的野×向井
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外に出るだけで嫌というほどに汗が滲む。照りつける太陽からの日差しは焼けるように暑い。だから、夏は嫌いなんだ。垂れてきた汗をTシャツで拭って漕いでいた自転車のペダルに足をかける。
ミーンミーンと煩い蝉の声と夏休みが始まって賑やかになった海水浴場をBGMに海岸線に自転車を走らせる。
人気からか人が途切れることを知らない海の家の裏に自転車を停めて入口を覗くと、いそいそと動く純葉。純葉は親戚が海の家のオーナーだからという理由で夏休み限定で働いている。
「あー!みお!いらっしゃい!」
「おはよ純葉」
「んー!おはよぉー!」
「元気だね純葉は」
「そりゃ朝から動いてますから。…はーい!今行きまーす!」
「いつもの場所で待ってるね」
「うん、あとから行く」
海の家から少し離れた人が来ない防波堤。縁に腰掛けて足を投げ出す。小さい頃から夏が来たら、純葉は海の家でお手伝い。だから必然と私も海へ足を運ぶことが多くなっていた。何度も見たこの光景。この景色を懐かしいと思う日が来るのかなんて思ったり。
慣れたこの土地を離れて大学に行く私。まだ、誰にも言ってない。もちろん純葉にも。きっと純葉はこの地を離れない。多分純葉はこの街のことが好きだから。純葉に何年も抱いてるこの気持ちも一緒に遠くの地へ持っていくことにしよう。ただの友達で、運良く幼なじみなんて肩書きがあるだけ。この肩書きに甘えて、今の関係性を壊したくなくて。って言い訳して。本当なら『すき』のたった2文字を伝えればいいだけなのに。あいにくそんな勇気は持ち合わせていないから、自分の気持ちにも嘘をつく。
考えすぎたのか、夏の暑さにやられたのかはわかんないけど、脳が溶けだすような気がして、寝転がる。もう焼けたっていいや。純葉が来るまで寝てしまおう。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
うだる暑さに耐え切れなくなって薄く目を開ける。どのくらい寝ていたのだろうか。ジリジリと焼けた肌が痛い。ひとつ伸びをして欠伸をかます。
「んんー、暑い、痛い」
「そんなとこで寝てるからでしょ」
「だって、眠かったんだもん」
「焼けても知らんよ」
「多分明日には真っ赤っか」
手伝いが終わってこちらに合流した純葉は、片手に焼きそばが入ったタッパを手下げていた。口いっぱいに麺を詰め込んでもぐもぐと口を動かしている純葉、一見するとリスみたいで可愛らしい。この癖もずっと前から変わっていない。誰も純葉の食べ物取らないからゆっくり食べなって言っても変わらない。こうやってずっと隣にいて見れた特権も、この先は誰かに取られてしまうのかと考えたら胸が苦しい。
「そういえばさ、みおは、もう進路提出した?」
「…うん。した。」
「えっ?どこにした?みおのことだろうからどっか行くんやろうけど」
「そう。東京の学校行くことにした」
「やっぱりそっか」
「何?寂しいとかそういうこと?」
「それもあるけど、そうやって夢があるのが羨ましくって」
「…どういうこと?」
「あっ、なんでもない、、、忘れて。」
その時の純葉の顔はひどく哀しげで虚ろだった。この時、その理由を聞けば良かったのに、好意すら伝えられないヘタレな私はこの話を流してしまった。この理由は3年後、この土地に帰ってきた時に知ることとなった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「ただいまー」
「おかえりー、何年振り?」
「今年21だから3年振り」
「そんなに経ったかね」
「だって大3だからね」
久しぶりに帰ってきた地元。やっぱり空気が美味しい。ずっと通っていた通学路も、防波堤も、何も変わっていなくて。一通り思い出の場所を回って、最後に純葉の家へと向かう。この3年間純葉と連絡をしていないわけではなく、定期的に連絡はしていた。
ピンポーンと少し抜けた音がするインターフォンを押して出てきたのは純葉…ではなく、純葉のお母さん。久しぶりね~おっきくなったわね~なんて声をかけられたけど、頭ん中は純葉のことばっかで早く会いたいと焦燥が勝つ。
