このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

★キラキラ 仕舞章番外★

[東峰■明石]


渡辺と明石が運び込まれた病院は、表向きはどこにでもある単なる医療法人。
だが内情は鷺視の息がたっぷりとかかった、鷺視傘下の病院だ。

当然渡辺たちの処置については、こちらが命じた通りのカルテを書き上げてくれている。
明石はバイク事故、渡辺はこの間の制裁により受けた傷のせい、水野たちには悪いが、怪我をさせたのは本当のことだから、まぁいいだろう。
警察関係に手を回すことも忘れずに、一通りの手配を俺と葛西で終わらせた。

入院初日は意識すら戻らずに、葛西をかなり憔悴させた渡辺も、翌日には目を覚まし、猛スピードで快復に向かってると聞き、俺もホッと胸を撫で下ろした。

やはり、継埜の秘薬は効果が高いな。
ぜひうちで手掛けたいとこだが、肝心の処方箋は一切極秘ときたもんだ、残念。

「たった二日で退院とは、狼君は落ち着きがないねー」

一番奥に陣取っている高橋が、和服姿で器用に足を組み替えながら言った。

「元々頑丈な性質みたいだしな、腕を一本と肋にヒビって程度なら、ジッとしてられないんじゃないか」

「野生ってすごーい」

からかうような口調で、わざとらしい拍手までつけた高橋に、こちらも少し口元が緩む。
明石には例の薬は使用されていないはずなのに、この快復力、確かに野生だな。

「そろそろ、行ったほうがいいんでない」

「ああ、わかった」

明石は本日の午前中には診察を終わらせ、通院する約束をさせられた上、退院が認められるはずだ。
目を閉じて黙り込んだ高橋と、同じく無言のままの葛西を置き、俺は明石を迎えるべく車の外に出た。



「会長さんがわざわざお迎えなんて、なんの冗談だよ?」

ちょうどバス停に向かう途中の明石を捕まえれば、目一杯警戒のこもった眼差しを向けられた。

「まさか、処分でも言い渡しに来たってのか?」

「処分されるようなことでもしたのか?」

「……ナベもチビも関係ねーからな! あいつが、あの瀬緒とかいうやつがっ、」

「落ち着け明石」

歯をむき出しにして、喧嘩腰で吠え立てる明石を、まずは落ち着かせないとな。

「お前はもちろん、誰も処分なんてされねぇよ。むしろお前らは被害者なんだからな、だろ」

「あんた……なんで、それっ」

「誰も何も教えてくれなくて、不安だったか? だが安心しろ、俺は、いや俺たちは全て知ってる」

「なっ、てめっ、なんで!」

運び込まれてから、怪我の原因を訊かれることもなく淡々と治療された挙句、明石が質問しても誰も何も語らないという現状に、かなり不安になっただろうな。
唯一の救いは、手厚い看護を受けたことだけだろう。

明石がより一層警戒感を増した目で睨みつけてきたが、それを軽く受け流す。

「明石、知りたいというなら教えてやらんでもないぞ」

しっかりと明石を見据えて言葉を紡ぐ。
少し怯んだのが見て取れた。

「チビは……チビはどうしてるんだ?」

「そういうこともひっくるめて、教えてやるって言ってるんだ。どうする? 来るか?」



「風紀!?……高、橋」

明石は無造作に駐車されていた車体の長い車を見て、一瞬ギョッとしていたが、俺がドアを開いてやれば大人しく中に乗り込んだ。
まずは静かに座っていた葛西に対し驚きの声をあげ、続いて奥で偉そうに踏ん反り返っている高橋を確認すると、やはりという表情に変わった。

「あはは、元気そうじゃーん。ほんと野生ぱねぇ」

「野生……俺のことかよ!?」

「あはは、まぁ元気そうで安心したわ」

ちょいちょいと明石を手招きし、高橋は自分の横に座るよう指示した。
明石もそれに素直に従う。

「ったく、てめぇらナニモンなんだ?」

「ナニモン? なにそれ、俺たちはー普通の高校生に見えないってことー?」

明らかに揶揄している高橋の態度にも、明石は反発することなく、逆に静かに押し黙ってしまった。
少し蒼褪めて見えるのは、気のせいではないだろう。
獣は気配に敏感だというが、高橋から薄らと漂う尋常でない気配に、どうやら無意識ながらに気がついたようだ。

「……あんまはっきりと覚えてねーけど、伊藤とてめぇが助けにきたのは間違いねー。伊藤が一瞬であいつらを倒したのは、なんとなく覚えてる……で、チビはどうしてんだ? ナベは何かに巻き込まれたのか?」

「俺がこの場で答えてあげられるのって、一個だけなのよ。だから質問は一個にしてくんない?」

「はぁっ、一個だぁっ!? なんだよそれっ、誰かの指図かよ!?」

「うん、そう。だから明石大雅、貴様に許された質問は、一つだけだ」

「っ……」

瞬き一つですべてのものが変化した。
すでに別世界のものと化したこの場の空気に、明石は簡単に飲み込まれ、動けなくなる。
唯一、握られた右の拳がカタカタと震えていた。

よく見知った俺ですら、こいつが守人に戻る瞬間には鳥肌が立っちまうほどだ、明石がそんな反応を見せても仕方がない。
無表情のままの葛西を見やれば、その額には玉のような汗が浮かんでいた。

