★キラキラ 仕舞章番外★
[アキ■欲望]
言ノ葉を編んで奏でる。
それが僕の一番の喜び。
話したい、語りたい、伝えたい・・・・・・使い、たい――
部屋の襖が静かに開いた。
ここは、奥院、在するは同胞だけ。
「アキはいけない子なの、いけない子なのよ」
室内に灯りは燈っていない。
薄暗い闇に支配され始めた部屋で、辛うじて人の姿が確認できる。
そして、僕は訴える。
彼なら、彼だけが、僕の願いを叶えてくれる・・・はずだから。
「何がいけないのか、さっぱりわかりませんが、傷の具合はどうですか?」
あの凶行から救い出されて、たった5日。
だけど、僕の傷はほとんど完治している。
それが継埜家に伝わる秘伝の薬のおかげだと、僕は知っている。
アッくんにも処方してくれたって教えてもらった。
だから、きっともう元気になってるよね。
アッくん――かつての友。
僕の大切で、大好きな友人。
他にもいた、大切な友人たちが・・・・・・だけど、
「アキは、怖いのよ。アキはいけないことをしてしまうのよ」
「んー、アキが怖がっているのか、アキを怖がるのか、どっちなんでしょうか?」
白い着物で僕の側に腰を下ろした人、大事な大事なお友達。
僕の願いを叶えてくれる、たった一人の人だから、ちゃんと説明しなくちゃ。
理解できるように話さなきゃ・・・・・・
「アキは、アキ・・・・・・話す・・・だめよ――だめなのよっ」
僕は咄嗟に自分の口を両手で塞いだ。
駄目、それは使ってはいけないの。
「私には効かん」
彼の口調が変わった。
「戯け、この私に貴様の力など、効かんわ」
「効か・・・ない・・・?」
何を言われたか、瞬時には理解できなかった。
「音無ごときが、雪客を操ろうなど、愚の骨頂」
眉を顰めて厳しい口調で、そう吐き捨てた。
そんな彼を見て、僕の胸に安堵感が込み上げる。
だけど、ほんの少しの失望も湧いてきて、それを小さく首を振ることで、抑え込んだ。
「音無、貴様の望みは、私が叶えてやろう」
「アキの・・・僕の、望み・・・」
「そう、貴様のその力、私が使わせてやる」
僕の中の血が一気に騒めきたった。
歓喜、している。
僕は雪客の言葉に、喜んでいるんだ――なんて、恐ろしい、なんて卑しい、僕。
「アキ、音に魅入られた者が、曲を奏せずにはいられないように、牟韻は言を奏でずにはいられない。その血が濃ければ濃いほど、どうにもならないのです。ですから、私が用意しましょう。音無が奏する場を、私が与えてあげます」
それは、なんという誘惑。
僕の中の醜い部分が、狂喜の雄叫びをあげている。
でも違う、その望みを叶えてはいけない。
僕が望むのはもっと別のこと・・・・・・それは僕の在りかた、その存在。
だから、だから――
「でも、アキは、僕は・・・僕は、お母、」
「黙れっ――!」
雪客の激しい恫喝。
僕は目を瞠った、彼のこんな恐ろしい顔は初めて見たから。
だけど、その瞳はとても澄んでいて、そして、とても哀しげに揺らいで、僕を見ていた。
「牟韻のモノは力を使わずにはいられない。そんな家の当主たるべきあなたには、とても強い欲望がある。しかし、あなたはそれを畏れている」
「だって、だって・・・・・・」
「ご両親が亡くなったこと、それはあなたに恐怖の記憶として生涯残るでしょう。恐怖とは防衛手段なのですからね」
先ほどとは打って変わって、とても優しく笑むアキラ。
そして、慈愛に満ちた瞳が僕を見詰めてくれる。
「恐怖の・・・記憶・・・」
「そうです。それがあるから、音無は畏れることができる。力を抑制することができる。それは、アキのご両親が残してくれた、最も偉大な恐怖の記憶です」
僕の身体を不思議な感情が駆け抜けた。
僕は彼らの死を嘆き、後悔し、そして己を責め立てた。
それは当然だと思う。
実際、僕のせいで彼らはその生を絶たれたのだから。
だけど、その記憶は、ただ哀しむだけのものじゃない。
生涯をかけて僕に自制を齎すための、畏れとなってくれるんだ。
僕の愛する両親は、そんな素晴らしいものを残してくれたのだ。
そうアキラは教えてくれているんだね。
だったら僕は我慢できるよ。
必要ないときに、決して話さないと誓えるよ。
僕は愛する彼らの記憶と共に、己の欲に打ち勝てると断言できるよ。
「僕は、できる。この恐怖が、僕を助けてくれるよ・・・うん、大丈夫だよ・・・」
「では、私が一つ呪をかけてあげましょう」
「呪・・・?」
それは牟韻の言葉のように、相手に対して使う力のことだろうか?
