★キラキラ 第二章番外★
[藤村■失恋男]
「・・・・・・本当に申し訳ありません。ですが、僕は奏先輩のことを、そういう意味で好きになることはありません」
真直ぐに相手の瞳を見詰め、言葉を繰り出す佐藤晃。
その態度には、同情も憐れみも、優越感すら存在しない。
文化祭の最後を飾る、後夜祭の真最中。
校庭に設置された舞台では、有名芸人が司会を務め、歌やらダンスやら、華やかなパフォーマンスが生徒たちを沸かせていた。
主催は、もちろん生徒会。
現在、仕切っているのは、会長と副会長。
書記と会計は、文化祭当日に励んだ甲斐あって、後夜祭は免除してもらえた。
そして、ここは、会計親衛隊の本部。
いわゆる、校内の空き教室だ。
生徒のほとんどは、校庭にいるため、校内は大変静かである。
そんな場所へ、ほぼ強制で晃を連れ込んだ、生徒会会計藤村奏。
普段のチャラい彼からは想像もできないほどに、真面目な口調と面持ちでの告白。
しかし、敢え無く玉砕。
昔取った杵柄で既成事実を、そんな不埒な考えも一瞬過りはしたが、誠実に断る晃にそのような行為は、あまりにも不誠実すぎる、ゆえに断念した。
(昔の俺なら我慢できなかったよなぁ・・・・・・)
それほどに自分が変わり、またそう変えてくれたのが、目の前の想い人だと、そう考えるだけでそれも一種喜ばしいことだと思えた。
もちろん、晃の襟元ギリギリから、チラリと覗く紅い主張、それも理由の一つ。
文化祭の翌日は、日曜日だ。
嫌味なまでに、天気の良い日。
昨日までの疲労が溜まり、生徒のほとんどは部屋から出ることもなくすごしている。
しかし、藤村は休日の校庭へと赴いていた。
単に、一人で部屋にいることに耐えられなかったからだ。
以前の藤村なら間違いなくセフレを呼んで、行為に没頭しいていた。
だが、今の彼にそんな気は起きない。
晃に諭されてから、そういった行為には及んでいない。
想い人に、しっかりと振られた男としては、もう操を守る必要もないのでは。
(俺、ひょっとして枯れちゃった・・・?)
当て所もなく、木々の間を彷徨いながら、なんとも年寄り臭いことを考えた。
ここは一つ試してみるか、と携帯に手をやるも、やはりそんな気にはならない。
そして、更に落ち込みながら、足取り重く歩を進めた。
別に目的地などはないのだが。
暫く歩くと、木々が消え、小さな空間に出た。
特に草花が植えられているわけではない、よくある空き地なのだろう。
敷地面積の広い学園内には、こういった場所が多く存在する。
そんな空き地は、概ね校舎から離れているせいで、めったに人は来ない。
しかし、居た。
ベンチすら置かれていない場所で、地に直に胡坐をかく人物。
やや俯き加減で、深く目を閉じ、動かない。
(瞑想でもしてんの・・・・・・?)
