第一章


 おいらの背中にゃ甲羅があるのさ。
 おいらの指にゃ水掻きがあるのさ。
 そしておいらの頭の天辺にゃ、濡れてきらめくお皿があるのさ。
 乾いちゃなんねぇ大事なお皿。

 小さい頃から口ずさんでいる歌を呟くように口にして、おいらは寂れた街の商店街を歩く。
 ショーウィンドウに映るおいらのそれは、自慢じゃないがはじめてにしては上手く人間に化けていた。
 光の加減で深い海の底の色にも見える髪を後ろでひとつに括り、滅多に陽に当たらない肌は濁った白、ちょっとばかり尖らせた唇はやや不健康そうだけど。人間だったら子供か大人か微妙な年頃に見えるだろうとじいちゃんは言っていた。

 しかし、いかんせん身につけているモノが気に入らない。ショーケースの中にあるヤツが「今どきのファッション」ってヤツなんだろうと思うと、兄貴たちから貰った服がこの上なくださく見える。真っ白じゃないくすんだシャツと、あちこちに穴が空いた青いズボンにこれまた穴がいっぱい開いてるツッカケ……じゃなくて、サンダル。
 それを手に入れるにはお金が必要だとわかっちゃいても、餞別に持たされたお金ではたぶん足りない。こんなことに使っていたら、人間のフリが必要になった時に使えなくなる。人間ってのはとにかくお金ってのがないと何も出来ないらしい。面倒なこった。おいらたちは魚や木の実、何でも喰えるし、寝るのだってどこでも寝られる。なんて軟弱な生き物なんだろう、人間ってのは。

 だとすれば、もったいぶってじいちゃんに言われはしたが、案外簡単に尻子玉も喰えそうだ。
 おいらは服のことなんざ忘れて再び歩を進めた。
 まずは寝るところの確保だ。なるべく水場の近くがいい。鼻をひくひくさせながら水の匂いを捜す。

 それにてしも。
 何て身体が重く感じるんだろう。水の中で自在に動いていたはずが、人間の恰好をして歩いているとひどく足が重い。
 どこかで一度休まないと。そう思って周囲を見回すと、雑木林のような茂みが見えた。
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