一年生を三回やりました
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Ⅰ
「熱心だな、〇〇よ」
「ドラコニア先輩、こんばんは」
〇〇は今、部活をしている。
先日入ったばかりのガーゴイル研究会は、部員が三年生のマレウス・ドラコニアのみで活動内容はその名の通り、校内のガーゴイルの観察である。
「僕は見るだけでも十分楽しめているが、お前がガーゴイルの絵を描きはじめた時は驚いたぞ。相変わらず特徴だけは掴んでいる絵だ」
そう言ってマレウスが〇〇の持っているノートを覗き見る。
ノートに書かれているのは、一応ガーゴイルには見えるものの、上手いとも下手とも言い難い絵だった。だがよく見るとモデルとなったガーゴイルの傷であったり、欠けた箇所だったりが、しっかりと絵に描き込まれている。
「正直ドラコニア先輩のような知識はないから、見るだけだと違いがまだわからないんです。ガーゴイルについてはまだ素人以下ですし」
「そうだな。お前が入部届を持ってきたときに僕があれだけガーゴイルのことを語ったというのに、お前はなんと言っていたか……」
『よくわかりました。先輩はガーゴイルがすごい好きってことですね』
マレウスのガーゴイル語りが全く理解できなかった〇〇が返した感想である。
「僕の言葉があそこまで伝わらないのかと、驚愕したぞ」
「全然わからない人に専門用語並べても難しいですよ。子供に話すくらい噛み砕いてくれてようやく俺はわかりましたし」
「そうだな、〇〇はまだ十九歳の幼子だということを念頭に入れるべきだった」
〇〇が部活に入るときに気にしていたものの一つに、年齢があった。
クロウリーはあまり気にしなくても良さげな感じで話していたが、留年が物珍しい日本生まれ日本育ちの〇〇は結構気にしている。
だがそんなことはマレウスにとって本当に些事であった。
一〇代のナイトレイヴンカレッジの生徒など、マレウスにとっては皆幼児である。
「だが〇〇、この間幼児に語りかけるようにキングスカラーに声をかけたら睨まれてしまったぞ」
「キングスカラーさんを俺はよく知らないけれど……なんて声をかけたんですか?」
「なに、「か弱き者たちが高め合うのはいいことだな」と言ったまでだ」
「それ本当に子供に言うの?」
Ⅱ
ジェイド・リーチはショックを受けていた。
ライバルというわけは決してないが、ナイトレイヴンカレッジの二大ぼっち同好会であったはずの片割れである、ガーゴイル研究会に新入部員が入ったと聞いたからだ。
フロイドを探すために歩いていた廊下で偶然聞こえた会話は、聞き間違いではなかったはずだ。
「やめておけ! お前飛べるんだろう!? 俺たちと一緒にマジフトやろうぜ!!」
「錬金術楽しかったって言ってたじゃん! 〇〇エンス部にしようよ!」
「運動したいと言っていましたよね? 乗馬部とか君に似合うじゃないですか!!」
どうやら誰かが入る部活で揉めているようだ。
騒いでいる生徒は二年生のようだったが、兼部でも考えている者がいるのだろうか。
部員一人の山を愛する会所属であるジェイドには興味深い話である。
「どの部活も悩んだんだけど最終的に二択まで絞ってね。やっと決めたんだ」
おや、とジェイドは残念に思う。既に決意は堅そうであったその声に、勧誘活動に出遅れたなと。
「ちなみにどこと悩んだんスか?」
ジェイドは違和感の無い動きで聞き耳を立てながら歩くと、部活を決めた生徒の声がはっきりと聞こえた。
「うん。山を愛する会と悩んだんだけどね、ガーゴイル研究会にしたんだ」
ジェイドは立ち止まるしかなかった。
–––え? 山を愛する会が決勝で負けたんです?
–––しかも優勝はガーゴイル研究会?
–––山を愛する会に 入ろうと 考えてくれてた
ジェイドは歓喜と同時に絶望した。
せっかく山(きのこ)を語り合える部員が来たかもしれないのに、そのチャンスを! 知らないうちに!! よりによって! ガーゴイル研究会に!!
「すごいチョイスってスね…! 正直どっちもどっちっすけど決定打何だったんスか?」
–––そうです! 何故!? 何故山を愛する会が!!
–––ガーゴイル研究会に負けたんでんです!!?
