一年生を三回やりました
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Ⅰ
二年B組は静かにざわついていた。
その原因の原因となっているラギー・ブッチは、マジフト大会で起きたオーバーブロット事件のせいで保健室である。既に事件は落ち着いているが、生徒たちは教室で待機となっている。
教室の静かなざわめきの原因である〇〇の表情は、無であった。
これまで言及したことがなかったが、〇〇・〇〇には表情がない。生まれながらに表情筋が仕事を放棄した〇〇は、心で爆笑しても、号泣しても、怒り狂っても、それが表情に出ないのである。それでも彼が人並み、いやそれ以上のコミュニケーションが取れるのは、〇〇の人柄だけでなく、まとう雰囲気のおかげである。
〇〇が嬉しいと思ったら周囲に花が咲いているように見えるし、怒れば後ろにモンスターを背負っているように見える。表情は無いが、不思議と周囲に〇〇の感情は伝わるのだ。
ちなみに初めて二年B組に〇〇が一人でやってきた時は、海に飛び込むことをためらうペンギンが見えたらしい。
そして現在、〇〇がまとう雰囲気はまさしく「無」であった。
二年B組の生徒たちは予想外の〇〇の姿に困惑しているのである。
何故ならつい先程〇〇はラギーの所在を聞いてきたのだ。
それまで隠し切れないほどの心配のオーラをまとっていたのに、同級生が馬鹿正直に「ラギーなら保健室いきましたよ」と言った途端、無である。
そして〇〇の口から、二年B組を震撼させる言葉が紡がれた。
「……卒業しよう。今すぐ」
Ⅲ
監督生ユーリはわくわくしていた。
マジフト大会でまたしても生徒がオーバーブロットをするというアクシデントがあったが、それも何とか解決し、マジフト大会は仕切り直しとなった。
監督生は箒で飛べない故にたいしたことはできないが、皆が楽しそうなのでその空気を満喫するつもりだった。
怪我の治療をしたレオナやラギーを迎えに行くためにるんたったと保健室に向かって歩いている監督生を、とんでもないスピードで追い抜いていく生徒たちがいた。
彼らは、監督生の目的地である保健室のドアを吹き飛ばした。
「ラギー!! 今から〇〇の卒業式やるぞ!!」
Ⅳ
ラギーは意味不明だった。
ただでさえ最近はマジフト大会のために暗躍していたラギーは、寮長のレオナのオーバーブロットで怪我もしたし、既に疲労もピークである。
それでも、大会では失格にならなかったことを喜び、もう少ししたら保健室から会場に戻るつもりであったのだ。
そこにドアを吹き飛ばして飛び込んできたのが同級生たちである。
「ちょっとなんなんスか!? こっちは怪我人だっつーのに危ないっすよ! それに……なんて言ったんスかねぇ? 聞き捨てならねぇことが聞こえたんスけど」
「よし、ラギー元気そうだな! ある意味お前も主役だ! 〇〇の卒業式やるぞ!!」
聞き捨てならない言葉は聞き間違いではなかった。
何故かわからないが、同級生たちは〇〇を卒業させようとしている。
確か〇〇の年齢は一八歳で、一年生を三回やっていたと聞いた。留年していなければ今頃四年生で、卒業の準備をしていたかもしれない。
だが彼は実際はまだ2年生だ。自分達のクラスメイトで、なんならラギーは一緒に進級して三年になっても同じクラスっスよーなんて言ってた。
「僕たちも本当にいいのですかと何度も聞いたんですがね、さすがに甘えすぎたと、彼の意志は固かったですし、止める必要性もありませんしね」
「まぁさすがに少しズルかったからな! 平等もだいじだぜ」
ラギーは怪我をしていたことを忘れて拳を握りしめた。
なんて薄情な奴らだと。
一緒に見守ってきたではないか、これからも見届けて、卒業は一緒にするんだと言い合っていたはずなのに。
立派になった彼を胴上げするんだと言ってたのに。
「ラギー君」
怒りに震えるラギーの様子を察したかのように、保健室の壊れた入り口から〇〇が現れた。
ラギーは怪我のことも忘れるほどの勢いで〇〇に駆け寄る。
「〇〇くん! どういうことっすか!?」
