幼少期編
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“個性”が発現して早3年。燈とカルマは6歳になった。燈の父により訓練を受けて“個性”をだいぶ使いこなせるようになった。この訓練は、幼いながらに自分の“個性”が人を傷つけてしまう恐れがあると感じた燈が自ら父親に頼み、それにカルマも乗っかって始まったものだ。父も、2人を強くするため…というよりかは人を傷つけないために教えることを決めた。なので、どんなに厳しかろうと、2人が弱音を吐くことは一切なかった。その副産物としてか、2人には妙な正義感が芽生えていた。
そんなある日のこと、相変わらず月に一度の旅行の支度を終えカルマと遊んでいるところに、燈の母は話しかける。
「燈、ちょっといい?カルマくんも」
「なに?」
「2人に渡しておこうと思って」
そう言い、燈の母は箱を2つ二人の目の前に出した。箱のパッケージを見て、中身を察した2人は驚きながら燈の母を見ると、ニコニコと笑いながら早く開けて見なさい、と言う。2人は顔を見合わせながら嬉しそうに箱を受け取り中身を開ける。その中には携帯電話が入っていた。携帯電話といっても子供用のもので、携帯の下の部分には紐に括られた輪っかがついており、防犯ブザーになっているものだ。色違いのデザインで、燈は黄色、カルマは赤色だ。すでにアドレス帳にはお互いの番号と、両親の連絡先が登録されていた。
さて、何故6歳の子供に携帯電話を持たせたのかというと、鳴神家・赤羽家共に旅行が多く、知らない土地に行く機会が多い。なので、もしも何かがあった時に連絡を取れる手段が必要なのだ。これより小さい時は、幼いからと両親とともに行動することが多かったが、これから大きくなるにつれて、別行動する機会が増えるだろう。そのことを考えた上で両親たちは携帯を持たせることにしたのだった。
数日後。恒例の旅行の日がやってきた。今回は静岡へ3泊4日の旅である。ただ、いつもと違うのは、燈とカルマの両母親の同級生の家に泊めてもらう事になっている。母から二人と同年代の子供がいると聞き、燈はまだ知らぬその子に会うのをとても楽しみにしていた。
「楽しそうだね」
「うん、お友達になれたらいいなって思って!」
嬉しそうに話す燈とは対照的に、カルマの表情は陰っていた。ニコニコと笑う燈は大変可愛らしく、もしも周りに人がいたら、視線を独り占めしてしまうほどである。そんな笑顔を、自分ではない見知らぬ子に向けている事が、カルマには面白くなかった。
「
「はは、すっごいブサイク」
「カルマのせいでしょ!!」
自分の行動に、頰を膨らませながら怒る燈にカルマは先程まで抱いていた面白くないという感情が薄れていた。
「2人とも!早く行くわよ!」
カルマの母に呼ばれて、2人は車に乗り込んだ。
* * *
約三時間かけて漸く目的地に到着した。車庫を借りて車を停めて、母親たちは家のチャイムを鳴らす。すると、母たちの同級生と思しき女性と、その後ろに隠れるようにして女の子が出てきた。
「久しぶりね!」
「今日から四日間、お世話になります」
「鳴神燈です!よろしくお願いします!」
「赤羽カルマ。よろしく」
母親たちの挨拶の隙を見て、自己紹介する二人に、目の前の女性は驚きながらも、女の子にも自己紹介をするように促した。
「耳郎響香、よろしく」
「よろしくね、響香ちゃん」
* * *
車から荷物を積み降ろしたあと、響香の案内で近くの公園に遊びに来ていた。公園といっても、住宅街の中にある、ベンチと少しの遊具が設置されたちいさいものだが。それでも、3人で遊ぶには十分だった。他に遊んでいる子供はおらず、好きなように遊べる。燈は響香に何をして遊びたいか聞く。
「響香ちゃんはなにして遊びたい?」
「え、ウチ?」
