幼少期編
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“個性”とは、先天性の超常能力である。現在全人口の約8割が何らかの“個性”を発現している。通常は4歳頃までに両親のどちらか、あるいは複合的な“個性”が発現する。追記すると、燈たちの世代は「第五世代」である。
「燈、大丈夫?」
「うん…」
「しばらくはお家で大人しくしてなさいね」
「はーい」
燈は全治二週間の骨折を負っていた。なぜこんな怪我をしたのかというと、三日前まで遡る。
相も変わらずカルマと二人きりで公園で遊んでいた。その時に近くで男の子が泣いていた。二人と同じくらいの年だ。近くに親も友達もいないのか、その少年を慰めようとする人は誰もいない。放っておけなくなった燈とカルマはその少年の元へ行き訳を聞くと、おずおずと少年は口を開いた。
「あのね、ふうせん…」
「ふうせん?」
「あ、きにひっかかっているあおいやつ?」
「うん…ひとりじゃとれなくて」
少年は木に引っかかった風船が取れずに泣いていたようだ。二人が木を見上げると青い風船が引っかかっていた。カルマはどうやって風船を落とそうかと考えていたが、答えが出るよりも先に、燈が木に登り始めた。
「ちょっとまって、あぶないよ!」
「だいじょうぶっと!」
「すごい…!」
風船の紐をつかんだ燈がゆっくりと枝をうまく使いながら降り始める。成り行きを見守っていた少年は感嘆の声を上げる。その傍らでカルマは「あ」と小さく声をあげる。お決まりでベタな展開ではあるが、燈が足を踏み外して落下した。落下地点にカルマは向かい、受け止めようと試みるも、燈は却って危険だと思ったのか、体をひねってカルマにぶつからないように避けながら右手をついて着地した。
「はい、もうはなしちゃだめだよ」
「ありがとう!」
持っていた風船を少年に渡して、笑顔で言うと、少年は頰を赤く染めながらお礼を言って去って行った。それを見ていたカルマは、じっと燈の右手を見つめた後、手にとって強く握った。
「い゛っ!!」
「やっぱり…いたいんでしょ。はやくいえにかえろう」
「だいじょうぶだよ、これくらい」
「だめだよ。おれがいやだ」
「え?」
カルマは不機嫌そうに右手を握ったまま、家へと燈を引っ張っていく。この一連の出来事が、完全に男女の立場が逆転していることは、突っ込んだら負けであるので気にしないでおいてほしい。カルマは燈の家に着くなり、大きな声で燈が怪我したことを伝えると、母が大慌てで出て来た。そして病院へと連れて行かれ、冒頭に戻るのである。
「全く…お転婆なんだから。誰に似たのかしら」
「おかあさんじゃない?」
「なんですってぇ?」
「いひゃい」
燈と母がそんなやりとりをしている傍で、カルマは俯きながら口を開いた。
「あのとき…」
「うん?」
「おれが こせいを つかえていれば けがしなかった」
「え」
カルマは自分が空間移動で風船を取れば、燈が怪我をすることもなく解決できたのではないか、とずっと悔やんでいたのだ。3歳児にそんな芸当を期待する方が難しいのは明白で、燈も母もカルマを責めるつもりなんて毛頭ない。燈は、カルマを慰めるように左手でカルマの手を取った。その時だった。
「!」
「!?」
バチッと燈とカルマの間に電気が走る。静電気のようなものではなく、例えるならそう、スタンガンのような電流だ。幸い、音の割には電圧は低く、怪我をする程ではなかった。そうなると、一つの答えに辿り着くのは容易であった。燈の父の個性は“電磁波”。ここまで書けばわかるだろう。つまり、燈の個性が発現したのだ。
「これがわたしのこせい?」
「すごいじゃん!」
カルマも落ち込んでいたことを忘れて、燈と一緒にはしゃぐ。個性をコントロール出来なければ、人を傷つけてしまう恐れがあるので、稽古でもつけようか、と密かに燈の母は思った。
* * *
二週間後。燈の怪我はすっかり完治していた。怪我が治った燈は、ついこの間発現した自分の個性を使おうと、カルマの家へ向かった。
「カルマ!けがなおったからこうえんにいこ!」
「わかったって。はやくこせいつかいたいんでしょ?」
「うん!」
目を輝かせて言う燈にカルマは一つ提案をした。
「さいきんテレポートできるようになったんだけど、さきにそれみてくれない?」
「ホント!みたい!!」
カルマの提案に二つ返事で返すと、カルマは燈の右手を握り念じる。…のだが。
「あれ?」
「うーん…おかしいな。こないだかあさんとやったときはうまくいったのに…」
玄関で手を繋いだまま、何も起きず、首をかしげる二人。しばらくカルマは唸りながらも個性を使おうと奮闘する。燈が、そんな事もあるよ、と慰めようとした時、カルマの母がひょっこり顔を出した。
「あら?二人で手を繋いで仲良しね〜」
「ちがうよ、こないだのヤツやりたいんだけど、うまくいかないんだよ!」
「うーん…とりあえず、お母さんと一緒にもう一回やってみようか」
カルマの母の提案で、最初はカルマの母と一度
カルマの母がカルマと燈の空いてる手を握ると、再びカルマは念じ始めた。
「…」
「…」
「…あらら?おかしいわね…」
しかし、成功しなかった。どうしてだろうと各々頭を悩ませていると、燈の母がチャイムを鳴らしてやってきた。どうやら、みんなでお茶をしようとお菓子を持ってきたらしい。玄関で仲良く手を繋ぎながら唸っている3人を見て不思議そうに尋ねる燈母に、カルマの母は先ほどのことを説明した。すると、何か思い当たる節があるのか、燈母はしゃがんで燈と目線を合わせると、燈の手をとった。
「とりあえず、カルマくん、今度はカルマくんのお母さんと二人でドアの外に
「?わかった」
カルマは、母の手を取り先ほどのように念じる。するとすぐにカルマたちの姿が消えた。
「きえちゃった!」
「やっぱりね…」
消えたと驚く燈とは対照的に燈母はどこか納得したように頷く。カルマたちが玄関に入ると、燈母は口を開いた。
「さっきカルマくんの
「わたしのみぎて?」
「そう、個性を無効化する個性よ」
「え、でも もうでんきのこせいがあるのに…?」
「あまり例はないけど、たまにいるのよ。複数の個性を持って生まれる子が…」
つまり、燈の個性は発電だけではなく個性無効化の個性も持っていたのだ。その後、ちゃんとした機関で検査した結果、非常に稀ではあるが複数の個性を持つ人が生まれるという例があるようだった。両親両方の個性を受け継ぎ、“複合型”の個性を発現する事態もあるというが、燈のソレは少し違った。完全に別物の個性を2つ所有しているのだ。あまりに珍しいため、極秘事項となった。