになるんだぜ」
この生真面目堅物人間が、愛する者に言えない秘密を持つなんて、できるのかねぇ?
「・・・恋人のことか? ・・・俺は恋人なぞ、つくらんぞ」
「はいはい」
「・・・・・・俺は、自分の立場を恥だとは思わない。しかし、普通の人には理解できないだろ。嫌われてしまうのもごめんだしな。だから、俺は大切な人なんていらないんだ」
「葛西・・・」
俺は、俺はどうするだろう。
母は父のことを全て知っている。
しかし、それも稀なことなのだろう。
普通の者に、俺たちが理解できるとは、到底思えない。
だったら、俺は語らない。
もし、愛する人ができたとき、俺は絶対の秘密を持つことになるのだ。
だが、葛西はそれをよしとしない、だから愛する者をつくらない。
なるほど、それも有りなんだろうな。
しかしな、葛西。
恋愛なんて、そんなもんじゃねぇと思うぞ。
どれほど強靭な意志があろうと、勝手に落ちていく。
そんなもんだと、俺は思うぞ。
こいつが落ちそうになったとき、香を焚けば案外効くかもしれねぇな。
大事な幼馴染の初志貫徹のために、香が手に入るか、あとで父に聞いてみるか。
比良坂にて、面をつける。
未だ正式な東ではない、そういう意味だ。
だから、隠す。
素顔を知られないように。
裏のモノたちに認められないうちは、表の姿を悟られぬよう、面で隠す。
「敦盛・・・か・・・」
そういえば、この『敦盛』の面は、正式には『十六』というんだったな。
16歳で亡くなった敦盛に因んでつけられた、面の名称。
「俺はまだ13・・・」
現在表の東西の、東を担っているのは、俺の父だ。
以前は祖父が担っていた役割。
このままいけば、次は俺になるのだろう。
自分でも確信している。
俺は、あの闇に何も感じない、動じない、ということを。
初めての集いは、小学生のときだった。
それと分からないほどに震える父、その横で何も動じることなく在った、俺。
父のことは尊敬している。
あの闇を真向から受け入れて、ほんの僅かの怯えしか見せない父を、敬う気持ちが益々生じた。
当然だろ。
目前で行われる惨劇に、怯えない、恐怖を感じない、そんな状態を普通保てるか?
もちろん、そんな行為に喜びを見出す、サイコパスは論外だ。
ただ無感動に、何も感じない、そんなお人形も、当然論外。
感じない動じない、そんな己自身を、また動じずに、確固たる己として認識できる者。
それが表の東西に相応しい人間。
堕ちて、狂い、そして何も感じなくなるというのは簡単なのだ。
だが、そこに行き着くことのない人間、それが東西であり、父だ。
そんな東西と裏のモノから、次期東となるべく、見定められているのが、今の俺。
そして、今日が、4度目の集いになる。
まだ、面を外すことを許されてはいない。
それは、認められていない、という証。
薄暗い闇の中、相対するのは、西。
今の西は、俺の幼馴染である葛西裕輔の父親だ。
そして小父さんの隣りには、俺と同じ面をつけた男、彼が次期西候補だろう。
俺が初めて面をつけたときから、奈落にて向き合っている。
初対面は俺が小学生のとき。
同じ背格好をしていたから、おそらくは同年代なのだろう。
一瞬葛西裕輔の顔を思い浮かべたが、それはすぐに消し飛んだ。
あの、真面目で融通の利かない男が、この闇に耐えられるわけがないのだ。
恐れはしないだろう。
しかし、全てを受け入れ、秘匿する、そんな己に是と言える奴ではないのだ。
そんな、潔癖で真正直な男。
幼い頃からなにかと競ってきたが、どうやらそれももう無理らしい。
ここにいない、それは葛西家当主の座に就くことはない、ということなのだから。
今日の裁定が終わったあと、また比良坂へと戻ってきた。
面を外し、上衣の襟を少し緩める。