「まあ、オレらはここに慣れてないし耳郎サンが決めていいよ」
「ウチのことは響香でいいよ、2人とも」
「オレもカルマでいいよー」
「私のことも燈でいいよ」
改めて呼び名を決めたところで、もう一度響香に聞くと、「2人の個性が見たい」と言った。2人は少し考えてから、まずは、と燈が砂場に移動した。
「危ないから少し離れてて」
「うん?」
燈がそういうと、響香は疑問に思いながらも砂場から出る。カルマも砂場の外に出ると、燈は左手を砂に翳す。すると小さな竜巻が起きた。
「もしかして風を操作する個性!?」
「んーちょっと違うかな」
燈は磁力を操作して砂に含まれている砂鉄を操って竜巻のようにしているのだ。もっと磁力をうまく操ることができれば、砂鉄を色々な形状に形取ることも可能だが、今の燈にはこれが精一杯だった。左手をぎゅっと握ると、竜巻のように渦巻いていた砂鉄は地面に落ちた。燈の個性に驚く響香にふんわりと微笑むと、その可愛らしい笑みに、思わず赤面して固まった。突如なんの反応も示さなくなった響香に、どうしたのかと響香の名前を呼ぶ燈。カルマはその光景を見てムッとした表情を浮かべると、燈の頰を両手で思い切り挟んだ。
「オレ以外にあんまり笑わないで」
「ふぇ?」
頰を挟まれているため、間抜けな返事をする燈にカルマはふっと笑う。漸く我に返った響香が、それを見てカルマが燈に抱く気持ちを察した。燈が次はカルマの番だと言わんばかりにカルマの腕を軽く叩いた。
「カルマはどんな個性なの?」
「すごいよ!きっと響香も驚くと思うよ」
「燈、そのリボン使っていい?」
「うん」
カルマは、燈の髪を結っているリボンを
「テレポート!?」
「そうだよ」
「2人ともすごい…」
初めて見る珍しい個性に驚く響香であったが、すぐに落ち込んだ表情に変わる。突然落ち込んだ響香に燈は慌てて声をかけた。
「どうしたの!?具合悪くなった!?」
「いや…あまりにも2人の個性がすごくて、それに比べてウチは…」
響香は、年の割に個性を使いこなす2人を自分と比べてしまい、ショックを受けたのだ。素直にその感情を吐露すると、カルマがなんだそんなことか、とでも言いたげな表情で口を開いた。
「そんなの当たり前じゃん。オレたちは毎日特訓してるんだから」
「ちょっと、カルマ!」
「でも、まだこれから上達できるじゃん」
「!」
「そういえば、まだ響香の個性まだ見せてもらってないけどどんな個性なの?」
「えっと…」
響香は耳たぶについているプラグを伸ばすと、そこから音を出した。まだ音量の調整が難しいため、一瞬ではあったがかなりの爆音である。響香は耳たぶのプラグから自分の心音を流したのだ。今はこれしかできないからこれから特訓しなきゃね、と響香は笑った。
* * *
「…ずっと気になってたんだけど、燈の右手の包帯。怪我?」
「あー…うん、これはまあそんな感じ、かな」
「ゴメン、無理に聞くつもりはないから!!」
「ありがとう」
家に帰り夕飯を済ませた後、燈と一緒にお風呂に入っていた響香はふと疑問を口にした。燈は、“右手の個性”が発現してからずっと右手に特殊な包帯を巻いていた。この包帯はありとあらゆる個性を制限するもので、燈の“あらゆる個性を無効化する個性”を封じるためのものなのだ。封じる理由は、もちろん特殊で珍しい個性というのも一因なのだが、右手の個性が使える状況下において、もう1つの個性である“電撃”のコントロールができないのだ。なので特訓する時以外は右手に包帯を巻いているのだ。
「明日はウチ幼稚園なんだけど、燈はどうすんの?」
「うーん、カルマとこの近くを探索しようかな」
「いいなぁ」
すっかり仲良くなった2人は、この後響香の母が様子を見に来るまでずっと湯船に浸かりながら話していた。
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