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『過去』
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「——継承は行わない?」
男は眉を顰めた。
「特一級指定異能だぞ」
机上には一枚の写真。
墓の前にいる人型の異能が映されている。
ここまで形が明瞭なのは、それだけ強い異能である証拠。
「あれを血縁へ継承できれば、今後の国力維持にも——」
「できません」
彼女は静かに言い切った。
「何故だ」
「異能が、望んでいないからです」
空気が凍る。
男は苛立ったように机を叩いた。
「異能に意思などない!」
「あります」
被せるような否定。
室内が静まり返る。
「協力を拒む場合、貴女の異能の譲渡も視野に入れなければならなくなる」
違う男が口を挟む。
「確か50年程前…当時の警視総監に鎮めの異能を譲渡した記録が、」
「その話、今は関係ありません」
再び、遮るように言葉が重なった。
「この異能は、持ち主の元にいたいんです」
「それは君の感傷だろう。
現象で言えば珍しい例でもない」
「確かに。特定の場所に留まる異能は多い」
異能の統計率、過去のデータの意見が飛び交う。
「持ち主の死後、一週間以上動きがない異能の暴走率は極めて低いとの裏付けもある。
このタイプは継承成功率も高い傾向だ」
「……だから、血縁者である弟に継承の情報を流したのですね」
墓の前から動かなかった、
——白い犬。
重要秘匿情報にあたる
資料にも載っていない
血縁者への『異能の継承』
「大した異能ではなかったがな。
血の近さによる継承適合率を調べるのに条件が揃っていた」
「君の感傷により、あの一族は衰退の道を選ぶしかなくなったわけだ」
視線が彼女へと集まる
「これが…たとえ感傷であったとしても、
——還りたいものを留めたくは、ない」
濁る空気の中、不意に椅子が鳴った。
「結論は出ている」
毅然とした声。
それだけで空気が変わる。
「貴方は国家戦略を軽視する気か」
福沢は静かに男を見た。
「死者と、死者への想いを抱くものの意思を踏みにじる戦略になど、価値は感じん」
明確な断絶。
視線を移すと
大きく見開かれた目。
まるで、
自分が否定されなかったことに、驚いたようだった。