「ラギー君怪我大丈夫? 卒業式来れるかな?」
「……っ! 卒業って! どうしてっすか!?」
「流石にこの状況に甘んじすぎたよ。いい加減巣立たなきゃね」
「だからって……! いくらなんでも急すぎるっスよ……!!」
「ラギー、諦めろ。卒業するからって〇〇が教室に来なくなるわけじゃない」
「そうですよ。君はちょっと遠くでハンカチでも噛み締めてればいいんですよ」
「大丈夫だよ。ラギー君から卒業しても、俺頑張るから」
Ⅴ
監督生ユーリはハラハラしていた。
るんたったと保健室まで向かっていたところを猛スピードで走る先輩たちに追い越され、なんだなんだと急ごうとしたら、後ろから普通に歩いてやってくる〇〇に声をかけられた。
「ラギー君にはすごく迷惑をかけてしまっていたから、今回だって俺の他にも寮の尊敬する先輩の面倒まで見てたから倒れたんでしょ?」
「(いやラギー先輩は先輩たちの世話というよりマジフト大会の暗躍での疲労とレオナ先輩オバブロ事件のせいで保健室行きなんですよ先輩!!)」
「まだ慣れないこととかも多いけど、一人でなんとかやってみようと思うんだ。本当にダメなときは他の人に頼むし」
「(それ絶対ラギー先輩が先輩に嫌われたと思うやつですよ先輩!!)」
「ラギー君は優しいから、今まで仕方なくやってくれてたんだと思う。お金払おうかって言ったこともあるけど、ラギー君お金なんかどうでもいいって言ってたし」
「すみませんそれ誰ですか?」
Ⅵ
「いやいやいやいや!! 俺から卒業とかもっとふざけんななんスけど!!!」
ラギーは〇〇たちの言う卒業がナイトレイヴンカレッジからの卒業でないことに安心した。
だが、〇〇がラギーから卒業すると言い、先ほどとは違う焦りが生まれた。
「だってラギー君、クラスの中でも一番俺に世話焼いてたくらいなのに、王族の先輩の面倒を元々見てたなんて俺知らなくて……」
「いやレオナさんの世話はバイトみたいなもんスから!!」
「人の世話ばっかり焼いて自分を大切にしないのはダメだ……!」
「ど正論っスけど今回は話が違うんスよー!!」
ラギーは必死だった。
このナイトレイヴンカレッジにはなかなかいないのだ。
素直にありがとうと言ってくれる生徒というのは。
ラギーはハイエナ故か、善意が伝わりづらい人生だった。
スラムの子供たちはともかくとして、同世代の者や大人たちは皆、ラギーが本当に善意の行動をとっても必ず裏があると見てきた。
ラギーの親切は見返り目的だと、決めつけられてきた。
実際にそういうときもある。いやどちらかといえば見返り目的が多いのは事実なので、ラギーも否定してこなかった。
だが、〇〇が初めて一人で教室に入った日、駆け寄ったクラスメイトを押し除けながら、〇〇はラギーの元にやってきた。
「あの、さっき、ありがとう。すごく助かりました……」
自分なんかにわざわざお礼を言いきたということに、ラギーは驚き、照れた。
ここではじめに述べたことを思い出してほしい。
〇〇の顔は無表情だが、気持ちが雰囲気で伝わるのだ。
〇〇のまっすぐな感謝という気持ちは、このときラギーに嘘偽りなく伝わったのである。
「こんなにちゃんとお礼が言えるいい子他にいないんスよ!! レオナさんなんてどんなに世話焼いても「おう」、「あぁ」、「これもやっとけ」って!!ひどい時は文句まで言ってくる始末!!」
「わかります! ラギー先輩!!」
ラギーに同意するのは監督生である。
どんなに一生懸命手伝いや、自分に全く非がないことの尻拭いをしても、心からのお礼なんて監督生はこのナイトレイヴンカレッジで聞いたことがない。
主にグ○ムと○ースと○ースである。
「あのありがとうだけでやってよかった!次もやってあげたいって思わせてくれるっス!! 絶対に卒業なんてさせないっスからね!!」
監督生にはラギーがお礼を言うのが恥ずかしい年頃の息子と世話を焼かれるのが当たり前すぎてお礼を伝えなくなった夫を持つかあちゃんに見えたという。
ちなみにこの場にいたけど寝たふりを決め込んで一切会話には参加しなかったレオナはこの後、ほんの少しだけラギーにお礼を言おうと思った。実行できたかはレオナにしかわからない。
