一年生を三回やりました
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
Ⅰ
「なぁにぐずぐすしてるっすか。早く入るっすよ〜」
教室のドアの前で固まっていた同級生を、ラギーは急かした。まだ授業まで時間は余裕はあるが、時間を無駄にはしたくない。ラギーは無駄になることが嫌いである。
「……」
同級生にラギーの声が聞こえていないのか、それとも無視されているのか。ラギーには知ったことではないものの、教室に入れないのは困るので、とりあえず入口を塞いでいる同級生の肩をぽんぽんっと、軽く叩いてみる。
すると同級生はびくぅっと、こちらからもわかるくらいには肩が上がり、声はあげていないが相当驚かせてしまった。
ラギーは自分が無意識に気配を消してしまったかと焦ったが、そんなはずはない。むしろ自分に気づいてさっさと扉を開けてほしいのである。
いい加減道を開けてほしいと思っているラギーは、今度は驚いたまま固まってしまった生徒が誰なのかを把握しようとする。名前でも呼べば気づいてくれるだろうと思ったのだ。
制服についている校章で生徒がイグニハイドの生徒だと教えてくれるものの、そのまま顔を見てこの困ったちゃんが誰なのかを把握しようと覗き込んでみたラギーはぎょっとした。
顔色が真っ青だったのである。
もしかしたら元からそういう顔色なのかもしれないとも思った。偏見もあるが、主に睡眠不足のせいで不健康な生活をしているイグニハイド生にはそういう生徒も多い。
イグニハイドの寮長など、青白い顔に隈まであるから存外間違ってはいない。ちなみにここ最近のイグニハイド寮は皆新しく出たキャラクターイラストが神がかっているソシャゲに夢中である。
「アンタ保健室行くっすか? 今にも死にそうっすけど」
少しだけ堂々と授業をサボれることに幸運を感じていたラギーに、生徒はその体に見合う細すぎる声で言った。
「……行かない。今度は、逃げないよ」
Ⅱ
クロウリーは気が気ではなかった。
一度教室に入ったとはいえ、それはこちらが色々と気を回したからというのは明らかであった。
今まで見守るどころか世話までしていた生徒を羽ばたかせると決めたのは自分自身である。いつかのクルーウェルが言っていた通り、進級なんてほっぽって事務員にさせようと思っていたときもあった。
他の教師にも言っていないことだが、クロウリーの養子になることも提案したことがあった。即答で振られたが。
「うーん、嬉しいけど断るなぁ」
「もったいないですよ? この私の子供を名乗れるのはかなりの勝ち組ですのに」
「そう思うよ。でも俺は、家族にはかなり恵まれたから」
〇〇には父親と妹がいると言っていた。
母親とは死別したが、それでも毎日がとても満たされるほど家族に愛され、愛していた。
そんな優しい世界にいたから、あの子はあんなに優しいのだろうか。人を、この自分すらも当たり前に、素直に尊敬の眼差しで見てくるあの子は。
「学園長さんの第一子っていう栄誉ある幸せなポジションは、貴方の愛した人との子の為にとっときなよ」
そんな世に生まれるかもわからない子供のことまで自然に考える〇〇の前に立ちはだかるのは、大して厚くもない一枚の板だ。
–––あの子の優しさと素直さが戦闘力になるならそれは五十三万どころではないというのに!!
