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★キラキラ 第二仕舞章★

[アッくん■西の想い]


「やっと静かになりました」

彼らが連れて行かれ、場はピンと張り詰めた静寂が支配していた。
それを破ったのは、やはり雪客。

「渡辺彬、3つめの質問をしなさい」

正直言って、そんなことすっかり忘れていた。
聞きたいことは山ほどあるけど、なにを聞くかなんて考えていなかった。
どうしよう、どうしよう、ちゃんと選ばなくちゃ。

「どうしました、さぁ」

「あ、う、えっと、ちょっと待って・・・ください」

「んー、私が想像するに、とりあえず聞いておきたい質問はあと2つ、ではないですか?」

「え、そうです、いっぱい聞きたいけど、絶対知っときたいのは・・・たぶん、2つ、くらい・・・です」

なんで、わかったんだろ?

「そうですか・・・では、悪いようにはしません、とりあえずどっちか尋ねてください」

そんな、どっちかだけなんて・・・あ、でも悪いようにはしないって言ってるし。
だけど、なんかペナルティとかあったらいやだな。
でも、あんまり待たせると、怒られそうだし・・・

「あの、東西ってなんですか? 先輩たちがいるのが不思議で・・・」

僕の、裕輔さんに寄りかかるようにして触れている僕の体に、彼の震えが伝わった。
動揺してる、これは聞いてはいけなかったんだろうか・・・・・・
俯いている顔を伺い見ると、狼狽してるのがわかった。

「3つめの質問しかと承りました。しかし、これは表の意見を聞かねばなりません。東」

「異存はありません」

「では、西」

「や、やっぱり、いいですっ」

「彬・・・」

裕輔さんをこれほど困らせるなんて、きっと僕は知ってはいけないんだ。

「質問を取り消すは、1度まで」

「そんな・・・じゃ、裕輔さんがいやって言ったら、雪客、さまは答えないんですよね」

「ふふ、さぁ、どうでしょう」

「そ、だってわざわざ意見聞いてるのに・・・」

「表に関する事柄は、東西の意見を聞きます。ですが聞くだけです。判断は私が致します」

「彬、大丈夫だ。雪客様、同じく異存ありません」

「そんな、だって、」

「いいんだ、俺は、俺は・・・知ってもらいたいんだ・・・」

「ゆ、すけさん・・・」

「さて、東西も納得したようですので、お答えしましょう。彼らは裏と表を繋げる橋です」

「橋・・・」

なんとなく想像はついていた。
僕を迎えに来たのは、彼ら。
守人は彼らの意見を聞き、そして、彼らと共に僕を連れて行くことを許してくれた。
それは、僕が表の人間だからだ。
そんな表に属する者たちと、この闇のモノたちの橋渡しをしてくれているんだ。

「表の人間をここに招くはもちろん、裁定を見守り、それを表の世界に解き放つのが彼らの役目」

「解き放つって・・・」

「先に言っておきます。渡辺彬、あなたはとても聡く、我らに比ぶればかなり善人です」

「善人って、そんなことないよ」

だって、僕は僕を傷つけた人を許してないよ、姫宮くんのことだって、離れてホッとするような人間だもの。
僕はとても自分勝手な人間だよ。

「では、問います。あなたは私の裁きに異議を申し立て、瀬緒の一族を滅したことを責めた。それはあなたの善なる部分がしたこと、ではないですか?」

「そ、それは・・・否定はしないけど、だってあんなの見ちゃったら・・・」

「表である東西は私を止めましたか、異議を唱えましたか」

「それは・・・」

「そういうことです、彼らは私を止めない、文句も言わない、黙って享受する。さぁ、こんな人間をあなたは受け入れることができますか?」

背中に悪寒が走った。
僕は僕はとんでもないことを、雪客に聞いてしまったのだと、今さらながらに思い知った。
最初の質問で、そんな事を聞いても仕方がないと、自分のことだけ考えて質問しろと、そう言った裕輔さん。
それは裕輔さんも雪客に従い、あの凄惨な行為に加担したのと同じことなんだ。

「だけど、だけど僕も止めなかった。それだけじゃない、僕はその後、あんな酷いことがあったのに、その後は普通にしてたんだ。アキラやアーちゃんが僕をアッくんって呼んでくれて、喜んだりもしてた。僕はそんな人間だよ・・・だから、善人なんかじゃないよ、僕は単なる偽善者なんだっ!」

そうだよ、僕は全然善い人なんかじゃない。
さっきだって、瀬緒たちが連れて行かれるのを黙って見てた。
その後のことも考えなかったし、考えたくもなかった。
そんなことより、裕輔さんのことが気になって、だから質問なんてしちゃってるんだ。

