一年生を三回やりました
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Ⅰ
監督生ユーリは安堵していた。
エーデュースたちと作ったマロンタントが引き金となり、ハーツラビュルの寮長である、リドル・ローズハート先輩がオーバーブロットをするという大事件は起こったものの、皆の力を合わせたことでそれも解決した。
後日改めて呼ばれたなんでもない日のパーティーも盛り上がった頃、実はケイト先輩が甘いものが苦手だとわかったところで、ハーツラビュル寮の2年生の先輩がリドル先輩に声をかけた。
「あぁ、よかった。来てくれたみたいで」
「リドル、他寮の生徒も招待してたのか?」
どうやらリドル先輩が個人的に招待した生徒がいたようで、その存在はトレイ先輩も知らなかったようだ。
招待された生徒は気まずいのか恥ずかしいのか、バラの木の影からなかなか出てこないらしく、二年生の先輩が声をかけて連れてこようとしていた。
「大丈夫だって! 寮長も別に取って食おうとかしてないから! せっかく土産も持って来たんだから行こうぜ!」
「いや、やっぱりいいよ。お土産だけ君に渡すから帰る……」
「あれー? 恥ずかしがり屋ちゃんかな?」
「そのようだね。ケイト、連れて来てあげてくれ」
「了解ー!」
ケイト先輩に引っ張られるものの、頑固らしくてなかなか木の影からその人物は出てこなかったが、諦めないケイト先輩が声をかける。
「実は頼まれちゃってるんだよね〜君のこと。イデア君が面白いくらい震えながらさ、背中を押してやってくれって言ってきたんだよ」
その言葉を聞くと、木の影で見えなかった生徒が姿を現した。金髪の、制服をきちんと着た生徒だった。
Ⅱ
他寮の生徒がどう見ても自分だけだっだことに気づいて、〇〇は消えたくなる気持ちだった。
何故〇〇がハーツラビュルのなんでもない日のパーティまでやって来たかといえば、リドルに招待されたからである。
リドル・ローズハートがオーバーブロットした日から数日後、ハーツラビュルの同級生がだいぶ教室に躊躇いなく入れるようになった〇〇に声をかけて来た。
「なぁ、うちの寮長からこれお前に渡すように言われたんだけど。なんだよいつの間に寮長とも仲良くなったのかー?」
〇〇は意味がわからないという顔で差し出されたカードを受け取り、その内容を見る。
「なんでもない日のパーティへの招待状…?」
「そうそう、今週の休みにうちの寮はパーティやるんだけどよ、お前も来るようにって寮長からのお達しだ」
二年B組はざわついた。
今まで俺たちとしか仲良くしてなかった〇〇が、ハーツラビュルのパーティ……!?
一部の者は今まで家で面倒を見ていた子供の幼稚園デビューのごとく感極まり、一部の者は自分の後ろばかりついて来ていた弟が友人をかっこいいと言い始めたかの如くショックを受け、一部の者はパーティだなんて早くないかと過保護だった。
「なんか寮長が伝えたいことがあるんだってよ。だからよかったら行ってやってくれな」
〇〇は招待状を見ながら無言だった。
その様子をラギーをはじめ周りのオカンどもはハラハラと見守る。そしてポツリとつぶやいた。
「手土産どうしよう」
二年B組は湧き上がる。
俺の知ってる一番いい手土産選手権の戦いのゴングが鳴った。
Ⅲ
「これ、手土産の焼き菓子と駄菓子と、お茶です。多分パーティには合わないと思うから、後で皆さんでどうぞ」
「うわぁ! これハンナ婆さんのところでしか置いてない駄菓子じゃん! 焼き菓子も輝石の国で知る人ぞ知るマイナーだけどめっちゃ評判の良い店のだし、お茶はこれ……東の国のお茶だよね?」
「じゃぁ、自分はこれで……」
「待った待った、こんなに良いものを持って来てくれたんだ。是非御馳走を食べて行ってくれ」
そそくさと帰ろうとした〇〇を止めたのは、〇〇が知らない先輩、トレイ・クローバーである。
「いや、俺は……」
「〇〇先輩!」