二年B組は静かにざわついていた。
その原因の原因となっているラギー・ブッチは、マジフト大会で起きたオーバーブロット事件のせいで保健室である。既に事件は落ち着いているが、生徒たちは教室で待機となっている。
教室の静かなざわめきの原因である〇〇の表情は、無であった。
これまで言及したことがなかったが、〇〇・〇〇には表情がない。生まれながらに表情筋が仕事を放棄した〇〇は、心で爆笑しても、号泣しても、怒り狂っても、それが表情に出ないのである。それでも彼が人並み、いやそれ以上のコミュニケーションが取れるのは、〇〇の人柄だけでなく、まとう雰囲気のおかげである。
〇〇が嬉しいと思ったら周囲に花が咲いているように見えるし、怒れば後ろにモンスターを背負っているように見える。表情は無いが、不思議と周囲に〇〇の感情は伝わるのだ。
ちなみに初めて二年B組に〇〇が一人でやってきた時は、海に飛び込むことをためらうペンギンが見えたらしい。
そして現在、〇〇がまとう雰囲気はまさしく「無」であった。
二年B組の生徒たちは予想外の〇〇の姿に困惑しているのである。
何故ならつい先程〇〇はラギーの所在を聞いてきたのだ。
それまで隠し切れないほどの心配のオーラをまとっていたのに、同級生が馬鹿正直に「ラギーなら保健室いきましたよ」と言った途端、無である。
そして〇〇の口から、二年B組を震撼させる言葉が紡がれた。
「……卒業しよう。今すぐ」
Ⅲ
監督生ユーリはわくわくしていた。
マジフト大会でまたしても生徒がオーバーブロットをするというアクシデントがあったが、それも何とか解決し、マジフト大会は仕切り直しとなった。
監督生は箒で飛べない故にたいしたことはできないが、皆が楽しそうなのでその空気を満喫するつもりだった。
怪我の治療をしたレオナやラギーを迎えに行くためにるんたったと保健室に向かって歩いている監督生を、とんでもないスピードで追い抜いていく生徒たちがいた。
彼らは、監督生の目的地である保健室のドアを吹き飛ばした。
「ラギー!! 今から〇〇の卒業式やるぞ!!」
Ⅳ
ラギーは意味不明だった。
ただでさえ最近はマジフト大会のために暗躍していたラギーは、寮長のレオナのオーバーブロットで怪我もしたし、既に疲労もピークである。
それでも、大会では失格にならなかったことを喜び、もう少ししたら保健室から会場に戻るつもりであったのだ。
そこにドアを吹き飛ばして飛び込んできたのが同級生たちである。
「ちょっとなんなんスか!? こっちは怪我人だっつーのに危ないっすよ! それに……なんて言ったんスかねぇ? 聞き捨てならねぇことが聞こえたんスけど」
「よし、ラギー元気そうだな! ある意味お前も主役だ! 〇〇の卒業式やるぞ!!」
聞き捨てならない言葉は聞き間違いではなかった。
何故かわからないが、同級生たちは〇〇を卒業させようとしている。
確か〇〇の年齢は一八歳で、一年生を三回やっていたと聞いた。留年していなければ今頃四年生で、卒業の準備をしていたかもしれない。
だが彼は実際はまだ2年生だ。自分達のクラスメイトで、なんならラギーは一緒に進級して三年になっても同じクラスっスよーなんて言ってた。
「僕たちも本当にいいのですかと何度も聞いたんですがね、さすがに甘えすぎたと、彼の意志は固かったですし、止める必要性もありませんしね」
「まぁさすがに少しズルかったからな! 平等もだいじだぜ」
ラギーは怪我をしていたことを忘れて拳を握りしめた。
なんて薄情な奴らだと。
一緒に見守ってきたではないか、これからも見届けて、卒業は一緒にするんだと言い合っていたはずなのに。
立派になった彼を胴上げするんだと言ってたのに。
「ラギー君」
怒りに震えるラギーの様子を察したかのように、保健室の壊れた入り口から〇〇が現れた。
ラギーは怪我のことも忘れるほどの勢いで〇〇に駆け寄る。
「〇〇くん! どういうことっすか!?」
「ラギー君怪我大丈夫? 卒業式来れるかな?」