「教えて雪客様、僕は僕の大好きな人のことを知りたい、そんな自分勝手な人間だから、教えて」

「彬・・・」

「西、言いたいことがあれば言え、許す」

「ありがとうございます・・・・・・彬、俺は、俺のことを知られて、軽蔑されるのが怖い、嫌われるのもいやだと思ってる」

「裕輔さん」

「だが、愛する人には、俺という人間の全てを知って欲しいとも思う、そんな矛盾だらけで利己的な男なんだ。だが、それが俺だ、今から俺の全てを知り、文句を言っても嫌いになっても構わない。だが頼む、最後まで聞いてくれると約束してくれ」

「裕輔さん・・・・・・うん、約束する、僕は裕輔さんのこと、ちゃんと最後まで聞く、絶対に」

これは、裕輔さんの決死の告白なんだ。
だから聴く、そしてそれを記憶に収め、そしてちゃんと判断する。
それが、愛する人への僕の答えなんだ。

「さて、渡辺彬の気持ちも定まった、続ける」

雪客って、話し方がコロコロ変わるな、なんでだろ?
あ、もう質問できないんだよね、聞けないよね・・・・・・

「裁定を見守り、それを表の世界に解き放つが彼らの役目。これは先に申したとおり。具体的にどうするか、それを話そう」

「はい、お願いします」

「先ほど処分されたモノども、彼奴らは当然表の世界の顔をもつ、それがどういうことかわかるか?」

「えっと、あの人たちも普通に生活してるってこと、ですよね」

「そう、当然社会に帰依し、周囲には友人知人付き合いのある人間が大勢いる。1人2人消したところで、大した問題にはならんが、先ほどの人数が突然消えたら、周囲の人間どもはどう思うか・・・」

「あっ、そうか、いきなり大人数が消えちゃうなんて、そんなこと・・・」

「それを表の理に当て嵌め、処理するのが東西の役割」

「それって、どういう・・・・・・」

一気に全身の血の気が引いた。
まだよくわからないけど、なんとなく理解はできた。
彼らは隠してるんだ。
殺された人間を、殺されたのだと気付かれぬように、世間の目を覆い隠し現実を嘘で塗り固め隠しているんだ。

なんて――

「・・・・・・ううん、汚くなんてない。間違ってるのかもしれないけど、それは汚いことじゃないんだ」

「彬・・・」

僕は一瞬そう思ってしまった。
自分のことを棚上げして、隠す彼らを卑怯だと酷いと・・・・・・汚いと、一瞬考えてしまったんだ。

そんな恥ずかしいことをしてしまった僕を、僕は責めたくなった。
そしたら自然に言葉が出てきてしまっていた。

「やはり貴様は聡い。それを汚いことだと、言い放つ人間はここに必要ない。さて、表の東西の役割とはそういうことだ。此度の一件も適当な事故として片がつくだろう。暫くはニュースに目を向けているがいい」

「雪客さ、ま・・・」

わざとこういう言い方してるんだろうな、そう感じた。
わざと彼らも自分も貶めて、そしてそれを受け入れられぬなら立ち去れと、そう言ってるんだ。

彼らは裏、僕は表、だけどその間に跨る橋はとても複雑で、だから単純な理では処理しきれない。
だから無理に理解する必要もないし、理解もできない、ただ受け入れるか断ち切るか、どちらかしかないんだ。

だったら僕は――

「・・・・・・僕は受け入れる、うん、理解はできないけど、僕は裕輔さんを受け入れるよ、裕輔さんの全部を受け入れる、絶対逃げたりしない」

「彬っ! 俺は俺は・・・」

「エッヘンッ!」

へんな咳をしたのは、東――会長だった。
お互い見つめ合い、激しく抱擁を交わしていた僕と裕輔さん・・・・・・あああ、ここっていっぱい人がいるのに。

「わっ、やだっ」

裕輔さんがキスしてこようとしたから、慌てて顎を押し返し、僕は身を捩るようにして彼から離れた。
もう、ここには雪客とか長老とか偉い人がいっぱいいるのにっ!

「どうぞ、続けてください」

「こらこら」

雪客がへんなこと言って、守人が諌めてくれた。

もう、続けたりなんかしないよ。
裕輔さんはまだ名残惜しげに僕の肩を抱いてるけどね。

「おや、残念です。まぁ、いいです、この後の楽しみもありますし」

へ、どういう意味だろう?

