夢喰い夢売り夢造り。


 オレは就職を機にアパートを借りた。
 念願の一人暮らしが始まるのだ。
 家族には、電車で二時間くらい自宅通勤出来るじゃないかとか、なんなら車買ってあげるからとか、いろいろ引き留められた。でも、兄の結婚が決まっていて嫁も同居すると聞いていたら、居辛くなっても仕方ないじゃないか。
 引越荷物は実家のワゴン車にしこたま詰め込めば一度で運べた。だいたいそれ以上運ぼうにも、新居はそれほど広くない。そして家電品は新居の近くにある家電店から配達されるように手配済みだ。いつもは鈍臭い次男坊を演じちゃいるが、やる時ゃやるのだ。
 もっとも新居とは言っても、アパートそのものは築四十年くらいの安普請だ。おかげでずいぶん格安なのだが、念の為に事故物件じゃないコトも確認してある。二階建てで三部屋ずつあって、オレの部屋は二階の真ん中だった。二階への階段は真ん中辺り、オレの部屋がいちばん近い。
 鍵を開けて部屋に入ると、玄関入ってすぐ横に台所、その奥に洗濯機置き場を兼ねるシャワー室、隣にトイレのドアが並ぶ四畳半ほどの板間、そして板間の向こうに押入付きの六畳間。突き当たりの窓の向こうは眺望の良い空間が広がる……が、眼下は墓地だ。事故物件でもないのに格安の理由がここにあった。
 しかし、エアコン完備で窓は開けなくてもいいし、大きな洗濯物なら道向かいにランドリーがある。完璧じゃないか。見なければいいのだ、こういうのは。だいたい見晴らしがいい昼間は仕事で部屋にはいないだろう。そう、就職したのだから。

 初出勤は四月二日からと通知があった。まだ一週間以上あるのを幸い、オレはいろいろ買い出しをしておくコトにした。部屋を出るとまだ少し冷たい風が顔を撫でる。冷蔵庫と電子レンジという台所の神器は手に入れたし、洗濯機は明日届く。布団は実家からまだ新しいマットレスを持ち込んである。後はちょっとした椅子とテーブル、そして収納棚が欲しいところだ。近くにホームセンターでもないかと、スマートフォンのマップを立ち上げて歩き出した。
 アパートの前は自動車が擦れ違うのには問題ない程度の広さがある。そしてアパートの横には大きめの月極駐車場があった。二十台くらいは駐められるだろう。車があるならここを借りるように言われたのを思い出した。そこから数軒ほど過ぎると信号のある交差点、交差しているのは片側二車線で右折帯もある通りだ。その両側にはチェーン店が並んでいた。自炊しなくても安いモノからそこそこのモノまでひと通りは外食でも済ませられそうだ。そして、目的のホームセンターはとマップに目を落とすと、残念なコトにふたつほど先の駅近くらしい。仕方がない、明日、改めて出直そう。確かあの店は買い物に応じて軽トラックを貸してくれるはず。公式サイトで確認しておこう。
 最寄りの駅まで周りを見ながらでも十分程度だったなと思い返しつつ、コンビニエンスストアやらスーパーやら本屋やら、普段よく行く店をチェックしてアパートへ戻った頃には昼をだいぶ回っていた。どこかで食べて済ませてくれば良かったかも。
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