一年生を三回やりました
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
Ⅰ
トレインは思い出す。
長くナイトレイヴンカレッジで教鞭を取ってきたが、一年で何回も自主的に頭を下げてきた生徒は一人しかいない。
初めてその生徒が頭を下げてきたのは、トレインがその生徒にエレメンタリースクールの勉強を見ることが決まったときだった。
「〇〇・〇〇です。今後もお世話になります。よろしくお願いします。」
何も悪いことをしたわけでもないのに、その生徒は腰を折り曲げて、丁寧に頭を下げてきた。
トレインはその姿勢に、過去に見た東の国で作られた映画を思い出す。
その映画では、謝罪の証として深く頭を下げていた。
だが生徒の頭の下げ方は、映画とは雰囲気が違って見える。
「君は、何もしていなくても相手に謝罪をするのか?」
頭を下げていた生徒は、ゆっくりと頭をあげる。
「……自分の国では、謝罪だけでなく、挨拶でも頭を下げます。この動きを「お辞儀」といいます。意味は挨拶、お礼、謝罪です。先生にはこれからお世話になりますという挨拶、そして異世界から来た自分にご指導していただくという感謝として、この姿勢が一番相応わしいと思いました」
トレインは生徒からの説明に成程と納得した。
きっと彼は故郷で、素直に頭を下げることを自然にできるように躾けられてきたのだろう。
一年間彼を他の教師たちと見守ってきたが、挙動不審な一面ばかりを見せつつも、本来の彼が持っている育ちの良さというものは伺えた。
立ち方、歩き方、服の着こなし、食事の仕方等、彼の両親がしっかりと教えたのだろうというのは、娘を持つトレインにはよくわかった。
生徒は文字は書けたが、名前の綴りを覚えるのが苦手なようで、国名や人名、制度名を書くことに苦労していた。それはエレメンタリースクールの勉強を終え、ミドルスクールの内容に入っても続き、酷いときにはトレインの出したテストで、恐らく書きたかったことは正解だろうに、スペルミスで赤点をとったこともあった。その時も彼はトレインにお辞儀をしていた。以前見た腰を曲げて頭を下げるだけでなく、膝の手と頭を地につけていたが、あれもまた彼の故郷での礼儀の一つなのだろうとトレインは思っている。ちなみにそのお辞儀、正確にいうと土下座をトレインはその年、あと五回見ることになる。
Ⅱ
「イデア先輩どうしよう。なんかすごい図々しいこと言ってハーツラビュルの人怒らせてちゃった……」
「ひぇっ……ハーツラビュルとか陽キャの巣窟……知らない人かもしれないけどどんな人だった?」
「うーん、イデア先輩の言う陽キャって感じの雰囲気ではなかったけど。赤い髪で身長は少し低めで真面目そうな人だった……」
「あー、それリドル氏では? え? 〇〇氏リドル氏を怒らせるようなことしちゃったの? 本を雑に扱っちゃったりした?」
イデアは疑問に思う。〇〇はナイトレイヴンカレッジではかなり真面目な部類に入る生徒だと認識している。そしてリドルについてもそうである。リドルが怒るとしたら校則やハーツラビュルの法律関係だと思うのだが、〇〇には無縁なことではないだろうか。だから〇〇が何故リドルを怒らせたかに興味を持った。
「ハーツラビュルの法律の勉強してたんだけど……」
「うわ〇〇氏そんなところ勉強するとか真面目っすわー」
「そうかな、結構面白いんだけど……それで、法律から考えられる国民の生活とか定められた法律の目的の考察を語ってしまい…」
「それがリドル氏の琴線に触れたと?」
「いや、それは全然問題なかったんだけどね、時代に合わないから今に適用させるなら内容変えた方がいいって言ったらすごく怒っちゃった……」
「あ、ああー…〇〇氏それはやっちゃったね。ハーツラビュルはハートの女王の法律を守りながら生活しててリドル氏は寮長だから」
「うわ…それはやっちゃったわ……やっぱり土下座して謝罪か……」
〇〇はイグニハイドのイデアの部屋でゲーム機に向かって土下座の練習を始める。
かつてトレインに六回ほどしてみせた土下座である。
「でもぶっちゃけ〇〇氏悪くないと思うよ。〇〇氏はハーツラビュルでもないし、勉強してただけなんだし。思うことは別に悪いことじゃないし」
「だけど相手は先輩だし、気を悪くしたなら謝った方が……」
