幼少期編
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「こんな所で子供一人、どうしたんだい?もう暗くなるよお家へ帰りなさい」
-…足を止めるな。そいつの言葉に耳を貸しちゃ駄目だ。
「何?親御さんは戦争に巻き込まれてしまって亡くなったのか…可哀想に」
「少しだけでもお金は残してくれたのか、それはよかったねえ。一先ず今夜はうちで泊まっていきなさい。夕飯も出してあげるから、さあおいで」
相手に乗せられるまま自分の事をどうして話してしまったんだ。
着いていっちゃ駄目だ。そのまま手を振り払って走り出すんだ。
絆されるな、信頼しちゃ駄目だ…駄目なのに…!!
どうして着いて行ったんだ、私は…!
「…ほら暴れるな…!!ックソ、何しやがる!コイツ俺の手を噛みやがった!」
「おい顔を駄目にしたら価値が下がるだろうが!とりあえず縄だ、縄で縛り上げて…」
「このじゃじゃ馬が…!い゛、でぇっ!?か、簪が腕に刺さった!こいつどこにそんなもんを…!」
「おい、何やってんだ逃げたぞ!!追い掛けろ!!」
***
息を切らして走る自分の背後から怒号が複数聞こえる。私を食いものにしようとした、憎い憎い大人の声が。
あいつらが憎い。でも今一番許せない相手は私自身だ。
こんな孤児相手に優しい言葉を掛け、手を差し伸べる奴を疑いながらも最終信じてしまった大馬鹿者の自分が愚かで許せない。
裸足で飛び出してきたせいで砂利道を進む度足の裏が痛い。
それでも足を前に動かせ。転んでも立ち上がれ、止まるな。肺が破裂しそうだという体のいう言葉など無視しろ。
そうして私は夜の森を駆け抜ける。行く当てなんて何処にもない、ただただあいつらから逃げる為に私は走った。
***
「っは、はぁ…!も、う…こない……?」
あれからどれぐらい走ったか分からないが、後ろから来ていた声はもう聞こえなくなっていた。
夜更けに深い森に入るぐらいなら、子供一人逃がしてもいいと判断したのだろうか。
多分、きっとそうだ。微々たる金銭とはいえ持っていたお金や食べ物等、私の持ち物は逃げる時に全部置いて来た。その分だけでいいと思ったかもしれない。
「…ちくしょう……」
やっと息が落ち着いてくれば今度は抵抗した際に殴られた顔と、砂利道を走って傷ついた足の裏が痛みを訴え始める。
覚束ない足取りで近くに見える池に近付いて覗き込んで月明りを頼りに自分の顔を見る。
頬が腫れ始めてるのか酷い顔だった。ぼろぼろになった自分の小袖の裾を少し破いて池の水に浸して、それで顔を冷やす。
…母の形見の簪も置いてきて、お金も無くなった。食べ物もない。このままいけば本当に餓死してしまう。
幸い、あいつらが私を油断させるのに今晩の夕飯は食べさせてもらえたから空腹はまだ来てない。
倒れて動けなくなる前にお金と食べ物の問題を解決しなければ…。
「…あれ…?」
ふと、顔を上げれば遠くで月の光に照らされ何かが光った。…何故かそれに惹かれるように私はそれに近付く。
見ればそれは野晒にされていた草刈り鎌だ。誰かが置いて忘れたままにされたのだろうか、少し錆が見えるがまだなんとか使えそうだ。
それを見ていると、よくない考えが頭を過る。…森の中に山賊がいる話は時々耳にしていた。武器で脅し、金品や物資を要求する悪党がいると。
…でも、そうしたら。私も同じ様なことをすれば、お金と食べ物が手に入るかもしれない。
「だ、駄目だ。そんなのあいつらと同じに…」
首を横に振り邪念を振り払おうとするも、今の私に他に何が出来るだろう。
帰れる村もない、働き口もお金もない、非力な子供は淘汰される運命だと言うのなら。
もう、こうするしかないのではないか。
「…父さん、母さん。ごめんなさい。私はきっと二人と同じ所には逝けない。…だから二人に貰った立派な名前は…返すね…」
柄を両手で握りしめて一人静かに呟く。唇を噛み締め目元を拭えば私は再び歩き出す。
