一年生を三回やりました
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Ⅰ
十五歳のときに異世界の日本からやって来た〇〇は、ナイトレイブンカレッジに入学して三年がたつ。
本来ならば三年生になるはずの〇〇は、未だに一年生から進級していない。彼は一年生を三回経験している。
終わらないループに入った一年間を過ごし続けているわけでも、一年が終わるたびにトラ転しているといったファンタジーな理由ではない。
〇〇はナイトレイブンカレッジで三回留年をしている。
一年生一回目。
異世界からやってきたばかりの〇〇は、あまりの顔色の酷さを気まぐれに心配したクロウリーの提案で、入学式を病欠した。保健室へ行って薬をもらい、ベッドでぐっすりと熟睡すると気分は落ち着いたが、今後のことを考えると不安は拭えなかった。
クロウリーに言われて、入学式後に闇の鏡に名前を告げると、「汝はイグニハイド」と告げられる。クロウリーはすぐにイグニハイドの寮長に連絡を取ろうとしたが、〇〇は闇の鏡の前で座り込んでしまっていた。
魔法のない異世界からツイステッドワンダーランドにやってきたばかりの〇〇は、未知の力に恐怖を感じ、すべてに怯えてしまっていた。闇の鏡にも、自分の姿を映さないどころか、中から声のする鏡に怯えてしまっていたのだ。
その力を当たり前のように使う環境に、ナイトレイブンカレッジだけでなく異世界一年生の〇〇の頭ではキャパシティオーバーしてしまい、教室に行くこともできなかった。
闇の鏡に選ばれ、入学資格のあった〇〇を放っておくことができなかったナイトレイヴンカレッジは、偶然余っていた教師用の部屋の存在を思い出し、〇〇をその部屋に住まわせながら、ツイステッドワンダーランドに少しずつ慣れていくために生活を送らせた。主に保健室に通いながら、少しずつ外に出て空気になれていった。
そんな理由で〇〇は留年した。
一年生二回目。
異世界にいることをやっと受け入れることができた〇〇には、この世界の常識がまだまだ足りていなかった。
なので〇〇は必死になって勉強をするしかなかった。エレメンタリースクールとミドルスクールの勉強から。
絵本や漫画も紹介してもらいながら、ツイステッドワンダーランドの思想や文化に触れていった。
教師たちの協力を得られたこともあり、〇〇は日本で言う義務教育を一年で終わらせた。
当然ながらナイトレイブンカレッジの一年生の単位は全部落とした。留年である。
一年生三回目。
二年間をかけてようやく一年生のスタートラインに立てた〇〇は、新入生を名乗って教室に行くはずであった。
だがここで悲しい出来事が起こる。〇〇は後から知ることになったが、ナイトレイヴンカレッジを結構騒がせた事件となった。
入学式三日前から緊張しすぎて一睡もできなかった〇〇は、覚束ない足取りで校内を歩いていたせいでガラの悪すぎるヤンキーの上級生にぶつかり、ボコボコにされたのである。
そのヤンキーは家が良いところだったため、表向きの素行はよかったが、裏で問題を起こしては家の力で揉み消していた。運悪くその生徒を敵に回した魔法を使えない新一年生(当時十七歳)の〇〇が敵うはずもなかった。
その後ヤンキーはなんらかの呪いにかかったという噂が流れる。毎晩犬と猫と筋肉に襲われる悪夢を見て憔悴したという話である。そして起きると部屋にカラスの羽が大量に落ちている。
〇〇は全治二か月の怪我を負ったため教室に行くどころではなくなっていた。骨が折れたり打撲がひどかったりで、細すぎる体型を持つ〇〇を常日頃から心配していたバルガスは泣いた。
〇〇はしばらくは校内を歩くと震えが止まらなくなっていたので、結局不登校となった。
だがヤンキーの事件が起ころうと、ここは名門ナイトレイブンカレッジである。学ぼうともしないやつを無料で置いておくほど甘い場所ではないはずだった。
