★キラキラ 第二仕舞章★
[アッくん■これが音無]
「どうして、どうして瀬緒さんは、あんなに僕を責め立てたの? 雪客と勘違いした僕から何が欲しかったの? それがわからない・・・」
憔悴していた瀬緒は、僕の口から自分の名が出たことで、恐怖に満ちた顔で雪客を見上げた。
「尤もな質問ですね、ではお答えしましょう。瀬緒咲夜があなたを雪客と思い込み、あなたから奪おうとしたもの、それは記憶でございます」
「記、憶・・・」
「はい、総代と成りし雪客が途切れもせず代々受け継いできたもの、それは記憶。真の歴史。裁定を行う手段です」
「え、あ、待って、だって、記憶ってだって、おかしいよ、そんなの。歴史ってどれくらいあるの? そんなの記憶してても次に教えるとき忘れちゃうよ、きっと間違えたりするよ」
「ふふ、おっしゃるとおりです。余人ならば不可能です。ですが雪客なら可能なのです。なぜなら雪客とは記録をしまう器をもって生まれたモノを指すからです。まぁ、今風に言えば、大容量のHDDを搭載した人間ですね」
「ア、アキラ・・・」
学校でよく見た表情で、飄々と話すアキラに会えて、僕の胸は暖かい気持ちでいっぱいになった。
あんなに怖ろしいことを平気で指示する人だというのに。
「そのHDDを私どもは室(むろ)と呼んでおります。この室に記録を保存し保持するモノが、すべてを総轄する総代と次を担う次代なのです。瀬緒はこの記憶を欲し、まずは次代、その後総代となり、この闇のモノ全てを掌握し尚且つ表のモノまで動かす力を得ようとした。愚かな男です、鷺視当主で満足しておけば良かったものを」
「当主って、でもそれもすごそうなんだけど・・・」
「東っ! 貴様が知る鷺視当主の話しを聞かせろ、あの夜私に対して濁していた話だ」
「はっ」
雪客の言葉に、会長が応えた。
東って、会長のことなんだ。
「鷺視当主に実権はないが、その財力と名を継ぐだけでも十分な恩恵が与えられます。故に誰もが成りたがり、誰が成っても問題ない。そのため、当主と成るべき人物の選定は、常にギリギリまで持ち越されるのです」
「鷺視の当主は飾りだそうです。確かに、なんら決定権はもっておりません。全て長老方、ひいては総代の意見に従わねばならない。なるほど、常に家督争いが起こっているわけですね。私どもの在する世界には、そんな騒動は存在しえないので、私にとってはまさに別世界の話です。んー、ですがそろそろ考え時かもしれませんねぇ。飾りとはいえ瀬緒咲夜のような者まで候補にあがるようでは・・・」
なんだか普段のアキラみたいになってきた。
「オホンッ」
独り悩みだしたアキラに、アーちゃんがすっごいわざとらしい咳をした。
「あ、失礼しました。さてさて、渡辺彬、あなたの質問にはお答えしました。瀬緒咲夜はあなたを次代と思い込み、その記憶を欲し責め立てた、以上です。さて、次は私が問おう。瀬緒咲夜、貴様はなぜ総代になるなどという夢を見たのだ」
「ぼ、僕は雪、客だからだっ」
途端、瀬緒の父親が更に泣き崩れた。
自分の息子の愚かさに嘆いているんだろうか。
もう何も持ってはいない瀬緒、それでもその矜持だけでなんとかこの場に存在している。
どうして瀬緒は己を雪客だと、そこまで信じれるんだろう?