「んー、最初は山を愛する会を取ろうと思ったんだけど、学園長さんにね、山を愛する会はやめとけって。ガーゴイル研究会がおすすめだって」
ジェイドは激怒した。必ず、かの邪智暴虐のカラスを撃ち落とさなければならぬと決意した。ジェイドには空がわからぬ。ジェイドは、ウツボの人魚である。海を泳ぎ、雑魚を追いかけ暮して来た。けれども山に対しては、人一倍に敏感であった。今日未明ジェイドは寮を出発し、授業を終え仕事も終え、少し離れた部室に行くためここまでやって来た。ジェイドには部活仲間も、山の理解者も無い。部費も少ない。だが魅力的な、山のキノコと対峙した。この出会いは、ジェイドの心を掴み、近々、モストロラウンジのインテリアとして迎える事に(ジェイド限定で)なっていた。お披露目も間近なのである。ジェイドは、それゆえ、キノコのテラリウムやらキノコの御馳走やらの用意を、孤軍奮闘でやって来たのだ。先ず、その品々を用意し、それらを一番に見せる為、ぶらぶら歩いているであろう兄弟を探していた。
そんな折に聞こえてきたこの天国から地獄に、ジェイドは意気消沈し、周りの声など聞こえなくなっていた。
「でも山登れる人ってなんかかっこいいよね」
そんな声も、ジェイドには聞こえてなかった。
「熱心だな、〇〇よ」
「ドラコニア先輩、こんばんは」
〇〇は今、部活をしている。
先日入ったばかりのガーゴイル研究会は、部員が三年生のマレウス・ドラコニアのみで活動内容はその名の通り、校内のガーゴイルの観察である。
「僕は見るだけでも十分楽しめているが、お前がガーゴイルの絵を描きはじめた時は驚いたぞ。相変わらず特徴だけは掴んでいる絵だ」
そう言ってマレウスが〇〇の持っているノートを覗き見る。
ノートに書かれているのは、一応ガーゴイルには見えるものの、上手いとも下手とも言い難い絵だった。だがよく見るとモデルとなったガーゴイルの傷であったり、欠けた箇所だったりが、しっかりと絵に描き込まれている。
「正直ドラコニア先輩のような知識はないから、見るだけだと違いがまだわからないんです。ガーゴイルについてはまだ素人以下ですし」
「そうだな。お前が入部届を持ってきたときに僕があれだけガーゴイルのことを語ったというのに、お前はなんと言っていたか……」
『よくわかりました。先輩はガーゴイルがすごい好きってことですね』
マレウスのガーゴイル語りが全く理解できなかった〇〇が返した感想である。
「僕の言葉があそこまで伝わらないのかと、驚愕したぞ」
「全然わからない人に専門用語並べても難しいですよ。子供に話すくらい噛み砕いてくれてようやく俺はわかりましたし」
「そうだな、〇〇はまだ十九歳の幼子だということを念頭に入れるべきだった」
〇〇が部活に入るときに気にしていたものの一つに、年齢があった。
クロウリーはあまり気にしなくても良さげな感じで話していたが、留年が物珍しい日本生まれ日本育ちの〇〇は結構気にしている。
だがそんなことはマレウスにとって本当に些事であった。
一〇代のナイトレイヴンカレッジの生徒など、マレウスにとっては皆幼児である。
「だが〇〇、この間幼児に語りかけるようにキングスカラーに声をかけたら睨まれてしまったぞ」
「キングスカラーさんを俺はよく知らないけれど……なんて声をかけたんですか?」
「なに、「か弱き者たちが高め合うのはいいことだな」と言ったまでだ」
「それ本当に子供に言うの?」
Ⅱ
ジェイド・リーチはショックを受けていた。
ライバルというわけは決してないが、ナイトレイヴンカレッジの二大ぼっち同好会であったはずの片割れである、ガーゴイル研究会に新入部員が入ったと聞いたからだ。
フロイドを探すために歩いていた廊下で偶然聞こえた会話は、聞き間違いではなかったはずだ。
「やめておけ! お前飛べるんだろう!? 俺たちと一緒にマジフトやろうぜ!!」
「錬金術楽しかったって言ってたじゃん! 〇〇エンス部にしようよ!」
「運動したいと言っていましたよね? 乗馬部とか君に似合うじゃないですか!!」
どうやら誰かが入る部活で揉めているようだ。
騒いでいる生徒は二年生のようだったが、兼部でも考えている者がいるのだろうか。
部員一人の山を愛する会所属であるジェイドには興味深い話である。
「どの部活も悩んだんだけど最終的に二択まで絞ってね。やっと決めたんだ」
おや、とジェイドは残念に思う。既に決意は堅そうであったその声に、勧誘活動に出遅れたなと。
「ちなみにどこと悩んだんスか?」
ジェイドは違和感の無い動きで聞き耳を立てながら歩くと、部活を決めた生徒の声がはっきりと聞こえた。
「うん。山を愛する会と悩んだんだけどね、ガーゴイル研究会にしたんだ」
ジェイドは立ち止まるしかなかった。
–––え? 山を愛する会が決勝で負けたんです?
–––しかも優勝はガーゴイル研究会?
–––山を愛する会に 入ろうと 考えてくれてた
ジェイドは歓喜と同時に絶望した。
せっかく山(きのこ)を語り合える部員が来たかもしれないのに、そのチャンスを! 知らないうちに!! よりによって! ガーゴイル研究会に!!
「すごいチョイスってスね…! 正直どっちもどっちっすけど決定打何だったんスか?」
–––そうです! 何故!? 何故山を愛する会が!!
–––ガーゴイル研究会に負けたんでんです!!?
「んー、最初は山を愛する会を取ろうと思ったんだけど、学園長さんにね、山を愛する会はやめとけって。ガーゴイル研究会がおすすめだって」
ジェイドは激怒した。必ず、かの邪智暴虐のカラスを撃ち落とさなければならぬと決意した。ジェイドには空がわからぬ。ジェイドは、ウツボの人魚である。海を泳ぎ、雑魚を追いかけ暮して来た。けれども山に対しては、人一倍に敏感であった。今日未明ジェイドは寮を出発し、授業を終え仕事も終え、少し離れた部室に行くためここまでやって来た。ジェイドには部活仲間も、山の理解者も無い。部費も少ない。だが魅力的な、山のキノコと対峙した。この出会いは、ジェイドの心を掴み、近々、モストロラウンジのインテリアとして迎える事に(ジェイド限定で)なっていた。お披露目も間近なのである。ジェイドは、それゆえ、キノコのテラリウムやらキノコの御馳走やらの用意を、孤軍奮闘でやって来たのだ。先ず、その品々を用意し、それらを一番に見せる為、ぶらぶら歩いているであろう兄弟を探していた。
そんな折に聞こえてきたこの天国から地獄に、ジェイドは意気消沈し、周りの声など聞こえなくなっていた。
「でも山登れる人ってなんかかっこいいよね」
そんな声も、ジェイドには聞こえてなかった。