第二章 水道魔導器
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*アスピオの天才魔導士と遺跡ドロボウ
「ここ……かな?」
首を傾げながら目の前の洞窟を見つめる
ハルルの街から東の場所
洞窟の奥には騎士と、街の入り口らしきものが見える
「なんか、薄暗くてジメジメしてるね…」
「洞窟の中に街があるからでしょうか…?」
「太陽が見えないと心までねじくれんのかね。
魔核 盗むとか」
「それはありそうだよね。こんな暗いとこずっと居たら、頭おかしくなりそうだもん」
そんな会話をしながら入り口の方へ歩き出す
ぼくなら絶対、こんなところには住めないなぁ……
…というか、住みたくない……
「通行証の提示をお願いします。ここは帝国の施設なので、一般人は通せません」
入り口に立っていた二人の騎士の片方が割と丁寧に言う
……ここ、帝国の施設だったんだ……
ってことは、またお偉いさんが悪さしてるってことなのかな…
「通行証…ですか?」
エステリーゼが首を傾げながら騎士を見た
「持ってるの?」
カロルはユーリを見つめて問いかける
そんなもの当然持ってるわけがないから、ユーリはただ肩を竦めた
「中に知り合いがいんだけど、通してもらえない?」
なるべく相手を刺激しない口調でユーリは騎士に問いかけた
「ならば、その知り合いとやらから通行証を貰っていると思うのだが?」
「いーや、何も聞いてない。入れないなら、呼んできてもらえない?」
質問に質問を重ねてきた騎士にユーリは更に問いかける
まぁ……一方的な知り合いだしなぁ……
でも、騎士がそんな簡単に呼びになんて行ってくれるのかな……
「知り合いの名は?」
呆れ気味に騎士はため息混じりに問いかけてくる
以外と優しい人なのか……それともユーリの相手するのが面倒になったのか…
「モルディオ」
ユーリが一言そう言うと、騎士たちは驚いたように後ずさりした
「なっ!?モ、モルディオっ!?」
そう言うと二人は顔を見合わせて若干固まってしまう
「や、やはり駄目だ!書簡でやり取りし、正式な手続きをしたまえ」
「ちぇっ、ケチだなぁ」ボソッ
カロルが小声で呟いた文句は騎士達に聞こえてたみたいで、脅すように彼の方に首を向けた
…まぁ、冑被ってて顔なんてみえないけどね
「あの、フレンと言う名前の騎士が此処へ来ませんでしたか?」
「施設に関する情報は機密事項です。どんな些細な情報でも教える訳にはいきません」
「フレンが来た目的も?」
「もちろんです」
何処か誇らしげにそう言うが、それ来たって言ってるようなものだからね…?
エステリーゼの口車に乗るなんて、抜けてるなぁ
……きっと気づいてないんだろうけど
「……ふーん、じゃあ兄さん、来たんだね」
ぼくがそう言うと、案の定騎士は慌て出す
間抜けすぎでしょ……本気で
「じゃあせめて、伝言だけでもお願い出来ませんか?」
二人の騎士を交互に見つめながらエステリーゼは言う
「やめとけ。融通きくような奴らじゃねぇんだから。…行こうぜ」
その場を離れたユーリのあとを、少し駆け足で追いかける
…まぁ、きっとこのまま引き下がるわけないだろうなぁ
「で、どーするの?」
「ま、正面突破は無理だな」
「…ユーリ、今回は意外と大人しいね」
「おいおい……オレだって毎回毎回正面突破してる訳じゃねぇぞ?」
物珍しげにユーリを見ていると、呆れ気味にため息をつかれた
ユーリ= 正面突破ってイメージは、きっとぼく以外でも持ってる人いるって
…兄さんとか
「フレンが出てくるまで待ちます?」
「でも、兄さんが中にいるって保証はないよ?それに……ユーリがそんなの待ってられないって」
ちらっとユーリをジト目で見ると、よくお分かりでって言いたげにニヤッと笑う
「正面以外の入り口を探すか、最悪この壁よじ登るかな」
キョロキョロと周りを見回しながら呟く
…ここまでくると、清々しさを感じてしまうよ…
まぁ、ぼくも兄さんが出てくる奇跡にかけてなんていられないし
よじ登るのは多分無理だけど…
「あ、あっちに扉あるよ!」
正面から少し逸れた横道の影からカロルが顔を出して手招きしてくる
どうやら先に探しててくれたみたいだ
手招きしてくるカロルの元に行くと、いかにも裏口って感じの扉が目に入った
ガチャガチャ「……ま、そんなラッキーな展開待ってねぇか」
わかってはいたけど、やっぱり扉には鍵がかかっていた
「壁を登るしかなさそうですね」
何故か少し嬉しそうにエステリーゼは言う
そりゃそっか、幾らユーリでもこの壁、登れるわけないしね
「あれ?カロル、何してるの?」
扉の前でゴソゴソ何かをしているカロルの横に並んで問いかける
手に持っていたのは細い針金みたいなもの
「もしかして……開けられる?」ボソッ
小声でカロルにそう聞いた
すると、ちらっとぼくを見てちょっとだけ笑った
「ん?二人してそこで何してんだ?」
ぼくらに気づいたユーリが、不思議そうに声をかけてくるの同時にガチャッと音を立てて鍵が開いた
「開いたよ」
誇らしげに笑いながらカロルそう言った
「わぁ…!本当に開けられるなんてすごい!」
両手を合わせてカロルを見ると、照れくさそうに頬をかいた
「お前のギルド、魔物狩り専門だろ?盗賊ギルドも兼ねてんのか?」
「え??あぁ……まぁ、ボクくらいだね!こんなこと出来るのは」
ユーリの質問に一瞬戸惑ったみたいだけど、直ぐにニコッと笑った
「ふーん…ま、いいか。さっさと行こうぜ」
「だ、ダメですよ!勝手に入るなんて!」
ユーリが足を進めようとするのを、エステリーゼが止めた
流石貴族様っていうか…真面目だなぁ
「んじゃ、エステルはここで見張りよろしくな」
ユーリが意地悪っぽくそう言うと、エステリーゼは戸惑い始めた
結局、彼女も一緒に扉の向こうへと足を進めた
中に入った途端、目に映るのは沢山の本の山だった
「うわぁ……すごい………」
あまりの本の多さに思わず声が漏れた
こんな量の本、初めて見た
「さてと…モルディオの居場所、誰かに聞いてみるとしますかね」
ユーリはそう言うと、近くに居た魔導師の方へ歩いて行った
エステリーゼとカロルもその後に続いて行こうとする
そのカロルの手を引いて、二人から離す
「わっ?!…もー、アリシア…危ないじゃんか」
「ごめんごめん、ちょっと聞きたいことあってさ」
「聞きたいこと?」
首を傾げカロルにニコッと笑いかけて、耳元で小声で言う
一瞬驚いた顔をしたけど、ちょっと嬉しそうに笑うとすぐに教え始めてくれた
「サンキュな」
落ちた本を拾い上げ手渡しながら、目の前の魔導師に礼を言う
本の受け取るなり、そいつは立ち去って行った
『モルディオ』ってやつは、どうやら相当の変わり者らしく、ここに居る魔導師にすら嫌われてるようだ
先程の魔導師がアスピオの外れの小屋に住んでいることを教えてくれた
「今度は絶対に逃がさねぇからな」
ぎゅっと左手を握り締めながら、入ってきた扉と反対の扉を見つめる
とりあえず一発ぶん殴らねぇと気が済みそうにない
「あまり大事にしないでくださいね…?」
「ま、そこはなんとかなんだろ」
「そうゆう問題じゃ………あれ?アリシアとカロルは?」
途中で言葉を切ると、キョロキョロと周りを見回す
「あん?……おいおい…またかよ……」
エステルの言う通り、二人の姿が何処にも見えない
ついさっき、急に居なくなんなって言ったばっかなんですけどねぇ……
「ったく、どこ行ったんだよ…」
深くため息をついて入ってきた扉の方へ足を向ける
流石に今回は置いていくわけにはいかない
そんなことを考えながら歩いていると、扉から二人が中に入ってきた
「ありがとう、カロル」
「ま、まぁこれくらい楽勝だからね!」
嬉しそうにニコニコ笑っているアリシアと、照れくさそうにニヤニヤしているカロル
……なんか、見てるとイラッとする
「二人揃って、どこ行ってたんだよ?」
そう声をかけると、アリシアは一瞬しまった!と言いたげに顔を顰めた
が、すぐ笑顔に戻った
「ちょっと扉の向こう側にいただけだよ。ね?カロル」
「うん、扉から離れてないよ」
じっと二人の顔を見るが、特に嘘をついているような様子はない
「ふーん…とりあえず、あんま目の届かねぇとこに行くなよ?特にアリシア」
「ご、ごめんなさい」
「えぇ……なんでぼくだけなんだし……」
素直に謝ったカロルと違い、アリシアはムッと膨れる
…まぁ、そうゆう反応するとはわかっていたが…
「二人も見つかりましたし、行くなら行きませんか?」
オレとアリシアたちを交互に見つめながらエステルは言う
「だな。ほら、はぐれんなよ二人共」
そう言って、体の向きを変えて歩き始めた
「はーい!」
元気よくそう答えると、アリシアはオレの横に並んで歩き始めた
書庫らしき場所から外に出ると、いかにも洞窟の中って感じの雰囲気の広場に出た
こんな場所でよく暮らせるよな…ここのやつら
「モルディオの家は確か……あっちだな」
見つめた先には、少し細い道が続いている
「ちょっと離れた場所に住んでるんだね。一人が好きなのかな?」
そう言ってアリシアは首を傾げた
さっきのやつの雰囲気からじゃ、好きだとか嫌いだとかっていう問題じゃなさそうだけどな
「さぁ、どうなんだろうな」
そう返して、小屋の方へ足を進める
小屋の前につくと扉に紙が張り出されていた
「『絶対開けるな モルディオ』」
紙に書いてある言葉を復唱して、ドアノブに手をかけて回してみる
が、案の定鍵がかかっている
扉をノックしてみるが中から反応はない
…居留守でも使ってんのか?