「その根拠はなんなのだ?」
「僕は、室を持っているっ」
「なるほど・・・」
今まで驚くほど饒舌だった雪客が、珍しくも瞑目し何か考え込んでいる。
「相わかった。貴様のその話に乗ってやろう」
「・・・どういう、意味だ?」
「許す、語れ。貴様が己を雪客だと思い至った経緯を全て語るのだ」
「なっ、・・・ぅ・・・」
それが唯一残された矜持を跡形も無く粉砕していくためなのだと、瀬緒はここにきて理解したんだ。
「語らぬか、ならば・・・いや、やはり趣向を変えよう。くく、その方が面白い」
雪客のなんとも人の悪い笑みに、僕と当事者たちは震え、慄いた。
「ここに在るモノ皆、私とは違う。常に寄り添う守人ですら私とはまったく違うモノだ。しからば、あるまい、そなたらには278年前の記憶などあるまい」
「御意」
守人が答えた。
皆もそれに倣う。
「ならば見たかろう・・・牟韻のモノどもは目を輝かせておるな。フフ、13人目の当主に恵まれた僥倖に感謝せよ。音無、あやつに語らせろ」
「やめてっ! 駄目だよ、アキラ、アキにそんなことさせないで、どうしてどうして、あんなに言葉を出すの苦手だったのに、どうしてそんなことさせるのっ!?」
「彬っ!」
「渡辺っ!」
裕輔さんが僕を抱きすくめて、口を手で覆った。
会長にも厳しい声で叱咤された。
「表の東西っ!」
「「はっ」」
「今のは表の意見か?」
「いいえ、違います」
会長が答えた後、雪客は裕輔さんに視線を止めた。
「違います」
どうして、裕輔さんっ!
僕は叫びたいのに、裕輔さんの腕は全く緩んでくれない。
アキは心に傷を負って言葉を失ったんだ、その傷を無理矢理抉られ言葉を取り戻したのに、どうしてっ!?
「音無、渡辺彬も黙らせろ」
アキラ――
「承知。渡辺彬に命ず、雪客の許しあるまで、言を発すること禁ずっ!」
僕の周囲に存在していた目に見えないもの、当たり前のように僕を生かしてくれていたそれが、突如僕に牙を剥いた。
漂う空気は、僕の身体をとても緩やかに、でも容赦なく覆っていく。
噎せ返るような芳香の中、見えないものに絡まれ抑えられ、僕はその戒めに捕われゆく身体と精神(こころ)に身悶えた。
「っ・・・ぁ、ぅ・・・」
僕の中では警鐘が鳴り響く、僕の精神(こころ)が訴えかける、決して言葉を発してはいけないと。
それが御身のためなのだと、僕は己の記憶に存在しない恐怖に雁字搦めとなり、ただ怯えるだけのものと化した。
ああ、これが、これが、音無――
「どうして、どうして瀬緒さんは、あんなに僕を責め立てたの? 雪客と勘違いした僕から何が欲しかったの? それがわからない・・・」
憔悴していた瀬緒は、僕の口から自分の名が出たことで、恐怖に満ちた顔で雪客を見上げた。
「尤もな質問ですね、ではお答えしましょう。瀬緒咲夜があなたを雪客と思い込み、あなたから奪おうとしたもの、それは記憶でございます」
「記、憶・・・」
「はい、総代と成りし雪客が途切れもせず代々受け継いできたもの、それは記憶。真の歴史。裁定を行う手段です」
「え、あ、待って、だって、記憶ってだって、おかしいよ、そんなの。歴史ってどれくらいあるの? そんなの記憶してても次に教えるとき忘れちゃうよ、きっと間違えたりするよ」
「ふふ、おっしゃるとおりです。余人ならば不可能です。ですが雪客なら可能なのです。なぜなら雪客とは記録をしまう器をもって生まれたモノを指すからです。まぁ、今風に言えば、大容量のHDDを搭載した人間ですね」
「ア、アキラ・・・」
学校でよく見た表情で、飄々と話すアキラに会えて、僕の胸は暖かい気持ちでいっぱいになった。
あんなに怖ろしいことを平気で指示する人だというのに。
「そのHDDを私どもは室(むろ)と呼んでおります。この室に記録を保存し保持するモノが、すべてを総轄する総代と次を担う次代なのです。瀬緒はこの記憶を欲し、まずは次代、その後総代となり、この闇のモノ全てを掌握し尚且つ表のモノまで動かす力を得ようとした。愚かな男です、鷺視当主で満足しておけば良かったものを」
