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『ヰタ・セクスアリス』受難
空欄の場合は『如月』になります
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「森さんから……依頼?」
「ああ」
渡された書面
探偵社に緊張が走る。
不必要な接触は避けているが、
正面から依頼されては無視も出来ない。
「日時と場所のみの記載だ。
内容については直接話す、ということだろう」
張り詰めた空気の中、
乱歩だけがいつも通りだった。
「私が、同行する」
相手は裏組織の長。
彼女の異能は知られていると考えるのが妥当だろう。
これ以上、彼女を利用させる気はない。
――――――
指定場所には森鷗外一人。
構成員が潜んでいる気配も、ない。
「来てくれると思っていましたよ。如月さん。
福沢殿は招いた覚えがないのですがね…」
「まあ、いいでしょう。依頼内容はニつ。
一つ目は勧誘です。
貴女をポートマフィアに招きたい」
「俄かには許容しかねる内容、だな」
「話は最後まで聞くものだよ。福沢殿」
「聞くまでもない」
"にべもない"とは正にこの事だろう。
「では確認事項から。
君の異能は持ち主の死後、分離した異能を返すことができる…だったね?」
やはり、異能が目的か――。
福沢の刀の鍔が鳴った。
「そして、二つ目の依頼は、私の死後の話だ。
異能『ヰタ・セクスアリス』が分離したら…
――私の元に送り返して欲しい」
「………ぅん?」
自分でも驚くほど間抜けな返答。
福沢も、固まっている。
「死んだくらいで、私はエリスちゃんと離れるつもりはない」
「エ…リス、ちゃん?」
「エリスちゃんも必ず、
いや、絶対私と共に居たいはずだ」
「そ、れは…その時に、聞いてみないと…。
それに、継承を望む場合もありますし…そもそも分離すること自体稀ですが…」
「ない!あってたまるか!!
エリスちゃんを他の男に嫁がせるなど!
それにエリスちゃんは奔放なんだ。必ず分離する!」
「奔放な…異能?
奔放だから分離、する?のかなぁ…
とつ……継承先は、その、男性とは限りませんよ」
ポートマフィアの首領
冷徹で合理的、そんな男は此処には居ない。
「……――帰るぞ」
付き合いきれん。
福沢はそんな顔をしていた。
「失礼。…まぁ待ち給え。
一つ目の依頼、ポートマフィアへの移籍についても話そうじゃないか」
先程とは違う、
組織の長の顔になる。
「異能の葬送を受理してくれた場合、
その内容を脅迫に使われる恐れがある」
「例え、相手が裏社会の組織であっても、
探偵社は脅迫などせん」
「福沢君。君は、しないだろう。
そして彼女も。
だが、しそうな人物に心当たりはないかね?」
同時に同じ顔が思い出される。
『イヤだなぁ森さん。脅迫なんかしないよ。
これは取、り、引、き』
言いそう。
「………太宰、か」
「なら最適解は彼女の移籍だ。
ポートマフィアにいれば、私がいつ死んでも対処可能にもなる」
「……あの、ぉ、」
「なんだね?」
「つまり、戦力としての移籍の提案では、ない…?」
「そうだよ。これはエリスちゃんが遺された時の保険の話だ」
「あの太宰くんのことだ。無効化の異能で君の葬送を邪魔するかもしれない」
「いや、エリスちゃんを自分のものにするかも…!」
太宰への偏見が酷い。
そもそも、異能無効化を持つ彼に、
異能の継承ができるのかも謎なのに…
「エリスちゃんは可愛らしいし、とても強いからね。特務課が目を付ける可能性も……」
いつまでもエリスちゃんの話が終わらない。
正直、異能に対しての愛情(執着)に、
嬉しさを通り越し、煩わしさを感じる。
「えーっ、と……、
死にかけたらご連絡ください。
その後、分離することがありましたら、可能な限りご期待に添えるよう尽力致します。
死亡予定がないのでしたら、ご連絡は控えていただけると助かります」
「死にかけたら、連絡…」
そんな余裕があればよいのだが、と囁いた森の言葉に福沢が小さく吹き出し、顔を背ける。
細かく肩が震えていた。
――――――
「お帰りー」
全て見通していたであろう男が笑う。
「分かっていたのなら、初めから言え。乱歩」
「えー、でもさ、依頼主は大事にしないと。
それで、受けたの?依頼」
視線が集まる
「依頼は受けませんでしたよ。
でも、まあ…約束はした、のかな?」
柔らかく、
彼女は微笑んだ。
「社長」
「なんだ」
「いいの?森さん、多分本当にやるよ」
「……だろう、な」
「まぁ、エリスちゃんの方が先に愛想尽かしそうだけどね」
探偵社は今日も平和だ。
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