でも、雪客にそんな力があるなんて、聞いてない。
「アッくんもアーちゃんもアッキーも、アキとおしゃべりしたくて仕方ないのです」
僕の両手を、優しく包むアキラ。
ジッと瞳を見て、紡いだ言葉は意外なものだった。
「でも、駄目よ。それはしては駄目なの・・・・・・」
「ええ、だから私が呪をかけてあげます。アキが望まぬ限り、その言葉にはなんの効力もない。なんの束縛も与えることはできない。大丈夫です、私がお約束します。あなたは友人たちと一切の制限なく会話を楽しむことができます。音無が力を揮うのは、私たちが必要としたときだけです」
「必要な、ときだけ・・・・・・それ以外は普通・・・なの・・・?」
「そうです。大丈夫、雪客は約束を違えることはありません。ですから、アキは話したいときに好きなだけ話せばいい。皆アキと話したくてしょうがないのですから。だから彼らの望むまま、たくさん話をしてあげてください」
両手を強く握り、視線を重ね、大丈夫だと伝えてくれる。
それは、呪言のように、僕を包んだ。
いつも通りでいい。
普段のアキでいい。
何も変わらず、今まで通りに皆と会話を楽しめる。
「アキは、大丈夫。うん、アキはアッくんとはなすの、アーちゃんとおはなしするの、アッキーとおしゃべりするの・・・・・・アキラといっぱいするのよ」
アキラが一つ頷いて、そして襖に向かってまた頷いた。
静かに開いた襖の先には、会いたくて会いたくて、でも怖くて会えなかった人たちがいた。
「アキ、もう傷治ってるじゃん」
「・・・・・・」
アーちゃんが、いつも通りのにやけた顔で、僕を見てるの。
アッキーもね、やっぱりいつも通りにしか見えなかったの。
だから、すごくホッとしたの。
「アキ、ごいのよ、なの」
「・・・・・・おいおい、アキじゃなくて、俺ん家の薬でしょー」
「アキ、なのよ、いいのよ」
「そうですね、アキ自身の回復力もありましたから、全部がアーちゃんのお手柄ではないですね」
「なのよ、なの」
「ちぇー、この恩知らずめ」
「あ、う、アッくん、なの、なのよ」
僕はずっと会っていない友達のことが気になって仕方なかったの。
目覚めてからは、自分のことばかりで、アッくんが本当に大丈夫なのか知らないの。
「アッくんはー、ちゃーんと回復してるから、大丈夫よ」
「はい、大丈夫ですよ。葛西先輩が毎日お見舞いに行ってますし、彼もかなり回復したそうです」
「あう、いいのよ、いいの」
良かった。
じゃ、きっと、もうすぐ会えるよね。
僕のこと怖がるかもしれないけど、でも僕は会いたいよ。
そしてね、僕のことを、僕の力をちゃんと知ってもらうの。
アッくんはきっとびっくりするよね、怖がっちゃうよね、でも、アッくんには知ってもらいたいの。
だからね、もしそれで、アッくんが僕を嫌っても、僕は大丈夫なのよ。
僕がアッくんを好きって気持ちは、なにも変わらないから。
「アキ、治ったなら、ちゃんと飯を食え」
「う、あ、なの、あい、なのよ」
アッキーにすごく怖い顔されちゃったの。
そういえば、ずっとご飯食べなかったの。
だから、怒ってるんだ。
「ちょっとー、普通に話しても大丈夫なんでしょ? なんでまた、下手になってんのー?」
「普通に会話して完全に抑える自信が、まだないってことですね。あの状態がアキにとって、最も安心できる形ということです。なら、それでいいと思います」
「ふむふむ、だったら、いっか」
「アキがいいなら、それでいい」
「ところで、あんたのあれって、催眠術とか暗示とかそんなやつ?」
「違いますよ、僕にそんなこと出来るわけないじゃないですか。アキの精神(こころ)が強くなっただけです。自分も周りも信じることができたから、恐れず話すことができたんです。僕はそれを、少し手伝っただけですよ」
言ノ葉を編んで奏でる。
それが僕の一番の喜び。
話したい、語りたい、伝えたい・・・・・・使い、たい――
部屋の襖が静かに開いた。
ここは、奥院、在するは同胞だけ。
「アキはいけない子なの、いけない子なのよ」
室内に灯りは燈っていない。
薄暗い闇に支配され始めた部屋で、辛うじて人の姿が確認できる。
