一年生を三回やりました
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Ⅰ
学園長の言葉をイデアは一瞬理解できなかった。
―――社交的? イグニハイド生なのに?
―――十八歳? 二年生と聞いたはず?
「言ったであろうシュラウド。事情が事情だと。」
―――う、うわーー!!
―――ただの引き篭もりじゃなさそうな上に絶対に引き篭もりの原因は陽キャ&ヤンキーに恐れ慄いたではない!!
「コミュニケーション能力の方は心配はしなくて大丈夫だ。あの仔犬は今日が初めての登校だというのに昨日元気に街の老舗駄菓子屋のハンナ婆さんと四時間話し込んだ上に土産まで貰ってくる強者だ」
―――えっ?
―――老舗駄菓子屋のハンナ婆さんって、めっちゃコアな駄菓子扱ってるけど気難しすぎて昔からの常連かよっぽど彼女に気に入られないと売ってくれないっていうあの?
―――ていうか四時間!? 四時間も世代の違う人間と話せるってやばない?
―――本当にその人イグニハイド!?
「授業態度も真面目だからな! 俺と二人で飛行術と筋肉トレーニングをやっていたがひたむきについてくるナイスガイだ!」
―――は?
―――バルガスと二人で飛行術と筋トレ?
―――なんだその地獄。それ受けるくらいならロイソ行きますわ。
―――いや無理、やっぱり行きたくない。
「あのー」
―――ほら! こんなガリガリの生徒がバルガスと筋トレなんて可哀想すぎる!
―――あれ?
「え?さっき隣に座った人?」
「はい、さっきの授業では目印と人避けになってくださりありがとうございます」
いつの間にかそこにいたのは、錬金術の授業でイデアの隣に座った生徒だ。
薄い金髪にきちんと制服を着たその生徒は、イデアにとって聞き捨てならないことを言いながらお礼を述べた。
思わず教師陣の方を見るイデアだったが、教師たちは全員顔をそっぽ向ける。バルガスに至っては口笛を吹いている。
イデアは教師たちが自分を無理やり授業に出させた理由がわかった。
「先輩にはご迷惑をかけてしまったみたいですね。申し訳ございません」
「あ、いえいえそんなご丁寧にどうも」
相手から丁寧に謝られてしまい、イデアもつられて畏まる。この礼儀正しそうな生徒が問題の生徒なのだろうか。よく見るとだいぶ緊張していそうで、視線を少し泳がせ気味な ところはイグニハイドらしさがうかがえるが、どちらかといえばロイヤルソードアカデミーにいそうに見える。
「申し遅れました。二年B組のイグニハイド生になります。サイ・ツキシロです。これからお世話になります。イデア・シュラウド先輩」
Ⅱ
一回目の一年生が終わる頃、サイはクロウリーと面談をした。
「貴方がこの世界に来たばかりの頃は、あまりの衰弱っぷりと未知への恐怖での怯えっぷりに、思わず外に放り出せずに保護してしまいましたが、今はだいぶ良くなったみたいですね」
「本当に学園長さんには感謝しています。ここに置いていただけなかったら、生きていることすら危うかったかも知れなかったので」
「おや、いいのですよ畏まらなくて。いつも通り砕けて話してください! 面談とは言っていますが、今日の私は貴方とお話がしたかっただけなので」
「でも今後に関わる大事な話って言ってたし」
「確かにそういう話をするつもりではあります。ですが今更貴方に畏まられても、私の方が困ってしまいますし、君も変な感じでしょう? いいのですよ。普段通りで。私って優しいので!」
「うん。学園長さんの優しさには助けられてばかりだ」
「……そう言ってくださる生徒は貴方くらいなものです。本当に私の優しさは生徒には伝わりづらくて……まぁそのお話はまた今度! 来年度からの貴方の立ち位置についてですが……」
その話を振られてサイはどきりとする。
サイは一度も授業を受けるどころか、教室にすら行っていないのである。入学式で保健室に行ってしまったために同級生も、本来共に過ごすはずの寮生とも面識がないのだ。そもそも異世界から来て働いてもいなかっために、学費も払っていない。
この一年ひっそりとこの学校で過ごせたのはクロウリーの優しさゆえだと、サイは本気で思っている。
「あと二回ほど、一年生をやってみませんか?」
クロウリーから発せられたのは、学びも働きもしないのならば出て行けでも、一年面倒を見ていた分今後は働けでも、普通に進級しましょうでもない。
サイの全く予想していなかった提案だった。