「ユーリ、順番が逆です!」
「エステリーゼ…多分ユーリにそう言っても無駄だよ…」
怒ったエステルの声と、呆れた様なアリシアの声が後ろから聞こえてきた
ドロボウの家にそんなの関係ねぇと思うんだが
「んじゃ、ここはカロル先生、頼んだ」
「ボク『ら』の出番だね!」
胸を張りながらカロルはそう言う
「ボク『ら』って、カロル先生だけだろ?」
そう言って首を傾げると、扉の前にアリシアが立った
「えーっと………ここがこうで………」
「そうそう、それで、こっちをこうして………」
ガチャッ
事の成り行きをポカーンとして見ていると、いつの間にか鍵が開いていた
……まさか、さっき二人揃っていなくなったのは……
「わぁ、すごい!本当に開いちゃった!」
嬉しそうに手を合わせながらアリシアはカロルを見る
「ね?こうするとどんな扉でも、かーんたんに開くんだよ」
誇らしげに鼻の下を人差し指で擦りながらカロルは笑う
「……おい、カロル……まさかお前……アリシアに『それ』教えてなんてねぇよな……?」
「え?教えたけど……」
恐る恐る聞くと、何も悪ぶれる様子もなくカロルは首を傾げる
……余計なこと教えやがって……!
「カ、カロル…!それにアリシアも、勝手に開けるのはダメですよ!」
「だって、早く魔核 取り返さないと、下町のみんな困るし…」
そう言いながら、アリシアは扉を開けた
………マジでこいつ………面倒見られに来たんじゃねぇのか………?
「うわぁ……ここも本ばっかだなぁ」
中に入ってすぐに出た言葉はそれだった
床にも壁にも、所狭しと置かれた本
そのどれもが魔導器 に関するものだった
こんなに資料が揃ってなんて、余程研究熱心な人なのかな
「ボク……こんなところじゃ寝れない気がするよ」
「まぁ、住めば都って言うしな。こんなとこでも住もうと思えや住めんだろ」
ユーリとカロルはそんな会話をしながら、部屋の中を物色する
「ユーリ、先に言うことがあるんじゃないですか」
「へいへい…お邪魔してますよ」
エステリーゼに言われて、渋々と言った様子でユーリは言う
「鍵の謝罪もです」
「カロルとアリシアが開けました。ごめんなさい」
全く謝る気のない棒読みでユーリは言う
「ちゃっかりぼくらの責任にされちゃったね、カロル」
「ユーリがやれって言ったくせに」
二人揃ってジト目でユーリを見つめる
が、当の本人は知らん顔で部屋の物色を続けている
…なんか納得がいかない
そんなこと思いながら本の山に手を伸ばすと、いきなり崩れて中から人が出て来た
「うわっ!?」
慌ててユーリの背中の後ろに隠れる
まさかそんなとこに居たなんて……
「………うっさい」
「へ??」
フードを被って顔を隠したその人は、カロルの方を向いて呟いた
「ドロボウは………吹っ飛べ!!」
そう言ったと同時に火の玉がカロルに向かって飛んで行った
「うぎゃぁぁぁ!!」
「あ、カロル……!」
慌ててカロルに駆け寄る
……どうしようかな
治癒術使った方が良さそうだけど…
治癒術使う時はどうしても武醒魔導器 使ってるフリ出来ないんだよね…
……とりあえず、アップルグミあげとこうかな
「カロル、はいこれ」
「うぅ…………ありがとう…アリシア」
モグモグとアップルグミを食べながらカロルはゆっくり起き上がる
一方ユーリはさっきの人に剣を向けてなんか話してる
エステリーゼがそのユーリを静止して、仲介しているのが見えた
「ふーん……まぁ、確かにあたしはモルディオよ。リタ・モルディオ」
そう言って取られたフードの下に見えた顔はどう見ても女の子
声からしても女の子だってことがわかる
……あれ?でも、確か………
「ユーリ、人違いじゃない?」
「あん?なんでそう思うんだよ?」
リタに向けていた剣を下ろしながら、ユーリはぼくを見た
ぼくの声に驚いたのか、リタがすごい勢いで振り向いてきたのには気づかなかったフリしとこう
「だって、ハンクスおじさんが男の人だって、下町戻ってから言ってたよ?それに、ハンクスおじさんが『モルディオ』って呼んでる人と話してたの、一度聞いたことあったけど、男の人の声だったし」
思い出すようにしながらそう言う
確かに顔は見えなかったけど、あの声は絶対に男の人のものだ
「疑い晴れた?」
「いーや。共犯かもしれねぇだろ?」
「全くもう、知らないって言ってるじゃ……あぁ、そうゆうことか」
一人で何かを納得したように呟くと、上の階に登って行った
「おい、どこ行くんだよ」
「待ってよ。シャイコス遺跡にドロボウが出たって話、折角思い出したんだから」
ユーリの問いに答えているんだかいないんだか、よくわからない反応が返ってきた
「ドロボウ……もしかして、犯人はそっちじゃないかな?兄さんが、遺跡には魔導器 とか魔核 とか、色々残ってるって言ってたし」
ユーリとエステリーゼのそばに寄ってそう言う
「もしかしたら、フレンもそっちに居るかもしれませんし…」
ぼくの意見に、エステリーゼが賛同するように頷いた
「話合い、終わった?」
声の聞こえた方を見ると、独特なローブを脱いで普段着らしい服装になったリタの姿が目に入った
ユーリとカロルはどうしようかとお互いの顔を見合わせている
「捕まる、逃げる、付いてくる、どれにすんの?」
痺れを切らせたようにリタはそう言う
二人はもう一度顔を見合わせると、渋々リタについて行くことを決めたらしい
「それじゃあ、行こっか」
リタの言葉を合図にシャイコス遺跡に向かって歩き始めた
ーーーーーーーーーーー
石造りの建物に水路、そして所々壊れた柱……
アスピオから数十分、ぼくらはシャイコス遺跡に到着した
「……足跡………」
地面についた、いくつもの足跡
まだ真新しい
「騎士団かドロボウか……はたまた両方か、だな」
そう言ってユーリは前方をじっと見つめる
「こっち、ついて来て」
リタはそう言って、先を歩き出した
…まぁ、初めの出会い方があれだったから、っていうのもあるんだろうけど…
塩対応っていうか、なんていうか……
あまり待たせて怒らせるものしのびないから、ちょっと早歩きでその後を続いた
リタが止まった場所で止まると、ピタリと足跡がそこで途切れていた
「誰もいないね」
キョロキョロと周りを見回しながらカロルが言う
「ですね……こんなに足跡はあるのに…」
「……まさか、地下の情報が漏れてる…?まだ一部の魔導師にしか伝わってないはずなのに……」
いかにもまずいと言いたげにリタは顔を顰めた
「地下です?」
「ここ最近見つかったのよ。上の発掘済みの遺跡だったら荒らされても問題ないけど、地下はまだ発掘途中だから。来て正解だったわ」
「地下に続く道なんてねぇけどな」
嫌味ったらしくユーリはリタをジト目で見つめる
一度疑ったら、無実が証明されるまで疑い続けるユーリだから、なんとなくこの状況は予想してたけどさ…
「嘘だと思うなら、そこの柱動かしてみなさいよ」
