★キラキラ 仕舞章番外★
[東峰■明石]
渡辺と明石が運び込まれた病院は、表向きはどこにでもある単なる医療法人。
だが内情は鷺視の息がたっぷりとかかった、鷺視傘下の病院だ。
当然渡辺たちの処置については、こちらが命じた通りのカルテを書き上げてくれている。
明石はバイク事故、渡辺はこの間の制裁により受けた傷のせい、水野たちには悪いが、怪我をさせたのは本当のことだから、まぁいいだろう。
警察関係に手を回すことも忘れずに、一通りの手配を俺と葛西で終わらせた。
入院初日は意識すら戻らずに、葛西をかなり憔悴させた渡辺も、翌日には目を覚まし、猛スピードで快復に向かってると聞き、俺もホッと胸を撫で下ろした。
やはり、継埜の秘薬は効果が高いな。
ぜひうちで手掛けたいとこだが、肝心の処方箋は一切極秘ときたもんだ、残念。
「たった二日で退院とは、狼君は落ち着きがないねー」
一番奥に陣取っている高橋が、和服姿で器用に足を組み替えながら言った。
「元々頑丈な性質みたいだしな、腕を一本と肋にヒビって程度なら、ジッとしてられないんじゃないか」
「野生ってすごーい」
からかうような口調で、わざとらしい拍手までつけた高橋に、こちらも少し口元が緩む。
明石には例の薬は使用されていないはずなのに、この快復力、確かに野生だな。
「そろそろ、行ったほうがいいんでない」
「ああ、わかった」
明石は本日の午前中には診察を終わらせ、通院する約束をさせられた上、退院が認められるはずだ。
目を閉じて黙り込んだ高橋と、同じく無言のままの葛西を置き、俺は明石を迎えるべく車の外に出た。
「会長さんがわざわざお迎えなんて、なんの冗談だよ?」
ちょうどバス停に向かう途中の明石を捕まえれば、目一杯警戒のこもった眼差しを向けられた。
「まさか、処分でも言い渡しに来たってのか?」
「処分されるようなことでもしたのか?」
「……ナベもチビも関係ねーからな! あいつが、あの瀬緒とかいうやつがっ、」
「落ち着け明石」
歯をむき出しにして、喧嘩腰で吠え立てる明石を、まずは落ち着かせないとな。
「お前はもちろん、誰も処分なんてされねぇよ。むしろお前らは被害者なんだからな、だろ」
「あんた……なんで、それっ」
「誰も何も教えてくれなくて、不安だったか? だが安心しろ、俺は、いや俺たちは全て知ってる」
「なっ、てめっ、なんで!」
運び込まれてから、怪我の原因を訊かれることもなく淡々と治療された挙句、明石が質問しても誰も何も語らないという現状に、かなり不安になっただろうな。
唯一の救いは、手厚い看護を受けたことだけだろう。
明石がより一層警戒感を増した目で睨みつけてきたが、それを軽く受け流す。
「明石、知りたいというなら教えてやらんでもないぞ」
しっかりと明石を見据えて言葉を紡ぐ。
少し怯んだのが見て取れた。
「チビは……チビはどうしてるんだ?」
「そういうこともひっくるめて、教えてやるって言ってるんだ。どうする? 来るか?」
「風紀!?……高、橋」
明石は無造作に駐車されていた車体の長い車を見て、一瞬ギョッとしていたが、俺がドアを開いてやれば大人しく中に乗り込んだ。
まずは静かに座っていた葛西に対し驚きの声をあげ、続いて奥で偉そうに踏ん反り返っている高橋を確認すると、やはりという表情に変わった。
「あはは、元気そうじゃーん。ほんと野生ぱねぇ」
「野生……俺のことかよ!?」
「あはは、まぁ元気そうで安心したわ」
ちょいちょいと明石を手招きし、高橋は自分の横に座るよう指示した。
明石もそれに素直に従う。
「ったく、てめぇらナニモンなんだ?」
「ナニモン? なにそれ、俺たちはー普通の高校生に見えないってことー?」
明らかに揶揄している高橋の態度にも、明石は反発することなく、逆に静かに押し黙ってしまった。
少し蒼褪めて見えるのは、気のせいではないだろう。
獣は気配に敏感だというが、高橋から薄らと漂う尋常でない気配に、どうやら無意識ながらに気がついたようだ。