「いやですね、流石にこのまま進級するには貴方はついていけないでしょうし、かといって今から一年生をやるにしても、貴方はこの世界のことまだ何にも知らないでしょう? 一度入学はしてるので中退してもう一度入学は手間です。ですが私は閃いたのですよ! 来年度は一年生に在籍はしつつ、エレメンタリースクールとミドルスクールの内容を大まかに学び、来来年度に本当の意味で一年生としてやっていくのはどうかという提案です」
どうです? どうです? と楽しそうに提案してくるクロウリーの言葉を、サイは頭に入れてゆっくりと反芻するもの、混乱するばかりであった。
提案内容はつまり。二回留年するということである。
「……いいんですか? 学園長さんが一応生徒である俺に留年を勧めるなんて」
「おや、そんなことを気にしているのですか。いいのですよそのようなことは。そもそも貴方は事情が特殊ですし、学力がその学年に達していないから留年して学び直すというのは、恥ずかしいことでもなんでもありません。寧ろ学力が見合っていないのに上の学年に上がって苦労させる方が心苦しいものです。ナイトレイヴンカレッジは義務教育ではありませんが、四年で絶対に卒業しなければならないという校則はありませんよ」
「でもそもそも俺、学費も払ってないし……」
「それについてですがね、この世界に来たばかりの頃、貴方保健室に行って錠剤を処方されたでしょう? あまり大声では言えませんがあの時渡した薬、保健医がまだ無許可のものを調合したものでしてね……ですがあの薬すごく良く効いたではないですか。あの後リスクの少ない鎮静剤として薬学界を震撼させまして!!」
その薬について、サイはよく覚えていた。
当たり前のように保健医らしき人物が渡してきた錠剤を飲んだ後、気分が落ち着きその後すぐに眠りについたのである。目覚めもスッキリしていた。
「保険医の先生が貴方に大大大感謝をしていましてね。一度異世界からきた貴方の学費問題が浮上したのですが、その話をした翌日に彼、私に四年分の学費と生活費をマドルで持ってきたのですよ! 足りなければ今後も出すそうです。だから学費の問題は何もないです!」
―――マジか。いつの間にか俺にパトロンがついていた。
保健医の教員には初めて見る魔法と遭遇するたびにパニックに陥ったサイの駆け込み寺によくなってもらっていたのである。そしてベッドを借りていた。
―――なんか栄養剤を毎回もらっていたが、あれってもしかして治験だった……? たまに気絶していたし。
「後で保健室に(感謝の)土下座しに行きます」
「いえ、寧ろ(謝罪の)土下座をしなければならないのは(本人に無許可で治験した)保健医の先生の方ですが」
「でも学園長さん、治験したとはいえやっぱり働かないといけないと思うので、俺仕事探します」
「えっ……貴方本当に今、十六歳です? 他の生徒だったらお金だけ受け取ってお小遣いにしますよ……?」
クロウリーに何やらドン引きされてしまっていたものの、初めての労働としてサムの購買の裏方のアルバイトを一年契約で紹介された。サイが商品を買う際にアルバイト割引もしてもらえることにもなった。
とんとんと物事は進んでいったが、それなりに苦労はしたていた。
勉強。
ツイステッドワンダーランドでは元の世界でいうところの英語が使われていたのだが、サイは英語に苦手意識はないものの、単語を覚えるのがなかなかに苦手だった。綴りを覚えるのが特に手間取ったので、こちらの世界特有の固有名詞を覚えるのにだいぶ苦労したのである。覚えが悪くてごめんなさいと、教鞭をとったトレインに六回ほど土下座した。
アルバイト。
サムは優しかったが厳しくもあった。
自分が心血を注いでいる店なんだから当然である。
マドルがまともに数えられないサイに経理関係は任されなず、商品の陳列も最初はなかなかさせてもらえなかった。
最初はとにかく掃除し、厳しいチェックを受けていた。サイは本気でシンデレラになった気分だった。サムは優しく指摘してくれたが、これがトレインだったら挫けていた。
サムは厳しいだけではなく、商品についてを沢山教えた。何故学校の購買で売っているのだろうと思う物が多かった。多すぎるくらいだった。
慣れてきた頃には街に降りて買い付けに行くまでになり、街に知り合いも増えた。
そうして充実と忙しさに満ちた毎日を過ごしているうちに、サイは最低限の学力と、ツイステッドワンダーランドの常識と、購買の商品の知識と、埃一つ逃さない掃除の技術と、街のお店でのコネを得た。
その代わり働きすぎと勉強のしすぎで、ただでさえガリの体重が減った。
Ⅲ
「元々の体型は身長一七〇センチの体重五二キロでした。でも一時期四〇キロ台いきました」
「ひょえっ」
学園長の言葉をイデアは一瞬理解できなかった。
―――社交的? イグニハイド生なのに?