負けじとリタもユーリを見つめながら近くの柱を指さした
「カロル、いくぞ?」
「え?あぁ…うん!」
ユーリはやれやれと肩を竦めると、カロルと一緒に柱を押す
すると徐々に後ろへ下がり始めた
「ほれ…もうちょい…っ!」
ガタッと大きな音が鳴ると同時に、先程まで柱のあった場所にぽっかりと穴が空いていた
そして、下へ続く階段が顔を覗かせている
「カロル、大丈夫です?」
「う、うん……このくらい、どうってことないよ…!」
肩で息をしながらカロルは言う
「ふーん、嘘ついてたわけじゃねぇんだな」
「少しは疑い晴れた?」
「これだけじゃまだわかんねぇな」
「ユーリ!そういう言い方しないの!」
「いいよ、別に」
ぼくがユーリを怒ると、リタはどこか諦め気味に言った
そして、黙って地下への道を先に降りて行く
「あ!リタ!待って下さい!」
エステリーゼとカロルはその後に続いた
そして、最後にぼくとユーリ、ラピードが続く
「もー…ユーリ、きつく言い過ぎ」
少し小声でユーリに言う
「お前らが全く疑わねぇからオレが疑ってやってんの」
全く悪びれる様子もなく、ユーリは言った
「ユーリが疑いすぎるから、ぼくは信じてあげてるんですー」
ぼくはそう言ってリタを見た
本当に少ない時間しか一緒に居ないけど、リタはそんなことするような人じゃ絶対ないと思う
それに、あれだけ部屋に本が溢れてたんだ
研究熱心なのはそれだけでわかる
「へいへい……疑い深くて悪かったですよっと」
少し不機嫌そうに言うと、ぼくの少し前に出る
「……自分が悪いくせに……ねぇ?ラピード」
「ゥワンッ!」
ラピードの方に目を向けると、同意してくれるように鳴く
「足元滑りやすいから気をつけなさいよ」
「あ…はい!」
「……何よ」
「いーや?モルディオさんは意外とお優しいんだなと」
「……厄介事持ってきた気がするわ……別に一人でもよかったんだけど」
そんな話し声が聞こえて前に目を戻すと、ぼくから少し離れた場所で四人が話しているのが見えた
「リタはいつも一人で遺跡の調査に来るんです?」
「そうよ」
ゆっくり距離を縮めながらその会話を聞く
「罠とか魔物とか、危険じゃないですか?」
「何かを得るのためにリスクがあるなんて当たり前じゃない。その結果、何かを傷つけてもあたしはそれを受け入れる」
立ち止まって振り返ったリタの顔には、当然と言いたげな表情がうかんでいる
「それが…リタ自身でもですか?」
「そうよ」
「悩むことはないんですか?躊躇うとか…」
「何も傷つけずに望みを叶えようなんて悩み、心が贅沢だから言えるのよ」
「心が贅沢……か」
リタの言った言葉を復唱する
……その言葉は昔のぼくにピッタリ当てはまる気がした
…まだ、自分のことを『わたし』って言ってた時のぼくに……
「それに、魔導器 は私を裏切らないから………面倒がなくていいのよ」
寂しそうにそう言うと、再び歩き始めた
「なんか、リタってすごいです…あんなにはっきり言いきれるなんて……」
「何が大切なのか、はっきりしてんだな」
「………うん、そうだね」
リタの後ろ姿を見つめながら呟く
何故か、その後ろ姿に昔のぼくが見えた気がする
……裏切られて、大切な人を失ったぼくに
もしかしたらリタも、大切な人を失ったのかもしれない
そして……彼女には傍にいてくれる人が居なかったのかもしれない
ぼくは兄さんがずっと傍に居てくれた
だから、あんな風にはならなかったのかもしれない
……けど、もし兄さんがいなかったら
今のリタと同じようになってたかもしれない
そう考えると、胸が苦しくなる
……ただの想像でしか、ないんだけど……
「この子……やっぱりダメか」
ポツリと、山積みになった筐体 を見ながらリタは言う
「発掘前の魔導器 ってこんな状態なんだね」
「昔の人は何を思って、魔導器 を埋めたのでしょうか…?」
「さぁね。それも含めて研究途中よ」
「こんだけ魔導器 があんなら、水道魔導器 の魔核 もありゃいーんだけど」
じっと筐体 の山を見つめながらユーリはため息をつく
「魔核 も筐体 も完全な状態の魔導器 は中々発掘されないって、昔お父さんが言ってたよ?それに、ここにある魔導器 はどれも魔核 ないよ?」
「あんた、よく知ってるわね」
少し驚いたようにリタはぼくを見る
「……ぼくのお父さん、騎士だったし、おじさんも騎士で隊長だったし……おばさんは……ちょっと身分高い人だったから。たまーに遊びに行くと、色んな本読ませてくれたり、教えてくれたから」
筐体 の山の前に座って一つ手に取り上げながら言う
……自分の親を『おじさん』『おばさん』って言うのは……やっぱり違和感がある
「『だった』って…?」
不思議そうに、でも少し察したようにエステリーゼは首を傾げる
「…死んじゃったから。おじさん夫婦も、ぼくらの両親も」
「あ………えっと………ごめんなさい……」
ぼくがそう言うと、エステリーゼは慌てて謝ってくる
「エステリーゼが謝る事じゃないよ」
エステリーゼに向かって微笑みながらそう答える
……だって、責任は………ぼくにあるんだから
「ま、とりあえず、魔導器 はものすごく貴重だってことか」
「そうでもないわよ。発掘品よりは劣化するけど、簡単な魔核 の修復は最近成功するようになってきてるの」
「本当ですか!?」
リタの言葉に、エステリーゼは少し嬉しそうに声を上げた
「ええ。だから、あたしは盗むなんて真似はしない。そんなことしてる暇があるんだったら、研究に時間を費やすわ。完全に修復するためにね。それが、魔導師よ」
ぎゅっと拳を握りながらリタは言う
「立派な信念だよ。でも、それで疑いは晴れないぜ」
「………。口ではなんとでも言えるものね」
「そ、その辺に使える魔導器 があるかもしれませんよ!」
『疑いは晴れない』……その言葉に、リタは声量をさげた
ユーリとリタの間に流れた不穏な空気の間に割って入るように、エステリーゼが言う
……ユーリの悪い癖だ
けど、それは人のことを疑うことを殆どしない兄さんの傍にずっといたからなのかもしれない
…人を、誰よりも信頼して接する兄さん
…人を、誰よりも疑って接するユーリ
表と裏みたいな二人
いつか……二人がぶつかり合って、どちらかが居なくなるんじゃないか
ユーリが騎士団辞めて戻って来た時から、何故だかそんな来がしてならないんだ
「あ!こっちの魔核 あるよ!」
どこか嬉しそうに声を上げてカロルが言った
「その魔核 をこれ使って撃ってみて」
リタはユーリにリング状の魔導器 を渡しつつ、カロルが見つけた魔導器 を指差す
「このリングについてんの、魔導器 の魔核 と同じだな」
「術式を文字結晶化することで、必要に応じてエアルを照射する魔導器 …ソーサラーリング」
「ちょっと違うよ。照射して、魔導器 にエアルを充填させる、が正解だよ」
「………あんたら、知ってるの?」
エステリーゼの間違いにぼくが訂正を入れると、リタはぼくと彼女を交互に見つめてくる
