Pristinus Finis 〜最初の終わり〜
貴女のお名前は?
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三蔵が八戒の部屋へと入ると、既に名無子はベッドの上に身を起こしており、ぼろぼろだった法衣も着替えを済ませていた。
その傍ら、椅子に腰掛けている悟空に視線を向け、顎で入り口を指し示し無言で追い出す。
何やら文句を言いながら部屋を出ていった悟空に替わり、椅子へと腰を下ろした。
「三蔵、あの…」
「傷は。もういいのか」
言葉を遮り尋ねる。
「あ、うん。とっくに治った。大丈夫。ごめんね」
「何故謝る。八戒達がいないことに気付かずお前を置いて出た俺のミスだ。お前が謝ることじゃねぇ」
名無子の開きかけた口が音を成さぬまま閉じられ、視線が布団に落ちた。
焦れるような沈黙に零れそうになった舌打ちを既のところで堪えた。
何とか空気を変えるべく一旦立ち上がると、八戒の荷物を漁り新しい煙草のカートンを開けながら、
「あの妖怪達は。お前がやったのか」
沈黙を打ち払うべく、場繋ぎに尋ねる。
今頃八戒が片付けているであろう妖怪達の死体。三体の内一体の額に見慣れた銃痕があったことに三蔵は気付いていた。
「うん。銃は一人目ですぐ飛ばされちゃったから、後の二人は触って。……頑張った…よ?」
遠慮がちに言葉を紡ぐ名無子に、煙草を咥えた三蔵の口元に笑みが滲む。
その三人を殺すまでにどれだけの傷を負ったのかは破れた法衣が物語っていたが、今は扠置くことにして、
「あぁ。よくやった」
頭を撫でてやると、仄かにも安堵の笑みが名無子の顔に咲いた。
ほんの少し、和らいだ空気に白煙を溶かして暫く。
三蔵は煙草を携帯灰皿に放り入れると、名無子へと向き合った。
「悟浄とのことだが…」
その一言に、名無子の肩がぴくりと跳ね、顔を強張らせる。
さもありなんと息を吐き、三蔵はベッドへと座り直すと、名無子の両肩に手を添えた。
恐る恐る視線を上げた名無子へと告げる。
「あれは事故だ」
灰銀がぱち、と瞬いた。
「野良犬に噛まれた程度の…つまらん事故だ。いいな」
我ながら他に言い様がなかったのかとも思う。
八戒が聞いていたら間違いなく溜息を吐いていたことだろう。
そんなことを思いながら、無理が通ることを願っていると、
「でも……」
「…でも、何だ」
言い淀む名無子を促す。
「三蔵はそれじゃ……でも…なかったことには、ならない…」
上手く言葉が出てこないのか、それとも、言葉を躊躇っているのか。
妙にたどたどしい口調に、三蔵はふと思う。
そう言えば、長らく碌に話もしていない。
普段から会話が多いわけではないが、ここ暫くは名無子の声を聞いた記憶すらも朧だった。
そのせいだろうか―――いや違う。
ずっと、言葉を取捨選択しては、自責によってその多くを捨て続けてきたのだと、その時初めて気が付いた。
一体これまで、どれだけのものを堪え続けてきたのか。
眉を寄せ、名無子を胸に抱き寄せた。
腕の中、名無子の緊張は解けない。
どうしてここまで追い詰めてしまっていることに気が付けなかったのだろう。
今はまだ、何を言っても恐縮させるだけとも思いながら
「俺がいいって言ってんだ。事故だと思えねぇならいっそ忘れろ」
投げ遣りに言葉を放り、その顎を指で掬う。
唇に掛かった吐息。
名無子の両手が三蔵を押し留めた。
「……あ゛?」
拒絶するようなその行動に、思わず不快の乗った低音が漏れてしまった。
「いい…から……無理しなくて…ごめん…」
「……は?無理…?」
名無子が口元を押さえ、目を背ける。
(無理をしている?……俺が…?何を謝っている…?)
