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★キラキラ 仕舞章番外★

[アーちゃん■いつかの未来]


ただただ白い、そんなイメージが付き纏うこの部屋は、一般のものとはかなり造りが異なっている。
簡単に言えば、無駄に高級な造りになっているのだ。
この建物の中でも、特別な人間だけが入れる特別な個室。

やってることは一般も特別も同じなんだけどね。

「・・・・・・ア、ちゃん・・・今、何時で、すか?」

「あ? ちょうど昼くらいよ、なに? 腹減った?」

「そ、ですか・・・・・・お腹いぱ、い・・・食べた、いです・・・・・・」

「だったらー、食べれるように、がんばりなー」

口元だけを緩め、男は目を閉じた。

真白のベッドの上に、折れそうなほどに細い腕、骨の浮き出た足。
痩せ衰えた身体に、いくつもの管をつけられ、ただ眠るだけの男。
俺は、周りを取り囲む電子機器の数字を確認し、カルテと睨みあいながら、側の椅子に腰掛けた。

「・・・・・・アー、ちゃ、お仕、事・・・行って」

寝てろ、ばーか。
目を開けずに話し出す男に、俺は心の中だけで悪態をついた。

「お仕事してるっしょ、俺ちょーまじめよ」

「・・・皆、待って・・・ます、腕の、良い・・・お医者さ、まを」

「ちゃんとやってるからだいじょぶよー、運痴くんは黙って担当医に従ってなさい」

「・・・・・・了、解、です」

そして、やっと静かになった。

将来は言語を学ぶ人間になると、なんとなく思っていたのは、中学のとき。
進路を変更し、医学部に入る決意をしたのは、高校のとき。
頭の中身は文系だが、もともと出来が良いから一発合格。
さすが俺様。
もちろん医師免許も一発でとりましたよ。
ほんと俺って天才だよなー

「さすが、アーちゃん」

なんて、アッくんにも尊敬の眼差しで見られちゃったし、わざわざ祝いの席まで設けてもらっちゃった。
ただ、皆がよくやったなどと賞賛を与える中、あいつだけは笑顔もなく俺を視てた。
俺の目的がわかっているから、だから喜ばしいことだと、皆と一緒に祝えなかったのだろう。

自分の"せい"で進路を変更した、とでも思っているんだろな。

だが、それは違うといくら言っても信じる奴じゃない。
だから俺は敢えて何も言いはしない。

ぶっちゃけ、進路変更を考えたのは、こいつが原因ではあるが、それは俺の"ため"だ。
奴が嫌がるのを承知で、だが俺は自分のためだけに、勝手にそうしたんだ。

それを、俺は敢えて言わない・・・・・・。

いつの間にか過去へと思いを馳せていた俺のPHSが、白衣の胸ポケットの中で震えていた。
珍しく、メールではなく、電話だ。

相手は、

「はいはいー、お兄さんよー」

奴を起こさないように、部屋を出てから応答する。

『アーちゃん、久しぶり。あのね、今から・・・そっちに、行っても大丈夫、かな?』

「どしたの急に?」

『うん、近くまで来たから、今日は会えるかな・・・て思って・・・』

「そっかそっか、うん、今日調子良いからだいじょぶよ。但し、ほとんど寝てるけどねー」

『うん、それでもいい。ちゃんと静かにしとくから・・・ただ、顔見たいだけだから・・・』

「んま、愛しちゃってるのねー、葛西に怒られるよー」

『もうっ! じゃ、もうすぐ着くからね』

「了解」

アッくんとの通話を切り、俺は再び病室へと足を踏み入れた。
ベッドに近づき、奴の口元に耳を近づける。
浅い呼吸音を確認する。
側を離れた後は、必ずそうする習慣がついちまった。
どうも、機械だけでは信用しきれないのが、俺だ。