一年生三回目の〇〇はせめてできることをと、教室に行かなくてもできることを探した。ツイステッドワンダーランドで二年過ごして〇〇が自信を持てるようになったのは文字の読み書きだった。常識についてはまだ不安が残っていた。魔法は論外である。
読み書きならできると、職員室でクロウリーに伝えていたところ、一年生用の教科書を持ってきたトレインが言った。
「ならば魔法史は問題ないだろう。場所は職員室でいいから、まずはそこから学びなさい」
魔法史だけでも頑張ると決めた日からの展開は目まぐるしいものである。
〇〇は元の世界では歴史系科目は苦手だったが、図書館で教科書の範囲以外のことまで調べてみると、なかなか面白いことが学べると感じ始める。教科書ではとてつもなく悪人だと言われている人物が、実はとんでもなく善人なエピソードを持っていたりとか。その逆もしかりだ。
教室には行きたくないと言った〇〇に、当時の担任のクルーウェルが言った。
「仔犬、教室に行かないなら採点と資料整理を手伝え。量が多いからな。相応の賃金も出してやる」
採点なんてそんなにやる回数は多くないだろうと思っていたらそうでもなかったようで、この学校はどの科目も結構小テストを行っていた。はじめは生徒である〇〇がほかの生徒の点数を見てもいいのだろうかとも危惧していたが、このナイトレイヴンカレッジはテスト結果を張り出すというなかなかに鬼畜なタイプだったのであまり関係なかった。記述の問題はたまに変な回答もを見つけて笑っていた。
ただでさえ仕事の早いクルーウェルが、「最近授業内容を考える時間が増えて助かっている」と吹聴したところ、バルガスが言った。
「勉強とデスクワークだけでは筋肉が悲しむぞ! 箒の手入れを手伝ってくれ! ついでに飛び方も教えてやる!」
〇〇の初めての魔法は飛行術になった。
〇〇は魔法自体は使えるタイプであったが、バルガスはそれよりも〇〇の筋力のなさを心配していた。なので箒に乗る前に有酸素運動と無酸素運動も行った。そのおかげか筋肉が少しはついたかと期待していたが、〇〇の勘違いであった。
飛行術の授業では地に足がつかないことに当初は不安を抱いていたが、初めて浮くことができたとき、ようやくこの世界を受け入れられたと実感した。〇〇が初めて浮いたことに感動したバルガスは〇〇を高い高いし、箒で浮くことよりも強烈な恐怖を与えられた。
箒で空を飛べるようになった頃から、本格的に魔法の勉強が行われるようになった。クロウリーからマジカルペンをもらい、びくびくとしながら魔法の勉強をしている。
その頃は勉強や手伝いで忙しくなり、クロウリーと久しぶりに話をした際に叫ばれてしまった。
「先生方ずるいじゃないですか! 私だって手伝っていただきたいものです!」
クロウリーの仕事は代わりの効かないものばかりで、元の世界で家の喫茶店の手伝いをしていたことを話したところ、お茶汲み係に任命された。
Ⅱ
その日、〇〇は革命を起こした
「え? え? ええ? 今何が起こったんです?」
「データまとめてみました」
「いやいやそんなあっけらかんと! 一学年分のテストの点数をひとりひとりまとめた上に平均値まで出したと!? え!? 今月の経費管理も!? 一日で!?」
ナイトレイヴンカレッジでは魔法に頼ることは多いが、少々機械に弱いのではないかと〇〇は常々思っていた。生徒数はそれなりに多いが、プリントの作成は手書きだ。複製は一応魔法を使っているが、絶対に機械使った方が手間がかからないと〇〇は思っている。
更にプリントがいつも紙の片面しか使われていないのが〇〇をもやもやさせた。
ある日ツイステッドワンダーランドの東の方にある機械が発展している国が開発した表計算ソフトの存在を偶然発見したときの〇〇のテンションは高かった。
―――〇クセルがある……だと……?
