佐藤×高井
夢小説設定
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毎朝同じ駅を使うあの子が羨ましかった。
あの子はきっと、毎朝逃げるように家を出たことも、帰りたくなくて学校が閉まるギリギリまで教室にいることもないんだろうな。親にバイト代も盗られることもないだろうし、バイトなんてまだしてないんだろうな。
今日もあの子が数駅前で降りるのを勝手に見送って、学校に向かう。
提出を急かされる進路希望は、未だ空欄のまま。三者面談の日程調整表も親に見せてない。
「ゆうちゃんおはよ」
「さきてぃおはよ」
「進路希望さ、」
「…うん」
「まだ書けてないんでしょ?適当に書いて逃げちゃえば?」
「それができたらいいんだけどね」
「そうだよね」
私の家庭事情が複雑なのを知ってる紗希は、それ以上は聞かない。今までずっと迷惑をかけてしまっているから。これ以上は迷惑かけられない。
「あの子みたいに幸せだったらな」
「あの子?」
「あ、いや、なんでもない」
授業中も休み時間も放課後も。ずっと空っぽなのに詰め込みすぎた脳みそはぐるぐるして。意味の無い思考だけが邪魔をする。
「なんか楽しそうだなぁ」と酒を飲んでケラケラと笑う父の拳が飛んでくるのも、「あんたが幸せになんてなっちゃダメなのよ」と母から発される言葉が突き刺さって。いつもなら部屋に籠るだけなのに、今日は家を飛び出した。
誰でもいいから電話に出てと、紗希のボタンに手をかける。でも、紗希にこれ以上迷惑をかけられないからと、紗希が表示されている画面を戻す。
「いっその事、ゆうがいなくなっちゃえば全部終わることか」
と、数駅離れた海へと歩く。この時期、昼間ですら海水はもう冷たくて。きっとこの時間は凍えるとかの程度じゃない。
「つめた、」
「え、何してんですか?!」
遠くから聞こえる声は、可愛らしくて、立ち止まってしまう。あぁ、あの子だ。どうしてここにいるんだろう。日付が変わる少し前、住宅街からも離れた海辺だというのに。
「早くあがって、」
と、腕を伸ばしながらこっちに向かってくる。どうしてこの子まで海に浸かってるんだろうか。こっちが一方的に知ってるとはいえ、見ず知らずの人間に何故にここまでするのだろう。
「ねぇ、幸せってなんだと思う?」
「幸せですか…?」
こんなとこで聞くことじゃないけど。
「あなたの考える幸せってなんですか?」
「え?」
「幸せって、いくつも種類があると思うんです。私が今、あなたと出会えたのも幸せの一種だから」
「ないものねだりってこと?」
「今から探してみるのもいいんじゃないですか?」
「ほら、帰りましょ」と差し出された手を掴んでしまった。この先、自分が思う幸せには遠回りかもしれないけれど。この手を掴んでしまったから。
「さっむい」
「そりゃ、あんなに海にいましたから」
あの子はきっと、毎朝逃げるように家を出たことも、帰りたくなくて学校が閉まるギリギリまで教室にいることもないんだろうな。親にバイト代も盗られることもないだろうし、バイトなんてまだしてないんだろうな。
今日もあの子が数駅前で降りるのを勝手に見送って、学校に向かう。
提出を急かされる進路希望は、未だ空欄のまま。三者面談の日程調整表も親に見せてない。
「ゆうちゃんおはよ」
「さきてぃおはよ」
「進路希望さ、」
「…うん」
「まだ書けてないんでしょ?適当に書いて逃げちゃえば?」
「それができたらいいんだけどね」
「そうだよね」
私の家庭事情が複雑なのを知ってる紗希は、それ以上は聞かない。今までずっと迷惑をかけてしまっているから。これ以上は迷惑かけられない。
「あの子みたいに幸せだったらな」
「あの子?」
「あ、いや、なんでもない」
授業中も休み時間も放課後も。ずっと空っぽなのに詰め込みすぎた脳みそはぐるぐるして。意味の無い思考だけが邪魔をする。
「なんか楽しそうだなぁ」と酒を飲んでケラケラと笑う父の拳が飛んでくるのも、「あんたが幸せになんてなっちゃダメなのよ」と母から発される言葉が突き刺さって。いつもなら部屋に籠るだけなのに、今日は家を飛び出した。
誰でもいいから電話に出てと、紗希のボタンに手をかける。でも、紗希にこれ以上迷惑をかけられないからと、紗希が表示されている画面を戻す。
「いっその事、ゆうがいなくなっちゃえば全部終わることか」
と、数駅離れた海へと歩く。この時期、昼間ですら海水はもう冷たくて。きっとこの時間は凍えるとかの程度じゃない。
「つめた、」
「え、何してんですか?!」
遠くから聞こえる声は、可愛らしくて、立ち止まってしまう。あぁ、あの子だ。どうしてここにいるんだろう。日付が変わる少し前、住宅街からも離れた海辺だというのに。
「早くあがって、」
と、腕を伸ばしながらこっちに向かってくる。どうしてこの子まで海に浸かってるんだろうか。こっちが一方的に知ってるとはいえ、見ず知らずの人間に何故にここまでするのだろう。
「ねぇ、幸せってなんだと思う?」
「幸せですか…?」
こんなとこで聞くことじゃないけど。
「あなたの考える幸せってなんですか?」
「え?」
「幸せって、いくつも種類があると思うんです。私が今、あなたと出会えたのも幸せの一種だから」
「ないものねだりってこと?」
「今から探してみるのもいいんじゃないですか?」
「ほら、帰りましょ」と差し出された手を掴んでしまった。この先、自分が思う幸せには遠回りかもしれないけれど。この手を掴んでしまったから。
「さっむい」
「そりゃ、あんなに海にいましたから」
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