少し大きめのサイズの上衣と袴は、俺の体型を隠すためのものだ。
ただそこに在り、捉えただけで、全てを記録してしまう、そんな総代から隠すため。
面と同じく、まだ東ではないモノの表の姿を隠す、そのためだけの、配慮。
「雅人」
西と共に、別室へと篭っていた父が、戻ってきた。
「はい」
「今から西が、後継を連れてこちらへ参る。面はつけなくてもいい」
幾分驚いた。
面をつけずに、西側の人間と対面する、それすなわち、
「西の御方に、認めていただけましたか」
父が一つ頷いた。
後継を連れて来るということは、父も西のモノを認めたということか。
「楽しみですね」
「そうだな」
普段は厳しい父も、さすがに口元を綻ばせている。
俺の幼馴染を蹴落とし、その当主の座につくモノの姿を拝見できるとは、なんという僥倖。
本当に、楽しみなことだ。
「葛西っ!?」
「東峰っ!?」
ほぼ同時に叫んでしまった。
奈落ではいざ知らず、比良坂にいる今、きっちりと切り替えができている。
つまり、動じもするし、驚きもするのだ。
それは、向こうも同様。
2人見詰めあい、呆然としてしまった。
「「お前だけは絶対ないと、」」
また同時。
チラッと親父たちを見ると、2人愉快げに茶を飲んでいる。
東西である2人は、後継の俺たちのことを、前もって伝え合っていたようだ。
くそっ、なんだかやられた感が募る。
「さて、ここは若いモノだけで」
「そうですな」
東である父の言を受け、西である小父さんが応えた。
これは、見合いかっ!
そして、東西2名が退室した部屋で、俺は葛西と暫し睨み合った。
「なんでお前みたいな馬鹿正直がここにいるんだ?」
「馬鹿正直とはなんだ、失礼だぞ」
馬鹿正直だから、馬鹿正直と言っただけだ。
葛西裕輔は、ほんっとに馬鹿がつくくらい、真直ぐなやつのはず。
「俺は動じない、感じない、それを恥とも思わないし、喜びもしない。だからといって、何も感じていないわけでもない。つまり、お前と同じだ」
そう、それが大事な条件。
堕ちない、動じない、無にもならない。
「は、ははは、結局またお前と競うのかよ」
「競うとはなんだ。共に高め合うと言え」
「たく、この真面目野郎め。そんなんで、汚いことができるのかねぇ?」
融通の利かないこの男が、今後俺たちの背負うものを、本当に理解してるのか不安になる。
「・・・・・・俺は、汚いなんて思ったことはないぞ。それはお前も同じだろ」
真直ぐに俺を射抜き、言い切りやがった。
「・・・ああ、俺はそんなこと思ったことはねぇ。・・・誇りとも思ってねぇがな」
「同感だ」
「はぁぁぁ、ま、あれだな。ここにいる、それだけで俺らの考えなんて一緒だってことだな」
「ああ、そうだな」
どうやら葛西との腐れ縁は、今後も続くようだ。
比良坂では、継埜のモノが世話してくれる。
茶と菓子を頼めば、すぐに持ってきてくれた。
もちろん、その間、面はつけているがな。
「東峰、お前はいつ寮に戻るんだ?」
「新役員どもは実家でなにやら色々あって、暫くは俺一人だからなぁ、早めに戻るか・・・・・・」
「新会長一人で入学式の準備か、せいぜい頑張れ」
「ちっ、お前も手伝えっ」
「無理だ、俺は俺で忙しいんだぞ」
たく、風紀委員長になんかなりやがって。
この春休みが終われば、俺たちは対極をなす存在として学園に君臨することになる。
こうやって、馴れ合っていられるのは、人目のない場所だけになっちまうんだ。
「ところで、葛西」
「なんだ?」
「お前は、あの香の匂いを聞いたことがあるか?」
葛西は、なんのことだか分からないという顔をした。
「ああ、あれか、精神に不安を感じると、薫ってくるという、あの香のことか」
「ああ、それだ。残念ながら、俺は一度も聞いたことがねぇ、お前はどうだ?」