「……っ! 卒業って! どうしてっすか!?」
「流石にこの状況に甘んじすぎたよ。いい加減巣立たなきゃね」
「だからって……! いくらなんでも急すぎるっスよ……!!」
「ラギー、諦めろ。卒業するからって〇〇が教室に来なくなるわけじゃない」
「そうですよ。君はちょっと遠くでハンカチでも噛み締めてればいいんですよ」
「大丈夫だよ。ラギー君から卒業しても、俺頑張るから」
Ⅴ
監督生ユーリはハラハラしていた。
るんたったと保健室まで向かっていたところを猛スピードで走る先輩たちに追い越され、なんだなんだと急ごうとしたら、後ろから普通に歩いてやってくる〇〇に声をかけられた。
「ラギー君にはすごく迷惑をかけてしまっていたから、今回だって俺の他にも寮の尊敬する先輩の面倒まで見てたから倒れたんでしょ?」
「(いやラギー先輩は先輩たちの世話というよりマジフト大会の暗躍での疲労とレオナ先輩オバブロ事件のせいで保健室行きなんですよ先輩!!)」
「まだ慣れないこととかも多いけど、一人でなんとかやってみようと思うんだ。本当にダメなときは他の人に頼むし」
「(それ絶対ラギー先輩が先輩に嫌われたと思うやつですよ先輩!!)」
「ラギー君は優しいから、今まで仕方なくやってくれてたんだと思う。お金払おうかって言ったこともあるけど、ラギー君お金なんかどうでもいいって言ってたし」
「すみませんそれ誰ですか?」
Ⅵ
「いやいやいやいや!! 俺から卒業とかもっとふざけんななんスけど!!!」
ラギーは〇〇たちの言う卒業がナイトレイヴンカレッジからの卒業でないことに安心した。
だが、〇〇がラギーから卒業すると言い、先ほどとは違う焦りが生まれた。
「だってラギー君、クラスの中でも一番俺に世話焼いてたくらいなのに、王族の先輩の面倒を元々見てたなんて俺知らなくて……」
「いやレオナさんの世話はバイトみたいなもんスから!!」
「人の世話ばっかり焼いて自分を大切にしないのはダメだ……!」
「ど正論っスけど今回は話が違うんスよー!!」
ラギーは必死だった。
このナイトレイヴンカレッジにはなかなかいないのだ。
素直にありがとうと言ってくれる生徒というのは。
ラギーはハイエナ故か、善意が伝わりづらい人生だった。
スラムの子供たちはともかくとして、同世代の者や大人たちは皆、ラギーが本当に善意の行動をとっても必ず裏があると見てきた。
ラギーの親切は見返り目的だと、決めつけられてきた。
実際にそういうときもある。いやどちらかといえば見返り目的が多いのは事実なので、ラギーも否定してこなかった。
だが、〇〇が初めて一人で教室に入った日、駆け寄ったクラスメイトを押し除けながら、〇〇はラギーの元にやってきた。
「あの、さっき、ありがとう。すごく助かりました……」
自分なんかにわざわざお礼を言いきたということに、ラギーは驚き、照れた。
ここではじめに述べたことを思い出してほしい。
〇〇の顔は無表情だが、気持ちが雰囲気で伝わるのだ。
〇〇のまっすぐな感謝という気持ちは、このときラギーに嘘偽りなく伝わったのである。
「こんなにちゃんとお礼が言えるいい子他にいないんスよ!! レオナさんなんてどんなに世話焼いても「おう」、「あぁ」、「これもやっとけ」って!!ひどい時は文句まで言ってくる始末!!」
「わかります! ラギー先輩!!」
ラギーに同意するのは監督生である。
どんなに一生懸命手伝いや、自分に全く非がないことの尻拭いをしても、心からのお礼なんて監督生はこのナイトレイヴンカレッジで聞いたことがない。
主にグ○ムと○ースと○ースである。
「あのありがとうだけでやってよかった!次もやってあげたいって思わせてくれるっス!! 絶対に卒業なんてさせないっスからね!!」
監督生にはラギーがお礼を言うのが恥ずかしい年頃の息子と世話を焼かれるのが当たり前すぎてお礼を伝えなくなった夫を持つかあちゃんに見えたという。
ちなみにこの場にいたけど寝たふりを決め込んで一切会話には参加しなかったレオナはこの後、ほんの少しだけラギーにお礼を言おうと思った。実行できたかはレオナにしかわからない。