その人物を、藤村はよく知っている。
文化祭も一緒に回った。
名前も聞いた、変なあだ名も教えてもらった。
そういえばあまり会話はしなかったが。
中肉中背・・・よりやや高いかもしれない、しかしこれといって目立つところのない顔立ち、なにも特徴がない、まさに凡庸な男。
正直、晃の友達だから、覚えていただけの話。
「えっと、伊藤・・・なにしてんの?」
声を掛けるのを一瞬躊躇ったが、一応知り合いに会ったなら、挨拶くらいするべきだろう。
呼びかけられた相手はピクリとも動かない。
「おい、息してるー?」
少し近づく、やはり相手は微動だにしない。
これはやばいのでは、とチャラい外見のくせに、意外に気遣いのできる男は、慌ててその肩に触れようとした。
「あっちーーーーーっ!!」
肩に届く前、いきなり藤村の手は燃え上がるような激痛に襲われた。
急いで掌を確認するも、別になんともなってはいない。
「へ・・・・・・?」
ヒラヒラと振ってみる。
やはり、火傷を負ったわけでもなんでもない。
痛みもすぐに引いた。
「・・・・・・」
微かに、聞こえた。
「笑ってんじゃねーっ! なにしてくれちゃったのよっ!?」
閉じていた目をしっかり開き、顔を上げた伊藤は、なんとも憎らしげに口角を上げていた。
視線は正面に向けたままだが。
「・・・・・・俺が、なにかしたか?」
ゆっくりと藤村を見上げた伊藤に、逆に問われてしまった。
「なにかって・・・・・・」
よく考えてみれば、何もされてはいない。
ただ、動かない伊藤を心配し、藤村が肩に触れようとしただけ。
だが結局、触れてはいない。
当然、どこにも火の気はない。
「・・・・・・おおーー、これが気ってやつー? おめぇ、すげーじゃん」
いきなり表情を崩して、まさにチャラい会計のままに茶化す藤村。
なんとも切替の早い男だ。
伊藤は多少呆れた面持ちで、立ち上がり、丁寧に砂を払った。
「ねね、伊藤って、そっち系の人なわけー?」
返事の代わりなのか、鬱陶しげに眉を顰められた。
「こらこら、先輩を無視すんなー」
そのまま立ち去ろうとする伊藤の後を追い、すかさず諌める。
「失恋男は、静かに落ち込んでいろ」
「はぐぁぁぁっ! ちょっとー、思い出させないでくれるー?」
ただでさえ落ち込んでいるところに、なんとも思いやりのない言葉を投げられた。
晃と親しい関係のこの男は、昨日のことを早速に報告されていたようだ。
そう考えると、彼らの親密さが、なんとも羨ましく感じた。
「・・・はっ、ひょっとして、ナベちゃんやチビちゃんも知ってんのっ!?」
目の前の伊藤が知っているなら、恐らくあの軽い男も知っている。
彼らの親しさを考えれば、それは仕方ない。
だが、藤村の微妙なプライドは、なぜか2人にだけは知られたくないと訴えていた。
しかし、伊藤は背を向けたまま答えることもせず、藤村をその場に置き去りにした。
「あぁ、へこんだ、マジへこんだ・・・・・・」
晃を恨む気持ちは微塵もないが、充分絶望的な気分が味わえた。
頭を抱えてその場にへたり込むくらいに、へこんだ。
なぜか、その理由は簡単。
藤村はあの2人には、格好良い兄貴のイメージを持っていてほしいのだ。
スーパー土下座は見せたが、それとは別。
失恋して弟分に慰められるなど、そんな格好悪いのは絶対に嫌。
「渡辺とアキは知らない」
「へ?」
見上げてみると、そこにはとうに消え去ったはずの人物。
情けなく蹲ったまま、やはり情けない表情で見やると、伊藤はなんとも煩わしげに藤村を見下ろしていた。
「・・・・・・渡辺はそれどころじゃないしな・・・」
「・・・・・・あ、っそ・・・」