「…………さっきも言ったけど、ぼくは昔おばさんの家で読んだことあるから」
「古い遺跡の鍵になると、お城の本で読みました。本物は初めて見ます」
「お城…?」
『お城』という言葉に、リタは首を傾げる
「撃てばいいんだな?」
それを誤魔化すように、さりげなくユーリが問いかける
「え、えぇ」
リタが返事をするのを聞くと、ユーリは魔核目掛けて撃つ
すると、ストリムの紋が浮かび上がった
「ストリムの紋……移動を示す紋章ですね」
エステリーゼがそう言ったのと同時に地鳴りが響く
そして、先程まで行き止まりだった場所に橋がかかった
それと同時に、壁からゴーレムが出て来た
「あ、あれ……何……?」
「侵入者用の罠ね」
「んじゃま、気をつけながら先進むとしますかね」
「いいの?あたし、実はもっと奥に誘い込んで始末しようとしてるかもしれないわよ?」
「罠より怖いのがここに居たよ」
肩を竦めながらユーリはリタを見た
…絶対そんな事しないと思うけどなぁ
「あんた、これ持ってて」
「いいのか?大事なもんなんだろ?」
「この先も何度か使うのよ」
リタはそう言ってソーサラーリングをユーリの手の中に落とした
「へいへい…」
若干不機嫌そうにそう言うが、素直に指に嵌める
「じゃ、行きましょ」
リタのその声に、ぼくらは奥へと足を進めた
「アリシア」
「ん?なぁに?」
遺跡を進んでいる途中、突然ユーリが話しかけてくる
「さっきの……おじさん達と親父さんのこと。なんか気になることでもあんのか?」
唐突に聞かれて、若干驚く
…ユーリと出会ってから、一度もそのことは聞かれなかった
だから……聞かれないと思っていた
不意をつかれたような発言に、思わず口ごもる
「………なんか、あんだな」
「…………まぁ、色々…………ね」
「……でも、アリシアが必要以上に気にするような事じゃねぇんじゃねぇの?」
多分、励ますつもりでユーリはそう言ってくれたんだろう
……でも、ぼくにとっては…………
「………気にするよ。だって……ぼくのせい、なんだから………」ボソッ
小さく、ユーリに聞こえないように呟く
「??アリシア??」
「……ううん!なんでもない!」
心配そうなユーリの声に顔を上げてニコッと微笑んだ
……駄目、これは言っちゃいけない
知られちゃ………絶対に駄目
「うわ………何これ………」
カロルの声に前を向くと、そこには魔導器人形があった
「この子を調べれば、念願の自律術式を……え?嘘!この子も魔核 がないなんて!」
悲鳴に近い声をリタはあげる
やっぱり、ドロボウはリタじゃないみたいだ
「リタ、お前のお友達がいるぜ?」
ユーリは上の階を見つめながらリタに言う
その方向を見ると、確かにアスピオの魔導師っぽいのが見える
「ちょっと、あんた誰よ?」
「わ、私はアスピオの魔導器研究員だ!お前たちこそ誰だ!ここは立ち入り禁止だぞ!」
「はぁ……あんた救いようのない馬鹿ね。あたしはあんたを知らないけど、あんたがアスピオの人間なら、あたしを知らないはずないでしょ」
「無茶苦茶言ってるよ……」
若干呆れ気味にカロルはリタを見た
でも、彼女がそう言うということは、それだけ自信があるっていうことだ
「くそっ!騎士団といい、こいつらといい…!邪魔の多い仕事だ!」
フードの男らしき人物は、そう叫ぶと魔導器人形に魔核 をはめ直した
同時にそれは動き出す
「うわっ!動いた!」
カロルがそう言うと同時に、リタが吹き飛ばされる
「リタ!」
エステリーゼは慌ててリタの元に駆け寄って治癒術をかける
……うん、やっぱり魔導器 が光ってない
「さてと、こいつをさっさと黙らせるとするか」
鞘を飛ばしながらユーリは戦闘態勢にはいる
「…うん、そうだね」
ゆっくりと鞘から脇差を抜いてまっすぐに魔導器人形を見つめる
壊すのはリタに止められそうだから、せめて動きを封じないと
ユーリが動き出したのを合図に、ぼくも動く
「うっわぁ……硬すぎ………」
後ろに飛びのきながら苦笑いする
思ってた以上に硬い
これは、術の方がいいかも……
「ユーリ、援護!」
「へいへい、言われなくとも!」
ぼくがユーリの後ろに下がると同時に、魔導器人形の気が彼に向くように攻撃を始めた
「…黄泉への誘い!ブラッディハウリング」
発動した術が容赦なく魔導器人形に当たる
クリーンヒットしたのか、魔導器人形は音を立ててその場に崩れ落ちた
「後は動力源を切って……ごめんね」
リタは謝りながらパネルを閉じると、魔導器人形の上から降りてくる
「さ、あいつ追いかけましょ!」
「うわわわっ!くっ、来るなぁ!!」
遺跡の入り口まで戻ってくると、さっきの人が魔物に襲われているのが目に入った
「……どうする?あれ」
「いや、助けねぇとだろ。あいつが水道魔導器 の魔核 持ってるかもしれねぇんだから」
「…………それもそっか」
「でも、あの量倒すの大変だよね……」
嫌そうに男を見つめながら、カロルはため息をつく
…ぼくだってあれ一体一体倒していくのは嫌だ
「はぁ……しょうがない、か」
深くため息をつきて、刀に手を伸ばす
隣にいるユーリと目を合わせると、彼は少し苦笑いして鞘をとばした
頷きあって合図を送ると、二人同時に男の元に走る
一瞬にして、取り囲んでいた魔物は地に伏せた
「あーあ、ユーリの方が多かった」
そう言いながら鞘に収める
多かった、というのは倒した数のこと
どう頑張っても、ユーリには勝てそうにない
「アリシアもそれなりに倒したろ…」
少し苦笑いしてユーリはぼくを見る
「んで…おい」
「ひっ、ひぃぃぃー!!お、俺は頼まれただけだっ!魔核 を持ってくればそれなりの報酬をやるって!」
ユーリが睨むと、いとも簡単に白状する
「お前、帝都でも盗んだろ?」
「帝都?俺じゃねぇ!デデッキの野郎だ!依頼人はトリム港にいるよ!ソーサラーリングもそいつから渡された!」
「嘘ね。コソ泥の親玉がそんなもの持ってるわけないわ」
「なんか……すっごい黒幕でもいるのかな…?」
「あぁ、ただのコソ泥集団ってわけじゃなさそうだ」
カロルの言葉に腕を組みながらユーリは答える
「くそっ!騎士の連中もやり過ごしたっていうのに!」
「騎士?それじゃあ、やっぱりフレンはここに?」
「あぁ、そんな名前のだったよ。あの騎士の若造めー!」
「…うっさいよ」
紐を外して刀を男のお腹目掛けて勢いよく振る
バキッと音を立てて男は後ろにすっ飛んで行った
「……兄さんの悪口言うなんて一億万年早いよ」
刀を掛け直しながら呟く
「おいおい……やりすぎじゃねぇか?」
「いーのいーの!悪者にはこのくらいしとかなきゃ!」
ニカッと笑うと、ユーリは大きくため息をつく
ため息をつかれた理由がわからなかったのはぼくだけで、リタやエステリーゼ、カロルも若干呆れたような……ユーリに同意するような表情でぼくを見つめていた
……そんなにおかしなこと、したかな?