「あ、純葉なら海にいると思うわ」
「ありがとうございます」
「いーや、なんもよ~また来てね~」
「はぁい」
海にいるというから、自転車に跨ってめいっぱいにペダルを漕ぐ。防波堤にポツンと立つ純葉を見つけ、半ば自転車を捨てるように置いて向かう。夕日が沈む頃、声をかけてみても純葉はこっちを向くことはなかった。こんなこと知りたくなかった。
「純葉、ただいま」
「みう?…おかえり」
こっちを振り返ってはくれたけど、目が合う気配は一切としてない。目は開いているはずなのに、その瞳に私の姿がただ反射しているだけ。瞳に映ってるだろうか。なんて映画とか小説で言われてることはあるけど、映るだけじゃダメなんだよと初めて思った。
あの夏、言葉に詰まっていた理由はこれかと。不思議と涙が出てきた。今だけは純葉の目が見えなくて良かったと思う。見えてるやつが泣いてるなんて見て欲しくないから。
「ごめんねみお、このこと伝えられてなくて」
「それって、まさか高3の時には分かってたことだったの?」
「みおにはなんでもお見通しだね」
3年間の溝を埋めるように、あったこと話したかったことをマシンガンの如く喋る。あの夏に過ごしたみたいに防波堤の縁に座って。
純葉に言われたのは、あんなにも純葉のことを知ってたと思ってた私が知らないことばっかで。なにも純葉のこと知らなかったじゃないかと。高校生の時から段々と目が見えなくなったのは初めて知ったことだったし、高3の時は半分見えてなかったことだって。
今すぐにでも逃げ出したかった。いや、もう逃げてるか。『夢があるのが羨ましい』ってそういうことだったのかと。純葉が昔からやりたいって言ってたことも今の状態じゃできっこない。煩い蝉の声が脳を侵食して思考を止めようとする。
「みおはさ、いま幸せ?」
「…っ、幸せじゃないって言ったら嘘になる」
「なら、よかった」
「でも、純葉がいないほうが辛かった」
「ふぅん、そっか。」
「それだけ」
好きだったなんて言えない。言えるわけないから、このまま仲のいい幼なじみのまんまで。この関係でいい。だから、、。いいや。なんでもない。この気持ち全部波に流れてくれないかな。
ミーンミーンと煩い蝉の声と夏休みが始まって賑やかになった海水浴場をBGMに海岸線に自転車を走らせる。
人気からか人が途切れることを知らない海の家の裏に自転車を停めて入口を覗くと、いそいそと動く純葉。純葉は親戚が海の家のオーナーだからという理由で夏休み限定で働いている。
「あー!みお!いらっしゃい!」
「おはよ純葉」
「んー!おはよぉー!」
「元気だね純葉は」
「そりゃ朝から動いてますから。…はーい!今行きまーす!」
「いつもの場所で待ってるね」
「うん、あとから行く」
海の家から少し離れた人が来ない防波堤。縁に腰掛けて足を投げ出す。小さい頃から夏が来たら、純葉は海の家でお手伝い。だから必然と私も海へ足を運ぶことが多くなっていた。何度も見たこの光景。この景色を懐かしいと思う日が来るのかなんて思ったり。
慣れたこの土地を離れて大学に行く私。まだ、誰にも言ってない。もちろん純葉にも。きっと純葉はこの地を離れない。多分純葉はこの街のことが好きだから。純葉に何年も抱いてるこの気持ちも一緒に遠くの地へ持っていくことにしよう。ただの友達で、運良く幼なじみなんて肩書きがあるだけ。この肩書きに甘えて、今の関係性を壊したくなくて。って言い訳して。本当なら『すき』のたった2文字を伝えればいいだけなのに。あいにくそんな勇気は持ち合わせていないから、自分の気持ちにも嘘をつく。
考えすぎたのか、夏の暑さにやられたのかはわかんないけど、脳が溶けだすような気がして、寝転がる。もう焼けたっていいや。純葉が来るまで寝てしまおう。
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うだる暑さに耐え切れなくなって薄く目を開ける。どのくらい寝ていたのだろうか。ジリジリと焼けた肌が痛い。ひとつ伸びをして欠伸をかます。
「んんー、暑い、痛い」
「そんなとこで寝てるからでしょ」