「俺もないんだ。一度聞いてみたいんだがな」
比良坂初め、奈落にも充満している香。
表の人間のために、焚き染めている香は、恐怖と不安で、堕ちようとする者には、強く薫ってくるらしい。
その薫りで、精神を均衡に保ち、正常な判断をする手助けをしてくれるのだ。
しかし、あくまで手助けであり、精神弱く怯えしか抱かぬ輩には効かないと聞いた。
それを聞いたことがないなら、やはり葛西には西としての才があるってことだな。
もちろん俺もだが。
父は少しだけ薫るそうだから、俺と葛西が稀な存在なのだろう。
それから俺たちは、色々なことを話した。
初めてここに来たときの感想や、裏のモノたちの話。
現在の総代は、常に御簾の向こう側に存在し、その姿は影すらも窺えない。
言葉は長老を介し伝えられ、人物像が全く分からない謎の存在。
いや、謎ではないな。
確か、御歳58の老人だ。
そして、鷺視直系。
直系にしては、なんとも長生きしてくれている御方だ。
次代はまだいない。
次を担うべき雪客がいないならば、まだ大丈夫、ということだろう。
雪客は、総代が崩御する前には、必ず生まれるらしいからな。
そうやって、一代も途切れることなく、受け継いできたのだ。
なんとも、不思議な存在だ。
そして、奈落へと伺候することを許されている家、白儿と牟韻。
他にもあるが、その力を失いつつあるせいか、めったに呼ばれることはない。
だが、常に奈落に存在する、あの二家だけは、未だ強くその力を宿している。
現在の白儿家は、当主代理という爺さんが治めている。
牟韻家も同じく当主代理が治めている、こちらは婆さんだがな。
いずれは、本物の当主に会えるかもしれない。
「東峰、一つ取り決めをしないか」
「なんだ、いきなり」
「俺は、できるだけ表の住人を連れて来たくはない、そう思っている」
葛西の真摯な目。
表の住人を、稀にここへと招くことがあると聞くが、確かに表の者には良くない場所だろう。
できるだけ、それを避けたいと考える葛西に、俺も同感だな。
「ああ、そうだな、あまり表の住人を連れて来たくはねぇな」
「なら、俺たちが継いだ後は、極力表の者は連れて来ない。それでいいか?」
「異論はねぇ」
反対する理由もない。
東西であることに、不満も誇りもないが、それは俺たちが稀な存在だからだ。
普通に暮らす表の者に、理解させるなんて無理だからな。
「しっかし、あれだな」
「どれだ?」
「お前みたいな堅物が、西になるとはねぇ・・・いつか、大切な人ができたとしたら、その相手に秘密を持つことになるんだぜ」
この生真面目堅物人間が、愛する者に言えない秘密を持つなんて、できるのかねぇ?
「・・・恋人のことか? ・・・俺は恋人なぞ、つくらんぞ」
「はいはい」
「・・・・・・俺は、自分の立場を恥だとは思わない。しかし、普通の人には理解できないだろ。嫌われてしまうのもごめんだしな。だから、俺は大切な人なんていらないんだ」
「葛西・・・」
俺は、俺はどうするだろう。
母は父のことを全て知っている。
しかし、それも稀なことなのだろう。
普通の者に、俺たちが理解できるとは、到底思えない。
だったら、俺は語らない。
もし、愛する人ができたとき、俺は絶対の秘密を持つことになるのだ。
だが、葛西はそれをよしとしない、だから愛する者をつくらない。
なるほど、それも有りなんだろうな。
しかしな、葛西。
恋愛なんて、そんなもんじゃねぇと思うぞ。
どれほど強靭な意志があろうと、勝手に落ちていく。
そんなもんだと、俺は思うぞ。
こいつが落ちそうになったとき、香を焚けば案外効くかもしれねぇな。
大事な幼馴染の初志貫徹のために、香が手に入るか、あとで父に聞いてみるか。