『 それすらも聞いていなかったんでしょう? 』
ならば八戒は、名無子から一体何を聞いていたのか。
八戒の言葉に覚えた違和感。
" 汚れた名無子 "
あいつがそんなことを言うはずがないと。
「私は……大丈夫だから…」
不格好な笑みを形作った瞳から、ぼろぼろと涙が零れ落ちる。
『 汚れてしまった名無子に抵抗があるなら 』
(まさか―――)
最後に名無子を抱いたのは、いつだっただろうか。
最後に口付けたのは?
俺がくだらない嫉妬にかまけている間に、
お前を胸に抱いて眠る一時だけに心を安らがせている間に、
お前は言葉を失くす程に、ただ苦しいだけの水中に身を沈める程に、
ずっと自分を責め続けていたというのか。
自身が負った傷も顧みず、俺を―――俺達を傷付けたと思って。
そしてそうさせていたのは―――
至った理解に、後頭部を錫杖で思い切り殴られた気がした。
悶絶する程の後悔が一気に押し寄せ、三蔵の眉間にくっきりと刻印が浮かび上がる。
言葉にならない想いをぶつけるかの如く、三蔵は抵抗する間も与えず半ば無理矢理に名無子の唇を奪った。
舌を差し入れ、口内を舐り、唇を甘く噛む。
徐々に名無子の身体が弛緩していき、口の端から吐息と雫が滴った。
三蔵は名残を惜しみつつ唇を離すと、名無子の身体をベッドへ横たえ足早に部屋のドアへと向かった。
鍵を閉め、ベッドへ戻りながら服を脱ぎ捨てる。
紅潮した頬、潤んだ瞳に覆い被さると名無子の服に手を掛けた。
「どうせ言っても信じねぇだろ。だから―――身体でわからせてやる」
三蔵の唇に滲んだ妖艶な微笑に、名無子がぴくりその身を跳ねさせる。
(あぁ、そうか…そういう意味だったか…)
気付いて、三蔵の喉からくくっと笑い声が漏れた。
「さっさと上書きさせろ」
再び重なった唇はやがて全身を伝い、汗と唾液に塗れた肌が一つになる。
互いの熱がその境を失くし、甘美な刺激と愛おしさだけが只管に募っていく。
「俺を見ろ 俺だけを感じろ 意識を飛ばすな」
「愛している 名無子」
譫言のように繰り返される言葉と荒い吐息が水音と共に名無子の脳を犯し、零れた涙を三蔵の唇が掬った。
その頃、隣の部屋では八戒と悟空が地図を見ながら今後の行程を話し合っていた。
「―――だから悟浄が寄り道せずに真っ直ぐ西へ向かったとすれば、この街辺りで合流できるんじゃないかと」
「八戒…あのさ……」
悟空が頬に朱を乗せ、居心地悪そうな顔で八戒を見上げる。
悟空の人間より過敏な聴覚が捉えてしまったのは、壁越し、微かな嬌声とベッドの軋む音だった。
八戒はにっこり笑うと、
「こういうときは聞こえない振りをするものですよ悟空。ま、仲直りしたならいいじゃないですか」
「仲直り…?」
「悟浄が戻ったら、保健体育担当の悟浄先生に聞いてみたらいいんじゃないですかね」
赤ら顔でもごもごと、納得したようなしていないような微妙な表情で口籠る悟空。
しかし、
「―――悟空。夕飯、食べに行きますか?」
「行く!そう言えば腹減った!飯飯〜!」
色気より食い気のを微笑ましく思いながら、八戒は地図を畳んだ。
心地良い倦怠感と浮遊感に満ちた身体をベッドに投げ出し、天井を仰いで息を吐き出す。
「―――何も、覚えてねぇんだな」
左腕に乗せた名無子の頭を撫でながら三蔵がぽつり尋ねた。
言葉足らずな問いの全容を察し、眉間を曇らせつつも名無子は的確に答えを返した。
「うん…お酒飲んでたとこまでは覚えてるけど、気が付いたら…」
「…ならいい」
「三蔵―――」
眉を萎れさせた名無子が言葉を紡ぐより早く、三蔵が続けた。