〇〇はすぐさまクロウリーにパソコンをねだった。
職員室に道楽で買ったものの使いこなせませんでしたと言わんばかりの埃を被ったパソコンがある。古い型だったが、〇〇がメモリとストレージを増やしてだいぶ快適にした。
ついでにプリンターもクロウリーに買わせた。業務用のデカいやつである。教師たちの授業用のプリントのテンプレートも作った。贅沢に片面しか使われていなかったので、問答無用で両面印刷に切り替えた。エコである。
その日から〇〇の仕事はエ〇セルの鬼となった。
Ⅲ
「こうして見ると貴方もやはりイグニハイド生ですねぇ。パソコンの前にいるのが様になっていますよ」
「学園長さん、いい加減テンキーがほしいです」
「貴方のおかげで事務処理がとても楽になりました」
「学園長さん、そろそろ◯ワーポイントの導入も考えてほしいです」
「パワー◯イントだと!? いい名前だ! 筋肉を感じる!!」
「この貢献はただの昇給だけでは収まりません」
「そろそろ図書館もデータベース化した方がいいと思います。借りた人と返却日をすぐに検索できるように。あと本のある棚の検索も」
「なんと、図書館にもあの便利な機械は使えるのか?」
「貴方は今年で三回目の一年生ですが、これは大きな功績です」
「授業の出欠をなんかピッてできればな……でも不正する人も出そうだし……」
「仔犬、それは時代を先取りしすぎではないか?」
「人の! 話を! 聞いてください!!」
クロウリーは地団駄を踏みながら叫ぶ。
彼は学校で一番偉いという自覚があるのだろうか。羽が揺れて何本か抜けそうだ。掃除するの〇〇である。
だがそんな彼が続ける言葉は、その場にいる者全員に雷でも例えられない衝撃を落とした。
「貴方は! 来年度から! 二年生に! 進級です!!」
しばらく職員室の時が止まった。
一番最初に動いたのはクルーウェルである。クルーウェルはクロウリーの胸倉を叫びながら掴む。
「どどどどういうことだクロウリー!? おおお落ち着け!! このまま事務員にすればいいと言っていただろう!?」
「落ち着くのは貴方ですよクルーウェル先生。私は決めたんです。この子を! 我が校の! 卒業生にするって!!」
「貴殿は悪魔かな? まだ彼はこの世界に戸惑っているというのに……」
「何を甘やかしているのですかトレイン先生! この子は最近暇さえあれば街を散策しての店の店員や客と仲良くお喋りまでするほどこの世界に馴染んでいますよ!」
「クロウリー! コイツの筋肉を見ても何も思わないのか!? こんなに痩せ細って…! 筋肉と心に栄養が入っていないんだぞ!!」
「彼の骨とも思えるガリガリ具合は確かに可哀想になるくらいですがバルガス先生、私は知っていますからね! 毎日もりもりと肉も野菜も魚もバリムシャァしてることを!!」
「……俺、教室に行けるかわからないです」
「何を言うんです! 貴方を苛める卑怯者などこの学園に……多分もういません! 多分!!」
「言い切って欲しかった……」
ふざけた雰囲気ながらもいたって真剣だったクロウリーの宣言で、〇〇は二年生になることが決定してしまったのだ。
十五歳のときに異世界の日本からやって来た〇〇は、ナイトレイブンカレッジに入学して三年がたつ。
本来ならば三年生になるはずの〇〇は、未だに一年生から進級していない。彼は一年生を三回経験している。
終わらないループに入った一年間を過ごし続けているわけでも、一年が終わるたびにトラ転しているといったファンタジーな理由ではない。
〇〇はナイトレイブンカレッジで三回留年をしている。
一年生一回目。
異世界からやってきたばかりの〇〇は、あまりの顔色の酷さを気まぐれに心配したクロウリーの提案で、入学式を病欠した。保健室へ行って薬をもらい、ベッドでぐっすりと熟睡すると気分は落ち着いたが、今後のことを考えると不安は拭えなかった。
クロウリーに言われて、入学式後に闇の鏡に名前を告げると、「汝はイグニハイド」と告げられる。クロウリーはすぐにイグニハイドの寮長に連絡を取ろうとしたが、〇〇は闇の鏡の前で座り込んでしまっていた。
魔法のない異世界からツイステッドワンダーランドにやってきたばかりの〇〇は、未知の力に恐怖を感じ、すべてに怯えてしまっていた。闇の鏡にも、自分の姿を映さないどころか、中から声のする鏡に怯えてしまっていたのだ。
その力を当たり前のように使う環境に、ナイトレイブンカレッジだけでなく異世界一年生の〇〇の頭ではキャパシティオーバーしてしまい、教室に行くこともできなかった。
闇の鏡に選ばれ、入学資格のあった〇〇を放っておくことができなかったナイトレイヴンカレッジは、偶然余っていた教師用の部屋の存在を思い出し、〇〇をその部屋に住まわせながら、ツイステッドワンダーランドに少しずつ慣れていくために生活を送らせた。主に保健室に通いながら、少しずつ外に出て空気になれていった。
そんな理由で〇〇は留年した。
一年生二回目。
異世界にいることをやっと受け入れることができた〇〇には、この世界の常識がまだまだ足りていなかった。
なので〇〇は必死になって勉強をするしかなかった。エレメンタリースクールとミドルスクールの勉強から。
絵本や漫画も紹介してもらいながら、ツイステッドワンダーランドの思想や文化に触れていった。
教師たちの協力を得られたこともあり、〇〇は日本で言う義務教育を一年で終わらせた。
