★キラキラ 第二仕舞章★
[アッくん■直系]
「さて、続きだ。この呪われた宿命は、全て私をもって終結する。最後の直系が子を成すことも絶対にありえない」
「・・・あ、なぜ」
まだ問いかけることができる瀬緒を、少し、ほんの少しだけ尊敬した。
「私には伝える想いがなかったが、血族を求める習性すらなかった。そして、私の伴侶は男だ。よって、これ以降、総代も直系も絶える。これはここにいるモノ皆承知だ。私の生死を偽ったのは、先代の画策。私が、雪客の本能のままに次に伝えるのを防ぐため。そして、貴様らのようなモノから逃がすため。奥院にて育ち、そのまま総代に立てば、自然と雪客を宛がわれ、また次へと繋がる。そして、そうなるよう貴様らのような輩は立ち振る舞う。だから隠した。己で終わりにしようと、先代は考えたのだ」
過去から連綿と続く欲望を、次に負わせたくない一心で、己で終わらせようとした前の総代。
伝えたい、継がせた、そんな想いを必死で抑えて・・・なんて、なんて勇気のある人なんだろう。
だけど、結局その想いは意図せず破れ、そして今に繋がってしまったんだ。
「先代の想いを叶えるべく、守人やじじぃどもは奔走しよった。私は7歳で総代と相成ったが、それを隠し、未だ先代が生きているように画策した。そうすることによって、皆雪客を夢見、本家へと参上するからな、死した私をわざわざ探すモノなどおるまい。つまり、私の本能がいくら求めようと、雪客と出会うことはない、これが先代の考えであった。しかし瀬緒咲夜、貴様は私が存命であることを知り、貪塊が恋うた事実と重ね遭わせ、私が雪客ではないかと疑った。そして既に記憶が伝わっていると考えた。・・・・・・まったくもって、愚かな奴だ。・・・・・・さて、余談は終了だ。貴様の室の話しをしてやる」
「室・・・そ、そうだ・・・僕は、室が・・・」
「室というのは鷺の特性、それは鷺の血があるモノならばどこにでも顕れる可能性がある」
「そうだ、分家の僕でも・・・」
「くく、瀬緒の血を引かぬ貴様が言うか」
「あ・・・」
「雪客の室とは記憶を保存する場所、その膨大な記録を失することなく保存するため、閂(ぬき)で閉ざすのだ」
「・・・ぬ、き?」
「あまりにも複雑で膨大な記憶をそのまま置けば、ただただ脳を圧迫し、壊すだけ。記憶の奥深くにそれ専用の場所を確保し、鍵をかけ、自己崩壊を抑止する。それが閂だ。そして次代には己の記憶と記録を渡す。そうして後になればなるほど膨大な記録となる。貴様は室を持つと言うが、どれ、試してみるか?」
「え、なに・・・を・・・」
「記憶力のいい一般人というのは大勢いる、存外耐えられるやもしれんぞ。無事入れば貴様の望んだ次代だ。どうだ、まずは300年ほど入れてみるか?」
「総代っ」
とてもいい悪巧みを思いついたとでもいうように、人相悪く瀬緒に問う雪客に、座下に控えている長老たちが厳しい声をあげた。
「わかっておる、冗談だ。すまぬな瀬緒咲夜、貴様も試したかろうが、そんなことをすると、私はあのじじぃどもに尻を引っ叩かれるのだ」
尻をって、冗談だよね。
「しかし、瀬緒咲夜、挑戦はしないほうがいい。1500年程前に既に試したことだ。案の上、正気を失いおった。1000年ほどの記録でそうだ、現在はにせん、と危ない危ない、また叩かれるところだった。まぁ2000余年の記録を入れればどうなるかは、好きに想像しろ」
雪客が、なぜこれほどまでに全てを話したのか、なんとなく想像がついた。
彼は、瀬緒たちの全ての希望、一欠けらの矜持すら、悉く打ちのめし、粉々に砕いて、最後には何一つ残らないようにしてるんだ。
「さて、私は此度の一件にかなり怒っておる。この程度では気なぞ済まんぞ」
もう燃え尽きたようにその場に座り込むだけの3人に、まだ追い討ちをかける気なんだ。
「もう、許し、てく・・・れ・・・許し、て・・・くだ、さい・・・」
涙すら流すことができないほどに、強く放心している瀬緒は、うわ言のように雪客に許しを請うた。
「フフ、温情など私にはないわ。さて今までの話しを聞いて、何か気付かぬか?」
「あ、あの・・・」
僕はふと思いついたことを聞いてみたくなり、まるで学校のように雪客に右手をあげてみせた。
「渡辺彬、許す、申せ」
「は、はい・・・あの、今の総代で終わりってことは、これからは・・・えっと、そのまま・・・」