「だって、眠かったんだもん」
「焼けても知らんよ」
「多分明日には真っ赤っか」
手伝いが終わってこちらに合流した純葉は、片手に焼きそばが入ったタッパを手下げていた。口いっぱいに麺を詰め込んでもぐもぐと口を動かしている純葉、一見するとリスみたいで可愛らしい。この癖もずっと前から変わっていない。誰も純葉の食べ物取らないからゆっくり食べなって言っても変わらない。こうやってずっと隣にいて見れた特権も、この先は誰かに取られてしまうのかと考えたら胸が苦しい。
「そういえばさ、みおは、もう進路提出した?」
「…うん。した。」
「えっ?どこにした?みおのことだろうからどっか行くんやろうけど」
「そう。東京の学校行くことにした」
「やっぱりそっか」
「何?寂しいとかそういうこと?」
「それもあるけど、そうやって夢があるのが羨ましくって」
「…どういうこと?」
「あっ、なんでもない、、、忘れて。」
その時の純葉の顔はひどく哀しげで虚ろだった。この時、その理由を聞けば良かったのに、好意すら伝えられないヘタレな私はこの話を流してしまった。この理由は3年後、この土地に帰ってきた時に知ることとなった。
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「ただいまー」
「おかえりー、何年振り?」
「今年21だから3年振り」
「そんなに経ったかね」
「だって大3だからね」
久しぶりに帰ってきた地元。やっぱり空気が美味しい。ずっと通っていた通学路も、防波堤も、何も変わっていなくて。一通り思い出の場所を回って、最後に純葉の家へと向かう。この3年間純葉と連絡をしていないわけではなく、定期的に連絡はしていた。
ピンポーンと少し抜けた音がするインターフォンを押して出てきたのは純葉…ではなく、純葉のお母さん。久しぶりね~おっきくなったわね~なんて声をかけられたけど、頭ん中は純葉のことばっかで早く会いたいと焦燥が勝つ。
「あ、純葉なら海にいると思うわ」
「ありがとうございます」
「いーや、なんもよ~また来てね~」
「はぁい」
海にいるというから、自転車に跨ってめいっぱいにペダルを漕ぐ。防波堤にポツンと立つ純葉を見つけ、半ば自転車を捨てるように置いて向かう。夕日が沈む頃、声をかけてみても純葉はこっちを向くことはなかった。こんなこと知りたくなかった。
「純葉、ただいま」
「みう?…おかえり」
こっちを振り返ってはくれたけど、目が合う気配は一切としてない。目は開いているはずなのに、その瞳に私の姿がただ反射しているだけ。瞳に映ってるだろうか。なんて映画とか小説で言われてることはあるけど、映るだけじゃダメなんだよと初めて思った。
あの夏、言葉に詰まっていた理由はこれかと。不思議と涙が出てきた。今だけは純葉の目が見えなくて良かったと思う。見えてるやつが泣いてるなんて見て欲しくないから。
「ごめんねみお、このこと伝えられてなくて」
「それって、まさか高3の時には分かってたことだったの?」
「みおにはなんでもお見通しだね」
3年間の溝を埋めるように、あったこと話したかったことをマシンガンの如く喋る。あの夏に過ごしたみたいに防波堤の縁に座って。
純葉に言われたのは、あんなにも純葉のことを知ってたと思ってた私が知らないことばっかで。なにも純葉のこと知らなかったじゃないかと。高校生の時から段々と目が見えなくなったのは初めて知ったことだったし、高3の時は半分見えてなかったことだって。
今すぐにでも逃げ出したかった。いや、もう逃げてるか。『夢があるのが羨ましい』ってそういうことだったのかと。純葉が昔からやりたいって言ってたことも今の状態じゃできっこない。煩い蝉の声が脳を侵食して思考を止めようとする。
「みおはさ、いま幸せ?」
「…っ、幸せじゃないって言ったら嘘になる」
「なら、よかった」
「でも、純葉がいないほうが辛かった」
「ふぅん、そっか。」
「それだけ」
好きだったなんて言えない。言えるわけないから、このまま仲のいい幼なじみのまんまで。この関係でいい。だから、、。いいや。なんでもない。この気持ち全部波に流れてくれないかな。