―――十八歳? 二年生と聞いたはず?
「言ったであろうシュラウド。事情が事情だと。」
―――う、うわーー!!
―――ただの引き篭もりじゃなさそうな上に絶対に引き篭もりの原因は陽キャ&ヤンキーに恐れ慄いたではない!!
「コミュニケーション能力の方は心配はしなくて大丈夫だ。あの仔犬は今日が初めての登校だというのに昨日元気に街の老舗駄菓子屋のハンナ婆さんと四時間話し込んだ上に土産まで貰ってくる強者だ」
―――えっ?
―――老舗駄菓子屋のハンナ婆さんって、めっちゃコアな駄菓子扱ってるけど気難しすぎて昔からの常連かよっぽど彼女に気に入られないと売ってくれないっていうあの?
―――ていうか四時間!? 四時間も世代の違う人間と話せるってやばない?
―――本当にその人イグニハイド!?
「授業態度も真面目だからな! 俺と二人で飛行術と筋肉トレーニングをやっていたがひたむきについてくるナイスガイだ!」
―――は?
―――バルガスと二人で飛行術と筋トレ?
―――なんだその地獄。それ受けるくらいならロイソ行きますわ。
―――いや無理、やっぱり行きたくない。
「あのー」
―――ほら! こんなガリガリの生徒がバルガスと筋トレなんて可哀想すぎる!
―――あれ?
「え?さっき隣に座った人?」
「はい、さっきの授業では目印と人避けになってくださりありがとうございます」
いつの間にかそこにいたのは、錬金術の授業でイデアの隣に座った生徒だ。
薄い金髪にきちんと制服を着たその生徒は、イデアにとって聞き捨てならないことを言いながらお礼を述べた。
思わず教師陣の方を見るイデアだったが、教師たちは全員顔をそっぽ向ける。バルガスに至っては口笛を吹いている。
イデアは教師たちが自分を無理やり授業に出させた理由がわかった。
「先輩にはご迷惑をかけてしまったみたいですね。申し訳ございません」
「あ、いえいえそんなご丁寧にどうも」
相手から丁寧に謝られてしまい、イデアもつられて畏まる。この礼儀正しそうな生徒が問題の生徒なのだろうか。よく見るとだいぶ緊張していそうで、視線を少し泳がせ気味な ところはイグニハイドらしさがうかがえるが、どちらかといえばロイヤルソードアカデミーにいそうに見える。
「申し遅れました。二年B組のイグニハイド生になります。サイ・ツキシロです。これからお世話になります。イデア・シュラウド先輩」
Ⅱ
一回目の一年生が終わる頃、サイはクロウリーと面談をした。
「貴方がこの世界に来たばかりの頃は、あまりの衰弱っぷりと未知への恐怖での怯えっぷりに、思わず外に放り出せずに保護してしまいましたが、今はだいぶ良くなったみたいですね」
「本当に学園長さんには感謝しています。ここに置いていただけなかったら、生きていることすら危うかったかも知れなかったので」
「おや、いいのですよ畏まらなくて。いつも通り砕けて話してください! 面談とは言っていますが、今日の私は貴方とお話がしたかっただけなので」
「でも今後に関わる大事な話って言ってたし」
「確かにそういう話をするつもりではあります。ですが今更貴方に畏まられても、私の方が困ってしまいますし、君も変な感じでしょう? いいのですよ。普段通りで。私って優しいので!」
「うん。学園長さんの優しさには助けられてばかりだ」
「……そう言ってくださる生徒は貴方くらいなものです。本当に私の優しさは生徒には伝わりづらくて……まぁそのお話はまた今度! 来年度からの貴方の立ち位置についてですが……」
その話を振られてサイはどきりとする。
サイは一度も授業を受けるどころか、教室にすら行っていないのである。入学式で保健室に行ってしまったために同級生も、本来共に過ごすはずの寮生とも面識がないのだ。そもそも異世界から来て働いてもいなかっために、学費も払っていない。
この一年ひっそりとこの学校で過ごせたのはクロウリーの優しさゆえだと、サイは本気で思っている。
「あと二回ほど、一年生をやってみませんか?」
クロウリーから発せられたのは、学びも働きもしないのならば出て行けでも、一年面倒を見ていた分今後は働けでも、普通に進級しましょうでもない。
サイの全く予想していなかった提案だった。
「いやですね、流石にこのまま進級するには貴方はついていけないでしょうし、かといって今から一年生をやるにしても、貴方はこの世界のことまだ何にも知らないでしょう? 一度入学はしてるので中退してもう一度入学は手間です。ですが私は閃いたのですよ! 来年度は一年生に在籍はしつつ、エレメンタリースクールとミドルスクールの内容を大まかに学び、来来年度に本当の意味で一年生としてやっていくのはどうかという提案です」