ちなみに一般ナイトレイヴンカレッジ生の優しさと素直さの戦闘力は五もあれば良い方であることを追記しておく。
今すぐあの教室のドアという〇〇の脅威を蹴り飛ばしてやりたいが、クロウリーは我慢ができる大人だ。ギリギリと歯軋りしていようが、生徒たちに奇異の目で見られようが、彼は今、我慢をしている大人だ。
「ふなー! 子分! なんか怪しいやつがいるぞ!」
「グリム! シー!! 見ちゃダメ!!」
Ⅲ
この教室のドア、絶対◯ケモンでいう六〇〇族だ。
〇〇には目の前のドアがガ◯リアスに見えているのだろう。触れればさめはだで傷つくのだ。
何故自分は、あの獣人の同級生の優しさに縋らなかったのだと後悔している。
保健室に行くか聞かれた時に、素直に行って、後日獣人の同級生にお礼を言うルートでもよかったのではないか。
だが〇〇の心に住む初◯機のパイロットが、逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ!って騒ぐから……何故かあんなことを言ってしまったのだ。
ちなみに教室のドアはとっくに開いている。
先ほどの獣人の同級生が開けてさっさと中に入ったのだ。なんなら教室の中から自分の様子を見ている。
–––え、逃げれない……つらっ
ここで誰かに背中を押されたりして教室に勢いで入れてしまえば楽なのだが、そんなことはありえない。
なぜなら………
Ⅳ
二年B組はそわそわしていた。
前日の夜に突如送られてきた学校からのメールで、ついに空いている席の持ち主が一人でやってくるという知らせが来たのである。
〇〇は同級生に自分のことなど知らない、興味もないと思われていると思っているが、そんなことは全くない。
同級生たちは年上のクラスメイトを楽しみにしていた。
なんならあの錬金術の授業のとき、他学年のくせに頼られているイデア・シュラウドに皆敵意しかなかった。
二年B組は知っていた。
事情があって教室に来れないクラスメイトがいること。
留年していて年上なのだということ。
でも去年まで頑張ってできることをしていたということ。
錬金術の授業にくるのは、すごく頑張ったのだということ。
ぜーんぶ、とっくに、通達済みであった。
このンナイトレイヴンカレッジという生意気なクソガキどもの集いと言っても過言でもない学校にも一定数いるのだ。
オカンとか、お兄ちゃんは。
この二年B組、教師たちの厳しい選別によって選ばれた世話焼きの集いだったのである。ちなみにラギーが声をかけたのは、もし無理だったときのための保険としての役割があった。ラギーは〇〇が違和感を抱かないように必死だったのだ。本当は手を引っ張って一緒に教室に入りたかったのを、無理やり心を偽って他人行儀を演じたのである。
もしこの時〇〇が保健室に行くと行ったら、クラスの半分が仮病を使って保健室についていっただろう。
〇〇が「逃げない」と言ったとき、ラギーをはじめドアの近くにいた生徒は叫びたくなった。
そんなオカンやお兄ちゃんたちが、今まさに教室に頑張って入ろうとしているクラスメイトを教室の中で待っている。
あんよが上手、あんよが上手と大差ない光景である。
ちなみにほぼ全員が〇〇のことをガン見して見守っているが、〇〇自身は床の方をずっと見ているので知る由もない。
そして深呼吸をした〇〇が体をガタガタとさせながらも、ついに教室に両足を踏み入れるのを確認すると、教室は湧きあがった。なんなら何人かに抱きつきにいった。よくできた子を褒める親の光景である。
〇〇より後に入ると決めていたトレインは心で涙を流した。
授業時間は残り二分だった。
「なぁにぐずぐすしてるっすか。早く入るっすよ〜」
教室のドアの前で固まっていた同級生を、ラギーは急かした。まだ授業まで時間は余裕はあるが、時間を無駄にはしたくない。ラギーは無駄になることが嫌いである。
「……」
同級生にラギーの声が聞こえていないのか、それとも無視されているのか。ラギーには知ったことではないものの、教室に入れないのは困るので、とりあえず入口を塞いでいる同級生の肩をぽんぽんっと、軽く叩いてみる。
すると同級生はびくぅっと、こちらからもわかるくらいには肩が上がり、声はあげていないが相当驚かせてしまった。
ラギーは自分が無意識に気配を消してしまったかと焦ったが、そんなはずはない。むしろ自分に気づいてさっさと扉を開けてほしいのである。
いい加減道を開けてほしいと思っているラギーは、今度は驚いたまま固まってしまった生徒が誰なのかを把握しようとする。名前でも呼べば気づいてくれるだろうと思ったのだ。
制服についている校章で生徒がイグニハイドの生徒だと教えてくれるものの、そのまま顔を見てこの困ったちゃんが誰なのかを把握しようと覗き込んでみたラギーはぎょっとした。
顔色が真っ青だったのである。
もしかしたら元からそういう顔色なのかもしれないとも思った。偏見もあるが、主に睡眠不足のせいで不健康な生活をしているイグニハイド生にはそういう生徒も多い。
イグニハイドの寮長など、青白い顔に隈まであるから存外間違ってはいない。ちなみにここ最近のイグニハイド寮は皆新しく出たキャラクターイラストが神がかっているソシャゲに夢中である。
「アンタ保健室行くっすか? 今にも死にそうっすけど」
少しだけ堂々と授業をサボれることに幸運を感じていたラギーに、生徒はその体に見合う細すぎる声で言った。
「……行かない。今度は、逃げないよ」
Ⅱ
クロウリーは気が気ではなかった。
一度教室に入ったとはいえ、それはこちらが色々と気を回したからというのは明らかであった。
今まで見守るどころか世話までしていた生徒を羽ばたかせると決めたのは自分自身である。いつかのクルーウェルが言っていた通り、進級なんてほっぽって事務員にさせようと思っていたときもあった。
他の教師にも言っていないことだが、クロウリーの養子になることも提案したことがあった。即答で振られたが。
「うーん、嬉しいけど断るなぁ」
「もったいないですよ? この私の子供を名乗れるのはかなりの勝ち組ですのに」
「そう思うよ。でも俺は、家族にはかなり恵まれたから」
〇〇には父親と妹がいると言っていた。
母親とは死別したが、それでも毎日がとても満たされるほど家族に愛され、愛していた。
そんな優しい世界にいたから、あの子はあんなに優しいのだろうか。人を、この自分すらも当たり前に、素直に尊敬の眼差しで見てくるあの子は。
「学園長さんの第一子っていう栄誉ある幸せなポジションは、貴方の愛した人との子の為にとっときなよ」
そんな世に生まれるかもわからない子供のことまで自然に考える〇〇の前に立ちはだかるのは、大して厚くもない一枚の板だ。
–––あの子の優しさと素直さが戦闘力になるならそれは五十三万どころではないというのに!!