手土産を渡した〇〇はなんとか理由をつけてイグニハイドに帰ろうとしていたが、それを明るい聞き覚えのある声が止める。
「監督生さん……君も招待されてたんだ……」
「はい! 先輩も招待されてたなんて驚きました! 一緒にお菓子食べましょう!」
「監督生ー、そいつ誰ー?」
監督生までもが〇〇を引っ張ると、その友人らしき赤いハートのペイントがトレードマークの生徒から声があがる。だがそれに答えたのは監督生ではなかった。
「そいつだなんて言うものではないよエース。その人は歴とした君の先輩なのだから。それに僕が招待したゲストだ。失礼のないようにね」
そう言うとリドルは立ち上がり、未だに気まずそうにする〇〇の前までやってきた。
「やぁ、久しぶりだね。図書館以来だ」
「うん」
「あの時はお互い名乗らなかったね。僕はリドル・ローズハート。ハーツラビュルで寮長をしている二年生だ」
「……〇〇・〇〇。イグニハイドの二年生」
「今日は来てくれてありがとう。そして……」
リドルはまっすぐ立っていた腰をまげ、頭を下げた。
「あの時は理不尽に怒鳴った上に、君の考えを否定して、申し訳なかった」
リドルの行動に〇〇も、監督生も、トレイとケイトも、その場に居合わせた他の寮生たちも、驚きで言葉を失った。その空気に呑まれそうになりながらも、リドルは言葉を続ける。
「君は他寮の生徒なのに、とても真剣にハートの女王の法律を勉強していた。ただ頭に入れるだけでなく、自分の考えもしっかりと持って。その姿勢は見習うべきだったのに、僕は自分が受け入れたくないという理由で、君に、怒鳴ってしまった。本当に……ごめんなさぃ」
はじめははっきりと話していたリドルの声が、段々とか細く、小さくなっていく。
しばらく静寂が漂い、誰もが気まずそうにしている中、口を開いたのは〇〇だった。
「謝るのは、頭を下げるなんて、簡単なんだ。力抜いて自然に身を任せれば、簡単に頭は下にさがるよ」
〇〇の言葉に、周囲はギョッとする。
〇〇を知るクラスメイトの驚きは特に大きかった。
誰もがリドルは真摯に謝ったように見えたのだ。
「今が不安だとは思う。相手の顔は見えない、許されるのかまだわからない。視線は感じる。でももっと不安で怖いのは、頭を上げるときだ。
相手の目を見るときだよ」
リドルの頭はまだ下を向いたままだ。
「やっぱり、蜂蜜入りのレモネードだけじゃダメだと思う」
「……は?」
間抜けな声を出したのは誰だったか
「だって、このパーティにだってこんなに甘いものがいっぱいで。なのに蜂蜜入りのレモネード限定で飲むななんて言われても、すぐに虫歯コースだよ」
先ほどまで頭下げるなんて簡単だと言っていたはずなのにと、周囲は疑問に思う。話の内容についていけるのはリドルだけである。
「……夜はみんな勉強もするから、糖分は必要だ。だから甘いものを禁止にすると勉学に影響が出る。寝る前は歯を磨くことにしたほうがいいと思う」
頭を下げた状態のリドルが〇〇の言葉に続けた。
エーデュースは意味がわからずぽかんとしている。
「そうか。学校ということも踏まえて考えればもっと具体的になるのか。その点も踏まえておけばよかった。そうだよね。夜に勉強するとき甘いものほしいや。その観点は俺考えてなかった」
〇〇はリドルの観点からの提案を聞き、満足した。
「リドル君」
頭を下げてどのくらい時間が経ったのか、ようやくリドルは頭を上げた。〇〇に名前を呼ばれたことによって、頭を上げることを許された気がしたのだ。
「俺は勉強には結構一生懸命なんだ。だから図書館でリドル君に褒められたとき、すごく嬉しかった。今も、リドル君の考えが聞けて嬉しかった。だから、これで許すよ」
〇〇はそう言いながら持ってきた荷物をリドルの前に置く。中身は何十センチもある大量の紙の束である。
「ハートの女王の法律から俺が考察した当時の国民の生活と、今風に改案するならと、その理由を一条につき紙一枚にまとめたんだけど、リドル君の意見を聞かせてほしい。八一〇条分ね」
「いや無茶苦茶っしょ!?」