駄目だ、上手く言葉にできないや。
でも僕の拙い言葉を雪客は汲み取ってくれたみたい。
それで正解、とでも言うように、優しく僕に微笑してくれたから。
「守人、直系の特徴を教えてやれ」
「鷺視直系はその血筋から、短命。先代は53歳で崩御したが、直系としては大変御長寿であらした」
心臓が一度ドクンと大きく跳ねた。
「そういうことだ。直系誰もが皆早死に、そのようなこと、ここのじじぃどもや貴様らのほうが知っておるだろう。私は最も濃い直系、なれば長くともあと15.6年、というところか、そのとき貴様はいくつなのだ」
会長が表情を変えずに雪客を見ている、だけど膝に置かれたその拳は・・・強く握られ震えているのが、遠くからでも見て取れた。
もちろん会長は知っているんだよね、アキラの寿命が短いことを。
分かっていて、それでもずっと側に居ることを誓っているんだ。
「私は最後の総代。私が逝けば、いずれ鷺視は貴様らの好きにできたやもしれぬ。知らぬこととはいえ、早まった真似をしたな」
瀬緒十夜、瀬緒咲夜、姫宮藍貴が、畳に伏し啜り泣いていた。
ただただ後悔だけを滲ませた泣き声だった。
こうして雪客の手によって、彼らの希望は木っ端微塵にされ、その塵すら奪い取られ、ただの空っぽの器と化した。
「さて、これら全て貴様らへの私からの餞(はなむけ)。心置きなく逝け。同じく姫宮家は絶家、血族は5親等まで処分といたす、以上だ」
「お、お待ちください、雪客様・・・ど、どういうことですか・・・?」
絶家と言われ、脱力したままの理事長は、それでも姫宮家の長として雪客に問うた。
「そのままの意味だ。どうやら貴様の家、鷲の血が数滴混じっておる。当然その血残すわけにはいかぬ。私は鷺を守らねばならないのだ。白儿、こやつらを連れて行け」
「承知」
門音が応えた。
続いて背後から6体の影が出でて瀬緒たちを引き立たせ、そして・・・・・・闇の中へと消えていった。
彼らの行末を想像すると叫び出しそうになる。
僕はそれを脳裏から消し去ることに、全神経を集中した。
そうして深く目を閉じ、充満する香の薫りに、ただ聞き入った・・・・・・
「さて、続きだ。この呪われた宿命は、全て私をもって終結する。最後の直系が子を成すことも絶対にありえない」
「・・・あ、なぜ」
まだ問いかけることができる瀬緒を、少し、ほんの少しだけ尊敬した。
「私には伝える想いがなかったが、血族を求める習性すらなかった。そして、私の伴侶は男だ。よって、これ以降、総代も直系も絶える。これはここにいるモノ皆承知だ。私の生死を偽ったのは、先代の画策。私が、雪客の本能のままに次に伝えるのを防ぐため。そして、貴様らのようなモノから逃がすため。奥院にて育ち、そのまま総代に立てば、自然と雪客を宛がわれ、また次へと繋がる。そして、そうなるよう貴様らのような輩は立ち振る舞う。だから隠した。己で終わりにしようと、先代は考えたのだ」
過去から連綿と続く欲望を、次に負わせたくない一心で、己で終わらせようとした前の総代。
伝えたい、継がせた、そんな想いを必死で抑えて・・・なんて、なんて勇気のある人なんだろう。
だけど、結局その想いは意図せず破れ、そして今に繋がってしまったんだ。
「先代の想いを叶えるべく、守人やじじぃどもは奔走しよった。私は7歳で総代と相成ったが、それを隠し、未だ先代が生きているように画策した。そうすることによって、皆雪客を夢見、本家へと参上するからな、死した私をわざわざ探すモノなどおるまい。つまり、私の本能がいくら求めようと、雪客と出会うことはない、これが先代の考えであった。しかし瀬緒咲夜、貴様は私が存命であることを知り、貪塊が恋うた事実と重ね遭わせ、私が雪客ではないかと疑った。そして既に記憶が伝わっていると考えた。・・・・・・まったくもって、愚かな奴だ。・・・・・・さて、余談は終了だ。貴様の室の話しをしてやる」
「室・・・そ、そうだ・・・僕は、室が・・・」
「室というのは鷺の特性、それは鷺の血があるモノならばどこにでも顕れる可能性がある」
「そうだ、分家の僕でも・・・」
「くく、瀬緒の血を引かぬ貴様が言うか」
「あ・・・」
「雪客の室とは記憶を保存する場所、その膨大な記録を失することなく保存するため、閂(ぬき)で閉ざすのだ」