当然ながらナイトレイブンカレッジの一年生の単位は全部落とした。留年である。
一年生三回目。
二年間をかけてようやく一年生のスタートラインに立てた〇〇は、新入生を名乗って教室に行くはずであった。
だがここで悲しい出来事が起こる。〇〇は後から知ることになったが、ナイトレイヴンカレッジを結構騒がせた事件となった。
入学式三日前から緊張しすぎて一睡もできなかった〇〇は、覚束ない足取りで校内を歩いていたせいでガラの悪すぎるヤンキーの上級生にぶつかり、ボコボコにされたのである。
そのヤンキーは家が良いところだったため、表向きの素行はよかったが、裏で問題を起こしては家の力で揉み消していた。運悪くその生徒を敵に回した魔法を使えない新一年生(当時十七歳)の〇〇が敵うはずもなかった。
その後ヤンキーはなんらかの呪いにかかったという噂が流れる。毎晩犬と猫と筋肉に襲われる悪夢を見て憔悴したという話である。そして起きると部屋にカラスの羽が大量に落ちている。
〇〇は全治二か月の怪我を負ったため教室に行くどころではなくなっていた。骨が折れたり打撲がひどかったりで、細すぎる体型を持つ〇〇を常日頃から心配していたバルガスは泣いた。
〇〇はしばらくは校内を歩くと震えが止まらなくなっていたので、結局不登校となった。
だがヤンキーの事件が起ころうと、ここは名門ナイトレイブンカレッジである。学ぼうともしないやつを無料で置いておくほど甘い場所ではないはずだった。
一年生三回目の〇〇はせめてできることをと、教室に行かなくてもできることを探した。ツイステッドワンダーランドで二年過ごして〇〇が自信を持てるようになったのは文字の読み書きだった。常識についてはまだ不安が残っていた。魔法は論外である。
読み書きならできると、職員室でクロウリーに伝えていたところ、一年生用の教科書を持ってきたトレインが言った。
「ならば魔法史は問題ないだろう。場所は職員室でいいから、まずはそこから学びなさい」
魔法史だけでも頑張ると決めた日からの展開は目まぐるしいものである。
〇〇は元の世界では歴史系科目は苦手だったが、図書館で教科書の範囲以外のことまで調べてみると、なかなか面白いことが学べると感じ始める。教科書ではとてつもなく悪人だと言われている人物が、実はとんでもなく善人なエピソードを持っていたりとか。その逆もしかりだ。
教室には行きたくないと言った〇〇に、当時の担任のクルーウェルが言った。
「仔犬、教室に行かないなら採点と資料整理を手伝え。量が多いからな。相応の賃金も出してやる」
採点なんてそんなにやる回数は多くないだろうと思っていたらそうでもなかったようで、この学校はどの科目も結構小テストを行っていた。はじめは生徒である〇〇がほかの生徒の点数を見てもいいのだろうかとも危惧していたが、このナイトレイヴンカレッジはテスト結果を張り出すというなかなかに鬼畜なタイプだったのであまり関係なかった。記述の問題はたまに変な回答もを見つけて笑っていた。
ただでさえ仕事の早いクルーウェルが、「最近授業内容を考える時間が増えて助かっている」と吹聴したところ、バルガスが言った。
「勉強とデスクワークだけでは筋肉が悲しむぞ! 箒の手入れを手伝ってくれ! ついでに飛び方も教えてやる!」
〇〇の初めての魔法は飛行術になった。
〇〇は魔法自体は使えるタイプであったが、バルガスはそれよりも〇〇の筋力のなさを心配していた。なので箒に乗る前に有酸素運動と無酸素運動も行った。そのおかげか筋肉が少しはついたかと期待していたが、〇〇の勘違いであった。
飛行術の授業では地に足がつかないことに当初は不安を抱いていたが、初めて浮くことができたとき、ようやくこの世界を受け入れられたと実感した。〇〇が初めて浮いたことに感動したバルガスは〇〇を高い高いし、箒で浮くことよりも強烈な恐怖を与えられた。
箒で空を飛べるようになった頃から、本格的に魔法の勉強が行われるようになった。クロウリーからマジカルペンをもらい、びくびくとしながら魔法の勉強をしている。
その頃は勉強や手伝いで忙しくなり、クロウリーと久しぶりに話をした際に叫ばれてしまった。
「先生方ずるいじゃないですか! 私だって手伝っていただきたいものです!」
クロウリーの仕事は代わりの効かないものばかりで、元の世界で家の喫茶店の手伝いをしていたことを話したところ、お茶汲み係に任命された。
Ⅱ
その日、〇〇は革命を起こした
「え? え? ええ? 今何が起こったんです?」
「データまとめてみました」
「いやいやそんなあっけらかんと! 一学年分のテストの点数をひとりひとりまとめた上に平均値まで出したと!? え!? 今月の経費管理も!? 一日で!?」
ナイトレイヴンカレッジでは魔法に頼ることは多いが、少々機械に弱いのではないかと〇〇は常々思っていた。生徒数はそれなりに多いが、プリントの作成は手書きだ。複製は一応魔法を使っているが、絶対に機械使った方が手間がかからないと〇〇は思っている。
更にプリントがいつも紙の片面しか使われていないのが〇〇をもやもやさせた。
ある日ツイステッドワンダーランドの東の方にある機械が発展している国が開発した表計算ソフトの存在を偶然発見したときの〇〇のテンションは高かった。
―――〇クセルがある……だと……?