*スキットが追加されました
*彼女について
*さっきのは…
「ここ……かな?」
首を傾げながら目の前の洞窟を見つめる
ハルルの街から東の場所
洞窟の奥には騎士と、街の入り口らしきものが見える
「なんか、薄暗くてジメジメしてるね…」
「洞窟の中に街があるからでしょうか…?」
「太陽が見えないと心までねじくれんのかね。
「それはありそうだよね。こんな暗いとこずっと居たら、頭おかしくなりそうだもん」
そんな会話をしながら入り口の方へ歩き出す
ぼくなら絶対、こんなところには住めないなぁ……
…というか、住みたくない……
「通行証の提示をお願いします。ここは帝国の施設なので、一般人は通せません」
入り口に立っていた二人の騎士の片方が割と丁寧に言う
……ここ、帝国の施設だったんだ……
ってことは、またお偉いさんが悪さしてるってことなのかな…
「通行証…ですか?」
エステリーゼが首を傾げながら騎士を見た
「持ってるの?」
カロルはユーリを見つめて問いかける
そんなもの当然持ってるわけがないから、ユーリはただ肩を竦めた
「中に知り合いがいんだけど、通してもらえない?」
なるべく相手を刺激しない口調でユーリは騎士に問いかけた
「ならば、その知り合いとやらから通行証を貰っていると思うのだが?」
「いーや、何も聞いてない。入れないなら、呼んできてもらえない?」
質問に質問を重ねてきた騎士にユーリは更に問いかける
まぁ……一方的な知り合いだしなぁ……
でも、騎士がそんな簡単に呼びになんて行ってくれるのかな……
「知り合いの名は?」
呆れ気味に騎士はため息混じりに問いかけてくる
以外と優しい人なのか……それともユーリの相手するのが面倒になったのか…
「モルディオ」
ユーリが一言そう言うと、騎士たちは驚いたように後ずさりした
「なっ!?モ、モルディオっ!?」
そう言うと二人は顔を見合わせて若干固まってしまう
「や、やはり駄目だ!書簡でやり取りし、正式な手続きをしたまえ」
「ちぇっ、ケチだなぁ」ボソッ
カロルが小声で呟いた文句は騎士達に聞こえてたみたいで、脅すように彼の方に首を向けた
…まぁ、冑被ってて顔なんてみえないけどね
「あの、フレンと言う名前の騎士が此処へ来ませんでしたか?」
「施設に関する情報は機密事項です。どんな些細な情報でも教える訳にはいきません」
「フレンが来た目的も?」
「もちろんです」
何処か誇らしげにそう言うが、それ来たって言ってるようなものだからね…?
エステリーゼの口車に乗るなんて、抜けてるなぁ
……きっと気づいてないんだろうけど
「……ふーん、じゃあ兄さん、来たんだね」
ぼくがそう言うと、案の定騎士は慌て出す
間抜けすぎでしょ……本気で
「じゃあせめて、伝言だけでもお願い出来ませんか?」
二人の騎士を交互に見つめながらエステリーゼは言う
「やめとけ。融通きくような奴らじゃねぇんだから。…行こうぜ」
その場を離れたユーリのあとを、少し駆け足で追いかける
…まぁ、きっとこのまま引き下がるわけないだろうなぁ
「で、どーするの?」
「ま、正面突破は無理だな」
「…ユーリ、今回は意外と大人しいね」
「おいおい……オレだって毎回毎回正面突破してる訳じゃねぇぞ?」
物珍しげにユーリを見ていると、呆れ気味にため息をつかれた
ユーリ
…兄さんとか
「フレンが出てくるまで待ちます?」
「でも、兄さんが中にいるって保証はないよ?それに……ユーリがそんなの待ってられないって」
ちらっとユーリをジト目で見ると、よくお分かりでって言いたげにニヤッと笑う
「正面以外の入り口を探すか、最悪この壁よじ登るかな」
キョロキョロと周りを見回しながら呟く
…ここまでくると、清々しさを感じてしまうよ…
まぁ、ぼくも兄さんが出てくる奇跡にかけてなんていられないし
よじ登るのは多分無理だけど…
「あ、あっちに扉あるよ!」
正面から少し逸れた横道の影からカロルが顔を出して手招きしてくる
どうやら先に探しててくれたみたいだ
手招きしてくるカロルの元に行くと、いかにも裏口って感じの扉が目に入った
ガチャガチャ「……ま、そんなラッキーな展開待ってねぇか」
わかってはいたけど、やっぱり扉には鍵がかかっていた
「壁を登るしかなさそうですね」
何故か少し嬉しそうにエステリーゼは言う
そりゃそっか、幾らユーリでもこの壁、登れるわけないしね
「あれ?カロル、何してるの?」
扉の前でゴソゴソ何かをしているカロルの横に並んで問いかける
手に持っていたのは細い針金みたいなもの
「もしかして……開けられる?」ボソッ
小声でカロルにそう聞いた
すると、ちらっとぼくを見てちょっとだけ笑った
「ん?二人してそこで何してんだ?」
ぼくらに気づいたユーリが、不思議そうに声をかけてくるの同時にガチャッと音を立てて鍵が開いた
「開いたよ」
誇らしげに笑いながらカロルそう言った
「わぁ…!本当に開けられるなんてすごい!」
両手を合わせてカロルを見ると、照れくさそうに頬をかいた
「お前のギルド、魔物狩り専門だろ?盗賊ギルドも兼ねてんのか?」
「え??あぁ……まぁ、ボクくらいだね!こんなこと出来るのは」
ユーリの質問に一瞬戸惑ったみたいだけど、直ぐにニコッと笑った
「ふーん…ま、いいか。さっさと行こうぜ」
「だ、ダメですよ!勝手に入るなんて!」
ユーリが足を進めようとするのを、エステリーゼが止めた
流石貴族様っていうか…真面目だなぁ
「んじゃ、エステルはここで見張りよろしくな」
ユーリが意地悪っぽくそう言うと、エステリーゼは戸惑い始めた
結局、彼女も一緒に扉の向こうへと足を進めた
中に入った途端、目に映るのは沢山の本の山だった
「うわぁ……すごい………」
あまりの本の多さに思わず声が漏れた
こんな量の本、初めて見た
「さてと…モルディオの居場所、誰かに聞いてみるとしますかね」
ユーリはそう言うと、近くに居た魔導師の方へ歩いて行った
エステリーゼとカロルもその後に続いて行こうとする
そのカロルの手を引いて、二人から離す
「わっ?!…もー、アリシア…危ないじゃんか」
「ごめんごめん、ちょっと聞きたいことあってさ」
「聞きたいこと?」
首を傾げカロルにニコッと笑いかけて、耳元で小声で言う
一瞬驚いた顔をしたけど、ちょっと嬉しそうに笑うとすぐに教え始めてくれた
「サンキュな」
落ちた本を拾い上げ手渡しながら、目の前の魔導師に礼を言う
本の受け取るなり、そいつは立ち去って行った
『モルディオ』ってやつは、どうやら相当の変わり者らしく、ここに居る魔導師にすら嫌われてるようだ
先程の魔導師がアスピオの外れの小屋に住んでいることを教えてくれた
「今度は絶対に逃がさねぇからな」
ぎゅっと左手を握り締めながら、入ってきた扉と反対の扉を見つめる
とりあえず一発ぶん殴らねぇと気が済みそうにない
「あまり大事にしないでくださいね…?」
「ま、そこはなんとかなんだろ」
「そうゆう問題じゃ………あれ?アリシアとカロルは?」
途中で言葉を切ると、キョロキョロと周りを見回す
「あん?……おいおい…またかよ……」
エステルの言う通り、二人の姿が何処にも見えない
ついさっき、急に居なくなんなって言ったばっかなんですけどねぇ……
