バッハ
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「ねぇ、なおちゃん?」
「なぁに、ひな」
「私たち、別れよっか」
「え?」
突然。別れようだなんて切り出されて。
深夜二時。
寝られずに、電気を消した部屋に、ただつけっぱなしのテレビ。少し前までゲームをしていたから、目の前のテーブルにはお菓子と空いたお酒の缶。
菜緒にもたれた陽菜が、眠そうに、でも、はっきりと。
聞き間違いであって欲しい。そう願っても、間違いではなくて。
「…どうして?」
「なおちゃんは知らなくていいよ」
ますます気になる。けど、それを聞く勇気は私には持ち合わせてない。
「ほら、なおちゃん寝るよ」
いつもの調子に戻って、先に寝室へ向かう陽菜。あっという間に、散らかってたテーブルは片付いて、ぐちゃぐちゃなのはなおの心だけ。
このまま寝てしまったらきっと。
ベッドに2人で入って、腕にぎゅっとしがみつく。離れない、離さないぞというように。嫌な予感って当たるもんだから。
雀が鳴いて、朝が来たことを告げる。隣にあったはずの温もりはなくて。
「…ひな?」
つい数時間前まであった、陽菜の面影はひとつもない。
お揃いで買ったイヤリングもネックレスも、片方だけが残されて。
そこからは抜け殻みたいな日々。
でも、仕事はしっかりと。と、言いたいけれど。定時間際に毎日来ていた、「おつかれさま、今日はね〜」と綴られた連絡も、「ただいま」と言えば「おかえり」と返ってくることもなくて。
いなくなるなら、もう少し早く、心の準備出来てたのに。
「菜緒、陽菜に会いなよ」
「え?」
陽菜がいなくなって一年。ようやく忘れそうで、でもやっぱり忘れられなくて、みたいな感情で。
自分の生活すらままならなくなっていたようで、久しぶりに海外から戻ってきた友人の美玖と同居を始めて半年くらい。
ここまでボロボロの理由を知った美玖は、いつの間にか陽菜を探していたようで。
「ここ、ここにいるから」
「いやや」
「会わないと、菜緒は」
「後悔するんは分かってる、でも、会いたくないんよ」
「理由も全部、聞いておいで」
「いややって」
「そうやって、ずっと立ち止まって、前を向けないのは菜緒なんだよ?」
なんで美玖が泣きそうなんよ。
「……わかった」
「うん」
電車で一時間とちょっと。少し奥にあるような一軒家。
呼び鈴を鳴らそうとする指は震えて。
「はーい、どちらさ、ま、」
「このちゃん?」
「菜緒?」
「陽菜っておる?」
「いるよ」
「話したい」
「分かった、奥にいるよ」
長い廊下を歩いた突き当たり。日当たりのいい角部屋。窓を開けて、風でカーテンが靡いて、陽菜が現れる。
「ひな」
「なぁに、なおちゃん」
「どうしてちゃんと言ってくれんかったん?」
「見つかっちゃったか」
猫は死ぬ間際に隠れたり甘えたりするという。それが顕著に。陽菜は猫みたいな性格だと思っていたけれど、ここまでとは。
「でもね、なおちゃんもなかなかに猫みたいだよ」
「そんなわけない」
「いいや、あるね」
「ふふん」なんて言い出しそうなくらいに得意気な顔で。ただ、やつれて、動くのにも一苦労っぽくて。
「なおちゃん、元気でね」
「ひなこそね」
もうこの先会うことはないだろうけれど。
会えてよかったと、そう思うだろうから。
私は前を向くよ。
「なぁに、ひな」
「私たち、別れよっか」
「え?」
突然。別れようだなんて切り出されて。
深夜二時。
寝られずに、電気を消した部屋に、ただつけっぱなしのテレビ。少し前までゲームをしていたから、目の前のテーブルにはお菓子と空いたお酒の缶。
菜緒にもたれた陽菜が、眠そうに、でも、はっきりと。
聞き間違いであって欲しい。そう願っても、間違いではなくて。
「…どうして?」
「なおちゃんは知らなくていいよ」
ますます気になる。けど、それを聞く勇気は私には持ち合わせてない。
「ほら、なおちゃん寝るよ」
いつもの調子に戻って、先に寝室へ向かう陽菜。あっという間に、散らかってたテーブルは片付いて、ぐちゃぐちゃなのはなおの心だけ。
このまま寝てしまったらきっと。
ベッドに2人で入って、腕にぎゅっとしがみつく。離れない、離さないぞというように。嫌な予感って当たるもんだから。
雀が鳴いて、朝が来たことを告げる。隣にあったはずの温もりはなくて。
「…ひな?」
つい数時間前まであった、陽菜の面影はひとつもない。
お揃いで買ったイヤリングもネックレスも、片方だけが残されて。
そこからは抜け殻みたいな日々。
でも、仕事はしっかりと。と、言いたいけれど。定時間際に毎日来ていた、「おつかれさま、今日はね〜」と綴られた連絡も、「ただいま」と言えば「おかえり」と返ってくることもなくて。
いなくなるなら、もう少し早く、心の準備出来てたのに。
「菜緒、陽菜に会いなよ」
「え?」
陽菜がいなくなって一年。ようやく忘れそうで、でもやっぱり忘れられなくて、みたいな感情で。
自分の生活すらままならなくなっていたようで、久しぶりに海外から戻ってきた友人の美玖と同居を始めて半年くらい。
ここまでボロボロの理由を知った美玖は、いつの間にか陽菜を探していたようで。
「ここ、ここにいるから」
「いやや」
「会わないと、菜緒は」
「後悔するんは分かってる、でも、会いたくないんよ」
「理由も全部、聞いておいで」
「いややって」
「そうやって、ずっと立ち止まって、前を向けないのは菜緒なんだよ?」
なんで美玖が泣きそうなんよ。
「……わかった」
「うん」
電車で一時間とちょっと。少し奥にあるような一軒家。
呼び鈴を鳴らそうとする指は震えて。
「はーい、どちらさ、ま、」
「このちゃん?」
「菜緒?」
「陽菜っておる?」
「いるよ」
「話したい」
「分かった、奥にいるよ」
長い廊下を歩いた突き当たり。日当たりのいい角部屋。窓を開けて、風でカーテンが靡いて、陽菜が現れる。
「ひな」
「なぁに、なおちゃん」
「どうしてちゃんと言ってくれんかったん?」
「見つかっちゃったか」
猫は死ぬ間際に隠れたり甘えたりするという。それが顕著に。陽菜は猫みたいな性格だと思っていたけれど、ここまでとは。
「でもね、なおちゃんもなかなかに猫みたいだよ」
「そんなわけない」
「いいや、あるね」
「ふふん」なんて言い出しそうなくらいに得意気な顔で。ただ、やつれて、動くのにも一苦労っぽくて。
「なおちゃん、元気でね」
「ひなこそね」
もうこの先会うことはないだろうけれど。
会えてよかったと、そう思うだろうから。
私は前を向くよ。
2/2ページ
