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★キラキラ 第二仕舞章★

[アーちゃん■仕舞『シテ瀬緒咲夜』]


「守人、ただいま戻りました」

「ふふ、ここにいると、すぐに守人に戻ろうとする、あなたもなかなか頑固ですね」

アッくんとアキを無事校門まで送って、俺は奥院と呼ばれる場所に戻ってきた。
駄目だな、ここだとすぐ高橋昭を忘れそうになっちまう。
いかん、いかん。

「勉強なしで試験とかありえねー、って愚痴ばっか聞かされたんですけどー」

「おや、それはご苦労様です。普段の授業態度が真面目なら問題ないはずなんですけどねぇ」

「だよねー」

アキはたまに居眠りこくからな、お年玉は諦めろ。

「では、行きましょうか、アーちゃん」

「だね、アッキー待たせたら、後が怖いし」

ほとんど訪れたことなどないのに、俺の本能はこここそが真の己に成れる場所だと、訴えてきやがる。
やばい、気合いれとこ。

総代、次代、直系、そして彼らを世話する我々継埜のみが居住を許されている場所。
奈落の高座から続く扉からしか入ることのできない、奥院。

瀬緒は、この奥院に閉じ込められることを、心の底から望んでいた。
愚かな奴、ここが、この場所が総代の権力の象徴だとでも思っていたのかね。
ここはそんなところじゃない、ってのに、ね。



「僕は、いつ殺されるんだ?」

俺が招いたあの日から、瀬緒が2週間をすごしていた部屋。
その部屋の真ん中で、真白の袴を着た瀬緒が、項垂れ座り込んだ姿で俺たちを待っていた。
瀬緒の傍らには黒い袴姿のアッキーが、腕組をして立っている。

ここは比良坂と呼ばれる場所に設けられている一室。
アッくんたちが寝泊りしていたのも、比良坂内だ。

奈落へと向かう前場、裏と表を繋ぐように存在する場所。
瀬緒はここを奥院と思い込み、案内した日から傲岸不遜な態度で、周囲のモノに接していた。
もちろん俺は奥院に引っ込んでいたから、最初以外は会ってなかったけどね。
他の継埜に聞いたのよ、まるで己が雪客だとでも言わんばかりの態度だ、てね。

そうそうここね、昔は和室しかなかったんだけど、先代のときに不便だからって、洋室も用意してあるのよ。
先代には会ったことないけど、なかなか柔軟なお人だね。
ちなみに、瀬緒に与えられた部屋は純和風。

「安心しろ、すぐに執行する」

瀬緒の言葉を受けて、アキラは冷たく言い放った。
そう、雪客には温情や憐れみなんて感情、存在しちゃならんのだ。

「・・・・・・そうか、父は、あ・・・いや十夜は・・・」

「瀬緒十夜、並びに姫宮藍貴は、昨夜執行した」

「・・・そ、うか・・・・・る、貪塊、は、」

「貴様のあとだ。案ずるな、すぐに逢える」

「そうか、そうなのか・・・まだ、生き、て、る・・・そうか・・・」

力なく瀬緒は呟く。
異母兄弟。そうと知らずとも懐かれ、側にいた奴だ、やはりなにかしら情があるんだろう。
俺は、少し、ほんの少しだけ安堵していた。

「いつでも、ヤってくれ」

「瀬緒咲夜、貴様の全て私が記憶してやる、安心して逝け」

「お前は、そこで見ているの・・・か・・・?」

「当然だ、私は全てを視、聴き、記憶する。私が消えるその時まで、貴様の全て褪せることなく共に在るのだ」

「・・・・・・共、に・・・?」

「そうだ、わかるか咲夜、私が消えぬ限り、貴様も貴様の家族も、全てが雪客と共にこの世に在する」

「・・・・・・そうか、雪客と・・・・・・父も、妹も、弟・・・それに、瑠希愛・・・も・・・・・・」

「では、門音、一片の苦痛も与えぬよう」

「承知」

瀬緒はまるで眠るかのように、自らその目を閉じていった。
そして懐かしい夢でもみたのか儚げに、微かに笑んだ。

門音は全てを受け入れその場に座す瀬緒の喉元へと、表情を変えることなく手を触れた。
そうして軽く力を込める。
彼の指にどこをどうされたのかは俺にはわからないが、一息の苦鳴も零さず、微笑む顔を歪めることもせず、瀬緒は夢見るように絶命していた。

「瀬緒咲夜、素晴らしき仕舞であった。では、また会おうぞ」

瞬き1つせず、瀬緒の最後の舞を堪能した俺たちは、振り返ることもせず、その舞台を後にした。


仕舞=能の略式演奏の一。囃子(はやし)を伴わず、面も装束もつけず、シテ一人が紋服・袴(はかま)で、謡だけを伴奏に能の特定の一部分を舞うもの。

シテ=能の主役。
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