「さて、これが東西の役目、次はなぜ彼らが東西の代表なのか、です」

「あ、はい、聞きたいです」

「まぁ簡単にいえば、彼らは強いからです」

意味わかんない・・・

「えっと、喧嘩が・・・?」

「ふふ、彼らは、この闇に染まることはない、逃げ出しもしない、否定もしない。そして恐れもしない、そんな精神(こころ)の強い人たちなのです。彼らの家は表ではかなりの地位にある。もちろん我が眷属たちも彼らを庇護しております。そして代々、表での処理をしてもらってます。どうも僕たちは裏に染まりきっているのか、表の理が苦手なようです。さて、そんな東西の代表は必ず闇に囚われないモノが選ばれる。つまり彼らはここに居る、という時点で各家の当主たるべき人物なのです」

「当主・・・」

今、なにかとてつもない不安が過ぎった。
それがなんなのか、検討もつかないんだけど、とても大事なことのようで。

「どうした、彬?」

僕のこぼした言葉にも、そのわからない不安の影が張り付いていたのか、裕輔さんが心配そうにこっちを見ている。

「アッくん、あなたの不安は僕が払拭してあげましょう」

「え、ア、アキラ・・・」

いったい何が不安なのかも分からないのに、どうやって・・・?

「あなたの不安、それは先輩とあなたの将来に対する不安、ですね」

「彬、そんなことを考えていたのか?」

「あ、どうだろ、そうなのか・・・な・・・」

心の奥深くにある漠然とした不安、恐怖、これは・・・

「あなたの中の当主たる人間のイメージ。然るべき釣合いのとれた家から妻を娶り、子を成す」

そうだ、その通りだ。
今までは学生だったからなんのイメージも持ってなかったけど、裕輔さんは葛西の人間なんだ。
僕の家は小さい会社で、しかも男。
そんな人間と、ずっと一緒になんて無理に決まってるんだ。

「彬、俺は、」

「葛西先輩っ、あなたが何を言っても彼には届きません」

「佐藤、なぜだっ!?」

「葛西が言っても、アッくん信じきれないっしょー」

「アーちゃん・・・僕、裕輔さんの重荷とか、いやだし、邪魔もしたくない・・・」

きっと裕輔さんは僕と共に生きていくことを願ってくれてる、だけど周りの人はどう思うだろう。
然るべき地位についた人間を、周囲が放っておくわけないんだ。
きっと、僕のところにも、そういう人たちは訴えてくると思う、早く別れろって。

「その不安この雪客が、払拭すると言った」

「アキラ・・・、雪客、さ、ま・・・」

「渡辺彬、東西の資格、それを忘れるな」

「資格、闇に囚われない・・・」

「そう、そんな人物など稀なこと、代々の東西皆必死で耐えていた、それは愉快なほど震えていた、早く引退したいとどやつも嘆いておった」

「そんな・・・」

「この闇に耐える強靭な精神(こころ)を持ち合わせるモノなど、そうそういないのだ。皆簡単に堕ちる。ところがこやつらはどうだ。この歳で動じることもなく裁定を見守る」

確かにそうだ、僕も裕輔さんがいなければ、簡単に堕ちて、怯えて、逃げるか狂ったように染まるだけだと思う。
裕輔さんが、あっちへ行こうとする僕を引き止めてくれてたんだ。

そして、ああ、僕は思い違いをしていたことに気が付いた。

最初に雪客を責めてしまったとき、裕輔さんはとても辛そうな表情で僕を見ていた。
それは、あの逝ってしまった一族を、思い遣ってのことなんかじゃなかったんだ。
彼はそんなことに、決して動じやしないんだ。

彼がその心を動かしたのは、常に僕が怯え、慄き、己を失くし、闇へと落ちそうになったときだけ。

「こやつらは稀なモノ、故にこやつらが当主の座を降りることに誰も納得はしない。つまりこやつらを引き止めるためならば、どんな願いごとも我儘も聞くしかないのだ。たかが男を伴侶とし、子を成さないなど、軽い問題。よって、貴様の悩みは杞憂にすらならない。考えるだけ無駄だ。そんなものとっとと捨ててしまえっ!!」

「ひゃっ、はい、考えないですっ!」

最後は激昂して、僕に怒鳴りつけた雪客。
その表情も声色も、すごく怖くて、思わず返事しちゃった。

「さ、東西の話は終わったぞ、つい過剰なサービスをしてしまったが、よかろう。渡辺彬、これで貴様の3つの質問が終わった。これにてお開きだ」

「え、待って――」

あれ、なんで僕こんなこと言っちゃったんだろ?

「どうした、まだ何かあるのか」

何か忘れてる、何か、すごく大事なこと――

「えっと、もう1つ質問は・・・」

「フフ、雪客への質問は3つまでとなっておる」

「ですよね・・・」

「だが、例外もある」

「えっ――」
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