「当主って、でもそれもすごそうなんだけど・・・」
「東っ! 貴様が知る鷺視当主の話しを聞かせろ、あの夜私に対して濁していた話だ」
「はっ」
雪客の言葉に、会長が応えた。
東って、会長のことなんだ。
「鷺視当主に実権はないが、その財力と名を継ぐだけでも十分な恩恵が与えられます。故に誰もが成りたがり、誰が成っても問題ない。そのため、当主と成るべき人物の選定は、常にギリギリまで持ち越されるのです」
「鷺視の当主は飾りだそうです。確かに、なんら決定権はもっておりません。全て長老方、ひいては総代の意見に従わねばならない。なるほど、常に家督争いが起こっているわけですね。私どもの在する世界には、そんな騒動は存在しえないので、私にとってはまさに別世界の話です。んー、ですがそろそろ考え時かもしれませんねぇ。飾りとはいえ瀬緒咲夜のような者まで候補にあがるようでは・・・」
なんだか普段のアキラみたいになってきた。
「オホンッ」
独り悩みだしたアキラに、アーちゃんがすっごいわざとらしい咳をした。
「あ、失礼しました。さてさて、渡辺彬、あなたの質問にはお答えしました。瀬緒咲夜はあなたを次代と思い込み、その記憶を欲し責め立てた、以上です。さて、次は私が問おう。瀬緒咲夜、貴様はなぜ総代になるなどという夢を見たのだ」
「ぼ、僕は雪、客だからだっ」
途端、瀬緒の父親が更に泣き崩れた。
自分の息子の愚かさに嘆いているんだろうか。
もう何も持ってはいない瀬緒、それでもその矜持だけでなんとかこの場に存在している。
どうして瀬緒は己を雪客だと、そこまで信じれるんだろう?
「その根拠はなんなのだ?」
「僕は、室を持っているっ」
「なるほど・・・」
今まで驚くほど饒舌だった雪客が、珍しくも瞑目し何か考え込んでいる。
「相わかった。貴様のその話に乗ってやろう」
「・・・どういう、意味だ?」
「許す、語れ。貴様が己を雪客だと思い至った経緯を全て語るのだ」
「なっ、・・・ぅ・・・」
それが唯一残された矜持を跡形も無く粉砕していくためなのだと、瀬緒はここにきて理解したんだ。
「語らぬか、ならば・・・いや、やはり趣向を変えよう。くく、その方が面白い」
雪客のなんとも人の悪い笑みに、僕と当事者たちは震え、慄いた。
「ここに在るモノ皆、私とは違う。常に寄り添う守人ですら私とはまったく違うモノだ。しからば、あるまい、そなたらには278年前の記憶などあるまい」
「御意」
守人が答えた。
皆もそれに倣う。
「ならば見たかろう・・・牟韻のモノどもは目を輝かせておるな。フフ、13人目の当主に恵まれた僥倖に感謝せよ。音無、あやつに語らせろ」
「やめてっ! 駄目だよ、アキラ、アキにそんなことさせないで、どうしてどうして、あんなに言葉を出すの苦手だったのに、どうしてそんなことさせるのっ!?」
「彬っ!」
「渡辺っ!」
裕輔さんが僕を抱きすくめて、口を手で覆った。
会長にも厳しい声で叱咤された。
「表の東西っ!」
「「はっ」」
「今のは表の意見か?」
「いいえ、違います」
会長が答えた後、雪客は裕輔さんに視線を止めた。
「違います」
どうして、裕輔さんっ!
僕は叫びたいのに、裕輔さんの腕は全く緩んでくれない。
アキは心に傷を負って言葉を失ったんだ、その傷を無理矢理抉られ言葉を取り戻したのに、どうしてっ!?
「音無、渡辺彬も黙らせろ」
アキラ――
「承知。渡辺彬に命ず、雪客の許しあるまで、言を発すること禁ずっ!」
僕の周囲に存在していた目に見えないもの、当たり前のように僕を生かしてくれていたそれが、突如僕に牙を剥いた。
漂う空気は、僕の身体をとても緩やかに、でも容赦なく覆っていく。
噎せ返るような芳香の中、見えないものに絡まれ抑えられ、僕はその戒めに捕われゆく身体と精神(こころ)に身悶えた。
「っ・・・ぁ、ぅ・・・」
僕の中では警鐘が鳴り響く、僕の精神(こころ)が訴えかける、決して言葉を発してはいけないと。
それが御身のためなのだと、僕は己の記憶に存在しない恐怖に雁字搦めとなり、ただ怯えるだけのものと化した。
ああ、これが、これが、音無――