それどころじゃない理由は分からないが、どうやら最悪の事態は回避された模様。
ホッと息つくと同時に藤村は腰を上げた。
「ああ良かったー。チビちゃんたちに知られたら、俺マジで泣くよー」
ほんの少ししか接していないが、伊藤はとにかく話さない奴というイメージ。
だが、それだけの事を伝えるために、わざわざ戻ってきてくれたようだ。
用事は済んだとばかりに颯爽と身を翻した彼に告げる。
「教えてくれてサンキュ、T-110も良いとこあるじゃーん、感謝ー」
「さっきの、詫びだ」
振り向くこともなく、なんともぶっきらぼうに返された。
それが先ほどの激痛のことか、心配をさせたことか、はたまた失恋男発言なのかは分からないが、とにかく気にはしていたようだ。
足早に去る伊藤の背中は、もう視界からは消えてしまった。
「ほんっと、晃の友達って、変なのばっかー」
「・・・・・・本当に申し訳ありません。ですが、僕は奏先輩のことを、そういう意味で好きになることはありません」
真直ぐに相手の瞳を見詰め、言葉を繰り出す佐藤晃。
その態度には、同情も憐れみも、優越感すら存在しない。
文化祭の最後を飾る、後夜祭の真最中。
校庭に設置された舞台では、有名芸人が司会を務め、歌やらダンスやら、華やかなパフォーマンスが生徒たちを沸かせていた。
主催は、もちろん生徒会。
現在、仕切っているのは、会長と副会長。
書記と会計は、文化祭当日に励んだ甲斐あって、後夜祭は免除してもらえた。
そして、ここは、会計親衛隊の本部。
いわゆる、校内の空き教室だ。
生徒のほとんどは、校庭にいるため、校内は大変静かである。
そんな場所へ、ほぼ強制で晃を連れ込んだ、生徒会会計藤村奏。
普段のチャラい彼からは想像もできないほどに、真面目な口調と面持ちでの告白。
しかし、敢え無く玉砕。
昔取った杵柄で既成事実を、そんな不埒な考えも一瞬過りはしたが、誠実に断る晃にそのような行為は、あまりにも不誠実すぎる、ゆえに断念した。
(昔の俺なら我慢できなかったよなぁ・・・・・・)
それほどに自分が変わり、またそう変えてくれたのが、目の前の想い人だと、そう考えるだけでそれも一種喜ばしいことだと思えた。
もちろん、晃の襟元ギリギリから、チラリと覗く紅い主張、それも理由の一つ。
文化祭の翌日は、日曜日だ。
嫌味なまでに、天気の良い日。
昨日までの疲労が溜まり、生徒のほとんどは部屋から出ることもなくすごしている。
しかし、藤村は休日の校庭へと赴いていた。
単に、一人で部屋にいることに耐えられなかったからだ。
以前の藤村なら間違いなくセフレを呼んで、行為に没頭しいていた。
だが、今の彼にそんな気は起きない。
晃に諭されてから、そういった行為には及んでいない。
想い人に、しっかりと振られた男としては、もう操を守る必要もないのでは。
(俺、ひょっとして枯れちゃった・・・?)
当て所もなく、木々の間を彷徨いながら、なんとも年寄り臭いことを考えた。
ここは一つ試してみるか、と携帯に手をやるも、やはりそんな気にはならない。
そして、更に落ち込みながら、足取り重く歩を進めた。
別に目的地などはないのだが。
暫く歩くと、木々が消え、小さな空間に出た。
特に草花が植えられているわけではない、よくある空き地なのだろう。
敷地面積の広い学園内には、こういった場所が多く存在する。
そんな空き地は、概ね校舎から離れているせいで、めったに人は来ない。
しかし、居た。
ベンチすら置かれていない場所で、地に直に胡坐をかく人物。
やや俯き加減で、深く目を閉じ、動かない。
(瞑想でもしてんの・・・・・・?)