「……あんまはっきりと覚えてねーけど、伊藤とてめぇが助けにきたのは間違いねー。伊藤が一瞬であいつらを倒したのは、なんとなく覚えてる……で、チビはどうしてんだ? ナベは何かに巻き込まれたのか?」
「俺がこの場で答えてあげられるのって、一個だけなのよ。だから質問は一個にしてくんない?」
「はぁっ、一個だぁっ!? なんだよそれっ、誰かの指図かよ!?」
「うん、そう。だから明石大雅、貴様に許された質問は、一つだけだ」
「っ……」
瞬き一つですべてのものが変化した。
すでに別世界のものと化したこの場の空気に、明石は簡単に飲み込まれ、動けなくなる。
唯一、握られた右の拳がカタカタと震えていた。
よく見知った俺ですら、こいつが守人に戻る瞬間には鳥肌が立っちまうほどだ、明石がそんな反応を見せても仕方がない。
無表情のままの葛西を見やれば、その額には玉のような汗が浮かんでいた。
「まぁ、こっちにも色々都合があるわけよ」
またもや高橋を彩る気配が変化して、一気に車内の空気が和らいでいく。
「お、おまえ……」
途端、明石は詰めていた息を一気に吐きだした。
「で、明石は何が一番気になんの?」
「チビ……チビはどうしてんだ? 無事なのか?」
「アキの怪我なら大丈夫よ。ちゃーんと治療してるし、それほど大したことはないからねー」
「そうか……だったら、いい。これで、俺の質問とやらは終わりなんだろ」
「あはは、いいコちゃんだね。んじゃ後は葛西と東峰に譲るわ」
これで話は終了と、高橋は腕を組みながら目を閉じた。
さて、こっからは俺たちに交代だ。
「明石、お前たちの身に何が起こったのか、気になるか?」
最初に決めていた通り、俺が明石に対し問いかけた。
葛西は無言のまま、明石の返事を待っている。
「あぁ? 気にならないはずねーだろ」
「だな、知りたいというなら、」
「いらねぇ」
「今なんと言った?」
「いらねぇよ、教えてなんていらねぇ」
高橋の横に座る明石は、先ほどまでの怯えを払拭するかのように、いきなり右足を大きく振り上げ左の膝に置き、構えるように俺と葛西を睨みつけた。
「あんなことがあったてーのに、警察はこねー、医者は何も訊かねー、学校からは何も言われない、そんで最後はてめぇらみてーのがやってくる。そんなもん、まともじゃねーってことくらい俺でも分かるぜ」
「ふん、ま、否定はしねぇな」
「親父やじじぃのお陰で、世の中は見えてる部分だけじゃねーってことは分かってる」
こいつの家は戦前から続く政治家一家だ。
それも、賄賂なんて当たり前、だがその分の仕事はきっちりとこなし、汚いことも綺麗事も全てが同じ価値観の上で成り立っている、そんな裏も表も知り尽くした生粋の政治家。
俺たちのような輩とも、持ちつ持たれつの間柄だ。
明石自身何も知らなくとも、見えない部分――裏というものが存在していることを、この聡い男は、十分理解しているようだ。
「だが、自身の身に起こったことだ、気にならないはずないだろ」
葛西の言うとおりだ、気にならないはずがねぇ。
「これは、俺が知るべきことじゃねー、たまたま巻き込まれただけだしな。だから、俺が知る必要なんてねーんだよ」
「お前はそれでいいのか?」
最後の確認のつもりで、明石に問いかける。
「気にならないっつったら嘘だけどな。だけど、今はそん時じゃねーって気がする」
「そうか、分かった」
明石の目には迷いはなかった。
ならば、このまま何も知らせずにいればいい。
「それよりも、俺のこの怪我はどういう扱いになってんだ?」
「あっと、そうだな、それは風紀委員長から説明してもらうほうがいいだろう」
「バイクでの単身事故扱いだ」
「バイク…事故……ダセェ……」
「警察その他全てこちらで処理したから安心しろ。保険もすぐ降りる。一応謹慎3日は受けてもらうぞ」
「はぁっ!? 何言ってやがる!?」
葛西がさらりと告げた内容に、明石の顔色が一瞬にして変わった。
「バイクを許可なく校内に持ち込んだんだからな、当然の処罰だ。むしろ軽いくらいだ」
「ちっ、仕方ねーな」