「・・・ぬ、き?」
「あまりにも複雑で膨大な記憶をそのまま置けば、ただただ脳を圧迫し、壊すだけ。記憶の奥深くにそれ専用の場所を確保し、鍵をかけ、自己崩壊を抑止する。それが閂だ。そして次代には己の記憶と記録を渡す。そうして後になればなるほど膨大な記録となる。貴様は室を持つと言うが、どれ、試してみるか?」
「え、なに・・・を・・・」
「記憶力のいい一般人というのは大勢いる、存外耐えられるやもしれんぞ。無事入れば貴様の望んだ次代だ。どうだ、まずは300年ほど入れてみるか?」
「総代っ」
とてもいい悪巧みを思いついたとでもいうように、人相悪く瀬緒に問う雪客に、座下に控えている長老たちが厳しい声をあげた。
「わかっておる、冗談だ。すまぬな瀬緒咲夜、貴様も試したかろうが、そんなことをすると、私はあのじじぃどもに尻を引っ叩かれるのだ」
尻をって、冗談だよね。
「しかし、瀬緒咲夜、挑戦はしないほうがいい。1500年程前に既に試したことだ。案の上、正気を失いおった。1000年ほどの記録でそうだ、現在はにせん、と危ない危ない、また叩かれるところだった。まぁ2000余年の記録を入れればどうなるかは、好きに想像しろ」
雪客が、なぜこれほどまでに全てを話したのか、なんとなく想像がついた。
彼は、瀬緒たちの全ての希望、一欠けらの矜持すら、悉く打ちのめし、粉々に砕いて、最後には何一つ残らないようにしてるんだ。
「さて、私は此度の一件にかなり怒っておる。この程度では気なぞ済まんぞ」
もう燃え尽きたようにその場に座り込むだけの3人に、まだ追い討ちをかける気なんだ。
「もう、許し、てく・・・れ・・・許し、て・・・くだ、さい・・・」
涙すら流すことができないほどに、強く放心している瀬緒は、うわ言のように雪客に許しを請うた。
「フフ、温情など私にはないわ。さて今までの話しを聞いて、何か気付かぬか?」
「あ、あの・・・」
僕はふと思いついたことを聞いてみたくなり、まるで学校のように雪客に右手をあげてみせた。
「渡辺彬、許す、申せ」
「は、はい・・・あの、今の総代で終わりってことは、これからは・・・えっと、そのまま・・・」
駄目だ、上手く言葉にできないや。
でも僕の拙い言葉を雪客は汲み取ってくれたみたい。
それで正解、とでも言うように、優しく僕に微笑してくれたから。
「守人、直系の特徴を教えてやれ」
「鷺視直系はその血筋から、短命。先代は53歳で崩御したが、直系としては大変御長寿であらした」
心臓が一度ドクンと大きく跳ねた。
「そういうことだ。直系誰もが皆早死に、そのようなこと、ここのじじぃどもや貴様らのほうが知っておるだろう。私は最も濃い直系、なれば長くともあと15.6年、というところか、そのとき貴様はいくつなのだ」
会長が表情を変えずに雪客を見ている、だけど膝に置かれたその拳は・・・強く握られ震えているのが、遠くからでも見て取れた。
もちろん会長は知っているんだよね、アキラの寿命が短いことを。
分かっていて、それでもずっと側に居ることを誓っているんだ。
「私は最後の総代。私が逝けば、いずれ鷺視は貴様らの好きにできたやもしれぬ。知らぬこととはいえ、早まった真似をしたな」
瀬緒十夜、瀬緒咲夜、姫宮藍貴が、畳に伏し啜り泣いていた。
ただただ後悔だけを滲ませた泣き声だった。
こうして雪客の手によって、彼らの希望は木っ端微塵にされ、その塵すら奪い取られ、ただの空っぽの器と化した。
「さて、これら全て貴様らへの私からの餞(はなむけ)。心置きなく逝け。同じく姫宮家は絶家、血族は5親等まで処分といたす、以上だ」
「お、お待ちください、雪客様・・・ど、どういうことですか・・・?」
絶家と言われ、脱力したままの理事長は、それでも姫宮家の長として雪客に問うた。
「そのままの意味だ。どうやら貴様の家、鷲の血が数滴混じっておる。当然その血残すわけにはいかぬ。私は鷺を守らねばならないのだ。白儿、こやつらを連れて行け」
「承知」
門音が応えた。
続いて背後から6体の影が出でて瀬緒たちを引き立たせ、そして・・・・・・闇の中へと消えていった。
彼らの行末を想像すると叫び出しそうになる。
僕はそれを脳裏から消し去ることに、全神経を集中した。
そうして深く目を閉じ、充満する香の薫りに、ただ聞き入った・・・・・・