「……ん? 〇〇氏〇〇氏、リドル氏は二年生」
「え? 寮長だって聞いたからてっきり三年生だと思った」
「うーん、わりとこの学校、二年生でも寮長やってるとこ多いよ? アズール氏……オクタヴィネルとかも寮長は二年だし」
「そ、そっか。でもそのリドル君が二年生なら、廊下で会う可能性も高いし、やっぱり謝るよ……」
自分が悪いと思って謝ろうとする〇〇に、イデアは感心するよりも呆れてしまった。
相手が悪かっただけで、特に悪いことをしたとはイデアには思えなかったのだ。
素直に謝るのはいいことだろう。ナイトレイヴンカレッジの中でもそれができる生徒は少ない。だが謝罪の安売りは、イデア的にはいただけない。
「〇〇氏、やっぱり謝るのはいいって。それどころかリドル氏に言い返してもいいくらいでござるよ」
「言い返す?」
「〇〇氏はちゃんと理由と代替案つけて法律を変えた方が良いって言ったんだから。それを謝る必要はないってこと。寧ろもっと主張しちゃいなよ。拙者だったらそんな度胸ないけど、〇〇氏できるでしょ? ハンナ婆さんと四時間も話せるのなら」
ハンナ婆さんはイデアも気になっている駄菓子を取り扱っている駄菓子屋の店主である。なかなかに気難しい性格で、菓子折りを持って行ったとしても売ることがない。昔からの常連か、彼女の心を掴んだ人物でないと売ってくれない厄介な店主である。
以前、クルーウェルが言っていた。
〇〇はそのハンナ婆さんと四時間話し、お土産までもらったと。自分とは違ってトーク力がきっと高いのだろう。
そんな〇〇なら、リドルとの会話を放棄せずに諦めて謝罪をしなくても、解決する方法はありそうなのだ。
「ハンナさんは普通に話のわかる人だったけどなぁ」
「そんなこと言うの〇〇氏くらいでござるよ」
「うーん、でも確かに会話を諦めるのはちょっと良くないか。土下座は最終手段にして、リドル君と話すことにするよ。それで、イデア先輩に手伝ってもらいたいことがあるんですけど………」
「えっ、ま、まぁここまで無責任に言っちゃったから少しは手伝ってもいいけど……体力使うとか会話に入るとかは勘弁してクレメンス」
「いや、簡単なので大丈夫。先輩にも少し覚えてもらいますね。〇クセルを」
トレインは思い出す。
長くナイトレイヴンカレッジで教鞭を取ってきたが、一年で何回も自主的に頭を下げてきた生徒は一人しかいない。
初めてその生徒が頭を下げてきたのは、トレインがその生徒にエレメンタリースクールの勉強を見ることが決まったときだった。
「〇〇・〇〇です。今後もお世話になります。よろしくお願いします。」
何も悪いことをしたわけでもないのに、その生徒は腰を折り曲げて、丁寧に頭を下げてきた。
トレインはその姿勢に、過去に見た東の国で作られた映画を思い出す。
その映画では、謝罪の証として深く頭を下げていた。
だが生徒の頭の下げ方は、映画とは雰囲気が違って見える。
「君は、何もしていなくても相手に謝罪をするのか?」
頭を下げていた生徒は、ゆっくりと頭をあげる。
「……自分の国では、謝罪だけでなく、挨拶でも頭を下げます。この動きを「お辞儀」といいます。意味は挨拶、お礼、謝罪です。先生にはこれからお世話になりますという挨拶、そして異世界から来た自分にご指導していただくという感謝として、この姿勢が一番相応わしいと思いました」
トレインは生徒からの説明に成程と納得した。
きっと彼は故郷で、素直に頭を下げることを自然にできるように躾けられてきたのだろう。
一年間彼を他の教師たちと見守ってきたが、挙動不審な一面ばかりを見せつつも、本来の彼が持っている育ちの良さというものは伺えた。
立ち方、歩き方、服の着こなし、食事の仕方等、彼の両親がしっかりと教えたのだろうというのは、娘を持つトレインにはよくわかった。
生徒は文字は書けたが、名前の綴りを覚えるのが苦手なようで、国名や人名、制度名を書くことに苦労していた。それはエレメンタリースクールの勉強を終え、ミドルスクールの内容に入っても続き、酷いときにはトレインの出したテストで、恐らく書きたかったことは正解だろうに、スペルミスで赤点をとったこともあった。その時も彼はトレインにお辞儀をしていた。以前見た腰を曲げて頭を下げるだけでなく、膝の手と頭を地につけていたが、あれもまた彼の故郷での礼儀の一つなのだろうとトレインは思っている。ちなみにそのお辞儀、正確にいうと土下座をトレインはその年、あと五回見ることになる。