「あ、そうそう明石のバイクはー、スクラップになってるからねー」
「はぁっ!? ふざけんな!!」
既に守人の影の失せた高橋からの報告に、明石は唾を飛び散らしながら喚いた。
「うわっ、もう汚いなー。仕方ないでしょ、一応事故った現場作ったんだからー」
「てめっ、なんつーことをっ」
「だいたい、無許可でバイクなど、」
「風紀、てめーは黙ってろっ」
不毛な言い合いが始まりそうな予感がしてならない。
ひとまずは明石に撤退してもらうことで、ここは幕引きとするか。
「まぁ、明石には悪いがそういうことだ。諦めろ」
「くそっ」
まだかなり不満そうではあるが、こればかりは明石に涙をのんで諦めてもらうしかないだろう。
ちなみに、この処置を考えたのは葛西と高橋だからな、俺は一応は反対したんだ。
ぶつぶつと文句を言っている明石を乗せた車は、無事寮の入り口に到着した。
「暫くガッコ行かないけど、心配しないでねー」
「あぁ、わかった」
知る必要はないと言い切っただけあり、明石はなにも問うことをせずに、車を降りる準備を始める。
「あっと、答えなんて期待してねーけど、一応な…」
ドアを開け外に足を踏み出した明石が、いきなり高橋に向き直った。
「…佐藤も、佐藤も…関係してんのか?」
明石の口から晃の名前が飛び出して、頭の中が一瞬真っ白になった。
「質問はもう受け付けませーん」
「あぁ、分かってる」
高橋が陽気に応えれば、明石は納得したような表情で車から離れた。
「ちょ、待――!!」
「東峰っ」
慌てて追いかけようとした俺を葛西が引き止め、高橋が車をすぐに出すようにと内線で指示を出しやがった。
「東峰っ、ちょっ、落ち着けっての」
車が動き出したが、そんなの関係ねぇ!
ドアを開けようとする俺を高橋までもが抑えにかかるが、俺はそんなことじゃ怯まねぇぞ!
しっかりと思い出した! あいつは、あの不良は、晃の部屋に寝泊りしていた過去があるんだぞ――!
くそっ、謹慎3日とバイクスクラップなど生温い!
「絶対に停学処分にしてやる――!!」
渡辺と明石が運び込まれた病院は、表向きはどこにでもある単なる医療法人。
だが内情は鷺視の息がたっぷりとかかった、鷺視傘下の病院だ。
当然渡辺たちの処置については、こちらが命じた通りのカルテを書き上げてくれている。
明石はバイク事故、渡辺はこの間の制裁により受けた傷のせい、水野たちには悪いが、怪我をさせたのは本当のことだから、まぁいいだろう。
警察関係に手を回すことも忘れずに、一通りの手配を俺と葛西で終わらせた。
入院初日は意識すら戻らずに、葛西をかなり憔悴させた渡辺も、翌日には目を覚まし、猛スピードで快復に向かってると聞き、俺もホッと胸を撫で下ろした。
やはり、継埜の秘薬は効果が高いな。
ぜひうちで手掛けたいとこだが、肝心の処方箋は一切極秘ときたもんだ、残念。
「たった二日で退院とは、狼君は落ち着きがないねー」
一番奥に陣取っている高橋が、和服姿で器用に足を組み替えながら言った。
「元々頑丈な性質みたいだしな、腕を一本と肋にヒビって程度なら、ジッとしてられないんじゃないか」
「野生ってすごーい」
からかうような口調で、わざとらしい拍手までつけた高橋に、こちらも少し口元が緩む。
明石には例の薬は使用されていないはずなのに、この快復力、確かに野生だな。
「そろそろ、行ったほうがいいんでない」
「ああ、わかった」
明石は本日の午前中には診察を終わらせ、通院する約束をさせられた上、退院が認められるはずだ。
目を閉じて黙り込んだ高橋と、同じく無言のままの葛西を置き、俺は明石を迎えるべく車の外に出た。
「会長さんがわざわざお迎えなんて、なんの冗談だよ?」
ちょうどバス停に向かう途中の明石を捕まえれば、目一杯警戒のこもった眼差しを向けられた。
「まさか、処分でも言い渡しに来たってのか?」
「処分されるようなことでもしたのか?」
「……ナベもチビも関係ねーからな! あいつが、あの瀬緒とかいうやつがっ、」
「落ち着け明石」