「すまなかった」
この一言を言うのに、どれだけの時間を要したのか。
自分自身に呆れながら、霧が晴れクリアになった想いを口にする。
「感情の処理ができなかっただけだ。お前がどうだとか、少なくとも悪く思ったことなんざ一度もねぇ。
ただ、それを伝える余裕が俺になかった。お前の傷に向き合う余裕すらも―――」
今思えば馬鹿らしい限りだと自嘲を零し、視線を名無子に向ける。
「幻滅したか?」
冗談半分に尋ねれば、
「なんで?するわけないよ」
そう答えるのはわかっていた。
「良かった……嫌いになったわけじゃなかったんだ…」
呟き、ほっと息を零した名無子に、三蔵が向きを変え覆い被さる。
「まだわからなかったか…?」
挑戦的な瞳に、名無子が慌ててふるふると首を横に振った。
その様子をふっと笑い再び横になると、
「当面は寝不足になる覚悟をしておけ―――あぁ、睡眠は必要なかったな。そりゃ都合がいい」
にやり、口の端を上げる。
困ったような非難するような、複雑な色合いの瞳が三蔵を見上げた。
「寝不足になるのは三蔵なんだよ…?」
「昼間寝るから別にいい」
「むぅ…」
口をへの字に曲げ閉口した名無子を鼻で笑う。
そして、
「―――寂しいか…?」
聞きたくもない、しかし、聞いておかなければならないことを漸く問いにした。
「え?」
「あのクソ野郎がいなくて寂しいかと聞いている」
さも忌々しそうに言った三蔵に名無子が目を伏せ黙り込む。
「正直に言え」
「……うん」
「……そうか」
「ごめんなさい…」
「謝る必要はねぇ。ただ―――」
「さんぞ―――っ!!」
名無子の首元から腕を引き抜き覆い被さると、驚きに開かれた唇の合間から舌を捩じ込んだ。
「今は、俺のことだけ考えてろ」
「ッん…」
固く繋いだ手は、共に気怠い朝を迎えるまで離れることはなかった。
その傍ら、椅子に腰掛けている悟空に視線を向け、顎で入り口を指し示し無言で追い出す。
何やら文句を言いながら部屋を出ていった悟空に替わり、椅子へと腰を下ろした。
「三蔵、あの…」
「傷は。もういいのか」
言葉を遮り尋ねる。
「あ、うん。とっくに治った。大丈夫。ごめんね」
「何故謝る。八戒達がいないことに気付かずお前を置いて出た俺のミスだ。お前が謝ることじゃねぇ」
名無子の開きかけた口が音を成さぬまま閉じられ、視線が布団に落ちた。
焦れるような沈黙に零れそうになった舌打ちを既のところで堪えた。
何とか空気を変えるべく一旦立ち上がると、八戒の荷物を漁り新しい煙草のカートンを開けながら、
「あの妖怪達は。お前がやったのか」
沈黙を打ち払うべく、場繋ぎに尋ねる。
今頃八戒が片付けているであろう妖怪達の死体。三体の内一体の額に見慣れた銃痕があったことに三蔵は気付いていた。
「うん。銃は一人目ですぐ飛ばされちゃったから、後の二人は触って。……頑張った…よ?」
遠慮がちに言葉を紡ぐ名無子に、煙草を咥えた三蔵の口元に笑みが滲む。
その三人を殺すまでにどれだけの傷を負ったのかは破れた法衣が物語っていたが、今は扠置くことにして、
「あぁ。よくやった」
頭を撫でてやると、仄かにも安堵の笑みが名無子の顔に咲いた。
ほんの少し、和らいだ空気に白煙を溶かして暫く。
三蔵は煙草を携帯灰皿に放り入れると、名無子へと向き合った。
「悟浄とのことだが…」
その一言に、名無子の肩がぴくりと跳ね、顔を強張らせる。
さもありなんと息を吐き、三蔵はベッドへと座り直すと、名無子の両肩に手を添えた。