ちなみに一般ナイトレイヴンカレッジ生の優しさと素直さの戦闘力は五もあれば良い方であることを追記しておく。
今すぐあの教室のドアという〇〇の脅威を蹴り飛ばしてやりたいが、クロウリーは我慢ができる大人だ。ギリギリと歯軋りしていようが、生徒たちに奇異の目で見られようが、彼は今、我慢をしている大人だ。
「ふなー! 子分! なんか怪しいやつがいるぞ!」
「グリム! シー!! 見ちゃダメ!!」
Ⅲ
この教室のドア、絶対◯ケモンでいう六〇〇族だ。
〇〇には目の前のドアがガ◯リアスに見えているのだろう。触れればさめはだで傷つくのだ。
何故自分は、あの獣人の同級生の優しさに縋らなかったのだと後悔している。
保健室に行くか聞かれた時に、素直に行って、後日獣人の同級生にお礼を言うルートでもよかったのではないか。
だが〇〇の心に住む初◯機のパイロットが、逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ!って騒ぐから……何故かあんなことを言ってしまったのだ。
ちなみに教室のドアはとっくに開いている。
先ほどの獣人の同級生が開けてさっさと中に入ったのだ。なんなら教室の中から自分の様子を見ている。
–––え、逃げれない……つらっ
ここで誰かに背中を押されたりして教室に勢いで入れてしまえば楽なのだが、そんなことはありえない。
なぜなら………
Ⅳ
二年B組はそわそわしていた。
前日の夜に突如送られてきた学校からのメールで、ついに空いている席の持ち主が一人でやってくるという知らせが来たのである。
〇〇は同級生に自分のことなど知らない、興味もないと思われていると思っているが、そんなことは全くない。
同級生たちは年上のクラスメイトを楽しみにしていた。
なんならあの錬金術の授業のとき、他学年のくせに頼られているイデア・シュラウドに皆敵意しかなかった。
二年B組は知っていた。
事情があって教室に来れないクラスメイトがいること。
留年していて年上なのだということ。
でも去年まで頑張ってできることをしていたということ。
錬金術の授業にくるのは、すごく頑張ったのだということ。
ぜーんぶ、とっくに、通達済みであった。
このンナイトレイヴンカレッジという生意気なクソガキどもの集いと言っても過言でもない学校にも一定数いるのだ。
オカンとか、お兄ちゃんは。
この二年B組、教師たちの厳しい選別によって選ばれた世話焼きの集いだったのである。ちなみにラギーが声をかけたのは、もし無理だったときのための保険としての役割があった。ラギーは〇〇が違和感を抱かないように必死だったのだ。本当は手を引っ張って一緒に教室に入りたかったのを、無理やり心を偽って他人行儀を演じたのである。
もしこの時〇〇が保健室に行くと行ったら、クラスの半分が仮病を使って保健室についていっただろう。
〇〇が「逃げない」と言ったとき、ラギーをはじめドアの近くにいた生徒は叫びたくなった。
そんなオカンやお兄ちゃんたちが、今まさに教室に頑張って入ろうとしているクラスメイトを教室の中で待っている。
あんよが上手、あんよが上手と大差ない光景である。
ちなみにほぼ全員が〇〇のことをガン見して見守っているが、〇〇自身は床の方をずっと見ているので知る由もない。
そして深呼吸をした〇〇が体をガタガタとさせながらも、ついに教室に両足を踏み入れるのを確認すると、教室は湧きあがった。なんなら何人かに抱きつきにいった。よくできた子を褒める親の光景である。
〇〇より後に入ると決めていたトレインは心で涙を流した。
授業時間は残り二分だった。