歯をむき出しにして、喧嘩腰で吠え立てる明石を、まずは落ち着かせないとな。
「お前はもちろん、誰も処分なんてされねぇよ。むしろお前らは被害者なんだからな、だろ」
「あんた……なんで、それっ」
「誰も何も教えてくれなくて、不安だったか? だが安心しろ、俺は、いや俺たちは全て知ってる」
「なっ、てめっ、なんで!」
運び込まれてから、怪我の原因を訊かれることもなく淡々と治療された挙句、明石が質問しても誰も何も語らないという現状に、かなり不安になっただろうな。
唯一の救いは、手厚い看護を受けたことだけだろう。
明石がより一層警戒感を増した目で睨みつけてきたが、それを軽く受け流す。
「明石、知りたいというなら教えてやらんでもないぞ」
しっかりと明石を見据えて言葉を紡ぐ。
少し怯んだのが見て取れた。
「チビは……チビはどうしてるんだ?」
「そういうこともひっくるめて、教えてやるって言ってるんだ。どうする? 来るか?」
「風紀!?……高、橋」
明石は無造作に駐車されていた車体の長い車を見て、一瞬ギョッとしていたが、俺がドアを開いてやれば大人しく中に乗り込んだ。
まずは静かに座っていた葛西に対し驚きの声をあげ、続いて奥で偉そうに踏ん反り返っている高橋を確認すると、やはりという表情に変わった。
「あはは、元気そうじゃーん。ほんと野生ぱねぇ」
「野生……俺のことかよ!?」
「あはは、まぁ元気そうで安心したわ」
ちょいちょいと明石を手招きし、高橋は自分の横に座るよう指示した。
明石もそれに素直に従う。
「ったく、てめぇらナニモンなんだ?」
「ナニモン? なにそれ、俺たちはー普通の高校生に見えないってことー?」
明らかに揶揄している高橋の態度にも、明石は反発することなく、逆に静かに押し黙ってしまった。
少し蒼褪めて見えるのは、気のせいではないだろう。
獣は気配に敏感だというが、高橋から薄らと漂う尋常でない気配に、どうやら無意識ながらに気がついたようだ。
「……あんまはっきりと覚えてねーけど、伊藤とてめぇが助けにきたのは間違いねー。伊藤が一瞬であいつらを倒したのは、なんとなく覚えてる……で、チビはどうしてんだ? ナベは何かに巻き込まれたのか?」
「俺がこの場で答えてあげられるのって、一個だけなのよ。だから質問は一個にしてくんない?」
「はぁっ、一個だぁっ!? なんだよそれっ、誰かの指図かよ!?」
「うん、そう。だから明石大雅、貴様に許された質問は、一つだけだ」
「っ……」
瞬き一つですべてのものが変化した。
すでに別世界のものと化したこの場の空気に、明石は簡単に飲み込まれ、動けなくなる。
唯一、握られた右の拳がカタカタと震えていた。
よく見知った俺ですら、こいつが守人に戻る瞬間には鳥肌が立っちまうほどだ、明石がそんな反応を見せても仕方がない。
無表情のままの葛西を見やれば、その額には玉のような汗が浮かんでいた。
「まぁ、こっちにも色々都合があるわけよ」
またもや高橋を彩る気配が変化して、一気に車内の空気が和らいでいく。
「お、おまえ……」
途端、明石は詰めていた息を一気に吐きだした。
「で、明石は何が一番気になんの?」
「チビ……チビはどうしてんだ? 無事なのか?」
「アキの怪我なら大丈夫よ。ちゃーんと治療してるし、それほど大したことはないからねー」
「そうか……だったら、いい。これで、俺の質問とやらは終わりなんだろ」
「あはは、いいコちゃんだね。んじゃ後は葛西と東峰に譲るわ」
これで話は終了と、高橋は腕を組みながら目を閉じた。
さて、こっからは俺たちに交代だ。
「明石、お前たちの身に何が起こったのか、気になるか?」
最初に決めていた通り、俺が明石に対し問いかけた。
葛西は無言のまま、明石の返事を待っている。
「あぁ? 気にならないはずねーだろ」
「だな、知りたいというなら、」
「いらねぇ」
「今なんと言った?」
「いらねぇよ、教えてなんていらねぇ」
高橋の横に座る明石は、先ほどまでの怯えを払拭するかのように、いきなり右足を大きく振り上げ左の膝に置き、構えるように俺と葛西を睨みつけた。