〇〇はすぐさまクロウリーにパソコンをねだった。
職員室に道楽で買ったものの使いこなせませんでしたと言わんばかりの埃を被ったパソコンがある。古い型だったが、〇〇がメモリとストレージを増やしてだいぶ快適にした。
ついでにプリンターもクロウリーに買わせた。業務用のデカいやつである。教師たちの授業用のプリントのテンプレートも作った。贅沢に片面しか使われていなかったので、問答無用で両面印刷に切り替えた。エコである。
その日から〇〇の仕事はエ〇セルの鬼となった。
Ⅲ
「こうして見ると貴方もやはりイグニハイド生ですねぇ。パソコンの前にいるのが様になっていますよ」
「学園長さん、いい加減テンキーがほしいです」
「貴方のおかげで事務処理がとても楽になりました」
「学園長さん、そろそろ◯ワーポイントの導入も考えてほしいです」
「パワー◯イントだと!? いい名前だ! 筋肉を感じる!!」
「この貢献はただの昇給だけでは収まりません」
「そろそろ図書館もデータベース化した方がいいと思います。借りた人と返却日をすぐに検索できるように。あと本のある棚の検索も」
「なんと、図書館にもあの便利な機械は使えるのか?」
「貴方は今年で三回目の一年生ですが、これは大きな功績です」
「授業の出欠をなんかピッてできればな……でも不正する人も出そうだし……」
「仔犬、それは時代を先取りしすぎではないか?」
「人の! 話を! 聞いてください!!」
クロウリーは地団駄を踏みながら叫ぶ。
彼は学校で一番偉いという自覚があるのだろうか。羽が揺れて何本か抜けそうだ。掃除するの〇〇である。
だがそんな彼が続ける言葉は、その場にいる者全員に雷でも例えられない衝撃を落とした。
「貴方は! 来年度から! 二年生に! 進級です!!」
しばらく職員室の時が止まった。
一番最初に動いたのはクルーウェルである。クルーウェルはクロウリーの胸倉を叫びながら掴む。
「どどどどういうことだクロウリー!? おおお落ち着け!! このまま事務員にすればいいと言っていただろう!?」
「落ち着くのは貴方ですよクルーウェル先生。私は決めたんです。この子を! 我が校の! 卒業生にするって!!」
「貴殿は悪魔かな? まだ彼はこの世界に戸惑っているというのに……」
「何を甘やかしているのですかトレイン先生! この子は最近暇さえあれば街を散策しての店の店員や客と仲良くお喋りまでするほどこの世界に馴染んでいますよ!」
「クロウリー! コイツの筋肉を見ても何も思わないのか!? こんなに痩せ細って…! 筋肉と心に栄養が入っていないんだぞ!!」
「彼の骨とも思えるガリガリ具合は確かに可哀想になるくらいですがバルガス先生、私は知っていますからね! 毎日もりもりと肉も野菜も魚もバリムシャァしてることを!!」
「……俺、教室に行けるかわからないです」
「何を言うんです! 貴方を苛める卑怯者などこの学園に……多分もういません! 多分!!」
「言い切って欲しかった……」
ふざけた雰囲気ながらもいたって真剣だったクロウリーの宣言で、〇〇は二年生になることが決定してしまったのだ。
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