〇〇とリドルにしかわからない会話に、外野からのツッコミがついに入った。
監督生ユーリは安堵していた。
エーデュースたちと作ったマロンタントが引き金となり、ハーツラビュルの寮長である、リドル・ローズハート先輩がオーバーブロットをするという大事件は起こったものの、皆の力を合わせたことでそれも解決した。
後日改めて呼ばれたなんでもない日のパーティーも盛り上がった頃、実はケイト先輩が甘いものが苦手だとわかったところで、ハーツラビュル寮の2年生の先輩がリドル先輩に声をかけた。
「あぁ、よかった。来てくれたみたいで」
「リドル、他寮の生徒も招待してたのか?」
どうやらリドル先輩が個人的に招待した生徒がいたようで、その存在はトレイ先輩も知らなかったようだ。
招待された生徒は気まずいのか恥ずかしいのか、バラの木の影からなかなか出てこないらしく、二年生の先輩が声をかけて連れてこようとしていた。
「大丈夫だって! 寮長も別に取って食おうとかしてないから! せっかく土産も持って来たんだから行こうぜ!」
「いや、やっぱりいいよ。お土産だけ君に渡すから帰る……」
「あれー? 恥ずかしがり屋ちゃんかな?」
「そのようだね。ケイト、連れて来てあげてくれ」
「了解ー!」
ケイト先輩に引っ張られるものの、頑固らしくてなかなか木の影からその人物は出てこなかったが、諦めないケイト先輩が声をかける。
「実は頼まれちゃってるんだよね〜君のこと。イデア君が面白いくらい震えながらさ、背中を押してやってくれって言ってきたんだよ」
その言葉を聞くと、木の影で見えなかった生徒が姿を現した。金髪の、制服をきちんと着た生徒だった。
Ⅱ
他寮の生徒がどう見ても自分だけだっだことに気づいて、〇〇は消えたくなる気持ちだった。
何故〇〇がハーツラビュルのなんでもない日のパーティまでやって来たかといえば、リドルに招待されたからである。
リドル・ローズハートがオーバーブロットした日から数日後、ハーツラビュルの同級生がだいぶ教室に躊躇いなく入れるようになった〇〇に声をかけて来た。
「なぁ、うちの寮長からこれお前に渡すように言われたんだけど。なんだよいつの間に寮長とも仲良くなったのかー?」
〇〇は意味がわからないという顔で差し出されたカードを受け取り、その内容を見る。
「なんでもない日のパーティへの招待状…?」
「そうそう、今週の休みにうちの寮はパーティやるんだけどよ、お前も来るようにって寮長からのお達しだ」
二年B組はざわついた。
今まで俺たちとしか仲良くしてなかった〇〇が、ハーツラビュルのパーティ……!?
一部の者は今まで家で面倒を見ていた子供の幼稚園デビューのごとく感極まり、一部の者は自分の後ろばかりついて来ていた弟が友人をかっこいいと言い始めたかの如くショックを受け、一部の者はパーティだなんて早くないかと過保護だった。
「なんか寮長が伝えたいことがあるんだってよ。だからよかったら行ってやってくれな」
〇〇は招待状を見ながら無言だった。
その様子をラギーをはじめ周りのオカンどもはハラハラと見守る。そしてポツリとつぶやいた。
「手土産どうしよう」
二年B組は湧き上がる。
俺の知ってる一番いい手土産選手権の戦いのゴングが鳴った。
Ⅲ
「これ、手土産の焼き菓子と駄菓子と、お茶です。多分パーティには合わないと思うから、後で皆さんでどうぞ」
「うわぁ! これハンナ婆さんのところでしか置いてない駄菓子じゃん! 焼き菓子も輝石の国で知る人ぞ知るマイナーだけどめっちゃ評判の良い店のだし、お茶はこれ……東の国のお茶だよね?」
「じゃぁ、自分はこれで……」
「待った待った、こんなに良いものを持って来てくれたんだ。是非御馳走を食べて行ってくれ」
そそくさと帰ろうとした〇〇を止めたのは、〇〇が知らない先輩、トレイ・クローバーである。
「いや、俺は……」
「〇〇先輩!」
手土産を渡した〇〇はなんとか理由をつけてイグニハイドに帰ろうとしていたが、それを明るい聞き覚えのある声が止める。