Ⅱ
「イデア先輩どうしよう。なんかすごい図々しいこと言ってハーツラビュルの人怒らせてちゃった……」
「ひぇっ……ハーツラビュルとか陽キャの巣窟……知らない人かもしれないけどどんな人だった?」
「うーん、イデア先輩の言う陽キャって感じの雰囲気ではなかったけど。赤い髪で身長は少し低めで真面目そうな人だった……」
「あー、それリドル氏では? え? 〇〇氏リドル氏を怒らせるようなことしちゃったの? 本を雑に扱っちゃったりした?」
イデアは疑問に思う。〇〇はナイトレイヴンカレッジではかなり真面目な部類に入る生徒だと認識している。そしてリドルについてもそうである。リドルが怒るとしたら校則やハーツラビュルの法律関係だと思うのだが、〇〇には無縁なことではないだろうか。だから〇〇が何故リドルを怒らせたかに興味を持った。
「ハーツラビュルの法律の勉強してたんだけど……」
「うわ〇〇氏そんなところ勉強するとか真面目っすわー」
「そうかな、結構面白いんだけど……それで、法律から考えられる国民の生活とか定められた法律の目的の考察を語ってしまい…」
「それがリドル氏の琴線に触れたと?」
「いや、それは全然問題なかったんだけどね、時代に合わないから今に適用させるなら内容変えた方がいいって言ったらすごく怒っちゃった……」
「あ、ああー…〇〇氏それはやっちゃったね。ハーツラビュルはハートの女王の法律を守りながら生活しててリドル氏は寮長だから」
「うわ…それはやっちゃったわ……やっぱり土下座して謝罪か……」
〇〇はイグニハイドのイデアの部屋でゲーム機に向かって土下座の練習を始める。
かつてトレインに六回ほどしてみせた土下座である。
「でもぶっちゃけ〇〇氏悪くないと思うよ。〇〇氏はハーツラビュルでもないし、勉強してただけなんだし。思うことは別に悪いことじゃないし」
「だけど相手は先輩だし、気を悪くしたなら謝った方が……」
「……ん? 〇〇氏〇〇氏、リドル氏は二年生」
「え? 寮長だって聞いたからてっきり三年生だと思った」
「うーん、わりとこの学校、二年生でも寮長やってるとこ多いよ? アズール氏……オクタヴィネルとかも寮長は二年だし」
「そ、そっか。でもそのリドル君が二年生なら、廊下で会う可能性も高いし、やっぱり謝るよ……」
自分が悪いと思って謝ろうとする〇〇に、イデアは感心するよりも呆れてしまった。
相手が悪かっただけで、特に悪いことをしたとはイデアには思えなかったのだ。
素直に謝るのはいいことだろう。ナイトレイヴンカレッジの中でもそれができる生徒は少ない。だが謝罪の安売りは、イデア的にはいただけない。
「〇〇氏、やっぱり謝るのはいいって。それどころかリドル氏に言い返してもいいくらいでござるよ」
「言い返す?」
「〇〇氏はちゃんと理由と代替案つけて法律を変えた方が良いって言ったんだから。それを謝る必要はないってこと。寧ろもっと主張しちゃいなよ。拙者だったらそんな度胸ないけど、〇〇氏できるでしょ? ハンナ婆さんと四時間も話せるのなら」
ハンナ婆さんはイデアも気になっている駄菓子を取り扱っている駄菓子屋の店主である。なかなかに気難しい性格で、菓子折りを持って行ったとしても売ることがない。昔からの常連か、彼女の心を掴んだ人物でないと売ってくれない厄介な店主である。
以前、クルーウェルが言っていた。
〇〇はそのハンナ婆さんと四時間話し、お土産までもらったと。自分とは違ってトーク力がきっと高いのだろう。
そんな〇〇なら、リドルとの会話を放棄せずに諦めて謝罪をしなくても、解決する方法はありそうなのだ。
「ハンナさんは普通に話のわかる人だったけどなぁ」
「そんなこと言うの〇〇氏くらいでござるよ」
「うーん、でも確かに会話を諦めるのはちょっと良くないか。土下座は最終手段にして、リドル君と話すことにするよ。それで、イデア先輩に手伝ってもらいたいことがあるんですけど………」
「えっ、ま、まぁここまで無責任に言っちゃったから少しは手伝ってもいいけど……体力使うとか会話に入るとかは勘弁してクレメンス」
「いや、簡単なので大丈夫。先輩にも少し覚えてもらいますね。〇クセルを」