そして、僕は訴える。
彼なら、彼だけが、僕の願いを叶えてくれる・・・はずだから。
「何がいけないのか、さっぱりわかりませんが、傷の具合はどうですか?」
あの凶行から救い出されて、たった5日。
だけど、僕の傷はほとんど完治している。
それが継埜家に伝わる秘伝の薬のおかげだと、僕は知っている。
アッくんにも処方してくれたって教えてもらった。
だから、きっともう元気になってるよね。
アッくん――かつての友。
僕の大切で、大好きな友人。
他にもいた、大切な友人たちが・・・・・・だけど、
「アキは、怖いのよ。アキはいけないことをしてしまうのよ」
「んー、アキが怖がっているのか、アキを怖がるのか、どっちなんでしょうか?」
白い着物で僕の側に腰を下ろした人、大事な大事なお友達。
僕の願いを叶えてくれる、たった一人の人だから、ちゃんと説明しなくちゃ。
理解できるように話さなきゃ・・・・・・
「アキは、アキ・・・・・・話す・・・だめよ――だめなのよっ」
僕は咄嗟に自分の口を両手で塞いだ。
駄目、それは使ってはいけないの。
「私には効かん」
彼の口調が変わった。
「戯け、この私に貴様の力など、効かんわ」
「効か・・・ない・・・?」
何を言われたか、瞬時には理解できなかった。
「音無ごときが、雪客を操ろうなど、愚の骨頂」
眉を顰めて厳しい口調で、そう吐き捨てた。
そんな彼を見て、僕の胸に安堵感が込み上げる。
だけど、ほんの少しの失望も湧いてきて、それを小さく首を振ることで、抑え込んだ。
「音無、貴様の望みは、私が叶えてやろう」
「アキの・・・僕の、望み・・・」
「そう、貴様のその力、私が使わせてやる」
僕の中の血が一気に騒めきたった。
歓喜、している。
僕は雪客の言葉に、喜んでいるんだ――なんて、恐ろしい、なんて卑しい、僕。
「アキ、音に魅入られた者が、曲を奏せずにはいられないように、牟韻は言を奏でずにはいられない。その血が濃ければ濃いほど、どうにもならないのです。ですから、私が用意しましょう。音無が奏する場を、私が与えてあげます」
それは、なんという誘惑。
僕の中の醜い部分が、狂喜の雄叫びをあげている。
でも違う、その望みを叶えてはいけない。
僕が望むのはもっと別のこと・・・・・・それは僕の在りかた、その存在。
だから、だから――
「でも、アキは、僕は・・・僕は、お母、」
「黙れっ――!」
雪客の激しい恫喝。
僕は目を瞠った、彼のこんな恐ろしい顔は初めて見たから。
だけど、その瞳はとても澄んでいて、そして、とても哀しげに揺らいで、僕を見ていた。
「牟韻のモノは力を使わずにはいられない。そんな家の当主たるべきあなたには、とても強い欲望がある。しかし、あなたはそれを畏れている」
「だって、だって・・・・・・」
「ご両親が亡くなったこと、それはあなたに恐怖の記憶として生涯残るでしょう。恐怖とは防衛手段なのですからね」
先ほどとは打って変わって、とても優しく笑むアキラ。
そして、慈愛に満ちた瞳が僕を見詰めてくれる。
「恐怖の・・・記憶・・・」
「そうです。それがあるから、音無は畏れることができる。力を抑制することができる。それは、アキのご両親が残してくれた、最も偉大な恐怖の記憶です」
僕の身体を不思議な感情が駆け抜けた。
僕は彼らの死を嘆き、後悔し、そして己を責め立てた。
それは当然だと思う。
実際、僕のせいで彼らはその生を絶たれたのだから。
だけど、その記憶は、ただ哀しむだけのものじゃない。
生涯をかけて僕に自制を齎すための、畏れとなってくれるんだ。
僕の愛する両親は、そんな素晴らしいものを残してくれたのだ。
そうアキラは教えてくれているんだね。
だったら僕は我慢できるよ。
必要ないときに、決して話さないと誓えるよ。
僕は愛する彼らの記憶と共に、己の欲に打ち勝てると断言できるよ。
「僕は、できる。この恐怖が、僕を助けてくれるよ・・・うん、大丈夫だよ・・・」
「では、私が一つ呪をかけてあげましょう」
「呪・・・?」
それは牟韻の言葉のように、相手に対して使う力のことだろうか?