しかし、医療の進歩は素晴らしい。
本来ならもっと前にやばくなっていたかもしれないこの男を、ここまで生き長らえさせているのだから。
ただ、ベッドに縛られ息をしているだけだが。

本当はこんなことこいつは望んでいない、そんなことは重々承知だ。
だが、こいつは何も言わずに俺に従う。
俺の未来を変えたと負い目を持っているから。
少しでも長く生きていて欲しいと、皆が望んでいるのを、知っているから。
だから大人しく縛られる。
ベッドに管に機械に、そして俺たちの想いに、縛られながらも必死で望んでもいない生にしがみついている。

そうだ、その負い目を持ち続けろ、自分の"せい"だと考え続けろ、それが唯一お前を生かす糧となるんだ。

アッくんが来たとき、こいつは少しだけ目を開けた。
眩しそうにアッくんを視て、嬉しそうに口元を綻ばせた。
言葉は発しなかったが。
そうしてまた、すぐに目を閉じた。

「会えたから、僕帰るね」

「ん、気つけてねー」

ほんの束の間の邂逅、それだけで満足したのか、アッくんは来たときとは対照的な表情をして帰っていった。
さて、今日の夕方には東峰がやってくるから、今のうちにたっぷり寝かせとくか。

夕暮れどき、病室のカーテンを閉めておく。
本来こういったことは看護士に任せるが、俺は極力自分でするようにしている。
現在俺が担当してるのは、こいつだけだから、それほど忙しくもないのよ。
あ、これ絶対こいつには内緒ね。

薄暗くなった部屋に、ほんの少しの明りを灯したころ、東峰がやってきた。
青年期をとうに終え、年経るごとに色気を増し、今では自信に満ち溢れた立派な壮年だ。
その美貌はまったく衰えずに、ますます磨かれていくものだから、こいつがよくぼやいていたのを思い出す。
今では東峰家の押しも押されぬ代表の男は、俺を確認すると一気に不機嫌な面になりやがった。
自分は仕事のせいで側にいられないのに、俺が付きっ切りなのが腹立つらしい。
本っっっっ当にうざいくらいの独占欲の塊だなっ!!

「面会謝絶にすっぞ」

「不良医者くらい、いつでも解雇できるぞ」

小声での応酬。

「「ふんっ」」

そしてお互い同時にそっぽを向いた。
東峰はそのままベッドへと近づき、俺は室内のソファに座り込む。
2人には悪いが、席を外す気はさらさらねー
いつ何時があっちゃ困るからな。
いつものこったから、あいつらも慣れてる。

東峰は俺と同様にまずは呼吸を確認し、指先でゆっくりと頬を撫でた。

「・・・・・・ま、さ、と」

小さな小さな声が聞こえた。
どうやら目が覚めたようだ。

「いい、寝てろ」

「・・・寝て、ばっか・・・です」

「それでも、寝てろ」

「・・・キ、ス・・・して、く・・・たら、寝・・・ま・・・す」

俺は知っている、東峰がそれを避けていることを。
こいつの呼吸を止めそうだと、恐れていることを。
案の定、東峰は、額に口付けただけのようだ。

「ちが、・・・それ、では、寝ま・・・せん」

「飯食えるようになるまで、お預けだ」

「も、ぅ・・・意、地・・・悪・・・です」

愛しげに、何度も何度も、頬や額に口付ける東峰。
東峰本人も望んでいる行為を、ただ恐れて避けさすのも気の毒だ。

「東峰ー、俺のことはいないと思ってちゅー、していいよー」

「な、なに言ってんだ、てめぇは」

「そ、ですよ・・・ア、ちゃ・・・いない、・・・思って」

「そうそう、気にしないでー、俺空気になっとく」

「ま、さと・・・・・・して・・・」

東峰、我慢などする必要はないんだ。
こいつ自身が望んでいる、お前も望んでいる、敢えて耐える必要は、もう・・・・・・ない。

東峰は極力ここに泊まるようにしている。
もちろん俺もだが。
しかし、今夜はトラブルが発生したとかで、悔しげに仕事へと戻っていった。

「なんかあったら、いやなくても絶対連絡しろよっ!」

「はいはい、了解でっす」

東峰は会議中だろうがなんだろうが、常に携帯チェックは欠かさないし、必ず電話に出やがるからなぁ。
いいの、それ?