今のうちに人が通る場所を探して身を潜めなければ。決行は―…明日だ。
***
あれから日が登った現在、私は大きな草むらの中に身を隠していた。
獣道のようだが、少なからず人が往復しているだろう形跡はある。
それを狙って私は拾った鎌を御守りの如く握りしめ、誰かが来るのをじっと待つ。
移動しつつ少し休憩も挟んでいたが、疲労が取れている感じは全くなかった。
少し気を抜けば意識が遠のいていきそうなのを我慢して、糸一本張り詰めた状態を維持する。
誰でもいい、近くへ来たら飛び出して脅しをかける。鎌とはいえ怪我を負わせるには充分な道具だ。
頭の中で何度も模擬行動を繰り返し思考していれば、草むらの向こう側で音が聞こえた気がした。
人だ、きっと人が来たのだ…!私は頭の中で思い浮かべていた通りに草むらを勢いよく飛び出して立ちはだかり、腹の底からなんとか声を張り上げて叫ぶ。
「けっ、怪我したくなかったら!持ってるもの全部おいて行け!!」
鎌の柄を両手で握って、相手に向かって鎌を向ける。しかし、目の前にあるのは影だった。
いや違う、影になっているだけでちゃんと人が居る。いるはずなのだが…。
「…それは、私に向かって言ってるのかな?」
遥か頭上から聞こえた声に首を最大限上げて見れば、熊のようにでかい大男が私を見下げていた。
肌を大部分を包帯で巻き唯一露出している片目で見つめられてしまった私はまるで蛇に睨まれた蛙の様に動けなくなってしまった。
「返事がないけども、聞こえなかったかな?」
「ッ、きこえてる!怪我したくなかったら持ってるもの全部おいていけってお前に言ったんだ大男!」
聞き返されて我に返った私は震える手を誤魔化すように両手で鎌を握り直して大男に向かって叫んだ。
完全にふっかける相手を間違えたと思うが後に引く訳にはいかない。
息を荒くさせて私はそいつに刃を向ける。
「ふうん、面白いね。…やってみてごらん」
そいつは余裕そうにそう言うと、手を広げてみせた。
これは…相手が子供だからと馬鹿にされてるのだろうか?それとも、余裕な姿を見せれば私が怯んで逃げると思われているのか?
大男の反応に困惑するばかりだが、どっちにしろ生憎私にこのまま逃げる選択肢はない。
「なら…やってやる!!このやろぉっ!!」
声を張り上げて鎌を振り上げてそのまま突っ込む。
怪我をさせるなんて怯えるな、振り下ろせと頭に無理矢理言い聞かせて鎌をそいつに振り下ろした、筈なのだが。
「ッ、え…いな…ぃ」
振り下ろした一瞬のうちにそいつは消えた。
鎌の先はしっかりと地面に突き刺さっており、文字通りあいつは消えたのだ。
「な、なんで…あいつ、どこに」
「やぁ。此処だよ」
後ろから聞こえたそいつの声に肩がびくつき慌てて振り向けば、間近に男の顔があり驚きに息が詰まる。
「…君、ボロボロだね。顔も青痣があるけれど」
「うっ…うるさいお前に関係ない…っ!」
何とか声を絞り出し言葉を返すがそいつはふむ、と何か考え込む仕草で私を見ている。
その間に地面から鎌を引き抜こうと後ろ手で探すが、私が柄を握る前に自分の身体が宙に浮いた。
「は…!?え、なに…!?」
左右を見て状況をみれば、男は私の事を米俵の如く担いで移動し始めたのだ。
益々訳が分からない状態に混乱して拳でそいつの背中辺りを叩いて抗議を開始する。
「な、なんだよ!なんなんだお前!!おろせよ!というか私はお前の事襲ったんだぞ!なにしてるんだ!?」
「はいはい、後で聞くからちょっと静かにしてようね子猫ちゃん」
「いやだはなせぇ!おろせぇ!うわぁあん!!」
声が枯れるまで抗議はしたが、私の声はどこ吹く風か。
そいつは何も気にも留めずそのまま私を担いで移動していった。
…この大男がタソガレドキの忍者、雑渡昆奈門だと私が知るのはもう少しだけ後の話だ。
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