でも、雪客にそんな力があるなんて、聞いてない。
「アッくんもアーちゃんもアッキーも、アキとおしゃべりしたくて仕方ないのです」
僕の両手を、優しく包むアキラ。
ジッと瞳を見て、紡いだ言葉は意外なものだった。
「でも、駄目よ。それはしては駄目なの・・・・・・」
「ええ、だから私が呪をかけてあげます。アキが望まぬ限り、その言葉にはなんの効力もない。なんの束縛も与えることはできない。大丈夫です、私がお約束します。あなたは友人たちと一切の制限なく会話を楽しむことができます。音無が力を揮うのは、私たちが必要としたときだけです」
「必要な、ときだけ・・・・・・それ以外は普通・・・なの・・・?」
「そうです。大丈夫、雪客は約束を違えることはありません。ですから、アキは話したいときに好きなだけ話せばいい。皆アキと話したくてしょうがないのですから。だから彼らの望むまま、たくさん話をしてあげてください」
両手を強く握り、視線を重ね、大丈夫だと伝えてくれる。
それは、呪言のように、僕を包んだ。
いつも通りでいい。
普段のアキでいい。
何も変わらず、今まで通りに皆と会話を楽しめる。
「アキは、大丈夫。うん、アキはアッくんとはなすの、アーちゃんとおはなしするの、アッキーとおしゃべりするの・・・・・・アキラといっぱいするのよ」
アキラが一つ頷いて、そして襖に向かってまた頷いた。
静かに開いた襖の先には、会いたくて会いたくて、でも怖くて会えなかった人たちがいた。
「アキ、もう傷治ってるじゃん」
「・・・・・・」
アーちゃんが、いつも通りのにやけた顔で、僕を見てるの。
アッキーもね、やっぱりいつも通りにしか見えなかったの。
だから、すごくホッとしたの。
「アキ、ごいのよ、なの」
「・・・・・・おいおい、アキじゃなくて、俺ん家の薬でしょー」
「アキ、なのよ、いいのよ」
「そうですね、アキ自身の回復力もありましたから、全部がアーちゃんのお手柄ではないですね」
「なのよ、なの」
「ちぇー、この恩知らずめ」
「あ、う、アッくん、なの、なのよ」
僕はずっと会っていない友達のことが気になって仕方なかったの。
目覚めてからは、自分のことばかりで、アッくんが本当に大丈夫なのか知らないの。
「アッくんはー、ちゃーんと回復してるから、大丈夫よ」
「はい、大丈夫ですよ。葛西先輩が毎日お見舞いに行ってますし、彼もかなり回復したそうです」
「あう、いいのよ、いいの」
良かった。
じゃ、きっと、もうすぐ会えるよね。
僕のこと怖がるかもしれないけど、でも僕は会いたいよ。
そしてね、僕のことを、僕の力をちゃんと知ってもらうの。
アッくんはきっとびっくりするよね、怖がっちゃうよね、でも、アッくんには知ってもらいたいの。
だからね、もしそれで、アッくんが僕を嫌っても、僕は大丈夫なのよ。
僕がアッくんを好きって気持ちは、なにも変わらないから。
「アキ、治ったなら、ちゃんと飯を食え」
「う、あ、なの、あい、なのよ」
アッキーにすごく怖い顔されちゃったの。
そういえば、ずっとご飯食べなかったの。
だから、怒ってるんだ。
「ちょっとー、普通に話しても大丈夫なんでしょ? なんでまた、下手になってんのー?」
「普通に会話して完全に抑える自信が、まだないってことですね。あの状態がアキにとって、最も安心できる形ということです。なら、それでいいと思います」
「ふむふむ、だったら、いっか」
「アキがいいなら、それでいい」
「ところで、あんたのあれって、催眠術とか暗示とかそんなやつ?」
「違いますよ、僕にそんなこと出来るわけないじゃないですか。アキの精神(こころ)が強くなっただけです。自分も周りも信じることができたから、恐れず話すことができたんです。僕はそれを、少し手伝っただけですよ」
