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★キラキラ 第一章番外★

[村上浩太■ある親衛隊隊員の告白]


あの日、敬愛する副会長様が以前のように穏やかな笑みを浮かべ、僕の名を呼んでくださった。
それは僕たち親衛隊が、なによりも、誰よりも待ち望んでいたもの。

いつからそうなったのか、はっきりと覚えています。
あの、時期外れの転校生が来たあの日、あの方の笑顔は突然消えてしまいました。
あ、少し違いますね、転校生以外には笑いかけなくなったが正しいです。

僕たち親衛隊は、もともとあの方には好かれておりませんでした。
勝手に崇拝し、持て囃すだけではなく、あの方の交友関係にまで口を出すのですから、それは仕方ないことかもしれません。
ですが、嫌われてはいなかったと思います。

あの方の笑顔をお守りしたい、悲しく辛い思いなどさせたくない、ただただそれだけを想い、集まったのが副会長親衛隊だったからです。
ですからあの方も、心底嫌ってはいなかったと信じております。

だから僕は入隊しました。

最初は楽しかったです。
皆が同じ想いであの方を見詰め、語り、そしてそっと見守る。
今日は少し話しができた、声をかけてくださった、毎日嬉しそうに話す仲間たち。
そして、最後は必ずこう締めくくる、今日も笑顔ですごされておいででした、と。
皆に等しく微笑みかける副会長様は、僕らの誇りでもあったのです。

そんな楽しい日々は、唐突に終わりを迎えました。
そして、突きつけられる辛い現実。
誰をも癒すあの微笑は、あの方から消え去りました。
眉間に皺を寄せ、いつもイライラとなさり、そして生徒会の仕事を放棄して、転校生を追いかける副会長様。

隊長初め、幹部たちは転校生に警告することを決定しました。
もちろん誰も反対なんてしません。
僕たちは、あの方の笑顔を守るために存在しているのですから。

それがいけなかったのでしょう、親衛隊は副会長様からお叱りを受けてしまいました。
まるで汚いものでも見るかのように、表情を歪ませ、あらん限りの恨みを込めて、僕たちを罵倒する副会長様。
その姿からは、高貴な笑みを湛え、気品に溢れ、皆に優しく接する副会長様の面影は微塵も見出せませんでした。

親衛隊の怒りは、あの方を変えてしまった転校生と、その親友に向かいました。
そして、始まる制裁の日々。

下っ端の僕は、当然制裁に参加しないといけません。
ですが、運が良かったのか、僕の担当する日に制裁が実行されることはありませんでした。

常に風紀や、会長親衛隊の方々に見つかり、解散となってしまうからです。
あの頃は、なんの権限もないくせに校内を見回り、同じ立場なのに我々の行動を邪魔する、そんな会長親衛隊を恨む声が多数あがっていました。
他の親衛隊も同様で、彼らにはかなり恨みを抱いていたようでした。

皆で示し合わせ、越権行為だと風紀や生徒会に抗議しました。
もちろん、会長親衛隊にも、直接文句を言いに行きました。
ですが、会長親衛隊の隊長は、それら全てを平然と受け流し、逆に僕たちを説得しはじめたのです。

「関係のない者に、制裁を与えることが解決策になるのか」

「自分の立場を省みない、そんな人たちが、あなた方の崇拝していたものなのか」

皆の心は揺らぎました。

「自ら堕落した者を救う必要があるのか」

「今の彼らに尊敬や敬愛を感じることができるのか」

そして、庶務親衛隊は実質上の解散となりました。
会計、書記親衛隊もその数を大幅に減らし、結果、制裁行為もなくなりました。

我々副会長親衛隊も揺れていました。
隊長は除隊を願い出る者がいれば、引き止めないようにと幹部たちに命じた。
そして、一切の制裁行為は禁止。
誰も隊長に反対しませんでした、むしろ皆が賛成したのです。

僕たちは、あの方たちと同じように、目が暗んでいたのかもしれません。
制裁などなんの解決にもならないと、今なら良く分かります。
渡辺君は、まったく関係のない人間、いえ、完全な被害者です。