その人物を、藤村はよく知っている。
文化祭も一緒に回った。
名前も聞いた、変なあだ名も教えてもらった。
そういえばあまり会話はしなかったが。
中肉中背・・・よりやや高いかもしれない、しかしこれといって目立つところのない顔立ち、なにも特徴がない、まさに凡庸な男。
正直、晃の友達だから、覚えていただけの話。
「えっと、伊藤・・・なにしてんの?」
声を掛けるのを一瞬躊躇ったが、一応知り合いに会ったなら、挨拶くらいするべきだろう。
呼びかけられた相手はピクリとも動かない。
「おい、息してるー?」
少し近づく、やはり相手は微動だにしない。
これはやばいのでは、とチャラい外見のくせに、意外に気遣いのできる男は、慌ててその肩に触れようとした。
「あっちーーーーーっ!!」
肩に届く前、いきなり藤村の手は燃え上がるような激痛に襲われた。
急いで掌を確認するも、別になんともなってはいない。
「へ・・・・・・?」
ヒラヒラと振ってみる。
やはり、火傷を負ったわけでもなんでもない。
痛みもすぐに引いた。
「・・・・・・」
微かに、聞こえた。
「笑ってんじゃねーっ! なにしてくれちゃったのよっ!?」
閉じていた目をしっかり開き、顔を上げた伊藤は、なんとも憎らしげに口角を上げていた。
視線は正面に向けたままだが。
「・・・・・・俺が、なにかしたか?」
ゆっくりと藤村を見上げた伊藤に、逆に問われてしまった。
「なにかって・・・・・・」
よく考えてみれば、何もされてはいない。
ただ、動かない伊藤を心配し、藤村が肩に触れようとしただけ。
だが結局、触れてはいない。
当然、どこにも火の気はない。
「・・・・・・おおーー、これが気ってやつー? おめぇ、すげーじゃん」
いきなり表情を崩して、まさにチャラい会計のままに茶化す藤村。
なんとも切替の早い男だ。
伊藤は多少呆れた面持ちで、立ち上がり、丁寧に砂を払った。
「ねね、伊藤って、そっち系の人なわけー?」
返事の代わりなのか、鬱陶しげに眉を顰められた。
「こらこら、先輩を無視すんなー」
そのまま立ち去ろうとする伊藤の後を追い、すかさず諌める。
「失恋男は、静かに落ち込んでいろ」
「はぐぁぁぁっ! ちょっとー、思い出させないでくれるー?」
ただでさえ落ち込んでいるところに、なんとも思いやりのない言葉を投げられた。
晃と親しい関係のこの男は、昨日のことを早速に報告されていたようだ。
そう考えると、彼らの親密さが、なんとも羨ましく感じた。
「・・・はっ、ひょっとして、ナベちゃんやチビちゃんも知ってんのっ!?」
目の前の伊藤が知っているなら、恐らくあの軽い男も知っている。
彼らの親しさを考えれば、それは仕方ない。
だが、藤村の微妙なプライドは、なぜか2人にだけは知られたくないと訴えていた。
しかし、伊藤は背を向けたまま答えることもせず、藤村をその場に置き去りにした。
「あぁ、へこんだ、マジへこんだ・・・・・・」
晃を恨む気持ちは微塵もないが、充分絶望的な気分が味わえた。
頭を抱えてその場にへたり込むくらいに、へこんだ。
なぜか、その理由は簡単。
藤村はあの2人には、格好良い兄貴のイメージを持っていてほしいのだ。
スーパー土下座は見せたが、それとは別。
失恋して弟分に慰められるなど、そんな格好悪いのは絶対に嫌。
「渡辺とアキは知らない」
「へ?」
見上げてみると、そこにはとうに消え去ったはずの人物。
情けなく蹲ったまま、やはり情けない表情で見やると、伊藤はなんとも煩わしげに藤村を見下ろしていた。
「・・・・・・渡辺はそれどころじゃないしな・・・」
「・・・・・・あ、っそ・・・」
それどころじゃない理由は分からないが、どうやら最悪の事態は回避された模様。
ホッと息つくと同時に藤村は腰を上げた。
「ああ良かったー。チビちゃんたちに知られたら、俺マジで泣くよー」
ほんの少ししか接していないが、伊藤はとにかく話さない奴というイメージ。
だが、それだけの事を伝えるために、わざわざ戻ってきてくれたようだ。
用事は済んだとばかりに颯爽と身を翻した彼に告げる。
「教えてくれてサンキュ、T-110も良いとこあるじゃーん、感謝ー」
「さっきの、詫びだ」
振り向くこともなく、なんともぶっきらぼうに返された。
それが先ほどの激痛のことか、心配をさせたことか、はたまた失恋男発言なのかは分からないが、とにかく気にはしていたようだ。
足早に去る伊藤の背中は、もう視界からは消えてしまった。
「ほんっと、晃の友達って、変なのばっかー」