「ったく、どこ行ったんだよ…」
深くため息をついて入ってきた扉の方へ足を向ける
流石に今回は置いていくわけにはいかない
そんなことを考えながら歩いていると、扉から二人が中に入ってきた
「ありがとう、カロル」
「ま、まぁこれくらい楽勝だからね!」
嬉しそうにニコニコ笑っているアリシアと、照れくさそうにニヤニヤしているカロル
……なんか、見てるとイラッとする
「二人揃って、どこ行ってたんだよ?」
そう声をかけると、アリシアは一瞬しまった!と言いたげに顔を顰めた
が、すぐ笑顔に戻った
「ちょっと扉の向こう側にいただけだよ。ね?カロル」
「うん、扉から離れてないよ」
じっと二人の顔を見るが、特に嘘をついているような様子はない
「ふーん…とりあえず、あんま目の届かねぇとこに行くなよ?特にアリシア」
「ご、ごめんなさい」
「えぇ……なんでぼくだけなんだし……」
素直に謝ったカロルと違い、アリシアはムッと膨れる
…まぁ、そうゆう反応するとはわかっていたが…
「二人も見つかりましたし、行くなら行きませんか?」
オレとアリシアたちを交互に見つめながらエステルは言う
「だな。ほら、はぐれんなよ二人共」
そう言って、体の向きを変えて歩き始めた
「はーい!」
元気よくそう答えると、アリシアはオレの横に並んで歩き始めた
書庫らしき場所から外に出ると、いかにも洞窟の中って感じの雰囲気の広場に出た
こんな場所でよく暮らせるよな…ここのやつら
「モルディオの家は確か……あっちだな」
見つめた先には、少し細い道が続いている
「ちょっと離れた場所に住んでるんだね。一人が好きなのかな?」
そう言ってアリシアは首を傾げた
さっきのやつの雰囲気からじゃ、好きだとか嫌いだとかっていう問題じゃなさそうだけどな
「さぁ、どうなんだろうな」
そう返して、小屋の方へ足を進める
小屋の前につくと扉に紙が張り出されていた
「『絶対開けるな モルディオ』」
紙に書いてある言葉を復唱して、ドアノブに手をかけて回してみる
が、案の定鍵がかかっている
扉をノックしてみるが中から反応はない
…居留守でも使ってんのか?
「ユーリ、順番が逆です!」
「エステリーゼ…多分ユーリにそう言っても無駄だよ…」
怒ったエステルの声と、呆れた様なアリシアの声が後ろから聞こえてきた
ドロボウの家にそんなの関係ねぇと思うんだが
「んじゃ、ここはカロル先生、頼んだ」
「ボク『ら』の出番だね!」
胸を張りながらカロルはそう言う
「ボク『ら』って、カロル先生だけだろ?」
そう言って首を傾げると、扉の前にアリシアが立った
「えーっと………ここがこうで………」
「そうそう、それで、こっちをこうして………」
ガチャッ
事の成り行きをポカーンとして見ていると、いつの間にか鍵が開いていた
……まさか、さっき二人揃っていなくなったのは……
「わぁ、すごい!本当に開いちゃった!」
嬉しそうに手を合わせながらアリシアはカロルを見る
「ね?こうするとどんな扉でも、かーんたんに開くんだよ」
誇らしげに鼻の下を人差し指で擦りながらカロルは笑う
「……おい、カロル……まさかお前……アリシアに『それ』教えてなんてねぇよな……?」
「え?教えたけど……」
恐る恐る聞くと、何も悪ぶれる様子もなくカロルは首を傾げる
……余計なこと教えやがって……!
「カ、カロル…!それにアリシアも、勝手に開けるのはダメですよ!」
「だって、早く
そう言いながら、アリシアは扉を開けた
………マジでこいつ………面倒見られに来たんじゃねぇのか………?
「うわぁ……ここも本ばっかだなぁ」
中に入ってすぐに出た言葉はそれだった
床にも壁にも、所狭しと置かれた本
そのどれもが
こんなに資料が揃ってなんて、余程研究熱心な人なのかな
「ボク……こんなところじゃ寝れない気がするよ」
「まぁ、住めば都って言うしな。こんなとこでも住もうと思えや住めんだろ」
ユーリとカロルはそんな会話をしながら、部屋の中を物色する
「ユーリ、先に言うことがあるんじゃないですか」
「へいへい…お邪魔してますよ」
エステリーゼに言われて、渋々と言った様子でユーリは言う
「鍵の謝罪もです」
「カロルとアリシアが開けました。ごめんなさい」
全く謝る気のない棒読みでユーリは言う
「ちゃっかりぼくらの責任にされちゃったね、カロル」
「ユーリがやれって言ったくせに」
二人揃ってジト目でユーリを見つめる
が、当の本人は知らん顔で部屋の物色を続けている
…なんか納得がいかない
そんなこと思いながら本の山に手を伸ばすと、いきなり崩れて中から人が出て来た
「うわっ!?」
慌ててユーリの背中の後ろに隠れる
まさかそんなとこに居たなんて……
「………うっさい」
「へ??」
フードを被って顔を隠したその人は、カロルの方を向いて呟いた
「ドロボウは………吹っ飛べ!!」
そう言ったと同時に火の玉がカロルに向かって飛んで行った
「うぎゃぁぁぁ!!」
「あ、カロル……!」
慌ててカロルに駆け寄る
……どうしようかな
治癒術使った方が良さそうだけど…
治癒術使う時はどうしても
……とりあえず、アップルグミあげとこうかな
「カロル、はいこれ」
「うぅ…………ありがとう…アリシア」
モグモグとアップルグミを食べながらカロルはゆっくり起き上がる
一方ユーリはさっきの人に剣を向けてなんか話してる
エステリーゼがそのユーリを静止して、仲介しているのが見えた
「ふーん……まぁ、確かにあたしはモルディオよ。リタ・モルディオ」
そう言って取られたフードの下に見えた顔はどう見ても女の子
声からしても女の子だってことがわかる
……あれ?でも、確か………
「ユーリ、人違いじゃない?」
「あん?なんでそう思うんだよ?」
リタに向けていた剣を下ろしながら、ユーリはぼくを見た
ぼくの声に驚いたのか、リタがすごい勢いで振り向いてきたのには気づかなかったフリしとこう
「だって、ハンクスおじさんが男の人だって、下町戻ってから言ってたよ?それに、ハンクスおじさんが『モルディオ』って呼んでる人と話してたの、一度聞いたことあったけど、男の人の声だったし」
思い出すようにしながらそう言う
確かに顔は見えなかったけど、あの声は絶対に男の人のものだ
「疑い晴れた?」
「いーや。共犯かもしれねぇだろ?」
「全くもう、知らないって言ってるじゃ……あぁ、そうゆうことか」
一人で何かを納得したように呟くと、上の階に登って行った
「おい、どこ行くんだよ」
「待ってよ。シャイコス遺跡にドロボウが出たって話、折角思い出したんだから」
ユーリの問いに答えているんだかいないんだか、よくわからない反応が返ってきた
「ドロボウ……もしかして、犯人はそっちじゃないかな?兄さんが、遺跡には
ユーリとエステリーゼのそばに寄ってそう言う
「もしかしたら、フレンもそっちに居るかもしれませんし…」
ぼくの意見に、エステリーゼが賛同するように頷いた
「話合い、終わった?」
声の聞こえた方を見ると、独特なローブを脱いで普段着らしい服装になったリタの姿が目に入った
ユーリとカロルはどうしようかとお互いの顔を見合わせている
「捕まる、逃げる、付いてくる、どれにすんの?」
痺れを切らせたようにリタはそう言う