そう皆が納得し、されど謝罪する勇気もなく、ただ傍観を決め込むだけとなってしまった日々、僕はふとあの方の愛した花園へ向かいました。
転校生が来てから20日程ですが、はたしてあの方は、その間あの花園へは足を運んでいたのか・・・?
それが気になりました。

そして、僕はそれを目の当たりにし、悲しみに胸が押し潰されそうになった。
あれ程美しく管理されていた花園は、元の廃園に戻ったかのように荒んでいました。
美しく咲き誇るであろう花々は、それを愛でる者はもういないと言わんばかりに、その姿を土に返そうとしていました。

それからの僕は必死でした。
花のことを調べ、土に良い肥料を揃える。
小さな温室の棚にしまわれたままの茶葉を捨て、新たな茶葉を用意する。
何も知らなかった僕は、誰に頼ることもせず、自分で調べて実行していきました。

そして、あの日が来たのです。

「何をなさっているのですか?」

最初は戸惑いました。
こんな校舎から離れた場所に、人が来るなど思いもしなかったからです。
彼はあの方に似た笑みを浮かべ、優しく僕に話しかけてくれました。
そして彼と一緒にいた人が、僕の作業を手伝ってくれました。

僕は促されるまま、ポツリポツリと語りました。
なぜ親衛隊に入ったのか、親衛隊の皆は今どうしているのか、ゆっくりとたどたどしく、だけど彼らは黙って話を聞いてくれた。
別れ際に、そのままの想いをあの方に語ることを約束させられました。
頷きはしましたが、あの方は親衛隊である僕が近づくことなど、許さないでしょう。
ましてや、会話をする状況などありえないと思いました。

だけど、彼らに会ってたった1日にして、その日はやって来ました。

そして僕は約束した通り、勇気を出してあの方に語った・・・。

「今日はフレバリーなのですね」

「はい。鈴木君も連れて来ると隊長が仰っていたので、甘い香りがしたほうがいいかと」

「さすが村上君です。素晴らしい判断ですね」

蘇えった、美しき花園。
僕の、僕らの敬愛する副会長様の、誰をも癒すあの微笑みも、この花々と同じように見事に蘇えりました。

そうして、転校生によってたった1日で変わった世界は、また劇的に変化した。

副会長様は、休日ともなれば親衛隊の面々を集めてお茶会を開いてくれる。
場所は、副会長様がこよなく愛する、この花園。
さすがに全員は無理だから、隊長は毎回人選に苦労しているそうです。
僕は、隊長直々に、副会長様がお忙しいときは、ここの花園を管理するよう言い渡された。
もちろん、喜んで引き受けました。

「う、あ、のよ、なのよ」

「あ、来たようですよ」

花園に続く小道から、隊長と隊員たち、そして鈴木明君がやって来た。
隊員はすごく緊張してるけど、副会長様が優しく微笑みかけたら、ホッとして肩の力を抜いた。

「アキ、今日の紅茶は甘い香りがしますよ」

「なのよ、いいのよ」

「そうですか、気に入っていただけましたか」

あの日、副会長様の頭を撫でるという、驚嘆すべき行動をとった鈴木君。
それから彼は、副会長様の大のお気に入りとなった。

末っ子の副会長様にとって、どうやら鈴木君は可愛い弟のような存在らしい。
それが分かっているから、隊長はしきりに鈴木君をお茶会に誘う。

だって、彼と話す副会長様は、誰よりも穏やかで、優しく、そして美しく微笑まれるから。
それは、僕たちが心から望んだ笑顔。

転校生にしか見せなかった・・・ううん、転校生にすら見せなかったその笑みを、いとも簡単に浮かべさせる鈴木君。
だけど親衛隊の皆は、彼を恨んだりしないよ。

だって、ね・・・。

「ケーキの準備もできましたし、皆さんも座りましょう」

「はいっ!」

そのままの笑顔で、皆にも微笑みかけてくれるから。
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