どうです? どうです? と楽しそうに提案してくるクロウリーの言葉を、サイは頭に入れてゆっくりと反芻するもの、混乱するばかりであった。
提案内容はつまり。二回留年するということである。
「……いいんですか? 学園長さんが一応生徒である俺に留年を勧めるなんて」
「おや、そんなことを気にしているのですか。いいのですよそのようなことは。そもそも貴方は事情が特殊ですし、学力がその学年に達していないから留年して学び直すというのは、恥ずかしいことでもなんでもありません。寧ろ学力が見合っていないのに上の学年に上がって苦労させる方が心苦しいものです。ナイトレイヴンカレッジは義務教育ではありませんが、四年で絶対に卒業しなければならないという校則はありませんよ」
「でもそもそも俺、学費も払ってないし……」
「それについてですがね、この世界に来たばかりの頃、貴方保健室に行って錠剤を処方されたでしょう? あまり大声では言えませんがあの時渡した薬、保健医がまだ無許可のものを調合したものでしてね……ですがあの薬すごく良く効いたではないですか。あの後リスクの少ない鎮静剤として薬学界を震撼させまして!!」
その薬について、サイはよく覚えていた。
当たり前のように保健医らしき人物が渡してきた錠剤を飲んだ後、気分が落ち着きその後すぐに眠りについたのである。目覚めもスッキリしていた。
「保険医の先生が貴方に大大大感謝をしていましてね。一度異世界からきた貴方の学費問題が浮上したのですが、その話をした翌日に彼、私に四年分の学費と生活費をマドルで持ってきたのですよ! 足りなければ今後も出すそうです。だから学費の問題は何もないです!」
―――マジか。いつの間にか俺にパトロンがついていた。
保健医の教員には初めて見る魔法と遭遇するたびにパニックに陥ったサイの駆け込み寺によくなってもらっていたのである。そしてベッドを借りていた。
―――なんか栄養剤を毎回もらっていたが、あれってもしかして治験だった……? たまに気絶していたし。
「後で保健室に(感謝の)土下座しに行きます」
「いえ、寧ろ(謝罪の)土下座をしなければならないのは(本人に無許可で治験した)保健医の先生の方ですが」
「でも学園長さん、治験したとはいえやっぱり働かないといけないと思うので、俺仕事探します」
「えっ……貴方本当に今、十六歳です? 他の生徒だったらお金だけ受け取ってお小遣いにしますよ……?」
クロウリーに何やらドン引きされてしまっていたものの、初めての労働としてサムの購買の裏方のアルバイトを一年契約で紹介された。サイが商品を買う際にアルバイト割引もしてもらえることにもなった。
とんとんと物事は進んでいったが、それなりに苦労はしたていた。
勉強。
ツイステッドワンダーランドでは元の世界でいうところの英語が使われていたのだが、サイは英語に苦手意識はないものの、単語を覚えるのがなかなかに苦手だった。綴りを覚えるのが特に手間取ったので、こちらの世界特有の固有名詞を覚えるのにだいぶ苦労したのである。覚えが悪くてごめんなさいと、教鞭をとったトレインに六回ほど土下座した。
アルバイト。
サムは優しかったが厳しくもあった。
自分が心血を注いでいる店なんだから当然である。
マドルがまともに数えられないサイに経理関係は任されなず、商品の陳列も最初はなかなかさせてもらえなかった。
最初はとにかく掃除し、厳しいチェックを受けていた。サイは本気でシンデレラになった気分だった。サムは優しく指摘してくれたが、これがトレインだったら挫けていた。
サムは厳しいだけではなく、商品についてを沢山教えた。何故学校の購買で売っているのだろうと思う物が多かった。多すぎるくらいだった。
慣れてきた頃には街に降りて買い付けに行くまでになり、街に知り合いも増えた。
そうして充実と忙しさに満ちた毎日を過ごしているうちに、サイは最低限の学力と、ツイステッドワンダーランドの常識と、購買の商品の知識と、埃一つ逃さない掃除の技術と、街のお店でのコネを得た。
その代わり働きすぎと勉強のしすぎで、ただでさえガリの体重が減った。
Ⅲ
「元々の体型は身長一七〇センチの体重五二キロでした。でも一時期四〇キロ台いきました」
「ひょえっ」