二人はもう一度顔を見合わせると、渋々リタについて行くことを決めたらしい
「それじゃあ、行こっか」
リタの言葉を合図にシャイコス遺跡に向かって歩き始めた
ーーーーーーーーーーー
石造りの建物に水路、そして所々壊れた柱……
アスピオから数十分、ぼくらはシャイコス遺跡に到着した
「……足跡………」
地面についた、いくつもの足跡
まだ真新しい
「騎士団かドロボウか……はたまた両方か、だな」
そう言ってユーリは前方をじっと見つめる
「こっち、ついて来て」
リタはそう言って、先を歩き出した
…まぁ、初めの出会い方があれだったから、っていうのもあるんだろうけど…
塩対応っていうか、なんていうか……
あまり待たせて怒らせるものしのびないから、ちょっと早歩きでその後を続いた
リタが止まった場所で止まると、ピタリと足跡がそこで途切れていた
「誰もいないね」
キョロキョロと周りを見回しながらカロルが言う
「ですね……こんなに足跡はあるのに…」
「……まさか、地下の情報が漏れてる…?まだ一部の魔導師にしか伝わってないはずなのに……」
いかにもまずいと言いたげにリタは顔を顰めた
「地下です?」
「ここ最近見つかったのよ。上の発掘済みの遺跡だったら荒らされても問題ないけど、地下はまだ発掘途中だから。来て正解だったわ」
「地下に続く道なんてねぇけどな」
嫌味ったらしくユーリはリタをジト目で見つめる
一度疑ったら、無実が証明されるまで疑い続けるユーリだから、なんとなくこの状況は予想してたけどさ…
「嘘だと思うなら、そこの柱動かしてみなさいよ」
負けじとリタもユーリを見つめながら近くの柱を指さした
「カロル、いくぞ?」
「え?あぁ…うん!」
ユーリはやれやれと肩を竦めると、カロルと一緒に柱を押す
すると徐々に後ろへ下がり始めた
「ほれ…もうちょい…っ!」
ガタッと大きな音が鳴ると同時に、先程まで柱のあった場所にぽっかりと穴が空いていた
そして、下へ続く階段が顔を覗かせている
「カロル、大丈夫です?」
「う、うん……このくらい、どうってことないよ…!」
肩で息をしながらカロルは言う
「ふーん、嘘ついてたわけじゃねぇんだな」
「少しは疑い晴れた?」
「これだけじゃまだわかんねぇな」
「ユーリ!そういう言い方しないの!」
「いいよ、別に」
ぼくがユーリを怒ると、リタはどこか諦め気味に言った
そして、黙って地下への道を先に降りて行く
「あ!リタ!待って下さい!」
エステリーゼとカロルはその後に続いた
そして、最後にぼくとユーリ、ラピードが続く
「もー…ユーリ、きつく言い過ぎ」
少し小声でユーリに言う
「お前らが全く疑わねぇからオレが疑ってやってんの」
全く悪びれる様子もなく、ユーリは言った
「ユーリが疑いすぎるから、ぼくは信じてあげてるんですー」
ぼくはそう言ってリタを見た
本当に少ない時間しか一緒に居ないけど、リタはそんなことするような人じゃ絶対ないと思う
それに、あれだけ部屋に本が溢れてたんだ
研究熱心なのはそれだけでわかる
「へいへい……疑い深くて悪かったですよっと」
少し不機嫌そうに言うと、ぼくの少し前に出る
「……自分が悪いくせに……ねぇ?ラピード」
「ゥワンッ!」
ラピードの方に目を向けると、同意してくれるように鳴く
「足元滑りやすいから気をつけなさいよ」
「あ…はい!」
「……何よ」
「いーや?モルディオさんは意外とお優しいんだなと」
「……厄介事持ってきた気がするわ……別に一人でもよかったんだけど」
そんな話し声が聞こえて前に目を戻すと、ぼくから少し離れた場所で四人が話しているのが見えた
「リタはいつも一人で遺跡の調査に来るんです?」
「そうよ」
ゆっくり距離を縮めながらその会話を聞く
「罠とか魔物とか、危険じゃないですか?」
「何かを得るのためにリスクがあるなんて当たり前じゃない。その結果、何かを傷つけてもあたしはそれを受け入れる」
立ち止まって振り返ったリタの顔には、当然と言いたげな表情がうかんでいる
「それが…リタ自身でもですか?」
「そうよ」
「悩むことはないんですか?躊躇うとか…」
「何も傷つけずに望みを叶えようなんて悩み、心が贅沢だから言えるのよ」
「心が贅沢……か」
リタの言った言葉を復唱する
……その言葉は昔のぼくにピッタリ当てはまる気がした
…まだ、自分のことを『わたし』って言ってた時のぼくに……
「それに、
寂しそうにそう言うと、再び歩き始めた
「なんか、リタってすごいです…あんなにはっきり言いきれるなんて……」
「何が大切なのか、はっきりしてんだな」
「………うん、そうだね」
リタの後ろ姿を見つめながら呟く
何故か、その後ろ姿に昔のぼくが見えた気がする
……裏切られて、大切な人を失ったぼくに
もしかしたらリタも、大切な人を失ったのかもしれない
そして……彼女には傍にいてくれる人が居なかったのかもしれない
ぼくは兄さんがずっと傍に居てくれた
だから、あんな風にはならなかったのかもしれない
……けど、もし兄さんがいなかったら
今のリタと同じようになってたかもしれない
そう考えると、胸が苦しくなる
……ただの想像でしか、ないんだけど……
「この子……やっぱりダメか」
ポツリと、山積みになった
「発掘前の
「昔の人は何を思って、
「さぁね。それも含めて研究途中よ」
「こんだけ
じっと
「
「あんた、よく知ってるわね」
少し驚いたようにリタはぼくを見る
「……ぼくのお父さん、騎士だったし、おじさんも騎士で隊長だったし……おばさんは……ちょっと身分高い人だったから。たまーに遊びに行くと、色んな本読ませてくれたり、教えてくれたから」
……自分の親を『おじさん』『おばさん』って言うのは……やっぱり違和感がある
「『だった』って…?」
不思議そうに、でも少し察したようにエステリーゼは首を傾げる
「…死んじゃったから。おじさん夫婦も、ぼくらの両親も」
「あ………えっと………ごめんなさい……」
ぼくがそう言うと、エステリーゼは慌てて謝ってくる
「エステリーゼが謝る事じゃないよ」
エステリーゼに向かって微笑みながらそう答える
……だって、責任は………ぼくにあるんだから
「ま、とりあえず、
「そうでもないわよ。発掘品よりは劣化するけど、簡単な
「本当ですか!?」
リタの言葉に、エステリーゼは少し嬉しそうに声を上げた
「ええ。だから、あたしは盗むなんて真似はしない。そんなことしてる暇があるんだったら、研究に時間を費やすわ。完全に修復するためにね。それが、魔導師よ」
ぎゅっと拳を握りながらリタは言う
「立派な信念だよ。でも、それで疑いは晴れないぜ」
「………。口ではなんとでも言えるものね」
「そ、その辺に使える
『疑いは晴れない』……その言葉に、リタは声量をさげた
ユーリとリタの間に流れた不穏な空気の間に割って入るように、エステリーゼが言う
……ユーリの悪い癖だ
けど、それは人のことを疑うことを殆どしない兄さんの傍にずっといたからなのかもしれない
…人を、誰よりも信頼して接する兄さん
…人を、誰よりも疑って接するユーリ
表と裏みたいな二人
いつか……二人がぶつかり合って、どちらかが居なくなるんじゃないか