恐る恐る視線を上げた名無子へと告げる。
「あれは事故だ」
灰銀がぱち、と瞬いた。
「野良犬に噛まれた程度の…つまらん事故だ。いいな」
我ながら他に言い様がなかったのかとも思う。
八戒が聞いていたら間違いなく溜息を吐いていたことだろう。
そんなことを思いながら、無理が通ることを願っていると、
「でも……」
「…でも、何だ」
言い淀む名無子を促す。
「三蔵はそれじゃ……でも…なかったことには、ならない…」
上手く言葉が出てこないのか、それとも、言葉を躊躇っているのか。
妙にたどたどしい口調に、三蔵はふと思う。
そう言えば、長らく碌に話もしていない。
普段から会話が多いわけではないが、ここ暫くは名無子の声を聞いた記憶すらも朧だった。
そのせいだろうか―――いや違う。
ずっと、言葉を取捨選択しては、自責によってその多くを捨て続けてきたのだと、その時初めて気が付いた。
一体これまで、どれだけのものを堪え続けてきたのか。
眉を寄せ、名無子を胸に抱き寄せた。
腕の中、名無子の緊張は解けない。
どうしてここまで追い詰めてしまっていることに気が付けなかったのだろう。
今はまだ、何を言っても恐縮させるだけとも思いながら
「俺がいいって言ってんだ。事故だと思えねぇならいっそ忘れろ」
投げ遣りに言葉を放り、その顎を指で掬う。
唇に掛かった吐息。
名無子の両手が三蔵を押し留めた。
「……あ゛?」
拒絶するようなその行動に、思わず不快の乗った低音が漏れてしまった。
「いい…から……無理しなくて…ごめん…」
「……は?無理…?」
名無子が口元を押さえ、目を背ける。
(無理をしている?……俺が…?何を謝っている…?)
『 それすらも聞いていなかったんでしょう? 』
ならば八戒は、名無子から一体何を聞いていたのか。
八戒の言葉に覚えた違和感。
" 汚れた名無子 "
あいつがそんなことを言うはずがないと。
「私は……大丈夫だから…」
不格好な笑みを形作った瞳から、ぼろぼろと涙が零れ落ちる。
『 汚れてしまった名無子に抵抗があるなら 』
(まさか―――)
最後に名無子を抱いたのは、いつだっただろうか。
最後に口付けたのは?
俺がくだらない嫉妬にかまけている間に、
お前を胸に抱いて眠る一時だけに心を安らがせている間に、
お前は言葉を失くす程に、ただ苦しいだけの水中に身を沈める程に、
ずっと自分を責め続けていたというのか。
自身が負った傷も顧みず、俺を―――俺達を傷付けたと思って。
そしてそうさせていたのは―――
至った理解に、後頭部を錫杖で思い切り殴られた気がした。
悶絶する程の後悔が一気に押し寄せ、三蔵の眉間にくっきりと刻印が浮かび上がる。
言葉にならない想いをぶつけるかの如く、三蔵は抵抗する間も与えず半ば無理矢理に名無子の唇を奪った。
舌を差し入れ、口内を舐り、唇を甘く噛む。
徐々に名無子の身体が弛緩していき、口の端から吐息と雫が滴った。
三蔵は名残を惜しみつつ唇を離すと、名無子の身体をベッドへ横たえ足早に部屋のドアへと向かった。
鍵を閉め、ベッドへ戻りながら服を脱ぎ捨てる。
紅潮した頬、潤んだ瞳に覆い被さると名無子の服に手を掛けた。
「どうせ言っても信じねぇだろ。だから―――身体でわからせてやる」
三蔵の唇に滲んだ妖艶な微笑に、名無子がぴくりその身を跳ねさせる。
(あぁ、そうか…そういう意味だったか…)
気付いて、三蔵の喉からくくっと笑い声が漏れた。
「さっさと上書きさせろ」
再び重なった唇はやがて全身を伝い、汗と唾液に塗れた肌が一つになる。