「監督生さん……君も招待されてたんだ……」
「はい! 先輩も招待されてたなんて驚きました! 一緒にお菓子食べましょう!」
「監督生ー、そいつ誰ー?」
監督生までもが〇〇を引っ張ると、その友人らしき赤いハートのペイントがトレードマークの生徒から声があがる。だがそれに答えたのは監督生ではなかった。
「そいつだなんて言うものではないよエース。その人は歴とした君の先輩なのだから。それに僕が招待したゲストだ。失礼のないようにね」
そう言うとリドルは立ち上がり、未だに気まずそうにする〇〇の前までやってきた。
「やぁ、久しぶりだね。図書館以来だ」
「うん」
「あの時はお互い名乗らなかったね。僕はリドル・ローズハート。ハーツラビュルで寮長をしている二年生だ」
「……〇〇・〇〇。イグニハイドの二年生」
「今日は来てくれてありがとう。そして……」
リドルはまっすぐ立っていた腰をまげ、頭を下げた。
「あの時は理不尽に怒鳴った上に、君の考えを否定して、申し訳なかった」
リドルの行動に〇〇も、監督生も、トレイとケイトも、その場に居合わせた他の寮生たちも、驚きで言葉を失った。その空気に呑まれそうになりながらも、リドルは言葉を続ける。
「君は他寮の生徒なのに、とても真剣にハートの女王の法律を勉強していた。ただ頭に入れるだけでなく、自分の考えもしっかりと持って。その姿勢は見習うべきだったのに、僕は自分が受け入れたくないという理由で、君に、怒鳴ってしまった。本当に……ごめんなさぃ」
はじめははっきりと話していたリドルの声が、段々とか細く、小さくなっていく。
しばらく静寂が漂い、誰もが気まずそうにしている中、口を開いたのは〇〇だった。
「謝るのは、頭を下げるなんて、簡単なんだ。力抜いて自然に身を任せれば、簡単に頭は下にさがるよ」
〇〇の言葉に、周囲はギョッとする。
〇〇を知るクラスメイトの驚きは特に大きかった。
誰もがリドルは真摯に謝ったように見えたのだ。
「今が不安だとは思う。相手の顔は見えない、許されるのかまだわからない。視線は感じる。でももっと不安で怖いのは、頭を上げるときだ。
相手の目を見るときだよ」
リドルの頭はまだ下を向いたままだ。
「やっぱり、蜂蜜入りのレモネードだけじゃダメだと思う」
「……は?」
間抜けな声を出したのは誰だったか
「だって、このパーティにだってこんなに甘いものがいっぱいで。なのに蜂蜜入りのレモネード限定で飲むななんて言われても、すぐに虫歯コースだよ」
先ほどまで頭下げるなんて簡単だと言っていたはずなのにと、周囲は疑問に思う。話の内容についていけるのはリドルだけである。
「……夜はみんな勉強もするから、糖分は必要だ。だから甘いものを禁止にすると勉学に影響が出る。寝る前は歯を磨くことにしたほうがいいと思う」
頭を下げた状態のリドルが〇〇の言葉に続けた。
エーデュースは意味がわからずぽかんとしている。
「そうか。学校ということも踏まえて考えればもっと具体的になるのか。その点も踏まえておけばよかった。そうだよね。夜に勉強するとき甘いものほしいや。その観点は俺考えてなかった」
〇〇はリドルの観点からの提案を聞き、満足した。
「リドル君」
頭を下げてどのくらい時間が経ったのか、ようやくリドルは頭を上げた。〇〇に名前を呼ばれたことによって、頭を上げることを許された気がしたのだ。
「俺は勉強には結構一生懸命なんだ。だから図書館でリドル君に褒められたとき、すごく嬉しかった。今も、リドル君の考えが聞けて嬉しかった。だから、これで許すよ」
〇〇はそう言いながら持ってきた荷物をリドルの前に置く。中身は何十センチもある大量の紙の束である。
「ハートの女王の法律から俺が考察した当時の国民の生活と、今風に改案するならと、その理由を一条につき紙一枚にまとめたんだけど、リドル君の意見を聞かせてほしい。八一〇条分ね」
「いや無茶苦茶っしょ!?」
〇〇とリドルにしかわからない会話に、外野からのツッコミがついに入った。