ユーリが騎士団辞めて戻って来た時から、何故だかそんな来がしてならないんだ
「あ!こっちの
どこか嬉しそうに声を上げてカロルが言った
「その
リタはユーリにリング状の
「このリングについてんの、
「術式を文字結晶化することで、必要に応じてエアルを照射する
「ちょっと違うよ。照射して、
「………あんたら、知ってるの?」
エステリーゼの間違いにぼくが訂正を入れると、リタはぼくと彼女を交互に見つめてくる
「…………さっきも言ったけど、ぼくは昔おばさんの家で読んだことあるから」
「古い遺跡の鍵になると、お城の本で読みました。本物は初めて見ます」
「お城…?」
『お城』という言葉に、リタは首を傾げる
「撃てばいいんだな?」
それを誤魔化すように、さりげなくユーリが問いかける
「え、えぇ」
リタが返事をするのを聞くと、ユーリは魔核目掛けて撃つ
すると、ストリムの紋が浮かび上がった
「ストリムの紋……移動を示す紋章ですね」
エステリーゼがそう言ったのと同時に地鳴りが響く
そして、先程まで行き止まりだった場所に橋がかかった
それと同時に、壁からゴーレムが出て来た
「あ、あれ……何……?」
「侵入者用の罠ね」
「んじゃま、気をつけながら先進むとしますかね」
「いいの?あたし、実はもっと奥に誘い込んで始末しようとしてるかもしれないわよ?」
「罠より怖いのがここに居たよ」
肩を竦めながらユーリはリタを見た
…絶対そんな事しないと思うけどなぁ
「あんた、これ持ってて」
「いいのか?大事なもんなんだろ?」
「この先も何度か使うのよ」
リタはそう言ってソーサラーリングをユーリの手の中に落とした
「へいへい…」
若干不機嫌そうにそう言うが、素直に指に嵌める
「じゃ、行きましょ」
リタのその声に、ぼくらは奥へと足を進めた
「アリシア」
「ん?なぁに?」
遺跡を進んでいる途中、突然ユーリが話しかけてくる
「さっきの……おじさん達と親父さんのこと。なんか気になることでもあんのか?」
唐突に聞かれて、若干驚く
…ユーリと出会ってから、一度もそのことは聞かれなかった
だから……聞かれないと思っていた
不意をつかれたような発言に、思わず口ごもる
「………なんか、あんだな」
「…………まぁ、色々…………ね」
「……でも、アリシアが必要以上に気にするような事じゃねぇんじゃねぇの?」
多分、励ますつもりでユーリはそう言ってくれたんだろう
……でも、ぼくにとっては…………
「………気にするよ。だって……ぼくのせい、なんだから………」ボソッ
小さく、ユーリに聞こえないように呟く
「??アリシア??」
「……ううん!なんでもない!」
心配そうなユーリの声に顔を上げてニコッと微笑んだ
……駄目、これは言っちゃいけない
知られちゃ………絶対に駄目
「うわ………何これ………」
カロルの声に前を向くと、そこには魔導器人形があった
「この子を調べれば、念願の自律術式を……え?嘘!この子も
悲鳴に近い声をリタはあげる
やっぱり、ドロボウはリタじゃないみたいだ
「リタ、お前のお友達がいるぜ?」
ユーリは上の階を見つめながらリタに言う
その方向を見ると、確かにアスピオの魔導師っぽいのが見える
「ちょっと、あんた誰よ?」
「わ、私はアスピオの魔導器研究員だ!お前たちこそ誰だ!ここは立ち入り禁止だぞ!」
「はぁ……あんた救いようのない馬鹿ね。あたしはあんたを知らないけど、あんたがアスピオの人間なら、あたしを知らないはずないでしょ」
「無茶苦茶言ってるよ……」
若干呆れ気味にカロルはリタを見た
でも、彼女がそう言うということは、それだけ自信があるっていうことだ
「くそっ!騎士団といい、こいつらといい…!邪魔の多い仕事だ!」
フードの男らしき人物は、そう叫ぶと魔導器人形に
同時にそれは動き出す
「うわっ!動いた!」
カロルがそう言うと同時に、リタが吹き飛ばされる
「リタ!」
エステリーゼは慌ててリタの元に駆け寄って治癒術をかける
……うん、やっぱり
「さてと、こいつをさっさと黙らせるとするか」
鞘を飛ばしながらユーリは戦闘態勢にはいる
「…うん、そうだね」
ゆっくりと鞘から脇差を抜いてまっすぐに魔導器人形を見つめる
壊すのはリタに止められそうだから、せめて動きを封じないと
ユーリが動き出したのを合図に、ぼくも動く
「うっわぁ……硬すぎ………」
後ろに飛びのきながら苦笑いする
思ってた以上に硬い
これは、術の方がいいかも……
「ユーリ、援護!」
「へいへい、言われなくとも!」
ぼくがユーリの後ろに下がると同時に、魔導器人形の気が彼に向くように攻撃を始めた
「…黄泉への誘い!ブラッディハウリング」
発動した術が容赦なく魔導器人形に当たる
クリーンヒットしたのか、魔導器人形は音を立ててその場に崩れ落ちた
「後は動力源を切って……ごめんね」
リタは謝りながらパネルを閉じると、魔導器人形の上から降りてくる
「さ、あいつ追いかけましょ!」
「うわわわっ!くっ、来るなぁ!!」
遺跡の入り口まで戻ってくると、さっきの人が魔物に襲われているのが目に入った
「……どうする?あれ」
「いや、助けねぇとだろ。あいつが
「…………それもそっか」
「でも、あの量倒すの大変だよね……」
嫌そうに男を見つめながら、カロルはため息をつく
…ぼくだってあれ一体一体倒していくのは嫌だ
「はぁ……しょうがない、か」
深くため息をつきて、刀に手を伸ばす
隣にいるユーリと目を合わせると、彼は少し苦笑いして鞘をとばした
頷きあって合図を送ると、二人同時に男の元に走る
一瞬にして、取り囲んでいた魔物は地に伏せた
「あーあ、ユーリの方が多かった」
そう言いながら鞘に収める
多かった、というのは倒した数のこと
どう頑張っても、ユーリには勝てそうにない
「アリシアもそれなりに倒したろ…」
少し苦笑いしてユーリはぼくを見る
「んで…おい」
「ひっ、ひぃぃぃー!!お、俺は頼まれただけだっ!
ユーリが睨むと、いとも簡単に白状する
「お前、帝都でも盗んだろ?」
「帝都?俺じゃねぇ!デデッキの野郎だ!依頼人はトリム港にいるよ!ソーサラーリングもそいつから渡された!」
「嘘ね。コソ泥の親玉がそんなもの持ってるわけないわ」
「なんか……すっごい黒幕でもいるのかな…?」
「あぁ、ただのコソ泥集団ってわけじゃなさそうだ」
カロルの言葉に腕を組みながらユーリは答える
「くそっ!騎士の連中もやり過ごしたっていうのに!」
「騎士?それじゃあ、やっぱりフレンはここに?」
「あぁ、そんな名前のだったよ。あの騎士の若造めー!」
「…うっさいよ」
紐を外して刀を男のお腹目掛けて勢いよく振る
バキッと音を立てて男は後ろにすっ飛んで行った
「……兄さんの悪口言うなんて一億万年早いよ」
刀を掛け直しながら呟く
「おいおい……やりすぎじゃねぇか?」
「いーのいーの!悪者にはこのくらいしとかなきゃ!」
ニカッと笑うと、ユーリは大きくため息をつく
ため息をつかれた理由がわからなかったのはぼくだけで、リタやエステリーゼ、カロルも若干呆れたような……ユーリに同意するような表情でぼくを見つめていた
……そんなにおかしなこと、したかな?
*スキットが追加されました
*彼女について
*さっきのは…