「あんなことがあったてーのに、警察はこねー、医者は何も訊かねー、学校からは何も言われない、そんで最後はてめぇらみてーのがやってくる。そんなもん、まともじゃねーってことくらい俺でも分かるぜ」
「ふん、ま、否定はしねぇな」
「親父やじじぃのお陰で、世の中は見えてる部分だけじゃねーってことは分かってる」
こいつの家は戦前から続く政治家一家だ。
それも、賄賂なんて当たり前、だがその分の仕事はきっちりとこなし、汚いことも綺麗事も全てが同じ価値観の上で成り立っている、そんな裏も表も知り尽くした生粋の政治家。
俺たちのような輩とも、持ちつ持たれつの間柄だ。
明石自身何も知らなくとも、見えない部分――裏というものが存在していることを、この聡い男は、十分理解しているようだ。
「だが、自身の身に起こったことだ、気にならないはずないだろ」
葛西の言うとおりだ、気にならないはずがねぇ。
「これは、俺が知るべきことじゃねー、たまたま巻き込まれただけだしな。だから、俺が知る必要なんてねーんだよ」
「お前はそれでいいのか?」
最後の確認のつもりで、明石に問いかける。
「気にならないっつったら嘘だけどな。だけど、今はそん時じゃねーって気がする」
「そうか、分かった」
明石の目には迷いはなかった。
ならば、このまま何も知らせずにいればいい。
「それよりも、俺のこの怪我はどういう扱いになってんだ?」
「あっと、そうだな、それは風紀委員長から説明してもらうほうがいいだろう」
「バイクでの単身事故扱いだ」
「バイク…事故……ダセェ……」
「警察その他全てこちらで処理したから安心しろ。保険もすぐ降りる。一応謹慎3日は受けてもらうぞ」
「はぁっ!? 何言ってやがる!?」
葛西がさらりと告げた内容に、明石の顔色が一瞬にして変わった。
「バイクを許可なく校内に持ち込んだんだからな、当然の処罰だ。むしろ軽いくらいだ」
「ちっ、仕方ねーな」
「あ、そうそう明石のバイクはー、スクラップになってるからねー」
「はぁっ!? ふざけんな!!」
既に守人の影の失せた高橋からの報告に、明石は唾を飛び散らしながら喚いた。
「うわっ、もう汚いなー。仕方ないでしょ、一応事故った現場作ったんだからー」
「てめっ、なんつーことをっ」
「だいたい、無許可でバイクなど、」
「風紀、てめーは黙ってろっ」
不毛な言い合いが始まりそうな予感がしてならない。
ひとまずは明石に撤退してもらうことで、ここは幕引きとするか。
「まぁ、明石には悪いがそういうことだ。諦めろ」
「くそっ」
まだかなり不満そうではあるが、こればかりは明石に涙をのんで諦めてもらうしかないだろう。
ちなみに、この処置を考えたのは葛西と高橋だからな、俺は一応は反対したんだ。
ぶつぶつと文句を言っている明石を乗せた車は、無事寮の入り口に到着した。
「暫くガッコ行かないけど、心配しないでねー」
「あぁ、わかった」
知る必要はないと言い切っただけあり、明石はなにも問うことをせずに、車を降りる準備を始める。
「あっと、答えなんて期待してねーけど、一応な…」
ドアを開け外に足を踏み出した明石が、いきなり高橋に向き直った。
「…佐藤も、佐藤も…関係してんのか?」
明石の口から晃の名前が飛び出して、頭の中が一瞬真っ白になった。
「質問はもう受け付けませーん」
「あぁ、分かってる」
高橋が陽気に応えれば、明石は納得したような表情で車から離れた。
「ちょ、待――!!」
「東峰っ」
慌てて追いかけようとした俺を葛西が引き止め、高橋が車をすぐに出すようにと内線で指示を出しやがった。
「東峰っ、ちょっ、落ち着けっての」
車が動き出したが、そんなの関係ねぇ!
ドアを開けようとする俺を高橋までもが抑えにかかるが、俺はそんなことじゃ怯まねぇぞ!
しっかりと思い出した! あいつは、あの不良は、晃の部屋に寝泊りしていた過去があるんだぞ――!
くそっ、謹慎3日とバイクスクラップなど生温い!
「絶対に停学処分にしてやる――!!」
