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★キラキラ 仕舞章番外★

[瀬緒■鏡の間-完-]


何が起こったのかが、分からない。
僕は、なぜここに立っているのだろうか・・・・・・

気がつけば、渡辺彬も、あの不良も・・・・・・消えていた。

「瀬緒咲夜――」

「・・・お前は」

名を呼ばれた。
よく分からぬままに相手を確認する。
それは、雪客であるこの僕を罵倒した愚かな罪人。

「貴様に相応しき場へ、案内してやろう」

表情をガラリと変えて、闇そのモノの笑みを浮かべたその姿。
なるほど、お前も継埜のモノだったのか。
守人に命じられ、ようやく僕を迎えに来たんだな。

「・・・・・・そうか、僕がそうだと、やっと気付いたんだな。は、ははは、当然だ。さぁ、早く僕を連れて行けっ!」



その時を待つ僕の傍らには、白儿の当主。
どうやら僕の処刑は、門音直々に執り行ってくれるらしい、それは、とても栄誉なことに思えた。

目の前には、僕を奈落へと案内した水先人――守人。
継埜家の当主が、ああして赴いてくれたとは、身に過ぎて光栄なことなのだろう。

そして、そして――真の雪客

ゆっくりと目を閉じた。
長い、とても長い夢を見ていたような気がする。
今までが、夢であり、やっと覚めることができるんだ。

そうして、脳裏に浮かぶ幼い頃の情景。
あぁ、やはり僕は普通の人だったようだ。
あの時なにを着ていたかすら、もう思い出せない。

よく考えれば、ずっとそうだった。
記憶はどんどん色褪せて、朧げになり、そして、美化され、単なる想い出と化していた。
それは、普通の人間ならば当たり前のこと。
なぜ、そんなことに気付かなかったんだろう。

褪せることなく、生涯に亘りその記憶と寄り添っていく。
そんなモノ、雪客だけだ。
そう、雪客――僕の、異母弟が恋うたモノだけ。
僕は彼の記憶の一部となり、褪せることなく、これからも存在しつづけるのだ。

門音の指が僕に触れた。
意外にも、その指はとても暖かく、優しげに僕に触れてくれる。

今度は違う場面が浮かんできた。

生まれて初めての恋を嬉しげに語る貪塊、否、瑠希愛の姿。
あのときは、2人ともに、和服を着ていた。
初めての和服に戸惑う瑠希愛は、とても可愛いらしかった。

あぁ、柄まで思い出したよ。
男の子なのに、女の子が着るような美しい桜色の着物、そこには、紅い牡丹が咲いていた。
今思えば、あれは女児用だった。
それを着せられたとき、瑠希愛は頬を膨らませていた気がする。
僕が着ていたのは、どんな柄だったかな・・・・・・やはり、思い出せない。

薔薇色の頬を更に染め、天使のような愛らしい顔で、瑠希愛は僕に語ってくれた――


鏡の間=能舞台で、橋懸かりの奥の揚げ幕のすぐ内にある板敷きの部屋。姿見鏡を置き、役者は登場直前にここで面(おもて)をつけ、気を統一する。
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