病室を出たついでに、俺はメールを1件打っておく。
ここ最近、まったく帰宅しない俺。
しかし、なにも文句を言わず、常に俺を待ち続けるあいつ。
あ、もちろんあいつも仕事とかしてっけどね。
とりあえず、今日はマンションに帰宅してる旨のメールが来てたから、ちゃんと返事をしといてやろう。

ポチポチッとな、よしこれでオッケー

廊下から病室に戻って、またこいつの呼吸を確認する。

「ア、ちゃ・・・」

とと、起きちまいやがった。

「どったのー?」

今にも閉じそうな目を必死で抉じ開けて、薄闇の中俺の瞳をジッと視ている。

「どした?」

「・・・・・・守人、殉ず・・・るは、罷り、ならぬ」

やられたっ!!
こいつは、こんな時だけ主面しやがって、こうやって俺を縛り付ける。

卑怯者卑怯者卑怯者卑怯者卑怯者卑怯者――この卑怯者っ!!

お前のそういうところが俺は絶対に許せねぇ。

「守、人・・・・・・」

「・・・御意」

こうやって俺を従わせるくせに、最後まで付き従うことを許さない残酷な主。

俺は貴様を一生恨む。



「あぁっぁあああぁぁぁっぁっ!!!」

全身びっしょりと汗をかき、俺はベッドから飛び起きた。

「ななななんですかっ!? 火事ですかっ!? いけません火事のときは落ち着くのです、あああ机の下に入らなければっ!!」

へ・・・・・・?

俺の横で同じく飛び起きた、アレ。
そのまま大慌てで、ベッドの下に頭突きかましてる・・・なんだ、これ?

「・・・とりあえず、餅つけ」

「ああああ、火事のときは机の下で、」

「ごめんなさい・・・・・・それ地震のときだからね」

つか、これ机じゃねーし、そもそも、ベッドの下は引き出しだかんね。

「・・・・・・は?」

「いや、ちょっと魘されちまった・・・みたい・・・なー・・・?」

「は・・・・・・? えっと、ひょっとして夢かなんか・・・で・・・・・・寝言ですかっ!? あ、あんな大声出してただの寝言なんですかっ!? 僕をあれほど驚かせて、単に寝ぼけてたんですかっ!? ありえませんっ!!」

「・・・・・・うむ、悪かった」

「もうもうもうもうっ! せっかくいい夢を見ていたのに、信じられませんっ! 安眠妨害は犯罪ですよっ! 自首してきなさいっ!」

「え、しないし」

「もうもうもうもう、せっかく雅人の夢を見ていたのにっ! 返してくださいっ!」

「はは、さーせん」

なんだよ、ただの夢かよ・・・・・・まじ焦ったよ。
今日も今日とて俺の部屋にころがりこみ、一緒に寝てた運痴が、まだプンプン怒りながらベッドに潜り込んできた。
今日は日曜だから、まぁいいんだけど。

つかリアルすぎてちょっと、へこむ。
あの野郎にメールとか、一緒に住んでるとか、なにその設定。
いや、マジありえねーし・・・

「もう、次やったら、書記の部屋に放り込みますからねっ!」

なにそれ、意味わかんねー

とりあえず、夢で良かった・・・と。
俺も、もっかい寝ようっと♪

隣りの運痴が早々にたてる寝息をBGMに、俺も眠りに落ちていく。

心地よい睡魔に襲われながら、俺は決意していた。

あんな巫山戯た台詞吐けないよう、その口しっかりと塞いでおいてやる――――
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