互いの熱がその境を失くし、甘美な刺激と愛おしさだけが只管に募っていく。
「俺を見ろ 俺だけを感じろ 意識を飛ばすな」
「愛している 名無子」
譫言のように繰り返される言葉と荒い吐息が水音と共に名無子の脳を犯し、零れた涙を三蔵の唇が掬った。
その頃、隣の部屋では八戒と悟空が地図を見ながら今後の行程を話し合っていた。
「―――だから悟浄が寄り道せずに真っ直ぐ西へ向かったとすれば、この街辺りで合流できるんじゃないかと」
「八戒…あのさ……」
悟空が頬に朱を乗せ、居心地悪そうな顔で八戒を見上げる。
悟空の人間より過敏な聴覚が捉えてしまったのは、壁越し、微かな嬌声とベッドの軋む音だった。
八戒はにっこり笑うと、
「こういうときは聞こえない振りをするものですよ悟空。ま、仲直りしたならいいじゃないですか」
「仲直り…?」
「悟浄が戻ったら、保健体育担当の悟浄先生に聞いてみたらいいんじゃないですかね」
赤ら顔でもごもごと、納得したようなしていないような微妙な表情で口籠る悟空。
しかし、
「―――悟空。夕飯、食べに行きますか?」
「行く!そう言えば腹減った!飯飯〜!」
色気より食い気のを微笑ましく思いながら、八戒は地図を畳んだ。
心地良い倦怠感と浮遊感に満ちた身体をベッドに投げ出し、天井を仰いで息を吐き出す。
「―――何も、覚えてねぇんだな」
左腕に乗せた名無子の頭を撫でながら三蔵がぽつり尋ねた。
言葉足らずな問いの全容を察し、眉間を曇らせつつも名無子は的確に答えを返した。
「うん…お酒飲んでたとこまでは覚えてるけど、気が付いたら…」
「…ならいい」
「三蔵―――」
眉を萎れさせた名無子が言葉を紡ぐより早く、三蔵が続けた。
「すまなかった」
この一言を言うのに、どれだけの時間を要したのか。
自分自身に呆れながら、霧が晴れクリアになった想いを口にする。
「感情の処理ができなかっただけだ。お前がどうだとか、少なくとも悪く思ったことなんざ一度もねぇ。
ただ、それを伝える余裕が俺になかった。お前の傷に向き合う余裕すらも―――」
今思えば馬鹿らしい限りだと自嘲を零し、視線を名無子に向ける。
「幻滅したか?」
冗談半分に尋ねれば、
「なんで?するわけないよ」
そう答えるのはわかっていた。
「良かった……嫌いになったわけじゃなかったんだ…」
呟き、ほっと息を零した名無子に、三蔵が向きを変え覆い被さる。
「まだわからなかったか…?」
挑戦的な瞳に、名無子が慌ててふるふると首を横に振った。
その様子をふっと笑い再び横になると、
「当面は寝不足になる覚悟をしておけ―――あぁ、睡眠は必要なかったな。そりゃ都合がいい」
にやり、口の端を上げる。
困ったような非難するような、複雑な色合いの瞳が三蔵を見上げた。
「寝不足になるのは三蔵なんだよ…?」
「昼間寝るから別にいい」
「むぅ…」
口をへの字に曲げ閉口した名無子を鼻で笑う。
そして、
「―――寂しいか…?」
聞きたくもない、しかし、聞いておかなければならないことを漸く問いにした。
「え?」
「あのクソ野郎がいなくて寂しいかと聞いている」
さも忌々しそうに言った三蔵に名無子が目を伏せ黙り込む。
「正直に言え」
「……うん」
「……そうか」
「ごめんなさい…」
「謝る必要はねぇ。ただ―――」
「さんぞ―――っ!!」
名無子の首元から腕を引き抜き覆い被さると、驚きに開かれた唇の合間から舌を捩じ込んだ。
「今は、俺のことだけ考えてろ」
「ッん…」
固く繋いだ手は、共に気怠い朝を迎えるまで離れることはなかった。