「まぁ、こっちにも色々都合があるわけよ」

またもや高橋を彩る気配が変化して、一気に車内の空気が和らいでいく。

「お、おまえ……」

途端、明石は詰めていた息を一気に吐きだした。

「で、明石は何が一番気になんの?」

「チビ……チビはどうしてんだ? 無事なのか?」

「アキの怪我なら大丈夫よ。ちゃーんと治療してるし、それほど大したことはないからねー」

「そうか……だったら、いい。これで、俺の質問とやらは終わりなんだろ」

「あはは、いいコちゃんだね。んじゃ後は葛西と東峰に譲るわ」

これで話は終了と、高橋は腕を組みながら目を閉じた。
さて、こっからは俺たちに交代だ。

「明石、お前たちの身に何が起こったのか、気になるか?」

最初に決めていた通り、俺が明石に対し問いかけた。
葛西は無言のまま、明石の返事を待っている。

「あぁ? 気にならないはずねーだろ」

「だな、知りたいというなら、」

「いらねぇ」

「今なんと言った?」

「いらねぇよ、教えてなんていらねぇ」

高橋の横に座る明石は、先ほどまでの怯えを払拭するかのように、いきなり右足を大きく振り上げ左の膝に置き、構えるように俺と葛西を睨みつけた。

「あんなことがあったてーのに、警察はこねー、医者は何も訊かねー、学校からは何も言われない、そんで最後はてめぇらみてーのがやってくる。そんなもん、まともじゃねーってことくらい俺でも分かるぜ」

「ふん、ま、否定はしねぇな」

「親父やじじぃのお陰で、世の中は見えてる部分だけじゃねーってことは分かってる」

こいつの家は戦前から続く政治家一家だ。
それも、賄賂なんて当たり前、だがその分の仕事はきっちりとこなし、汚いことも綺麗事も全てが同じ価値観の上で成り立っている、そんな裏も表も知り尽くした生粋の政治家。
俺たちのような輩とも、持ちつ持たれつの間柄だ。

明石自身何も知らなくとも、見えない部分――裏というものが存在していることを、この聡い男は、十分理解しているようだ。

「だが、自身の身に起こったことだ、気にならないはずないだろ」

葛西の言うとおりだ、気にならないはずがねぇ。

「これは、俺が知るべきことじゃねー、たまたま巻き込まれただけだしな。だから、俺が知る必要なんてねーんだよ」

「お前はそれでいいのか?」

最後の確認のつもりで、明石に問いかける。

「気にならないっつったら嘘だけどな。だけど、今はそん時じゃねーって気がする」

「そうか、分かった」

明石の目には迷いはなかった。
ならば、このまま何も知らせずにいればいい。

「それよりも、俺のこの怪我はどういう扱いになってんだ?」

「あっと、そうだな、それは風紀委員長から説明してもらうほうがいいだろう」

「バイクでの単身事故扱いだ」

「バイク…事故……ダセェ……」

「警察その他全てこちらで処理したから安心しろ。保険もすぐ降りる。一応謹慎3日は受けてもらうぞ」

「はぁっ!? 何言ってやがる!?」

葛西がさらりと告げた内容に、明石の顔色が一瞬にして変わった。

「バイクを許可なく校内に持ち込んだんだからな、当然の処罰だ。むしろ軽いくらいだ」

「ちっ、仕方ねーな」

「あ、そうそう明石のバイクはー、スクラップになってるからねー」

「はぁっ!? ふざけんな!!」

既に守人の影の失せた高橋からの報告に、明石は唾を飛び散らしながら喚いた。

「うわっ、もう汚いなー。仕方ないでしょ、一応事故った現場作ったんだからー」

「てめっ、なんつーことをっ」

「だいたい、無許可でバイクなど、」

「風紀、てめーは黙ってろっ」

不毛な言い合いが始まりそうな予感がしてならない。
ひとまずは明石に撤退してもらうことで、ここは幕引きとするか。

「まぁ、明石には悪いがそういうことだ。諦めろ」

「くそっ」

まだかなり不満そうではあるが、こればかりは明石に涙をのんで諦めてもらうしかないだろう。
ちなみに、この処置を考えたのは葛西と高橋だからな、俺は一応は反対したんだ。

ぶつぶつと文句を言っている明石を乗せた車は、無事寮の入り口に到着した。

「暫くガッコ行かないけど、心配しないでねー」

「あぁ、わかった」

知る必要はないと言い切っただけあり、明石はなにも問うことをせずに、車を降りる準備を始める。

「あっと、答えなんて期待してねーけど、一応な…」

ドアを開け外に足を踏み出した明石が、いきなり高橋に向き直った。

「…佐藤も、佐藤も…関係してんのか?」

明石の口から晃の名前が飛び出して、頭の中が一瞬真っ白になった。

「質問はもう受け付けませーん」

「あぁ、分かってる」

高橋が陽気に応えれば、明石は納得したような表情で車から離れた。

「ちょ、待――!!」

「東峰っ」

慌てて追いかけようとした俺を葛西が引き止め、高橋が車をすぐに出すようにと内線で指示を出しやがった。

「東峰っ、ちょっ、落ち着けっての」

車が動き出したが、そんなの関係ねぇ!
ドアを開けようとする俺を高橋までもが抑えにかかるが、俺はそんなことじゃ怯まねぇぞ!

しっかりと思い出した! あいつは、あの不良は、晃の部屋に寝泊りしていた過去があるんだぞ――!

くそっ、謹慎3日とバイクスクラップなど生温い!

「絶対に停学処分にしてやる――!!」
1/11ページ
スキ